Se connecter一方でミレイユも、レオンハルトがヘルカーンに吹っ飛ばされた時のことを思い出してドキドキしていた。
◆
レオンハルトさんが、吹っ飛ばされた!
牛みたいな、でも見たことないぐらい大きな枝のようなツノの化け物が、周囲の木ごと薙ぎ倒して突っ込んでくる。
どうしたらいいかわからない。
私は、言われた通り陰に隠れながらもガタガタ震えて、手元のカバンをとにかくひっくり返し、何かないか探した。何がこのバッグにあるとか、全く考えられず、先に手が動いていた。
「――っ!」
これだ!
冒険者バッグに入っていた睡眠玉に目が入るやいなや、ピンを引き抜き、ほとんど反射で投げつける。
それとともに、広がる煙幕――どさり、と巨体が地面に沈む。
しばらくその煙幕が落ち着くまでは動けない。そーっとみると、倒れた巨体の前にレオンハルトさんが!
…&helli「わけがわからない」レオンハルトは、ユリウスから渡された錬金道具を前に、その意図が分からず頭を抱え怒りを露わにしていた。錬金道具が入っている袋何かあるかも?そう思ったが、むしろ魔法阻害がかかっているだけで透視を防ぐ以外は何の仕掛けもなかった。誰かに錬金道具を持っていると知られることはない仕組みだ。中身はポーション、魔物よけのブローチ、束縛紐――「どう見ても普通の魔物退治用の品ばかり。何がしたいんだ、あいつ……」どう考えてもその思考回路が理解できなかった。お前がみんなの錬金道具を奪って、それで多くの樹海防衛部隊の隊員は死んだんだぞ。今更情けをかけられたところで、その命は戻ってこない。これでチャラにされたようで、レオンハルトは腹が立ってたまらずその怒りを何処にぶつけたらいいのか分からない。「ふむ……罪の意識なのかもしれないな」隣のダリウスは思い当たることがあるようで、顎に手を当てて唸っている。「ダリウス、同じ貴族同士で守り合うのは勝手だけどよ。どの罪だ?余罪ありすぎて数えきれねえよ」「詳しくは言わないが、思い当たることはいくつかあるんだ。ただ、これはお前が怒るのも無理はない。ユリウスの単なる自己満足だからな。これをミレイユに鑑定してもらって、使えるものは使えばいいじゃないか。ものはあるに越したことはない」ダリウスは、怒りに震えるレオンハルトを見て苦笑いする。もちろんダリウスは口にすることはない。ユリウスが、かつて王妃と関わっていたことをレオンハルトに知られたら、余計に傷を抉るだけだ。しかし、本当に歪んでるな。ユリウスは……ダリウスは、レオンハルトが怒るのも無理はないと感じていた。そういえば、日記に王妃について書かれていることはなかったな。今回のことは、王がライナルにうまく唆され、魔導炉を強要していただけなのだろうか?じゃあ、アリエルの失踪に王妃は絡んでなか
「じゃあ、行ってくる」表情は固いが、もう揺らぐことはないといった表情のカイルがレオンハルトやダリウスたちに告げる。「深追いするな。危険そうならすぐ戻ってこいよ」レオンハルトは思わずそう声をかけるが、カイルは愛する人のところに辿り着くまではきっと戻ってこないだろうと思っていた。最後に彼女を連れ去る予定なので、ユリウスの執事と接点を持ってから彼女の元に行くことになる。どうか、最後まで無事にいてくれよ――レオンハルトがそう願う横で、カイルはレオンハルトの肩を叩き、拠点を出ていった。魔物よけの鈴と、予備のポーションを持たせてある。順調にいけば、樹海を抜けて王都まで二時間ほどで辿り着く。魔物に遭遇することもないはずだ。カイルがいなくなると、拠点入り口はダリウス、ブレスレットで戻ってくる魔法陣のある隊長室をレオンハルトは警備しはじめた。「俺たちも周辺警備します」他の兵にも緊張が伝わったのだろう。休憩を回しながら、みんなで拠点を守り始める。ミレイユも治療道具や薬草を塔から持ち込んだ。体調が悪い彼女のために、拠点や塔に横になれるスペースを確保しておく。「いつ来てもらっても治療開始できます」あとは、カイルとその彼女の無事を祈るのみだった。◇そのカイルが王都にあるユリウスのタウンハウスに着いたのは出発から二時間後だった。馬は近くの預かり所へ預けておく。この馬を二度と取りに来ないだろうが、店にとっては良い馬だ。文句は出まい。……問題はここからなんだよな……冗談で執事に刺されるかも……なんて言ったが、実際に怖いのは兵に囲まれることや背後を狙われることだ。ユリウスのタウンハウスは、侯爵家だけあり門だけでもかなり立派なものだ。入り口はどこだよ?カイルがキョロキョロと周辺を見ると、正門に警備兵を立た
ダリウスは、最後にミレイユに声をかけようか迷っているようだった。彼にとっては娘同然だ。クーデターが終わった後、もう戻ってこない。それを、自分の口で伝えるべきなのか……だが、レオンハルトはダリウスに冷たく告げた。「ダリウス、どんなに綺麗なことを言ってもアリエルとミレイユとは別れるんだよな。ミレイユは優しいから、仕方ないと涙してくれるかもしれない。そして、ダリウスから別れを告げられたことをアリエルに苦しみながら告げるだろう」「……ミレイユに全てを任せるのは……酷だよな」「ああ、何も言わないまま去ってくれ。ミレイユは何も言われなかったことにしてくれ。代わりに俺が2人には伝える。何も言わずに去るような男はろくなやつじゃない。離れて正解だってな」ダリウスは、レオンハルトに静かに頷いた。「もしアリエルが動けないようなら、アドリアンに一旦保護を依頼する。レオンハルト……ミレイユを……いや、2人を頼む」「ああ」レオンハルトはダリウスを連れて拠点に戻り、再び塔へ、ミレイユの元に戻っていく。2階に上がると、3階にいたはずのミレイユがいた。「ごめん、休憩か?ダリウスを連れて帰ってたんだ」レオンハルトは、何もなかったようにミレイユに微笑んだ。だが、ミレイユは首を振った。「分かってました……声が聞こえてたから……話を聞いてしまいました」ミレイユが目に涙を溜めてうつむいていた。レオンハルトは、ミレイユをぎゅっと強く抱きしめた。「すまない。俺の独断でミレイユとの会話をさせなかった」「ううん、私、貴族のことをよく分かってないから言ってしまったかもしれない。どうして全てを投げ捨てて師匠の元に、私たちと一緒にいてくれないのって……それができないからダリウスだって悩んでいたのに。
塔に戻ってきたレオンハルトはコーヒーを淹れ、ダリウスに持っていこうか迷っていた。「そっとしてやる方がいいか……」ミレイユは3階で、早速万能薬の研究を始めてしまった。気持ちが落ち着いたら、ダリウスには、アリエルの今後についても相談しておきたかった。一つは仕事についてだ。アリエルの前職とレオンハルトの現職が被ってしまう。お互いどこかに異動になるのか、それともどちらが樹海防衛部隊に残るのかまだわからない。出来れば彼女の仕事を奪う形になるのは避けたい。もう一つはプライベートな方だ。こっちは今後どうしていくかを真剣に決めておく必要があった。もしダリウスが本当にアリエルから離れるなら、お店の再建ができるまではアリエルもミレイユも、今後は俺のタウンハウスで保護するのがいいだろう。たとえミレイユが、日々を取り戻す中で自分に別れを告げられることになってもだ。考えるだけでつらいが、その時も居場所の確保までは手伝うつもりだ。問題は、それはアリエルが移動できる容体の場合の話だ。それならタウンハウスで問題はないが、移動できないほど重体な場合はどこに連れていくのか。厄介なことに魔導炉は樹海の中だ。魔導炉から指輪でこの塔に連れてきて回復を待つこともできる。しかし、この塔に医者を連れて来ることができない。重体のアリエルをつれて、樹海の中、王都まで馬を走らせる?現実的ではない。一番体に負担がかからないのはただ一つ。ダリウスのブレスレットを使ってアドリアン宰相のタウンハウスに飛ばし、一旦はそこで治療を受けさせる方法だ。だが二度と交わることはないと自分のブレスレットを返してきたアドリアンが協力してくれるだろうか。いや協力してくれないと困る。今、ミレイユは手に入った光属性の魔核に夢中だ。万能薬の研究に没頭している間は降りてこない。ミレイユが席を外している間に、ダリウスとよくない未来を想定した話は済ませておきたいのだ。
一方のダリウスは塔の4階に上がり、ぼんやりとアリエルの日記や、思い出の詰まった木箱の中身を見つめていた。最初のころは、ダリウスもよく知っている懐かしい思い出が綴られているだけだった。アリエルは、どこか学校に行ったわけでもないのに錬金術を学ぶために難しい本も読めるし、文章にすることもうまかった。だが、自分の行動には自信を持つことが難しかったようだ。 何度もその日どのような動きをしてどう答えたかを記録にして、「これで大丈夫?」と聞いてきたものだった。ミレイユの育児のことも、だんだん増えていく樹海防衛部隊の隊員に対する対応も、アリエルなりに一生懸命考えていた。アリエルはほとんど不眠不休だった。 だが、それは自分は大丈夫でも、他人にはそれを求めてはいけないと少しずつ理解し始めていたのだ。責任感が強く裏表もない。 子供のまま大人になったような女性だった。ダリウスは、その「自分は大丈夫」という考えをなぜ疑問に思えなかったのかと頭を抱えた。「お前も甘えていいし、休んでいいんだ」とどうしてアリエルに言ってやらなかったのだろう。 アリエルの生きてきた道は、人と違うのだと理解していたはずなのに……自分がそのサインを見逃してしまったと、日記を読みながら知った。ダリウスは、アリエルが危険な生きた兵器であることを知っていた。だから、人にそれを強いてはいけないと伝え、やってはいけないことばかりを教えてきた。でも、本当に必要な言葉はそれじゃない。「お前もみんなと同じようにしていいんだ」とただ毎日伝えてやることだったのだ。 なぜなら、アリエルはみんなの普通を必死に理解しようとしていたのだから……アリエルの日記には、常に「これで大丈夫か」という不安がにじんでいた。最後の頃を思い出す。そういえば、ダリウスに今日あったことを書いた日記も見せなくなっていた。実際、不安定になってからは、日記は書かれなくなっていた日もあった。かと思えば、王や魔術師ライナルにされていること
「ダリウス……大丈夫かしら?」ミレイユの声には心配が滲んでいた。あんなふうに泣くダリウスを見るのは初めてだった。塔を外から眺めたあと、中を一通り見て今は四階にいる。「アリエルの日記をゆっくり読ませてもらえないか?あいつの苦しみに俺は気づいてやれないダメな男だったから……」それを聞いたレオンハルトからは、「そっとしておいてやろう」と言われていた。すでに外は暗くなっている。鈴を鳴らしながら、二人で外に出る。水場の音が静かに流れている。「本当に師匠とお別れしてしまうのかな……」ミレイユは、帰ってきたとき、傷ついた師匠がさらに傷つく姿を想像して胸が締め付けられる。「私に、もう何もできないのかな……」思わず小さく呟く。辛くて、現実を考えたくなかった。「ミレイユ、辛いが俺からも話がある。」レオンハルトは、先ほどダリウスと話し合った【もしクーデターが失敗したら】という状況に陥ったときの話を伝えた「うまくいかなかった時のことなんて、考えたくない……聞きたくもない」ミレイユは胸の奥で震える思いを押さえた。「でも、もし一人になったら……露頭に迷うのは確かだ。残念だが捕えられてしまったら、今度こそ俺もダリウスも……そしてアリエルもここには戻れない。そして……この塔も樹海の中にあり、いつまで安全かはわからないんだ」レオンハルトも震えるミレイユを抱きしめて優しく頭を撫でる。ミレイユは、嫌だと何度も頭を振った。「逃げた方がいいんでしょうか……? みんながいないなら、いっそ王の言いなりに……」魔術師の強さはわからないが、アリエルが捕まっているのだから、それを上回る可能性が高い。ひとりで逃げ回る未来を想像すると、い







