LOGIN「で、俺は信用されたんでしょうか?こんな隠れ家基地に連れてきていただいて?」翌朝――ミレイユが昨日作った魔物よけベルは、効果1日だそうだ。 それを鳴らして、レオンハルトと一緒に作業するパートナーは、まさかのカイル。二人は、一緒に昨日解体した月影狼の毛皮を洗っていた。「お前を信用するわけがない。塔にはお前は入れないからな。俺が信用しているのは、その前隊長が作った足元のチェーンだ」朝日が昇るまで、月影狼を二人で解体し続けた。そして、解体は終わったものの、あまりに膨大なので、その処理を相談したら、ダリウスから、まさかのカイルを渡されたのだ。「そんなツンデレなこと言ってたら、ミレイユちゃんにそっぽ向かれますよ。あーあ、そんな道具を持って、樹海の中でいちゃいちゃしてるんじゃ、タウンハウスを張っていても何も出てこないはずですよね」カイルは、レオンハルトのことを恨めしそうな目で見つめた。「ミレイユだって、お前を完全に信用はしていない。というより、俺を殺そうとしたやつのことなんて信用できるか。俺は、お前のこと信じていたのに……」レオンハルトは、ムスッとしながら毛皮を洗い続けた。結局、カイルに何か傷つけられたのかと言われたら、心が傷つけられたのだ。しかも、ミレイユを匿う時に、信頼出来る人として一番最初に頭に浮かんだカイルに……だが、同時に自分もカイルは軽薄で遊んでいるという先入観を持って接していたから、後ろめたい気持ちもあって完全に許さないと言い切れないのだ。だから、憎まれ口ばかり叩いて、結局はその後沈黙の中で作業した。 水場で多くの血を洗い流したため、あの綺麗な水が少し濁って見える。 その代わり、毛皮は昨夜以上に銀色に光り、かなりの魔力を含んでいることが触れるだけで感じ取れた。「こんな時でなかったら……これ一枚いくらで売れるんでしょうね?」カイルは感嘆の声を上げた。レオンハルトも、だいぶ樹海のものは見慣れたが、植物も魔物も一般的なものに比べて明らかに魔力の含有量が多いのを感じてい
レオンハルトがコーヒーに砂糖をひとかけら落として三階に上がったとき、ミレイユは机いっぱいにヘルカーンのペーストと材料を並べて、魔物よけのベルを作っていた。「鈴の予備がもうないので、思い切ってベルに変えてみようと思います。重いけど大きいからむしろいい効果が出そうなんですよね」「鈴は今あるので最後か?」魔物よけの鈴は、隊員たちに配る上で絶対必要な物になるが....レオンハルトは心配そうにミレイユに聞いた。「いえ、効果がなくなった鈴を返して貰えばまた加工可能ですから、エンドレスに作れます。リサイクルですよ」ミレイユは、すごいでしょうとドヤ顔でいう。「でも、鈴にこだわらず、魔物よけはたくさんあるに越したことはないですからね」魔法紙と呼ばれる魔力を含んだ紙に、以前作ってあったヘルカーンのペーストをペタペタ塗り広げ、ベルに貼り付けていく。そして、ミレイユが手を広げ、そこからベル全体を包むように魔力を広く強く魔力のベールで囲んでいく。「ぐ....」ミレイユの額に汗が流れ、思わず奥歯を噛み締めるような声が漏れる。それを5分ぐらい……その姿勢を崩さず集中していく。苦しそうに見えるミレイユに、なんとかしてあげたいと思ってレオンハルトは見つめるが、これが彼女のプロの仕事なのだ。手は出せないし、見守るしかない――苦しそうな顔を見つめて、気持ちを共有するしかないと、レオンハルトも固唾を飲んで見つめた。それが落ち着くと、ふっとミレイユは息をつく。「これで効果の定着するのを待つのみです。すぐには錬金できないのでひと休憩」ミレイユは、そう笑って言いながら、汗を拭ってコーヒーを飲み一息ついた。その手が少し震える。「無理に元気でいようとしなくていい。俺の前でぐらい、苦しいって言って」レオンハルトはその震える手にそっと触れた。外から月の光が漏れ込んでくる。「レオンハルトさん……では
「ミレイユ、錬金するなら俺も手伝うよ」それは、口実だ。 一緒にいたい……ただ、みんなの手前それは控えた方が良いことは分かっていた。「ああ、レオンハルト、ミレイユは私たちの計画に欠かせない人材だ。護衛として夜はそばで守ってやってくれ」ダリウスなりの配慮だろう。そう言われると、周囲もレオンハルトがミレイユに付き添うことは必要な行為という目に変わっていく。レオンハルトは、申し訳ないと思いながら、ミレイユと共に塔に戻った。あんなに色んなことがあったのに、そこは何も変わらない風景。それなのに、自分たちは色々ありすぎて、心は、張り詰めた糸のように限界を迎えていた。まずミレイユのフォローをしないと....そう思っていたレオンハルト。 まずレオンハルトさんに師匠のこと話さないと...そう考えていたミレイユ。それなのに、塔に入ってすぐ、言葉よりも先に互いの唇が重なり合う。最初は、先ほどまでのお互いのギクシャクしてしまった後で、触れてもいいのだろうかと、おそるおそる確かめるように唇を重ねていく。だが、少し触れ合っていくうちに、それはすぐに激しさを増し、お互いに我慢できなくなった。「……レオンハルト...さん」「……ミレイユ」名前を呼ぶ声さえ、その声をお互いが奪い合うように、次の口づけを求めあう。唇を重ねるたび、お互いの熱が増していった。レオンハルトの手はミレイユの首筋から体の線に沿って触れていき絡みあう。一方のミレイユも、レオンハルトの背中に手を回し、離そうとしなかった。互いの息もあがり、声が吐息が混ざって漏れ、離れてはまるで喰らいつく勢いで、どちらからともなくまた求める。「……ごめん、止まらない」レオンハルトの手は、ミレイユの頬から耳元へ、そして、首筋に唇を這わせていく。いよいよ、レオンハルトの指先がミレイユの服の下に潜り込んで素肌を追い求めそうになった瞬間、ミレイユがびくりと震え
「みんなも急にそんな話をされたら、不安になるだろう。ダリウス、少し、ゆっくりそれぞれ考える時間を与えてほしい」レオンハルトは、隊員たちが、長い時間緊張にさらされ疲れていることもあり、それぞれ自分の考えを整理する時間が作れるように部屋を準備した。「カイル、お前はどうする?」ダリウスは、カイルに対して面白そうに反応を見ている。「おい、どうするって、俺は刺されてるんだぞ!」レオンハルトは、ダリウスに「そんなことを聞いて、どうするつもりなんだよ?」と慌てて声をかける。だが――「お前を刺したのはカイルじゃなくて、セリオなんだろう?確かに剣を構えたが、結局、やられたのはカイルの方だ。しかも、カイルがなぜその行動をとっているのか詳細をお前は知らなかったわけだ。でも、今は知っているんだろう。その上でどうするのか、お前も考えるんだな」ダリウスは、あくまでもセリオとカイルは違うと言いたいらしい。「そんなこと言って、また刺されたらどうするんだ?俺は、隊長である以上、みんなを守る義務がある。ダリウスは、もう総司令官じゃないだろう?ここで、なんの責任も取れない」そんなレオンハルトの意見は聞く気はないらしい。レオンハルトだって、そんなこと知っている。自分の立場なんて、もう王都に戻ってこないと思っている奴らにとってなんの役にも立たないことを。でも、ここにいる不安を抱えた隊員たちには、頼れる存在は必要だ。ただ、それは俺じゃなくてもいい。みんながクーデターに参加するなら、彼らの頼るべき人はダリウスの方がよっぽど経験も上司としての器も大きいことを知っていた。ダリウスは、そんな俺の考えを見抜いているのだろう。カイルの考えを確認する。カイルは最終的に、ダリウスの指示に従うと答えた。「じゃあ、責任を持って俺が見張っておく。それでレオンハルトはどうだ?」そう言って、ダリウスはカイルの足にチェーンを巻きつけ、カチリとそのチェーンに錠を下ろした。先ほどミレイユから痛めつけられた感覚が冷たい
レオンハルトも、他の隊員たちの目も一斉に見開かれる。彼ら二人は、国王派と貴族派――今となっては、ダリウスと国王の間に何かあったのでは?と思うが、それでも二人は犬猿の仲だと思われていた。その二人がどうしてここへ……「逃亡犯の私が、ここでみんなに話をしても、みんなの判断は揺らぐだけだろう。だから、宰相の顔だけでも見せれば、多少は私の話も信憑性が増すと思ってね」ダリウスは淡々とアドリアンをみんなに紹介する。アドリアンは無表情で周囲を見渡すが、ミレイユの姿を見ると、一瞬目を見開き、凝視した後、わずかに目を細めた。ミレイユは――「あの方が……アドリアン様……」そう呟いている。レオンハルトは、その呟きに、アドリアン宰相の事を知っているのか?と訝しげにミレイユを見つめた。一方で、ダリウスは床に縛られて転がされているカイルに気づいて目を丸くする。「カイルじゃないか?どうしてそんな格好で?」レオンハルトが手短に事情を説明すると、ダリウスは肩をすくめた。「ああ、王の駒なのは知ってるが、レオンハルトを傷つけたのか……それは、そんな目にあっても仕方ないな。でも、駒の方は、王に報告してただけだろ?そんな騎士は、第一以外の団にもゴロゴロいる」あっけらかんとしたその言葉に、拠点内の空気が少しざわめく。「まあ、最終的にはレオンハルト次第だ。君に向けられた攻撃を許せるかどうか……事情はあったとはいえ、ここの隊員みんなを危険な行為に晒す行動をしたわけだからね。カイル、どうする?このまま死にたいなら、それでも構わない」その声は、全員に届くようにゆっくりと言われた。「でも、私たちは、これから王に対してクーデターを起こす。君がこっちにつくなら、カイルほどの腕を持った戦力は貴重だと思っている」拠点内に、重い沈黙が落ちる。それから、誰かが一言「クーデター
カイルは悲しそうに目を伏せたが、ふっと笑った。 「……途中からそうだろうなって思ってたよ。作ってやるなんて、ただの口約束だし。いつまで経ってもつくってもらえない。そもそも、そんな薬が存在するのかも怪しいしな」 「病気なら、普通に薬師に診てもらえば――」 「それも試したさ。薬は買って持って行っていた。でも、もう効かないんだ。長く患ってたみたいでな……もう俺も戻れないから、薬を持っていく奴もいない。彼女もただ苦しみが延びるだけならこれでよかったのかもしれない」 カイルの目は遠くを見つめていた。 「あ、あの……」 遠慮がちに手を挙げたのは、元第一騎士団のカミルだった。 「カイルの言ってること、その部分は本当です……その子、もう客が取れなくて、娼館の別の階にいるんですけど……それでも薬を買って持って行ってるの、俺、見たことあります。娼館の女の子からも聞きましたし……」 レオンハルトは腕を組んで、低く問いかける。 「情報も……聞く話だと大した内容じゃない。カイルに対して、別に目的があったと考えるべきか?」 「情報というより、王の駒を各団に仕込むのが目的だったんでしょう。騎士団は、国王の直轄ではないので。だから俺も、前総司令官のダリウスと国王の関係も悪くないのだから、罪悪感もなかった……」 そこでカイルは、わざとらしく思い出したように笑った。 「――ああ、でも。この間、団長の情報をユリウスに出してしまったな」 「この間?もしかしてミレイユのことか?」 レオンハルトは一気に焦る。 出入りは確認されていないし、ミレイユと自分が一緒にいるところを見せたのは、この壕の中が初めてだから、国王たちには動きはバレてないはずだが…… 今までの言動を振り返り、指輪の存在も知られていないのだから、なんとかミレイユの居場所はバレていないはずだと焦る。 だが―― 「レオンハルト団長は、未成年に手を出して、周囲に関係がバレたくなくて、一週間休みをとってます。この後は、タウンハウスで着せ替えごっこして楽しむんだそうです……って」 カイルが、してやったりとにやっと笑う。 「なっ――!?」 レオンハルトとミレイユの顔が同時に真っ赤に染まった。 「着せ替えごっこって!!」 そして、周りの隊員が一気に引き気味になる 「ちがう!それは!!」 レオンハルトは慌てる







