LOGINカタカタ......カタカタ......パソコンのキーボードを叩く音が一人きりの部屋に響き渡る。玲央が会社行っている日は夜斗はマンションに一人きりでリモートワークに勤しんでいる。それでも、一時間に一度は玲央からLINEが来る。内容は他愛もないというか、くだらないというか......。「......コーヒー淹れよう」そう思い立ち上がると、タイミングを見計らったかのようにLINEが入ってきた。相手はもちろん玲央である。『夜斗、お疲れ様。仕事は順調かい?僕は君がいないせいで仕事のモチベーションが上がらないよ......』ほら。やっぱり今回もくだらない。夜斗は既読スルーを決め込むと、コーヒーを淹れにキッチンへと行く。そしてマグカップを手にリビングへと戻ると、スマホがけたたましく着信を告げていた。夜斗はめんどくさいと思いつつ出ないと帰って来た時の方がめんどくさいので、仕方なく通話ボタンを押した。「......もしもし」『あ!やっと出た!もう。既読スルーなんてひどいじゃないか。夜斗は寂しくないのかい?僕は寂しくて寂しくて......』「あー、ハイハイ。寂しいですよー。でもちゃんと仕事してくれた方が、きっとかっこよくてすてきなんだろうなぁ」『!......夜斗はずるいなぁ。そんなこと言われたら仕事頑張っちゃうしかないじゃないか』よし。これで玲央は残りの就業時間、仕事に集中してくれるに違いない。それに夜斗もリモートワークのアルバイトとは言え仕事があるのだ。こちらも集中させてもらいたいものである。「あ、そーだ。帰りに牛乳買ってきてくれるか?今晩はシチューを作りたいんだけど牛乳を切らしてたのをすっかり忘れてた」『夜斗のシチューか......。分かった。いつものでいいのかな?』「おう。頼んだ」『好物のために仕事はなるべく早く終わらせるよ』『好物って......何食べても言うくせに』と心の中でツッコんだ。玲央は夜斗の作るものなら何でも美味しそうに食べる。もう、玲央の料理は全てが好物なのではないだろうか。「それじゃ、オレも仕事あるから切るぞ。くれぐれも玲央パパに迷惑かけんなよ?一時お前が仕事しないで帰りたがるのを抑え込むのに苦労したって言ってたんだからな?」『そのためにLINEは許可してもらったんじゃないか』そう。そうなのだ。玲央に仕事を真面目にやらせるた
これは、夜斗と玲央のとある朝の記録である。朝、6時に夜斗は目を覚まし、脱ぎ散らかした部屋着に袖を通す。そしてベッドから抜け出して朝食の支度をしようとしたその時、腹部に腕が回された。その腕の正体は言わずもがな玲央である。「やと......どこへ行くんだい?」「どこって。朝飯の支度しなきゃお前会社に間に合わないぞ?」「会社......休む」「おいコラ。お偉い専務様がさぼるなよ」夜斗は回された腕を無理矢理外して、キッチンへと行った。そしてエプロンをして、鍋に水をはり火をかける。そしてそこにだしパックを入れ時間を置く。その間に具材を切って切り終えたものから鍋に入れる。そして頃合いになったところで味噌を溶かす。こうして味噌汁の完成だ。そのタイミングでタイマーをかけていたご飯が炊きあがる。おかずが無いのも寂しいので、玉子焼きと酢の物を作った。そうしているうちに玲央が寝室から現れた。「おはよう、夜斗」「おはよう、玲央。飯できたから顔洗って来い」そうして顔を洗った玲央がダイニングへと顔を出した。「うん。今日もいい匂いだ」「さ、早く食べて会社行ってオレの世話代稼いで来い」「今日もウチの猫ちゃんは手厳しいな」食事を済ませると、夜斗は洗い物をし、玲央はスーツへと着替える。「夜斗」「ん。こっちこい」玲央は夜斗に呼ばれるがまま夜斗の元へと歩み寄る。すると玲央はネクタイを夜斗に渡して結んでもらう。これは同棲を開始してからの決まったルーティーンであった。「いつも思うけど新婚さんみたいで楽しいね」「バッ!......何恥ずい事言ってんだ。ほら!さっさと出社!」「じゃあ、ハイ」玲央はそう言うと夜斗に向けて両手を広げる。夜斗は気恥ずかしくなりながらも思い切り玲央の胸に飛び込んだ。「......早く帰って来いよ」「もちろん。愛する僕の猫ちゃんが寂しがるからね」「......寂しがってねーし」「ふふっ。それじゃあ行ってきます」「行ってらっしゃい」そうしてキスをすると玲央は家を出て行った。手を振って見送った夜斗だったが、やはり少し寂しさが押し寄せてきた。寝室に向かうと、玲央が着ていた部屋着に手を伸ばし、ギュッと抱きしめる。いつもこの香りに抱きしめられて夜を過ごしているため、なんだかおかしな気分になってくる。もういっそ自慰をしてしまおうか。そう思い下半身に手
退院してからという日々は目まぐるしかった。社長の言った通り、玲央の母にも会わせられた。彼女はフランクな性格で、"元野良猫"の夜斗にも気さくに......どころか、可愛いぬいぐるみにでもするかのように抱き着いて頬擦りをしてきたのだ。「やーん!可愛い!!この子本当にウチの子になるのよね?ね?!」「落ち着きなさい、母さん。夜斗君が困っているじゃないか」社長の一声で玲央ママは一旦夜斗から身体を離した。その様子は少ししょんぼりとしていた。が夜斗は助かったと思った。何故ならば玲央ママはナイスバディの持ち主だったので、危うく胸で窒息するところだったのだ。「あ、あのオレ......」「なぁに?私達夫婦は孫なんて言わないから安心して玲央の物になっちゃって!そして私を癒して?"可愛い猫ちゃん"」そんなこんなで、玲央の家族からは温かく迎え入れられて安心した夜斗だったが......この温かさに甘えてしまっていいんだろうか。そう思うと怖くなった。「オレはこのまま生ぬるい場所で生きていていいんだろうか?」夜斗は一人きりになった病室でぼそりと呟いた。そして起き上がると、玲央が持ってきていた服に着替える。これが最後の玲央に対する試練だ。もう一度自分を見つけてほしい。そう思いながら玲央から渡されたスマホをベッドに置き病室を後にした。玲央が病院へ着いた時、病院中は混乱していた。何かあったのかとナースに問いかけると、夜斗がいなくなったという。これは自分も探さなければ。しかし、手掛かりがない......こともなかった。夜斗を信じるなら、"最初の場所"にいるに違いない。そう思い玲央は足をそこへと向けた。ブランコなんていつぶりに乗るだろうか、誰もいない公園はこんなに静かで悲しい場所なんだな、と夜斗は感じた。時刻は18時半。もうゲームオーバーかな。そう思いながら、また"野良猫"に逆戻りか。酒場にでも行くかな。そう思った瞬間だった。息を切らして大声を出しながら近づいてくる一人の男が現れた。......その男は玲央である。見つけてくれた。信じてた。お前ならここが分かると。夜斗はブランコから飛び降り玲央に思い切り抱き着いた。「ハァハァ......まったく人騒がせな猫だね。死ぬために姿を消したかと思ったよ」「生ぬるい場所で生きてきたことがないから不安になったんだよ。......それに、お前が本
「まったく。一時はどうなるかと思ったよ......」「オレだって閻魔さまに会う気でいたさ」何という運の良さなのか、一時は命の危険にあったが駆け付けた救急隊の処置や手術のお陰で、一週間は生死を彷徨ったが無事目を覚ますことが出来たのだった。「あれからヨウタはどうなった?」「ヨウタ......あぁ、彼なら警察に捕まったよ。それにしても......彼が夜斗の"最初の男"ってやつだったんだね」「あぁ。オレに一からPCの技術を叩きこんでくれた恩人で......元恋人と言っていいのかな?」"元恋人"と言うワードに玲央は面白くないという顔を見せたが、夜斗が玲央の頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと頭を掻き撫でた。「安心しろ。今もこれからもオレにはお前だけだよ」「これからもって......」「あれぇ?オレ、意識を失う間際に告白したつもりだったんだけどなぁ?」そう夜斗が不敵に笑うと、玲央は顔を真っ赤に染め上げ目を泳がせたのだった。思ってもみない反応に夜斗までもが恥ずかしくなってきてしまった。「な、なんだよその反応......こっちまでこっぱづかしくなるだろーが!」「仕方ないだろう?!あの時は君が死ぬかもしれない恐怖でいっぱいで......最後の言葉になるかもしれなかったんだから......!!」「そ、それは......オレだって死ぬと思ったから伝えなきゃと思って......」まるで初心な中学生のような二人の空間に"コホン"と咳払いが一つ。音の先に目をやると、そこにいたのは玲央の父であり、社長であった。「二人とも。ラブラブなのは構わないが......人目を気にしてほしいものだよ」「しゃ、社長さんが何でこんなところに?!」「やぁ。夜斗君。無事に目を覚まして良かったよ。一時は本当に危険だったところらしかったから私としても君の無事は嬉しい」社長は笑顔でそう言いながら夜斗が横たわるベッドへと近寄ってきた。「本当にこの一週間は玲央は使い物にならなくてね。今までにないようなミスを繰り返す始末。それなのに終業時間になると誰よりも早く退社して、病院の面会時間ギリギリまで居座っていたようだし......。君には早く目覚めてほしかったのは私も同じだったさ」「それは......すみません」自分が寝ている間にそんな事になっていたとは思わなくって、ただただ謝るしかなかった。.
眠りから目を覚ますと、見知らぬ部屋にいる事に気がついた。身体は怠いが拘束などはされていない。扉がぎぃっと音を立てて開かれると、部屋に入って来たのはヨウタであった。「おはよう、夜斗。よく眠れたかい?」「......ヨウタ、なんでこんな真似を?」夜斗がそう問うと、ヨウタがわなわなと震えだした。そして、つかつかと夜斗のいるベッドに近づくと、夜斗の身体をベッドに沈めた。「だって......だってこうでもしないとまたいなくなるだろう?!今までずっと探していたんだ!それでやっと見つけたかと思ったのに......夜斗、君は京極 玲央の隣を歩んでいた!!それがどれだけオレの心を切り刻んだことか......分からないだろう?」「ヨウタ......」「ホントはこんな真似したくはなかったよ?けれどこうでもしなければ君はオレの元にやって来ない!!今だってこうしている間にも君の心を占めているのはあの男なのだろう?!」ヨウタは涙を流しながら夜斗を攻め立てる。ヨウタの涙が夜斗の頬をつたった。そんなヨウタの頬に夜斗は手を添えるとぽつりとつぶやいた。「ヨウタ......お前も寂しかったんだな。」「!!や、と......」「でも、オレはお前の物にはなれない。オレはガキの頃から玲央の"神様"らしいからな」そういうと、夜斗はフッと笑った。ヨウタはただただ呆然としたかと思うとポケットからナイフを取り出した。「よ、ヨウタ......?」「きみが、君が悪いんだよ?素直にオレの物にならないから。手に入らないなら......お人形になってもらうしかないね?」ヨウタがそう言ったかと思うと、腹部に鈍い痛みが走った。あぁ、ごめん玲央。お前の神様はもう出来そうもないや......意識を手放そうとしたその時だった。扉が物凄い音を立てて開き、ヨウタの身体が上から吹き飛ばされていった。「夜斗!!しっかりしろ!!今救急車を呼ぶから!」「......れ、お。ごめ、ん」「もしもし!救急です!腹部をナイフで刺されて......」あぁ......玲央の声が遠くなっていく。ありがとう、玲央。オレを見つけてくれて。オレを神様だなんて呼んでくれて。あ、これが、か。これが"愛"ってやつか。......もっと早く知りたかったなぁ。「夜斗!もうすぐ救急車が来る!しっかりするんだ!!」「れ、お......」
月曜、夜斗は玲央に任された仕事を自宅でしていた。ちなみに玲央は会社で会議だ。コーヒーを淹れリビングでノートパソコンをカタカタと打ち込む。最初はいくら操作が出来ても難しいんじゃないかと思っていたが、まったくそんな事は無く、夜斗でもすぐにこなす事が出来る仕事であった。コーヒーを一口飲んだところで、インターフォンが鳴った。応対してみると、宅配業者のようであった。玲央が何か頼んだか?と思い応答すると、部屋のチャイムが鳴らされる。返事をして部屋の扉を開けるといきなり口を塞がれ部屋の中へと押し込まれる。「んー!!ふっんン!!」「シーだよ、夜斗。こんなに簡単に探し出せるなんて、京極 玲央も大したことないな。あんなバレバレな尾行にも気がつかないなんて」何故か現れたのはヨウタで、目がイってしまっていた。こんなヨウタは夜斗でも見た事がない。夜斗は必死に抵抗するが、ヨウタの怪力で身動きがとれないでいた。「この時間京極は会社だろう?なら絶好のチャンスだ。夜斗、いい子だからこの薬を飲んでおくれ」ヨウタはそう言うと、一粒の錠剤を口移しで飲ませてきた。吐き出そうとしたが、抵抗虚しく飲み込んでしまう。しばらくすると、身体中の力が抜け、眠気もやってきた。夜斗は寝てたまるかと耐えようとしたがその抵抗虚しく眠りに落ちてしまう。「やった......やったぞ!!これで夜斗はオレの物だ!!」そう言うとヨウタは夜斗を姫抱きし、部屋を後にする。会議が思いのほか長引いてしまい、夜斗の面倒を見てやることが出来なかった。今日は夜斗の好きな物を作ってご機嫌どりをしなくては。そう思いながらマンションへと帰って来ると、何やら嫌な予感がした。虫の知らせとでもいうことか。玲央は急いで部屋まで戻ると、大声で夜斗の名を呼んだ。「夜斗!!いるんだろう?!夜斗!!」しかし、夜斗からの返答は何もなく、静けさだけがその場を包み込んだ。「どこに行ったんだ......一人では出られないようにしていたのに......」玲央はインターフォンの記録をチェックすると不審な宅配業者の来訪があったようだ。その記録を見ている最中であった。非通知からの着信があった。「......もしもし」「京極 玲央だね?一昨日ぶり、かな?」「一体何の用だ?今貴様と話している暇など......」「夜斗、そこにいないんだろう?」「?!....
ー浴室での行為も悪くない。そんな感想を抱いた夜はその疲れをとるようにジャグジーに浸かる。「お前、手馴れてるな。男とヤった事あんの?」「いや?女性からは嫌という程お誘いはあるけれど、男性の相手はヨルが初めてだよ。」「...今サラッとモテ自慢したな?」「コノヤロー!」と夜斗は浴槽の中で玲央に戯れつく。玲央はそれを嬉しそうに受け止めると、夜斗に「コッチを向いて?」と言い深い口づけをした。浴室に響くは蜂蜜のように甘ったるい吐息に玲央は満足気だ。「あぁ...こんなにも幸せでいいんだろうか?」「なんだ?急に。もしかしてオレとヤって天国見れたかよ?」「ソッチは自信あるんだぜ?」そう言う夜斗は
夜斗と玲央はフレンチを楽しんだ後、直ぐさまタワマンへとトンボ帰りをした。夜斗はリムジンの中で、酔い醒ましに買った水をゴクリと飲んだ。酒に酔って火照った身体に冷たい水はよく沁みる。「ハァ...食べたし飲んだなぁ...」「満足してくれたかい?」「飼い主初日としては合格!アンタ一体何者なんだ?それくらい教えてくれよ。こうして専属の運転手がいるくらいだし、さぞ良いとこの坊ちゃんなんだろ??」夜斗がそう言うと玲央は少し考え込むように黙った。なんて答えようか。そう考えているようである。「...何処にでもいる会社経営者の息子だよ。他のところよりは大きい会社だけどね。」「てことは次期社長?!オレ
夜斗は野良猫の様に警戒心を静かに持ちながら玲央の後に着いてタワマンの外へと出た。そしてここへ来た時に乗っていたリムジンに再び乗り込む。「さぁ、ヨル。約束通りフレンチを食べに行こうか。」「!フレンチ...!!」...警戒心は何処へやら。"フレンチ"の言葉に釣られて夜斗は涎を垂らした。そんな夜斗の様子に玲央は微笑ましいものを見る目を向けた。そしてリムジンを走らせると、いつもの酒場の前を通り過ぎ、高級フレンチ店へと辿り着く。店内に入ると玲央は店員に何やらカードを手渡していた。「?なんだ、そのカード。」「ここは完全会員制なんだよ。だから予約なしでも来れるんだ。」「...今までにも高級店に
夜斗が玲央に連れてこられたのは所詮"タワマン"と呼ばれる建物。そして通されたのはまさかの最上階。今まで様々な男達を渡り歩いて来たが、ここまでの金持ちは初めてだ。部屋の中へと入ると、白を基調とした家具で揃えられていて眩しい程だ。夜斗は興味津々で部屋中を見て回る。「ほら、ヨル。フレンチが食べたいなら早くシャワーを浴びて来ておいで。着替えは置いて置くから。」「お!そうだった。フレンチがオレを待っている〜♪」そう言うと夜斗は鼻歌混じりで浴室へと向かう。そこで見た光景に夜斗は言葉を失った。東京の夜景を一望できる程の素晴らしい景色だったからだ。「わぁお...。オレ、ホントに此処に住むのか?」そ