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キミと僕だけの世界(完)

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-08-30 14:24:31
沙良が浅く寝息を立てている。頬には熱の名残《なごり》。

泣きながら何度も絶頂に達し、ようやく訪れた眠りだった。

その細い足首に、僕はそっと銀の輪を嵌める。

ぱちん、と乾いた音。もう外せない。誰にも、何があっても。

これは飾りじゃない。微弱な発信装置とアラーム付き。

僕だけが管理できる、特注の足枷《アンクレット》。

ねぇ沙良、知ってた? 眠ってる間に檻《おり》の鍵をかけられてたって。

でもまだ教えないよ。だって僕は優しいから。

キミが不安にならないように、甘く優しく包み込んであげる。

目覚めるたび、自然と〝僕のもの〟だと受け入れられるように。

逃げられない檻の中で、キミは僕だけを見ていればいい。

僕がキミを見つけたあの日から……キミはこうなる運命だったんだ。

「……ねぇ、沙良。キミはもう、僕のものだよ」

指先で銀の輪を撫でながら、僕は穏やかに微笑んだ。

窓の外、雨はまるで鉄格子のように歪んでいた。

***

(――どうして、こんなに静かなの?)

私はゆっくりとまぶたを開けた。知らない天井。住み慣れた|家《アパート》の部屋とは違う匂い。違う空気。

(ここ……どこ?)

起き上がろうとして、足首の〝違和感〟に動きを止める。

銀色の輪。見覚えのない金具。引っ張ってみたけれど、外せそうにない。

「……えっ?」

継ぎ目も鍵穴も見当たらないそれから、ピッと小さな電子音がした。

「なに、これ……」

確か私……昨夜、朔夜《さくや》さんが淹れてくれたカモミールティーを飲んで……。

(朔夜さんはどこ?)

見回してみたけれど、彼の気配はなかった。

代わりに、天井の角。――小さな黒い目が、私を見ているのに気が付いた。

(カメラ……)

それに気付いた瞬間、背筋に凍るような悪寒が走った。

思わず「なに、これ」ともう一度つぶやいたとき、背後の扉が静かに開いた。

「おはよう、沙良。よく眠れた?」

笑顔の朔夜さん。手には朝食のトレイ。カップから立ち昇るのは、ベルガモットの仄かな柑橘の香り。優しくて懐かしいはずなのに、今は妙に重く、息苦しいほどに甘く感じた。

ふわりと漂う優しい香りと、朔夜さんの変わらない笑顔。

私は思わず、喉の奥がひくりと震えるのを感じた。

――大好き
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  • 誰にも見せたくない〜僕だけの君でいて?〜   キミと僕だけの世界②

     僕の部屋に着いた沙良は、玄関先でそっと靴を脱ぎながら、落ち着かない様子で周囲を見回す。 まさかと思うけど……ここが沙良を捕らえるためにわざわざ用意した部屋だってバレたかな? 一人暮らしの大学生には不釣り合いなくらい広くて、無駄に眺めのいい角部屋。 アイランドキッチンに、タッチ式オートロック、床暖房付きのバスルームまである高級マンション。 まるで若手実業家か医者の住まいみたいなこの部屋を見て、沙良が少し目を見張ったのも無理はない。 だけどまあ、そこは想定済み。 この部屋を維持してる理由を聞かれたら、「親が心配性でセキュリティ面を重視した結果こうなったんだ」とでも言っておけばいい。 でも実際は、そうじゃない。 高校時代から独学で作ってきたスマートフォン用アプリと、データ解析に基づいた投資で得た収益。 人の心理を読むのは得意だから、株も仮想通貨も、読みさえ間違えなければ悪くない金になる。 それらを元手にした副業収入で、僕はもう、親のスネをかじらなくても生きていけるし、司法試験に合格すれば更に稼げるようになるはずだ。 キミを囲うのに、他力なんてイヤだからね。 僕がキミを迎える場所として、自力で稼いだ金でこの部屋を選んだ。それだけの話だ。 だけど僕の心配をよそに、沙良は違うことを思っていたらしい。「……ごめんなさい。急にお邪魔してしまって。もしかして……朔夜《さくや》さん、ご家族と一緒にお住まいなんじゃ?」 沙良にはここがファミリー向けの物件に見えたらしい。(なんて可愛くて純粋な発想だろう!) けど……うん。僕がキミと暮らすこと想定で用意したマンションだからね。ある意味間違ってないよ?「あぁ。そういうことか。ちゃんと話してなくてごめんね? ここ、すっごく広いけど僕一人で住んでる家だから安心して?」「えっ?」「僕の実家が、結構大きな弁護士事務所を開設してる弁護士一家だっていうのは沙良、知ってる?」「……いえ、初めて聞きました」「そっか。まあ、僕自身はまだただの学生だけどね。両親が心配性でさ。一人暮らしするって言ったら、絶対に〝セキュリティ重視で選びなさい〟ってうるさくて」 僕は照れたように笑ってみせた。「……それで、ちょっとオーバースペックな部屋になっちゃったんだ」 恥ずかしそうに言った僕に、沙良がふっと笑う。けれど

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