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第6話

last update Last Updated: 2025-12-04 15:00:00

居間に行くと、母がまだ起きていたので、

「ただいま〜」と言うと、

「お帰り! ん? ご機嫌ね、呑んで来たの?」と言われた。察しが良い。

──しまった

ニヤニヤが顔に出ているようだ。

「うん、少しだけね」

「そう、じゃあお風呂に入って早く寝なさい」と。

「うん、そうする」

そうだった。

『もう入って来た』とは言えない。

髪も洗わなきゃだし、プロポーズのこと、母には話そうかと思ったが、明日で良いかと、そのまますぐお風呂に入った。

1人でニヤニヤするには、ちょうど良いスペースだ。

「ふふ」

──プロポーズされたんだ! 嬉しい〜

ようやく、ここまで来れたんだと思った。

でも……

やっぱり少し、今日の智之のことが気になっていた。

──何だったんだろう?

ま、それよりも当然プロポーズの方が嬉しかったので、ずっと1人でニヤニヤしていた。

お風呂から上がると、まだ母が起きていた。

「まだ寝ないの?」と私が聞くと、

「うん、もうちょっと」と、何やら推しているアイドルの生配信を見ているようだ。

──若いなあ〜この旧家には似つかわしくない

ちょっと母に付き合うかと、私も冷蔵庫から缶酎ハイを取り出して、グラスに氷を入れて呑む。

「ふふ」と、まるで乙女のように、笑いながら推しを見ている母を見る。

──なんだこれ?

最近、母ともゆっくり話すこともなかったので、

やっぱり、今日話したいと思った。

智之から〈もう帰ったよ〉

〈ちょっと冷えたから、もう一度、風呂はいる〉とメッセージが届いていた。

〈ごめんね、冷えちゃったね〉と送ると、

〈大丈夫だよ〜〉と、キスマークのスタンプが送られて来た。

そして、私は、〈今から母にだけ話しても良い?〉と、送ると、

〈うん! よろしくお願いします〉と返って来た。

ニヤニヤしながらスマホの画面を見てるものだから、

「何? さっきからニヤニヤして〜」と、母にツッコまれる。

「ん? もう配信終わったの?」と聞くと、

「うん、今終わったわよ」と母

「じゃあ、ちょっといい?」と言うと、

「何何? あ、ちょっと待って! お母さんも久しぶりに呑もう」と、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、キンキンに冷やしたグラスに注いだ。

我が家は、常にビール専用のグラスを冷蔵庫で冷やしているのだ。

暖房の効いた暖かい部屋で呑むには最高だ。

「ではでは、乾杯〜」

「乾杯〜!」

母は、グビグビとビールを呑んで

「あ〜〜美味しい〜」と満足気だ。

「お父さんは?」と聞くと、

「とっくに寝てるわよ」

私が帰って来たのが11時前。

父は、根っからのサラリーマン気質だから、夜9時には布団に入っている。

そして、朝5時から起きているようだ。

明日は、お休みだけど、父には関係ないようだ。

気難しい父は、いつしか私にとって、煙たい存在になっていた。

──小さい頃は、甘やかされて育ったのにな

そして、

「何かあった?」と、笑いながら母が聞いてきた。

「うん」と言う返事もニヤけてしまう。

「何、何?」と、食い入るように目を見開きながら聞く母

「智之にね……」と言うと

「プロポーズされた?」と笑顔で言う母

「なんで、先に言うかなあ?」と言うと、

「あ、やっぱそうなんだ! ハハハハッ」と笑っている。

全くこの人は、昔からちょっと不思議ちゃんなのだ。

そして、「そっか、おめでとう!」とグラスを傾けてチーンと鳴らす母

「ありがとう」

「良かったじゃん、もう少し遅かったら、伯母さんが縁談を持って来るところだったわよ」と言われた。

「やっぱり! そんな気がしてたのよ、危なかった」

「で、(挨拶)いつ来る?」と話が早い母

「近々には、と思ってるんだけど、明日相談してから連絡するね」

「そっか分かった! まあお父さんのことだから、誰が来ても1度では無理かもしれないけどね〜」と、母も私と同じことを言った。

智之にも、同じことを話したと言うと、

「それなら、大丈夫ね。頑張ってもらいましょう! 応援するわ」と言ってくれた。

とりあえず、母を味方に付けることが出来た。

そのまま、智之との出会いからの話を久しぶりにゆっくり母と話すことが出来た。

付き合うことになってから、母には時々話していた。

でも正直、私は母も反対しているのかと思っていた。智之がモテ男で誰にでも優しすぎるから……

父に遠慮して、「家に連れておいでって、言えなくてごめんね」と言ってくれた。

「ううん」

そう、智之はまだ一度も我が家の敷居を跨いだことがないのだ。

それも全て厳格な父のせいだ。

「結婚相手だと決まってから、連れて来なさい!」と言うような父だから。

ようやく智之を家に呼べる。

これからが大変そうだけど、私は智之なら大丈夫だと思っている。

私が選んだ人なのだから……

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