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第6話

Autor: 萌木しい
瑞希は伏し目がちに本を読んでいた。長く密なまつ毛が、目の下に影を落としている。

白くほっそりした手の甲には点滴の針が刺さり、もう片方の手で医学書を開いていた。

病院の白い照明に照らされ、瑞希の顔はいつにも増して青白く見えた。

冬弥は目を細め、彼女を見つめた。

すると、瑞希のまつ毛がかすかに揺れた。次の瞬間、彼女が顔を上げ、二人の視線がぶつかった。

瑞希は、また病院で冬弥に会うとは思っていなかった。

少し驚いたが、口元にかすかな笑みを浮かべ、彼に手を振って挨拶した。

冬弥は口元を引き締めたまま、冷ややかな表情で視線をそらした。

そして、そのまま背を向けて立ち去った。

「……」瑞希は気まずそうに手を下ろした。

母に気が強いと言われるのも、あながち間違いではない。

特に、思春期真っただ中だった高校時代はひどかった。

自分の思いどおりにならない相手ほど、意地でも手に入れたくなる。冬弥を追いかけていた頃もそうだった。彼が相手にしてくれないと、ますますしつこくつきまとった。

「冬弥、こんな貧乏なあなたを私が好きになってあげてるんだから、ありがたく思いなさいよ。せっかくのチャンスを逃すなんてもったいないわ!

私のことが好きじゃないなら、一生貧乏なままでいれば!

冬弥って、ほんっとに鈍いんだから!」

あの頃は自分の気持ちしか頭になく、思ったことを何でも口にしていた。

今になって振り返れば、ずいぶん無神経だったと思う。相手のプライドを傷つけることなど、少しも考えていなかった。

それにしても、だ。

もう十年以上も前のことなのに、冬弥はまだあの頃のことを根に持っているのだろうか。

瑞希は困ったように小さく息をついた。

それ以上気にしても仕方がない。そう思い直し、またしばらく本を読んだ。やがて喉が渇き、点滴のボトルを手に持って水を買いに行こうとした、そのときだった。

目の前に人影が差した。

すらりとした長い指が、お湯の入った紙コップを差し出していた。

瑞希が顔を上げると、その黒い瞳に冬弥の涼しげな顔が映る。

「ありがとう」瑞希は紙コップを受け取り、少しずつお湯を飲んだ。

「一人か?」冬弥の声は低く、どこか冷たかった。

「うん」紙コップを握る瑞希の指先に、思わず力がこもる。

冬弥は隣の空席に目をやり、点滴のボトルに半分ほど残っている液を確認すると、彼女のところへ歩いてきた。そして、一つ席を空けて腰を下ろした。

何か話すわけでもなく、ただ黙って隣に座っている。

瑞希は、ふと冬弥の香りに気づいた。

すっきりとした、ひんやりしたミントのような香りだった。

「お母さんの具合はどう?」冬弥が病院に来ているのだから、やはり母親のことだろう。瑞希はそう思って尋ねた。

冬弥はちらりと彼女に目を向けた。

もしかしたら、あまり話したくないことだったのかもしれない。そう思った瑞希は、気まずくなって口をつぐもうとした。

けれど、すぐに冬弥の低い声が返ってきた。

「前よりずっとよくなった」

瑞希はほっとして微笑んだ。「それはよかった」

「ああ」冬弥は短く答えた。

その横顔は、鼻筋が通り、顎のラインもくっきりとしている。

高校時代よりも顔立ちがいっそう鋭くなり、以前にも増して近寄りがたい雰囲気をまとっていた。

それでも、目を引くほど整った顔立ちをしていることに変わりはない。ほんの数分そこに座っているだけなのに、何人もの女性が彼に憧れのまなざしを向けていた。

瑞希はふと、先日の追突事故を思い出し、尋ねた。「この前、あなたの車にぶつけちゃったでしょ。修理代、まだ聞いてなかったんだけど」

「大した額じゃない」

「そうだとしても、なかったことにはできないよ」瑞希は借りを作りたくなくて、譲らなかった。「それに、あの日、家まで送ってくれたときも、修理代のことを念押ししてきたじゃない」

それを聞いて、冬弥の動きが一瞬止まった。

なぜか、彼の周りの空気がさっきより冷たくなった気がした。

冬弥が告げたのは、四桁の金額だった。

瑞希は彼の車が、九桁もする限定モデルだと知っていた。擦って塗装が少し剥げただけとはいえ、そんな端金で済むはずがない。

少し考えてから、瑞希は尋ねた。「京介の顔を立てて、今回は大目に見てくれたってこと?」

冬弥は顔を向け、瑞希を見た。

冷ややかな視線がゆっくりと下がり、瑞希の何もつけていない指先で止まる。

この前と同じように、彼女は結婚指輪をしていなかった。

冬弥の視線は、あまりにも率直で冷たかった。何も言っていないのに、何もかも見透かされているような気がする。

瑞希は気まずくなり、そっと指を曲げた。

胸の内に広がる感情を、うまく言葉にできなかった。

かつて、あれほど冬弥を追いかけ回したのに、最後には顔も見たくないとばかりに拒絶された。

その後、十八歳で京介と出会い、恋人同士になり、やがて夫婦になった。けれど今、その結婚生活も無残な結末を迎えようとしている。

しかも、京介と冬弥は今でも親しい友人同士だった。

まるで、真夏の四十度を超える炎天下に放り出されたような気分だった。

いたたまれなくて、恥ずかしくて。

そのうえ、胸の奥では行き場のない怒りまでくすぶっていた。

「京介のために遠慮してくれたんだったら、そんな気遣いはいらないから」瑞希は少しきつい口調で言った。

「京介は関係ない」冬弥は淡々と答えた。

「だったら、数千円で済ませようとしないでよ」瑞希の表情が少し和らいだ。

冬弥は何も言わず、スマホを取り出して数回操作した。するとすぐに、瑞希のスマホに通知が届いた。

開いて確認した瑞希は、思わず固まった。

信じられない思いで冬弥を見つめる。「請求額が八桁って……計算、間違えてない?」

瑞希だって、修理代がいくらになるか自分なりに見積もっていた。高くても六桁で収まるはずだった。

冬弥は涼しい顔で答えた。「君を家まで送って、往復で五時間近くかかった。そのせいで商談を一件逃したから、その損失も上乗せしておいた」

「それはあなたが勝手に送ってきたんでしょ!」

「きっちり精算しようと言い出したのは、君だろ」

「……」

瑞希は冬弥を睨みつけた。

透き通るように白い頬が赤く染まっていた。怒りのせいなのか、それとも熱のせいなのか、自分でもわからなかった。

冬弥は顔色一つ変えず、残り少なくなった点滴のボトルに目をやった。

立ち上がると、看護師を呼んだ。

針を抜いてもらったあと、冬弥は瑞希に言った。「送っていく」

「いい。あなたに送られると、高すぎて私には払えないから」瑞希は針を抜いたところを押さえながら、警戒するように彼を見た。

冬弥は片眉を上げた。「今日はタダでいい」

それを聞いた瑞希は、つい図々しくも食い下がった。

「今回タダにできるなら、この前の分も少し安くしてくれない?」

冬弥は目を伏せ、彼女を見やった。

「去年買った服が今年セールになったら、店に返品して差額を返せって言うのか?」

「……」瑞希は言い返せなかった。

それでも、つい小声でつぶやいてしまう。「昔は、こんなに口が達者じゃなかったのに」

「昔がどうした?」

「何でもない」

瑞希はそれきり黙り込んだ。

……

以前にも一度送ったことがあるので、冬弥は迷うことなく瑞希をマンションの前まで送り届けた。

車を降りるとき、瑞希はもう一度尋ねた。「ねえ、請求額、もう少し安くならない?」

冬弥は一瞬、間を置いた。「いいぞ」

瑞希は目を丸くした。「本当に?」

冬弥はセンターコンソールから金箔押しの名刺を一枚取り出し、彼女に差し出した。

「ここの法律事務所は優秀な弁護士が揃ってる。依頼して交渉すれば、一、二万円くらい安くなるかもしれない。端数も切り捨ててもらえるんじゃないか」

「……ありがとう」

「どういたしまして」冬弥は淡々と言った。

「……」

瑞希は顔を引きつらせながら名刺を受け取った。

走り去っていくベントレーを見送り、改めて八桁の請求額に目を落とすと、熱でぼんやりしていた頭がますますくらくらしてきた。

エレベーターに乗って自宅の階まで上がり、扉の前に立つ大きな人影を目にした瞬間、瑞希は眉をひそめた。

「何しに来たの?」

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