LOGIN部屋には既に人がいた。
背の高い老人が、数十台のガラケーを台座にセットしている。 護衛官らしき隊員二人は彫像のように部屋のすみっこに直立していた。「よければ水でも飲む? 喉は乾いてるでしょう」「ではありがたく」 コップに水を注がれて、カガリは一気に飲み干す。 いっそジョッキでもいいくらいだと思いながら、更に注がれた水を半分まで飲んだ。「会議を開くにはまだ時間がかかるの。良かったら座っていて」「いえ、エクソスーツが汚れているので」「クッションカバーは洗えるものよ、気にしないで」 夜坂《やさか》司令としては、まだ平然と立っていられるカガリの胆力の限界が分からない。 シェルターに辿りついたとき、オフィリア05部隊は無事なのは御厨隊長とカガリだけだった。 そしてその部隊隊長すら、そこで力尽きた。 ましてや、長時間移動の為に異髄力を使わないできたというの部屋には既に人がいた。 背の高い老人が、数十台のガラケーを台座にセットしている。 護衛官らしき隊員二人は彫像のように部屋のすみっこに直立していた。 「よければ水でも飲む? 喉は乾いてるでしょう」 「ではありがたく」 コップに水を注がれて、カガリは一気に飲み干す。 いっそジョッキでもいいくらいだと思いながら、更に注がれた水を半分まで飲んだ。 「会議を開くにはまだ時間がかかるの。良かったら座っていて」 「いえ、エクソスーツが汚れているので」 「クッションカバーは洗えるものよ、気にしないで」 夜坂《やさか》司令としては、まだ平然と立っていられるカガリの胆力の限界が分からない。 シェルターに辿りついたとき、オフィリア05部隊は無事なのは御厨隊長とカガリだけだった。 そしてその部隊隊長すら、そこで力尽きた。 ましてや、長時間移動の為に異髄力を使わないできたというのに。 一方、不知火カガリは、到着してすぐ応援にむかおうとしたり、怪我人の為に異髄力をさらに使っている。長時間の移動中も、異髄力を乱用しているにも関わらず。 ――まさに、未知数。 早めに本部にいれて見張るべきか、通例を守ってまだお茶の水基地におくべきか悩ましいところだ。 「こちらナンバー01、少しお話しても?」 立てかけられて携帯の一つから、お茶の水基地の生島司令の声がした。 「こちらナンバー00,どうぞ。数分ならば」 夜坂関東本部基地司令の応じ方で、カガリは検討をつける。 関東本部を0として起点にし、お茶の水基地が01ならば奥多摩支部が02になるのだろう。 番号は北上するのか南下するのかは分からないが、集団会議をするのに名乗りあっていては混乱する。 それを阻止するためのナンバリングなのだ。 「不知火曹長、無事でよかったよ。ずっと偵察ドローンごしに戦いを見ていたからね
富士宮支部基地は有識者たちを守る、特級知識保全区画シェルターから作られた特殊な基地だ。 有識者たちの町が中にあり、それを護衛するだけで地球外生命体への出撃は大月支部に任されている。 シェルターから、本部へと横切る長いエスカレーターに乗りながらカガリはその景色を見下ろした。 大きな空調と、ところどころの植えられた緑が目立つ。 「不知火曹長、あなたには他支部の怪我人も見てほしいの」 「はっ」 上空で、ぐわんと大きな音がした。 シェルターの開閉音だろう。 奥多摩支部の後列の仲間が着いたのだ。 「我々は最後ですか」 「ええ、他の支部はもう到着しているわ、なんとかね」 夜坂《やさか》司令の語尾は暗い。 カガリは、その言葉で他支部に起こったことを察した。 「みんながみんな、あなたのようにはいかないわ」 知らねぇよ、そんなこと――心の中でカガリは罵声をあげる。 癒しの力もそうだ、もっと同じ能力が生まれてくれれば――それを何故カガリに言うのか。 言われて増えれば仕方ないが、そんな都合の良いことはない。 いちいち、なんでそれを当人に聞かせるのか。 「本日は嶽村《たけむら》副司令は?」 「うるさいので本部付けよ。もっとも、さっきから私の携帯が鳴り続けているけれど」 煙たそうなのを隠しもしないで、軍服の司令は断続的に鳴り続ける携帯を無視した。 「怪我人はここよ、不知火曹長。よろしく頼みます」 点滴を持って走る医者がいて、よく見ると本部の泉医師だった。 バイオメタリック・エクソスーツを脱がされて、横たわる隊員は八人以上。 揚羽や月子は、奥に寝かされていた。 カガリの背後からストレッチャーが走りこんできて、奥多摩支部の隊員が運ばれてくる。 「カガリくん、無事だったか。参戦していたんだな」 泉医師が声をか
「五百雀、旅客機型の上に乗れ! 戦闘は無理だ」 「し、しかし……」 「乗れ! 上官命令だ!!」 言い争う時間もない。 カガリは、旅客機型コープスイングを運転する隊員にも怒鳴る。 「いいか、迂回するな! 必ず倒すから信じて、支部基地へ突っ込め!」 左翼には、相変わらず意識が戻らない揚羽が固定されていた。 その揚羽の真横を、カガリが飛行していく。 降り注いできた、タカアシガニ型地球外生命体は小型ながら無数だ。 もはや戦えるのは御厨とカガリだけ。 偵察ドローンの映像の向こう側で、多数の人間が絶望する。 「こちら、大月支部オペレーション! オフィリア05部隊、ローゼン02部隊、迂回して――」 「だから、迂回はいらねーってんだろーが!」 旅客機型コープスイング全体が光った。 揚羽を包んでいた光の結界が、先ほどの規模とは比較できない大きさで発現したのだ。 旅客機に触れていたもの、真上にいたもの、近づこうとしていたもの。タカアシガニ型地球外生命体が、一気に消滅していく。 まばゆい光の中、地球外生命体の死体さえ残らない。 「突っ込めーーーーーーーーーー!!」 旅客機型コープスイングは背中に、戦闘不能になった揚羽、月子を乗せたまま富士山麓シェルターに突き進む。 大月支部から飛び出してきた本部の部隊が、カガリたちの前後を取り囲んだ。 今更とは思ったが、富士
揚羽の体が落下していく。 風切り音がして、カガリが揚羽を追って虚空に飛び込んだ。 「不知火(しらぬい)くん、追いかけて! こっちは皆でなんとかするから!」 御厨《みくりや》隊長の声がして、カガリは命令を先駆けた形になった。 御厨と五百雀《いおさき》月子の二人きりで、このカマキリ型の地球外生命体を倒さなくてはいけない。 月子の心臓が、不安にはねた。 「揚羽ーーーーーーーーーーーーー!」 カガリは大空を落下していく。 何度か、手が滑って空を掴んだが、揚羽が背負っていたコープスイングを捕まえる。 頑丈なバイオメタリック・エクソスーツから血を流す揚羽の体を、ようやく捕らえた。 強力な重力は、スーツのお陰で耐えられる。 揚羽のコープスイングは、揚羽の意識と共にオフになっていて、カガリの力だけで空中に抱きかかえた。 「揚羽! 揚羽、しっかりしろ!! 頼む!」 頭の怪我は、すぐにカガリの癒しの力で治したが脳震盪らしきダメージには効かない。 青白い顔でがっくりと項垂れている揚羽の体を抱えて、カガリは上昇した。 旅客機には、まだ数体のカマキリ型地球外生命体が取りついている。 カガリは旅客機の上に揚羽の体を固定して縫い付けると、揚羽の安全を確認しながら武器を振るった。 カガリの愛用するシナプスダガーは、他のゼノブレイドと比べてリーチは短い。 しかし、その分攻撃力は高いのだ。 「ありがとう、すぐ戻ってくれて」 小柄な御厨隊長が、威嚇するカマキリ型の胴体を切り裂く。 寝かせられている揚羽を見て、大丈夫なのかなどは聞かなかった。 無事でないのは、一目みれば分かる。 「おそらく、脳震盪です!」 カガリは、遠距離の地球外生命体を深追いせずに、揚羽の側で留まって叫ぶ。 代わりに、その敵は月子が仕留めてくれた。
「あれは――Bランクのソウゲンオオカミ型です!本部は動いているんですよね?」 宮田オペレーターが口を覆う。 生島と宮田中尉は、お茶の水基地の司令室で偵察ドローン《スカウトオービット》の映像を、密かに確認していた。 何も手助けができないが、結末を知らなくてはならない。 一方剣崎(けんざき)副司令は、いつものオペレーション任務で詰めている。 生体反応を探し出す剣崎の異髄力”ニューロ・パルス”は、事務方ではレアな異髄力の一つだ。なかなか替えは利かない。 「おそらく――だが、本部もいま市原支部の受け入れをしている最中だし、後詰の部隊は新横浜支部の協力に向かった。……人手が足りるといいのだが」 「こちらから応援をだせないのですか?」 「シェルターから有識者を連れ出したであろう時間、仕事でアリバイがある部隊だけを選出したんだ。出したら極秘ではなくなってしまう……」 生島の声がしぼむ。 出せることなら、だしてあげたいのは生島も同じだ。 映像の向こう側では、カガリがソウゲンオオカミ型の地球外生命体《ヴォイドフォーク》を縫い留めて、旅客機型コープスイングをどうにか先にいかせようと悪戦苦闘している。 旅客機型の中にいる有識者を一度に失ったら、地球外生命体《ヴォイドフォーク》の侵略はさらに過激になるだろう。 人間という生態や感情、歴史などが 地球外生命体のねらい目だ。 倒すことより、有識者たちの命を富士山麓の特別シェルターに運ぶことが、任務である。 「あれは――さらにDランクのスライム型でしょうか?」 ソウゲンオオカミ型を空間に固定して離脱しかけた集団に、また地球外生命体《ヴォイドフォーク》が降り注ぐ。 旅客機型コープスイングに、丸い球体が張り付いた。 「いや、変化していく!……なんだあれは?」 生島の険しい目線の先で、球体はキノコへと変化した。 「あれは――ツキヨタケ型地球外生命体《ヴォイドフォ
奥多摩支部基地は、ざわめいていた。 旅客機型のコープスイングが動くことといい、他支部の応援が来ることといい普通ではない。 この作戦に参加しないものは自室以外に立ち入り禁止になり、ひとけは減ったもののざわざわしている。 「さっ、そろそろ支度だよ。三度目だけど、シュミレーション確認と装備の確認しよーね」 御厨《みくりや》大尉が声をかけると、オフィリア05部隊の不知火カガリ、種田上等兵、五百雀《いおさき》月子たちが動き出した。 「御厨先輩、それ三度目ですよ?」 御厨をからかうように声をかけたのは、鷲塚晴一中尉。 ローゼン02部隊の隊長だ。 「うちの部隊の話だから、気にしないで」 付き合いの長い相手だが、御厨は苦手になってしまった。 入隊して、出世して隊長などにならない限り部隊は固定化される。 今年、お茶の水基地で新人が二人も入った部隊はオフィリア05部隊だけだ。 去年、夏と秋に隊員を一人ずつ亡くした。 それから春の新人入隊まで、他部隊の補助要員として動いていた。 そのせいで、意見を言うのが怖い。 鷲塚中尉はその辺、副隊長が隊長に昇進しての新人導入であったし、御厨とは立場が違う。 「人の部隊のことは、余計なお世話じゃないですか?」 カガリが、鷲塚隊長の目を見て平然と口を出す。 「すみません、隊長。こいつほんとに生意気で!」 揚羽がカガリを小突きながら謝らせようとするが、体格が及ばない。 鷲塚も、鼻で笑い返した。 「そっちこそ、よその部隊の隊長に余計なお世話じゃないのか?」 「まあまあ、作戦前にもめるのはよしませんか。自分が抜けたあとも、もめごとは厳禁ですよ」 飄飄とした種田が間に入り、緊迫した空気が緩和される。 このあと頼りになるベテランは、移送される箱の中に入ってしまう。 御厨も、止めるべき立場だったがおろおろして終わっ
「オフィリア05部隊、出撃します」 「通達、了解。作戦プロトコル起動」 異界防衛軍、お茶の水支部。オペレーションルームで矢継ぎ早に言葉が飛び交う。 「偵察ドローン《スカウトオービット》、現地到着。映像、共有します」 「生体反応感知、偵察ドローン《スカウトオービット》を寄せよ」 渋い男の声が、指揮を執る。 お茶の水基地副指令、剣崎《けんざき》政虎《まさとら》がオペレーションルームの長だ。 剣崎が地球外生命体《ヴォイドフォーク》の異髄から得た力は『ニューロ・
検査室で、カガリは生島中佐と再会した。 会議が終わっての立ち合いだ。 生島の場合は検査結果より、カガリの心配で参加している。 「もう慣れてるので、中佐が立ち会わなくても……」 「いや、ぜひ立ち会わせてくれ。私は普段お茶の水支部から出られないからな」 検査機器を持っている人間、紙の書類を持って行き来する人間、と検査室の中は人が多い。 簡易着替えルームで、カガリは重たい礼服を脱ぎ、バイオメタリック・エクソスーツに着替える。 集団に観察される羞恥は、とうに捨てた。 異血覚醒してからというもの、そんなものは無駄でしかない。 検査台の上に横になると、ケーブル類が
「は~、だりぃな……」 不知火《しらぬい》カガリは、ため息をついた。 母親である知世中将の墓参りのあと、異界防衛軍本部に呼び出されたのだ。 亡くなった母の話題は、カガリには重い。 期待と好奇心を背負い続けて、十八になった。 不知火カガリ、階級は兵長。下から四番目の階級だが、今年防衛高を主席で卒業した身では、かなりの大抜擢だ。 異界防衛軍お茶の水支部、オフィリア05部隊にこの春配属されたばかり。 生島中佐は、お茶の水支部の基地司令でもある。 『ドウシタですか、カガリ。ソラとあうのヒサシブリです、うれしくないカ?』 地球外生命体《ヴォイドフォーク》の中で、
西暦2026年。春。 霊園の中を、軍服で歩く二つの影があった。 壮年の男が立ち止まると、まだ少年の面差しのある不知火《しらぬい》カガリも足を止める。 二つあった花束のうち、一つはもう供えてきた。 「ここだね、不知火兵長。君の母上のお墓は……よく手入れされている」 「はっ! 母も喜ぶでしょう。好意で手を入れてくれる方が多いので」 「私が育て、みんなを救ったヒーロー……。今の幹部の多くは不知火名誉中将に救われた面々が多い」 白髪の男――生島《いくしま》慎三郎《しんざぶろう》中佐は、ハンカチを顔にあてる。 過去の思い出が一気に生島の胸に押し寄せてきた。 不







