「それでですねー、新しい世界ではレベルとステータスという概念が存在します」
女神がさも当然のように言う。
なに、ステータスだと!?
ゲームとかでよく見る、あの!? もしかしてこれ、ちょっと面白いんじゃね!? 俺、ラッキーか!?ワクワクしながら、勢いよく叫ぶ。
「ステータス!!」
その瞬間、脳内に数値が浮かび上がるような不思議な感覚が広がっていく。
黒川 夜
レベル:1 属性:闇HP:10
MP:10 攻撃力:5 防御力:5 敏捷性:5 魔力:5装備
・村人の服 ・村人のズボン ・麻紐のベルト ・スーパーの肌着 ・クマ模様の靴下(水色) ・スーパーのボクサーパンツ ・薄汚れたシューズ(学校指定) ・麻の袋(大銀貨30枚)スキル
・シャドークロー レベル1「おぉ……」
目の前に広がる数値の羅列。
これは現実世界では味わえない感覚だ。装備の下のほうは見なかったことにしよう。
クマ模様の靴下とか、異世界に持ち込むアイテムじゃないだろ俺……。興奮を抑えきれず、ガッツポーズをしていると──
「あら、話は最後まで聞いてほしかったのですが」
女神が微笑んでいた。
「ステータスを確認するときは、声に出さずに念じるだけで大丈夫ですよ?」
「……あっ」
「だって、そんな大声で『ステータス!!』なんて叫んでいたら恥ずかしいじゃないですか? みっともないですよ、黒川さん」
言い方よ……。完全にバカにしてるだろ。
「ちなみに、人族の成人男性の平均的なレベル1のステータスは、HPとMPが100、その他の能力値は25程度でしょうか」
「……え?」
「黒川さんは転移者ですから、少し優遇されているはずなのですが……どうでした?」
ちょっと待て。何か、聞き捨てならないことを言われた気がする。
「あの、俺のステータス……かなり低いような気がするんですが……?」
まさか、何かの間違いか?
おかしいだろ。女神の言う通りなら、もっと凄い数値が出るはずだ。「どれどれ、見てみましょうか……」
女神が俺のステータスを覗き込む。
「あらら、あらー。あぁーらららら。……ぷぷっ」
「今笑ったよな?」
あらあらっておい……。
異世界転生とか転移ってアニメとかでたまに見るけど、大丈夫なのか俺は。「さて、黒川さん。ステータスを覗いてみたんですが、あなたの数値は、大体人族でいうと5歳くらいかもしれませんねー」
「え、えぇ……?」
ごごご5歳!?
信じられない。いや、信じたくない。女神はにっこりと笑いながら、トドメを刺してきた。 しかも普通に話し続けてるぞこいつ。「あら、でも闇属性なんて珍しいですよ? おそらく、グリードフィルではあなた一人ですねー」
「それってすごいんですか?」
「じゃ、頑張ってくださ~い」
「ちょ、待っ──」
次の瞬間、俺の体は光に包まれ、意識が吹き飛ぶ。
──気がつくと、俺は木々に囲まれた緑豊かな大地に立っていた。
「もっと色々質問させてくれよ……」
唖然としながら、異世界の風を感じる。
頭が真っ白になった俺の新世界での新生活がスタートした。「転移しちゃったからには、しょうがないか……。まずはスキルの確認をしてみようかな?」
女神──いや、あの悪魔に聞きたかったことは山ほどある。
見知らぬ世界で、頼れる人もいない。とてつもない不安があるのも事実。 しかし……だ。 この魔法とかスキルとかいう言葉、ワクワクするじゃないか! いくら俺のステータスが5歳児並みだろうが、あの悪魔の言葉を信じるなら、俺は唯一の闇属性持ちらしい。 唯一っていい響きだよなぁ。「さて、俺のスキルは何だったかなーっと……」
頭の中でステータスと念じる。
決して女神に馬鹿にされたからではない。 郷に入れば郷に従え。そういうことよ。スキル
・シャドークロー レベル1
「シャドークロー、レベル1か……」
レベル1ってことは、成長するスキルなのかな。
育てるのって、結構好きなんだよね。 俺、昔ハムスターとサボテンを育ててたし。……まあ、サボテンは水のやりすぎで枯らしたけど。 ゲームの醍醐味って、主人公が少しずつ強くなっていくことだと思う。この敵がもう通常攻撃一発で倒せるようになったんだ……みたいな感慨深さとかも好き。「よし、さっそく試してみるか」
目の前に立つ、手頃な太さの木。
シャドークロウっていうくらいだからな。両手に黒い爪みたいなもんが生えてくるんだろう。そいつでズバーンと大木を切ってやろうじゃないかってわけ。「シャドークロー!!」
……。
「あれ?」
(シャドークロー!!!)
誰かさんに言われた通り、頭の中でも叫んでみる。……が、反応なし。
「何これ? なんでー?」
おいおい、せっかくの俺の固有スキル。まさかの初手発動不可とか……。
──ってか、説明が足りなすぎるだろ!!! 最近のゲームもさ、説明書が省略されてチュートリアル頼りになってるけど、これ俺の人生だからな? 死んだら終わりなんだが。 5歳児並みのステータスで、3万円の現金しかなくて、一人で生きろって……詰んでね? ありったけの愚痴が脳内を駆け巡る。「最近は説明書もネットで見ろってのが多いしな。ステータスをよく見てみるか。」
今度は、頭の中に浮かび上がったスキル欄をじっっっくり見る。
眉間に皺を寄せ、視力検査の時みたいに集中して……。「むむむむむ!」
すると、脳内に詳細情報が浮かび上がる。
(シャドークロー レベル1:右手か左手を指定し、闇属性の魔力をまとわせる)
「あぶねー!!!!!」
思わず叫んでしまう。俺のクソデカボイスが森の中をこだまする。
この世界、グリードフィルに降り立ってまだ数分しか経っていない。
にも関わらず、俺の口調はすでに荒み始めていた。「さて、気をとりなおしてっと……。右手にシャドークロー!!」
スキル名を叫ぶと、右手に約30cmほどの漆黒の爪のようなものが現れた。
その爪を、目の前にあったごく普通の木にゆっくりと当ててみる。ジジジジジジ……
煙などはでないが、シャドークローに触れた樹皮が僅かに削られているようだ。
ほぼ木の見た目に変化は無い。すごく細かい目にやすりで優しく撫でたくらい。「これでモンスターと戦えってのか? 前の世界なら、石とかで削ればもっと彫れたんだけどな」
思い切って、近くにあった鋭角な石を手に取り、木をゴリゴリ削ってみると、
「名前が彫れるくらい削れてるやんけ……」
スキルよりも、むしろ物理的なダメージの方がはるかに大きい事実に、俺は膝から崩れ落ちた。
しばらく放心状態で天を仰ぎ、動けずにいると――ガサガサガサッ!
近くの茂みが揺れる音にハッとする。
ヨールとして冒険者にになり、3年が経った。 今ではオリハルコンランクの2級。名ばかりで何もできなかった頃から考えると、随分と遠くまで来たもんだ。気がつけば、上級冒険者として名簿に名を連ねるようになっていた。 人族の国『ヒューマニア』に点在するダンジョンは、ほぼすべて踏破した。命を削るように戦い、身ひとつで切り抜けてきた。貯金もそれなりにできたし、生きていく上での不安はもうない。 ――やっと、次に進める。 旅の最初に立てた目標は、世界平和。笑われるような理想だった。薄暗いボロ宿で一人、シミだらけの汚い天井を眺めながら、どうやって世界を統一しようか……なんて、一生懸命に考えていたあの日が懐かしい。 でも、それはただの夢じゃない。俺がこの異世界に飛ばされた理由は、世界を一つにしなければ元の世界に帰れないからだ。 次に目指すのは、獣人の国『ビーストリア』。 人族とは何世代にもわたり対立してきたと聞く。けれど、俺には失うものも、守るものもない。その分、恐れずに飛び込める。冒険者という立場が、せめて対話のきっかけになればいい。 まずは向こうの冒険者たちと関係を築こう。共に依頼をこなし、実力を認めてもらえれば、やがては国の中枢に声が届くかもしれない。急がない。
戦斧と盾を置き、岩山を駆け登っていると、ロックリザードが懲りもせず襲いかかってきたが、噛みつきをバックステップで避け、ハンマーのように右手を脳天に叩きつけると岩のような表皮は砕け、頭蓋を砕く音が聞こえ、ロックリザードは舌を出してぐったりと力なく倒れた。回収する数が増えてしまったけどラマツンがいるから大丈夫だろう。 2体のロックリザードを回収すると、山間を薄いオレンジ色に染め上げながら太陽が昇ってきていた。そろそろラマツンも交代しているだろう。地面を慣らすように尻尾を持ってトカゲを引き摺りながら大急ぎで岩山を降りた。 門に近づくと、ラマツンと交代した門番が目を丸くしながら口をあんぐりと開けていた。「ラマツン、行くよ」「よ、よし行くか。回収したやつはアジャが見てくれるから、門の横に並べておこう」 交代した門番はアジャというらしい。ラマツンよりも小さいが「お、おいラマツン。その怪力の女の子は彼女か?」「ラマツンは僕の手下」「そう、私はケンザキ様の下僕……って違うだろ!」「行くぞ我がラマツン」「だから違うって! 武器は持っていかないのか?」 無視して山を登り始める。ラマツンはやれやれと首を振っているが、僕は早く終わらせて寝たい。 上から順に回収していく。一往復で大体1時間半くらいかかり、僕が2体、ラマツンが1体の計3体だと7往復で終わる計算だ。 3往復し、4往復目に差し掛かるとラマツンが遅い。「ラマツン遅い」「ぜぇ……はぁ……少し休憩しないか?」「だからモテない」「な……!? やるよ、やりますよ!」 ラマツンが元気になったみたいだ。両頬を叩いて気合を入れているようだが、顔面蒼白で体調が悪そうだ。恐らくそれが巨人族の絶好調なのだと思う。 途中ラマツンがロックリザードに襲われた。武器を持っておらず、疲れから反応できていない様子だったので、飛び上がって
「街に入りたい」 僕は今街の門の前にいる。門番が街の中に入れてくれなくて困っている。「だからダメだと言っているだろう! 夜間の門の開閉はゴールド級冒険者以上もしくは許可された者以外には出来ない!」 僕よりも背の高いメロンのように逞しい肩をした巨人族の門番がガミガミと怒っている。「ねえ、街に入りたい」「いつまで続けるつもりだ!」「街に入れるまで」「それでは朝になってしまうな」「じゃあそうする。街に入れて」「気でも触れてるのかこの娘は! 怪しい格好に怪しい言動、通せるわけがないだろう!」「じゃあ脱ぐ」 盾と戦斧を地面に置き、上着のボタンを1つ外す。「何をしている貴様! 服を着ていようが着ていまいが朝まで街には入れんのだ!」「僕を通さない、冗談も通じない。つまらない人」「な、なに……。この俺がつまらないだと!? よーし分かった。貴様はどうせ朝まで街に入れんのだ、門が開くまで俺が話に付き合ってやろう! 俺の名前はラマツンだ」「僕はケンザキ」 ラマツンは肩に担いでいた5メートルはあるだろうロングハンマーの先端を下にして地面に立てるように置き、腰に手を当てて仁王立ちになった。「ケンザキは冒険者なのか? 何故1人でゴールド級が依頼を受けるような場所にいる?」 返答に困る質問だ。なんて答えようか。「冒険者じゃない。岩トカゲを倒してた」「岩トカゲってロックリザードのことか? 南の森にいるストーンリザードではなくてか?」「ちょっと待ってて」 辺りは真っ暗で月明かりと星明かりしか頼るものがないが、何も見えないわけではない。盾を地面に突き刺し、岩山を駆け上がり、一番街に近い位置で倒したトカゲの尻尾を掴んでラマツンの元へ持って帰ってきた。「これ」「ロックリザードじゃないか! ふむ、確かにソロで倒すには骨が折れる相手だ。日が暮れてしまうのも頷けるな。ちなみに俺ならソロで1時間もかから
「じゃあこのリパッパデルコーサをお願いしまーす!」「かしこましましたー、こちらの席へどうぞ」 自信満々に注文したけどわたしは何を頼んだんだろう。日本円で1300円てまあまあの値段だったから失敗してないといいんだけど。 ウエイトレスさんが持ってきてくれた水は薄くピンクがかった色をしている。氷は入ってないけどひんやりと冷たい。「頂きます!」 あ、これ多分ワインを薄めたやつだ。アルコールはあまり感じないけれど、ほんのりと赤ワインの香りがする。「お待たせしましたー、リパッパデルコーサでーす!」 透けるように薄く切られた円形の巨大な大根で魚や色彩豊かな野菜が包まれてる。美術展に展示されていても気づかない程の完成された美しさに、ほぅと思わず溜息が出る。 木のナイフとフォークで食べるようだ。大胆に半分に切ると、中からソースがとろりと溢れ出し、同時にわたしのヨダレも溢れ出した。恐る恐る一口大に切り分けたそれを口に運ぶ。「うんまっ! なにこれー!」 これは当たりだ、大当たりだ。息つく間もなくぺろりと平らげてしまった。さて、デザートが気になりますねぇ。「ウエイトレスさーん、甘いものってありますー?」「こちらのゲロンデなど如何でしょうか?」「はーい、それにしまーす!」 名前は不吉な感じがするけど、このお店のならなんでも美味しい気がする。大丈夫でしょ。「こちらゲロンデになります」「はー……何これ?」「こちらゲロンデというカエルのモンスターの鼠径部付近の脂肪をギロングヤシの実からとれたミルクで味付けしたものになります」「な、なるほど……」 カエル……。ぶつ切りの白くてシワシワでぶにゅぶにゅした見た目の塊がココナッツミルクのような液体に浸っている。どうしようか、勇気を出して食べてみようか。えーい、いっちゃえ!「お、美味しい。美味しすぎる!」 甘みが強く酸味のある香り高いココナ
「うわぁ……。大分増えちゃったなぁ」 わたしの目の前には187体のゴブリンが規則正しく整列している。更にまるおを含めた25体のスライムが私の周りでぴょんぴょん飛び跳ねていて、5体の体毛が全くないかわりに苔に覆われている猪が近くで寝ている。モスボアという名前らしい。フカフカの苔が日差しを浴びて温かくなっているので、寄りかかってソファー代わりにすると凄く気持ちがいい。何故モンスターの名前が分かったかというと。(ステータス) 八王子 麻里恵 レベル:17 属性:魔 HP:420 MP:1410 攻撃力:210 防御力:210 敏捷性:210 魔力:3600 スキル ・モンスタールーム レベル1 ・モンスター合成 レベル1 魔法 ・テイム レベル2 このモンスター合成というスキル、例えばゴブリンを指定してみると。(ゴブリン30体を合成し、ボブゴブリンを作成しますか?) こんな感じに脳内に文字が表示される。テイムしたモンスターにしか使えないけど、これでモンスターの種類が分かるようになったってわけ。あ、テイムもレベルが上がって3000体までモンスターを従えることが出来るようになったよ。 で、ですね。何故仲間になったモンスター達を集めているかと言うと、どのタイミングでモンスター合成をしようかなって話なんだよね。スライムはどんどん合成していった方がいいとは思うんだけど、モンスターを見つけて来てくれるゴブリン達を合成するとかなり効率が悪くなるのよね。「キモスケ、キモジロウ、こっち来てー!」「「ゲギッ!」」 右手を挙げて返事をすると、2体のゴブリンが駆け足でやってきた。(モンスター合成) スキルを使用するとキモスケと他の29体のゴブリンが眩い光に包まれ、29体のゴブリンが丸い光の玉となりキモスケに集約された。 キモスケを包む光は徐々に大きくなり、霧散するように光が弾け飛ぶと、中からはゴムのよ
最初にこちらを威圧するような態度だったので高圧的な嫌なやつかと思ったが、中々話のできる良い奴そうだ。「俺も冒険者になりゃあ強くなれんのか?」「ははは、試してみるといい。良いパーティーが見つかるといいな」「1人じゃ駄目なのか?」「ふむ、パーティーを組めばより強いモンスターと戦える。ソロでダンジョンに挑む馬鹿はおらんしな。早く強くなりたいのであれば、仲間を探すべきであろうな」「そういうもんか、じゃあ俺も冒険者ってのになってみっかな! 強くなったら俺のパーティーにおっさんも誘ってやるよ!」「それは熊ったなー。ぶぁーっはっはっはっは!」「おいおっさん、つまんねえぞ!」「ぶぁーーっはっはっはっは!」 冒険者か、今は何より強くならなきゃいけねえしいいかもしれねえ。しかしパーティーか、よええのと組まねえように気をつけねえとな。街の中心に冒険者ギルドってのがあるらしいから、そこで登録すりゃあ誰でもすぐに冒険者になれるみてえだ。 頭の中でおっさんの話をまとめていたら閂の外れる音の後にゆっくりと門が開いた。クリスと……なんだありゃ、首の長え奴がいやがる。キリンの獣人か、あんなのになってたら生活に不便すること間違いなしだったぜ。「お待たせしましたー! 衛兵長のジラフォイですー!」 声高すぎだろ、しかもジラフォイってなんだよ。こいつ笑わせにきてやがんな!「あ、あぁ。こっちは待ってる間にそこのおっさんにいい話が聞けて良かったぜ。街には入れるのか?」「まずはテストをするフォイ! 合格したら入れてやるフォイ!」「ぶふぉ……くっ、くく……。そ、そうか」 このキリン野朗畳み掛けてきやがった。笑いを堪えてたとこにこの不意打ちは卑怯だろ。獣人てのはこんなのばっかりなのか?「ジラフォイ隊長、いい加減笑う奴はいい奴っていうテストはやめた方がよいのではないか? 意味がない気がするのだが」「今日はもう遅い、この狼獣人の子供も早めに宿をとっ