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第810話
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第811話
「まさか、彼が金吾さんまでもこの泥沼に引きずり込めるとは。九条社長はさすがのやり手ね！金吾さんの奥さんはきっと何か弱みを握られているんだろう。後ろめたいことがあるから、仕方なく家に帰って夫を丸め込み、九条社長のために動いているんだ」......ちょうどその時、九条時也もこちらを見てきた。水谷苑は顔をそむけた。彼女は佐藤美月に言った。「彼は昔から陰険な男なの」佐藤美月は頷いた。その時、スタッフが入ってきて、豪華なフルーツ盛りを運んできた。彼女はそれをサイドテーブルに置きながら言った。「九条さんからの差し入れです。あと少し軽食も後ほどお持ちします」水谷苑は断ろうとした。しかし、佐藤美月は受け入れた。スタッフが出て行くと、佐藤美月は言った。「断ったら、かえって彼の思うツボよ！涼しい顔をしているのが一番。苑の本当の考えがわからなくなるし、こういう子供じみたお世辞は、あなたには何の意味もないってことをわからせるのよ。考えてもみて、苑。6000円のフルーツの盛り合わせのために、わざわざ彼と話をする価値がある？それこそ、彼に失礼ってもんよ！もらっておいて、そのままここに放置しておくの。そうすれば、彼をがっかりさせられるわよ！もしあなたが『いらない』って言ったら、男はこう思うのよ......『口ではいらないって言ってるけど、本当は欲しいんだな』って！」......佐藤美月は目まぐるしく一気にまくし立てた。水谷苑は佐藤美月の言葉が心に響き、本当に彼女の言うとおりにした。それから、二人は芝居に集中した。向かい側の九条時也は、芝居を見る気は全く無かった。佐々木真由美は白百合劇団の大ファンだった。彼女は時折九条時也に話しかけ、彼もそれに応じていたが、視線はずっと水谷苑に向けられていた。彼女は今夜、薄紫色のシルクのワンピースを着て、黒髪を後ろにまとめ、全体的におしとやかで魅力的に見えた。彼女は時折、スナックを食べようと手を伸ばした。そこから見える腕は細く、白く、とても綺麗だった。しかし、彼女は最初から最後まで、彼が送った果物やお菓子には一切手をつけなかった。九条時也は思わず落胆した......二時間後、芝居が終わった。水谷苑が立ち上がると、向かい側に九条時也の姿は既になかった。彼女はほっと
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第810話
車のテールランプが消え、太田秘書は九条時也の方に身を向けて「一晩で、4億円も勝ったから、彼女もさぞかしご機嫌でしょう」と言った。それを聞いて九条時也は夜の闇の中に佇んだまま、動かなかった。そして、彼は俯き、タバコに火をつけた――煙を吐き出すと、その淡い青色の煙がゆっくりと立ち込めていった。彼は冷たく笑った。「彼女も協力する気がなければ、こんな心置きなく4億円も勝て行かなかっただろう」彼が太田秘書に話していないことがあった。それは、かつて佐々木金吾に近づくため、佐々木真由美に罠を仕掛けたことだ。ハンサムな若い大学生を彼女に近づかせ、一緒に夜を共にする様子をビデオに収めていたのだ。そのビデオは今でも彼の手に握られている。あの大学生も、もう27歳近くになるだろう。昼間は外資系企業でサラリーマンとして働き、夜は佐々木真由美の愛人だ。あんなことがあっても、今でも関係が続いているとは......たいしたものだ。街のネオンが、九条時也の顔に映えて、チカチカとしていた。狙い通り、佐々木金吾が動き出し、佐藤潤に攻撃を仕掛けたのだ。佐藤潤はそれに対応しなければならなかった。九条時也への圧力はいくらか軽減されたものの、九条グループにとっては依然として厳しい状況だった。ここ半月、社員はほぼ毎晩深夜まで残業し、時には徹夜で当局の検査に協力し、グループの尻拭いをさせられていた。九条時也もほぼ毎晩、接待に追われていた。この半月で、彼がギャンブルで失った金額は、少なくとも20億円を上回っていたのだ。佐々木金吾も佐藤潤に手加減することはなく、九条時也と佐藤潤は死闘を繰り広げ、かろうじて引き分けといったところだ。しかし、このような状況が続けば、どちらにとっても苦しい結果になるだろう。最悪の場合、共倒れになる可能性もある。だが、両者とも一歩も譲らなかった。......時が経ち、春が訪れ、花々が咲き誇った。白百合劇団がB市で公演を行うことになり、チケットは入手困難になっていた。佐藤美月は2枚のチケットを手に入れ、こっそりと水谷苑の寝室を訪ねた。「いいものを手に入れたんだけど、何だと思う？」水谷苑には見当もつかなかった。佐藤美月はチケットを取り出し、水谷苑の前でひらひらとさせた。「最近、陣内麗花（じんない れいか）が好きだっ
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第809話
九条時也はソファに横たわり、激しい頭痛に悩まされていた。若い女性がドアを開けると、そこに立っていたのは太田秘書だった。太田秘書は女性をちらりと見た。その顔は、八割方水谷苑に似ていた。一目見ただけで、太田秘書は九条時也の意図を察した。心の中では悪態をつきながらも、表情には出さず、急ぎ足で中に入った。彼女は床に散らばる酒瓶を避け、九条時也のそばまで行き、しゃがみ込んで言った。「九条社長！至急会社に行かなければなりません！大変なことが起こりました！」九条時也は手の甲で目を覆っていた。彼は低い声で尋ねた。「潤さんが動き出したのか？」太田秘書は言葉に詰まった。少し間を置いてから、彼女は口を開いた。「潤さんの人脈と資源については、社長もご存じでしょう。それ以外にも、以前口約束していたいくつかのプロジェクトが、全て白紙に戻ってしまいました。しかも、潤さんは清廉潔白な人物なので、我々の手には相手の弱みを何も握っていないため、何も手を打てないのだ」「さすがにやり手だな、一晩も待てなかったというのか」そう言って、九条時也は体を起こした。彼は手で頭を軽く叩き、シャツのボタンを留めながら急いで出て行った。しかし、出て行く際に1000万円の小切手を置いていった。これはクラブの決まりで、若い女性と寝たかどうかは関係なく、一晩過ごせば金を払わなければならないのだ。彼は太田秘書と歩きながら話をした。「社長、火の車なのに、若い女性ともつれ合っている場合ですか？」「何もしてない！」「何もしてないなら、なぜいきなり小切手を切ったんですか？」......九条時也は唖然とした。階下に降りると、彼はハイヤーの後部座席に座った。座席には、替えのスーツが用意されていた。彼はボタンを押すと、前後の仕切りが上がった。九条時也が着替えている間、太田秘書は続けた。「いくつかのプロジェクト以外にも、今、検察側が特別調査チームを編成し、九条グループを調査しようとしているようです......社長、潤さんも容赦がないですね！」九条時也もバカではなかった。彼は太田秘書の言葉の裏にある意味を理解した。こういう時は流れに沿って潔く手を引くのが賢明というものだ。九条グループのため、もっと言えば、今後の人生のためにも、佐藤潤に頭を下げて離婚協議書にサイ
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第808話
水谷苑はまだソファに横たわっていて、足に力が入らず、動けなかった。彼女は呟いた。「無理よ」......月明かりが室内に淡く差し込んでいた。二人の立場は、もはや一変したのだ――九条時也は、水谷苑の家を出てから、馴染みのクラブへ行き、泥酔するまで飲んだ。店のマネージャーは彼と仲良かったから、ニュースを見て彼の妻が今、佐藤家の令嬢として戻ったから、もう実家から帰って来なくなっていることを知っていた。マネージャーは気遣いのできる男だった。九条時也の隣に座り、九条社長と呼びながら慰め、入り口の女の子に目配せをした。「新卒なんだけど、仕事が見つからなくて、ここで一時的に働いてるんです！」そして付け加えた。「ちゃんとした子です！」九条時也は興味を示さず、女の子を帰らせようとしたが、顔を上げた瞬間、彼は固まった。その女の子は、20歳くらいの頃の水谷苑にそっくりだった。実際、水谷苑もまだ25歳なのだが、結婚して子供を産んでからは、あの頃の初々しさは失われ、表情も穏やかで落ち着き、以前のような臆病で恥ずかしがり屋な様子はなくなっていた。九条時也はソファに仰向けになり、曖昧な声で言った。「彼女を呼んでくれ！」マネージャーは仕方がないように笑った。男はこの誘惑には勝てないことを、彼は知っていた。同じ顔、より若い体、しかも清純。そんな女性を好まない男がいるだろうか？女の子は呼ばれて入ってきた。マネージャーは小声で指示を出した。「九条社長をしっかりもてなすんだぞ」女の子はおずおずと頷いた。来る前にマネージャーから、九条時也が何をしようと抵抗してはいけない、抵抗するどころか喜んでいるように見せなければいけないと、言われていた。客はお金を払って楽しんでいるんだから、しかめっ面は許されないのだと、マネージャーは言った。個室のドアはすぐに閉められた。女の子のミニスカートの下から伸びるすらりと長い足は、震えが止まらなかった......彼女は少し怖かった。九条時也はソファにもたれて、もう酒を飲んでいなかった。彼女をまるで飲み込もうとするかのような、複雑な目で見ていた......彼女は彼の意図が分からず、彼の足元にしゃがみ込み、酒を注いだ。彼女の白い細い指は、グラスを持ち、震えるように彼の唇へと運んだ。彼女は
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第807話
高価なドレスを脱ぎ、きらびやかな宝石を外し、シャンプーを半分も使ってようやくヘアースプレーを洗い流せた彼女は浴室から出てきて、月白色のシルクのバスローブを羽織った。忙しい一日だったが、彼女はなおも欠かさずスキンケアをしていた。大きな鏡の中に映る、肩に流れる黒髪、ほんのりとした潤いのある肌。裕福な暮らしのおかげで、彼女は全身から柔らかな雰囲気を漂わせていた。スキンケア用品に手を伸ばす仕草さえも、優しく穏やかだ。風がカットガラスの窓に吹き付け、かすかな音を立てた。水谷苑は気に留めなかった。彼女は丁寧にスキンケアを続け、クラシック音楽を流しながら、静かな夜を心ゆくまで楽しんでいた......すると窓が開けられた。九条時也が窓辺に立っていた。夜闇に浮かび上がる彫りの深い顔立ちは、より一層凛々しさを増し、黒髪が夜風に揺れていた。そして彼女を見つめる瞳には、底知れない深さを湛えていた。水谷苑も彼を見つめ返した。椅子の背に体を預け、身動きひとつできなくなっていた。彼女には彼がこれから何をしようとするのか、予想がつかなかったんだ。しばらく沈黙した後、九条時也は嗄れた声で口を開いた。「おめでとうと言うべきなのかな、苑！」彼は窓から部屋へ入った。ドアと窓に鍵をかけ、彼女の前に立つと、彼女が反応する間もなく細い手首を掴み、体を半ば抱え上げるようにして、一緒に柔らかいソファに倒れ込んだ。彼は酒の匂いをさせていたが、その目は驚くほど澄んでいた。そして瞳の奥には、彼女を狂おしいほど欲しがっているという欲望が宿っていた。そう思うがままに、彼は行動に移した......彼は彼女の首筋に乱暴にキスをした。彼女の体を探るように触れた。叫ばれるのを防ぐため、二本の指で彼女の口を塞いだ。一方で彼の横暴な愛撫に、水谷苑は必死に身をよじり、抵抗した。シルクのバスローブは大きくはだけていた。九条時也は、血走った目でそれを見つめていた。彼は頭を下げ、彼女の魅力的な唇を奪った。水谷苑は大きく息を吸い込み、喉仏が緊張で上下した。九条時也によってもたらされる耐え難い感覚、そして、それとなく探るような彼の態度に、彼女は抵抗した。彼女は心の中で彼を必死に拒んだ。彼女の体もまた、彼を必死に拒んでいたのだ。九条時也は動きを止めた。黒い瞳で
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第806話
春風が優しく吹き付ける中、彼の思いも辺り一面に砕けちったガラスのように散っていた。ほの暗い光の下、九条時也の顔には、深い絶望が浮かんでいた。ほんの束の間だったが、彼は様々なことを考えた......水谷苑は、あの人の娘ではなかったのだ、と。そして、自分は幸せを手に入れることができたはずだったのだ。水谷苑は仇の娘なんかじゃなかった。最初から最後まで、彼女は巻き込まれただけだったのだ。あの時、彼女が恋に落ちる様を見て、どれほど清々しく感じたことか。それを今は、あの清々しさと同じだけの痛みを感じているのだ。九条時也は両手を上げ、もう一度水谷苑を見つめた。彼の瞳には苦痛と、心には悲鳴が溢れていた。長年、経験してきた喜怒哀楽は、全て自分の独りよがりだったのだ。水谷苑が佐藤潤の娘だ。この事実は、彼を粉々に打ち砕いた。さらにそれにも増して最も受け入れ難いのは、水谷苑が佐藤家の一員になったということは、本当に自分と決別しようとしているのだということを自覚したからだ。佐藤潤の真意は、これだったのだ。その瞬間、九条時也は、もはや以前のような自信に満ちた様子ではなくなっていた。彼は夜の闇の中、水谷苑を見つめ、静かに尋ねた。「苑、俺たちにはまだ可能性があるのか？」水谷苑は手を引こうとした。しかし、彼は放そうとしなかった。彼女の柔らかな手のひらをつかみながら、彼は考えた。水谷苑はまだ自分の妻なのだ。佐藤潤の娘になったからといって、自分の妻ではなくなるわけがない。いいや、放さない。絶対に放さないから。彼は彼女を見つめ、彼女もまた彼を見つめ返した......しばらくして、彼女は静かに言った。「私は、もともとあなたとは別れるつもりだったのよ」彼女はあんなにも優しく、別れる、と言ったのだ。青いオートクチュールのドレスを身に纏い、彼女は以前と同じように美しく、恥らうような可憐な女性だった。だが、彼女は自分と別れると言った。未練の微塵もなく、まるで彼らの最後の結末を宣言するかのように。九条時也はそれを聞いて思わず後ずさりした。背後にあった古い月桂樹の葉は大半の灯りを遮り、わずかな光だけが彼の端正な顔に散らばり、チカチカしていた。この時になっても、彼はまだ水谷苑の手を握りしめ、放そうとしなかった。傍らで、佐藤美月が静
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