──2023年秋 「綾! おはよう〜」 「あ、美和、おはよう〜」 風が冷たく感じる朝、 会社へ向かう途中、同期の美和に会った。 「寒っ! さすがに11月下旬ともなると、寒くなって来たね」 「うん、寒いね」 そして私の視線は、数メートル先を歩いている彼の背中を見ていた。 「え? あれ、彼さんじゃないの?」 「そうみたいね」 「そうみたいねって、綾、行かなくて良いの?」 「う〜ん、いつものことだし……」 彼氏の周りには、常に女性たちが取り巻いているのだ。両サイドに2人と1人、合わせて3人居る。 私は口では強がっているが、本当は、いつも心の中は穏やかではない。 それでも、この時の私は何の疑いもなく、ただ彼だけを信じていたのだから…… 私、中谷 綾24歳、 大学卒業後、住宅機器メーカーに就職し、憧れのOLとなった。 そこで出会った同期で大学院卒2歳上の坂崎 智之と、入社後すぐに意気投合し交際している。 なので、もう交際2年半が過ぎた。 ──そろそろ智之も結婚のこととか考えてくれてないかなあ〜 私は内心ドキドキする毎日なのだが、彼は常に女性からモテるようなタイプで、おまけに優しい性格だからキッパリ断れないでいる種類の優男なのだ。 「綾、結婚とか考えてないの?」と、美和に聞かれた。 「そりゃあ、考えてるよ! でも、あちらはどうかしらね〜」と、ぼ〜っと、前を向いてハーレム状態で歩く彼の後ろ姿を眺めながら言う。 24歳を過ぎたばかり、まだと言うべきなのか、もうと言うべきなのか…… 2年半も付き合っているのだから、私の中では、そろそろ結婚がチラついてもおかしくはないと思っている。 でも周りでは、年々、結婚年齢が上がっているような気がする。 だからまだ何も焦る必要はないのだが、ただ私の中で、智之とずっと一緒に居たいという思いが強くなってきているのだ。 ──私だけなのかなあ〜 それには、彼氏がモテ男という最大の心配のタネがあるからなのかもしれない。 「同棲すれば?」と美和が言う。 「う〜ん、そうしたいけど、うちの親厳しいから」 「そっか、ならもう結婚するしかないか」 「うん、ホント
最終更新日 : 2025-12-03 続きを読む