تسجيل الدخول一方でミレイユも、レオンハルトがヘルカーンに吹っ飛ばされた時のことを思い出してドキドキしていた。
◆
レオンハルトさんが、吹っ飛ばされた!
牛みたいな、でも見たことないぐらい大きな枝のようなツノの化け物が、周囲の木ごと薙ぎ倒して突っ込んでくる。
どうしたらいいかわからない。
私は、言われた通り陰に隠れながらもガタガタ震えて、手元のカバンをとにかくひっくり返し、何かないか探した。何がこのバッグにあるとか、全く考えられず、先に手が動いていた。
「――っ!」
これだ!
冒険者バッグに入っていた睡眠玉に目が入るやいなや、ピンを引き抜き、ほとんど反射で投げつける。
それとともに、広がる煙幕――どさり、と巨体が地面に沈む。
しばらくその煙幕が落ち着くまでは動けない。そーっとみると、倒れた巨体の前にレオンハルトさんが!
…&helliレオンハルトが、タウンハウスに戻り、シャワーを浴びている頃、ミレイユは、昨日テント周辺に撒いたヘルカーンのペーストを使って、レオンハルトと自分用に魔物避けのネックレスを作っていた。「ヘルカーンの血液で作ったペーストは、濃い魔力を含んでいて、おそらくその魔力を感じて他の魔物は近づかないのよね。だったら、その魔力を尽きさせない限りはかなり強力な魔物避けになるのよ」うーん、でも、このままでは弱いわ。ミレイユは、首を傾げて唸り続ける。魔物に「近づくな」と思わせるほど、強いものにしないと……「超音波のようなもの……倒された魔物の残滓……」ミレイユは考えながら、ヘルカーンの魔核を削って少しペーストに混ぜてみる。普段は手を出さない高級品に、心臓がちょっとドキドキする。でも、ペーストとの相性は完璧で、まるで魔核が溶けるように馴染んでいく。「たしか、この辺りに……」棚をゴソゴソと調べると守殻石が見つかった。急いでそのペーストを守殻石に閉じ込める。「よし、魔法防御はこれでオッケー、後は物理防御よね」ミレイユは、物理防御に強い力を感じた時に緩和されるように、魔鳥の魔核とヘルカーンのペーストを混ぜ、それも守殻石に入れた。この石は、二つのポケットを持っていて、物理と魔力の殻を作って身を守ってくれる。同じものを二つ作り、金属の土台に取り付けると、ネックレスのトップが完成した。「これを身につければ、少しは防御になるはずなのよね」レオンハルトの怪我を思い出し、ミレイユはぶるっと震えた。そして、ペンダントトップを机に並べて――ん?もしかして……ペア?そう考えて、自分とレオンハルトがお揃いのペンダントをつけている姿を想像する。「うわああああああっ!」ミレイユは、頭をぶんぶん振る
一方でミレイユは、ひと段落ついたところで昨日解体したヘルカーンの素材と、採取してきた素材の処理に取りかかった。「ヘルカーンって、すごいですね。大きいだけじゃなかったんです。一匹まるごと使い道があるんですよ!火炎系の爆弾にも、防具にも、日用品にも……ああ、夢が広がります」キラキラした目で、農作業を終えたレオンハルトに報告する。「あれはなかなか普通に討伐できる魔獣ではないから、確かに今回みたいに綺麗な形で討伐できたら、素材になるだろうな」レオンハルトも、基本ベースが牛系の魔物なので、食べ物にもなるし、革、ツノ、目、なんだったら骨も使えるよなと頷く。だが、ミレイユが言う話は、レオンハルトが想定した以上のものだった。魔鳥やスライムなど小さな魔物は、魔核も何個か集めて使わないといけない。だから、それらを集めて、日用品でも例えば湿布のように使い捨ての錬金物に利用することが多いそうだ。ところが、ヘルカーンの魔核は、その一つの魔力がかなり大きい。何個か集めると例えば街の発電もできるし、1個でも相当な火炎属性の武器が作れる。毛皮は、加工したら王都のような大きな魔導炉の断熱カバーにも使えるほどの強度がある。「どちらというとこのレベルの素材になると業務用なんです。街全体の魔力効率がよくなるから、国が買い取って、なかなか一般には出回らないんですよ」「そこまでの貴重品だったのか……」確かに、騎士団でも滅多にお目にかからない魔獣だから、捕らえた後は研究用に回されることが多かったが、素材は国の管理になっていたのか……「それなら、これを使っていいものが作れるかもな」レオンハルトが、ミレイユに笑いかけると、ミレイユは満足そうな顔で破顔する。「ええ!腕がなりますよ!火炎防御の外套もいけますし、魔術師だったらローブなどにもなりますけど、作れば最高級品ですね。」そう言い始め、どこの部分がそれを作るのに適しているのか語り始め
レオンハルトがふと目を覚ましたら――手を繋いで眠っていたはずが、お互いもうちょっとだけ距離が近くなっていた。いや、仕方ないよな。テントはそんなに広くない。……抱き合ってなかったのが、むしろ残念なくらいだ。レオンハルトは、そうぼんやりと考える。ミレイユの頭が俺の胸に当たっている。そして、俺の手は、なぜか彼女の背中に回っていただけだ。――あれ?この姿勢……これ、俗にいう【抱きしめる】じゃないか!?ちょっと待ってくれ……誰に待ってくれとお願いしているのかは分からないが、いったん目を閉じて、冷静に考えてみる。抱きしめるって、どこからどこまでが抱きしめる面積になるんだ?背中に手が回って、相手の頭が俺の胸にあたって……もうこれは【抱きしめた】の過去形でいいのでは?いっそ、このまま眠ったふりをして、もうちょっと“面積”を。……いや、待て。そこまでいくなら、ちゃんと交際を申し込んでから、相手に了承を取らないととダメだろ。たった二日過ごしただけなんだ。しかも、相手は18歳。自分との歳の差もあって、この環境で告白なんてしたら……ダメダメ!彼女をますます窮地に追い込むだけじゃないか。無理だ。こんなゲスなことを考えるなんて、女性慣れしてないくせに、二日も彼女と一緒に吊り橋を渡った副作用だ。ああ……そんな罪悪感なんて持たずに、あれだけ自然にぐいぐいいけるカイルになりたい。レオンハルトは、ため息をついた。それから少しして――
その夜――恋を意識したレオンハルトと、女子力のなさに落ち込むミレイユはこの狭い認識阻害テントに二人でいた。「夜の魔物は、攻撃力が増すものが多い。認識阻害してくれるテントなら、ここの方が安心だろう。一晩は野宿だな」 レオンハルトの言葉に、ミレイユは頷いた。水場がないのでミレイユは、血まみれの冒険者服から着替えに持ってきていたカイルチョイスの清楚な白いワンピースを着がえて夜を過ごすことになる。くっそーっ!マジでカイルに殺意を覚えるんだが.....レオンハルトは、そのミレイユの姿を直視できなくて、チラッ、チラッと視界に入れる。そのミレイユは、レオンハルトの視線に気づくことなく、先ほどまでレオンハルトが着ていたツノで裂けた服を、切断された魔力を繋げるため、魔糸で縫い合わせようとしていた。お互いに会話はない。仕方ないんだ。狭い空間で、夜は危険性もある。お互いここで過ごすしかない。もちろん、今夜はここで、二人で眠るわけで.....それは仕方ないことなんだ。レオンハルトは自分に必死に言い訳をする。ダリウスの思う壺だな我ながらチョロすぎる。普通に考えてみろ。これだけかわいい子が、自分のために不安な気持ちを押し殺して、一生懸命手当てもしてくれるんだぞ。こんな事件がなければきちんとプロの錬金術師として、経済的にも自立もしている。俺が支援すると言っても、相手のことを考えて遠慮してしまうような優しい心も持っている。錬金術師として、ちょっとプロ意識が高すぎる時もあるけど、着飾って男性を物色する貴族女性に比べてみろ。たった2日だけど......たしかにちょろいかもしれないが、普通ここまできたら、普通の男性でも恋に落ちても良くないか?そんな悶々とした気持ちから、ダリウスとミレイユの師匠についてふと疑問に思う。そういえば、ダリウスはミレイユ
一方でミレイユも、レオンハルトがヘルカーンに吹っ飛ばされた時のことを思い出してドキドキしていた。◆レオンハルトさんが、吹っ飛ばされた!牛みたいな、でも見たことないぐらい大きな枝のようなツノの化け物が、周囲の木ごと薙ぎ倒して突っ込んでくる。どうしたらいいかわからない。私は、言われた通り陰に隠れながらもガタガタ震えて、手元のカバンをとにかくひっくり返し、何かないか探した。何がこのバッグにあるとか、全く考えられず、先に手が動いていた。「――っ!」これだ!冒険者バッグに入っていた睡眠玉に目が入るやいなや、ピンを引き抜き、ほとんど反射で投げつける。それとともに、広がる煙幕――どさり、と巨体が地面に沈む。しばらくその煙幕が落ち着くまでは動けない。そーっとみると、倒れた巨体の前にレオンハルトさんが!……効いた。効いたけど――!「レオンハルトさん!」駆け寄って、そばまで近づいてその倒れたレオンハルトの姿に息が止まった。背中から溢れてる。血が、こんなに……。頭が真っ白になる。「何を……私……何をすればいいの?レオンハルトさん!しっかりして!」呼びかけても反応がない。 睡眠玉のせい? それとも……流れる血を見て、首をブンブンする。いや、そんなの考えてる場合じゃない。 「止血、まず止血しなきゃ」とっちらかしたバッグの中に、持っていた万能包帯が見える。でも――「万能包帯じゃ無理だわ!血が多すぎる」ポーションだ。ポーションなら――瓶を急いで口元まで運ん
レオンハルトは、ふっと意識が浮上して、反射的に身を起こした。 「ここは?どこだ……」 何かのテントの中のようだ。 屋根がきちんとあり、雨風が凌げる仕組みになっているが…… すぐ横には、自分が着ていた上着がきちんと畳まれて置かれていた。 「たしか、ヘルカーンのツノにやられて……なんかの煙を吸ったんだよな」 だが、まちがいなくあった背中に違和感――その違和感が今はない。 その代わり、上半身裸の上に包帯が巻かれている。 だが、普通の包帯ではないようだ。 「これは……万能包帯か?」 高級魔道具の一つである。 「すごいな。あのツノで引っかけた傷も、もう塞がっている」 効果は聞いたことがあったが、団ではなかなか支給してもらえない一品だ。 「それに、このテント……かなり快適じゃないか?」 シングルベッドより少し狭いくらいだが、足を伸ばして寝られるし、床は広げたときに少し膨らむ作りになっているらしく、地面の上に寝ているにも関わらず、体が痛くならなかった。 「……ほんと、すごいな。これ」 感心して呟いた瞬間、はっとする。 「おいっ!ミレイユはどこだ?」 慌てて服を着て外に出ると、教えたように火をおこし、その火が照らす赤い空間の光の中、ミレイユが短剣を握って作業をしていた。 火はきれいに燃えている。 その横に、解体用の道具や瓶が並べられていた。 毛皮、魔核、目玉、肉……どれもきっちり分類され、すでに瓶詰めになっているものまであった。 「ミレイユ」 声をかけると、振り返った彼女は―― やっぱり全身血まみれだった。 ぎょっとするが、どうやら魔物の血を浴びているだけで、怪我はなさそうだ。 まあ、それだけはげしく解体していたらそうなるよな…… レオンハルトは、複雑な気持ちでミレイユを見つめた。 「あっ!レオン







