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第73話

Author: 桜夏
その言葉を聞き、蓮司は素直に美月について行き、一緒にタクシーに乗り込んだ。

一方、次の交差点。

透子は駿からの会社見学の誘いを断り、この場所で理恵を待っていた。

赤いスポーツカーが来るのを見て、透子は道端に歩み寄り乗り込んだ。

「透子って本当に薄情よね。

私が駿先輩の話をした時は、彼とは何の関係もないって顔してたのに、結局、彼ともっと話したいからって、車に乗っちゃうんだから」

理恵はまくし立てるように言った。

透子は弁解のしようもなく、気まずそうに説明した。

「ほんの数分の道のりだし、そんなに話せることなんてないわよ」

「でも、キスくらいはできる時間あったんじゃない?」

理恵は意地悪く笑った。

理恵の言葉に、透子は呆れて返す言葉もなかった。

「早く正直に言いなさいよ、二人で何を話したの?言わないなら、私の想像通りってことにするからね~」

理恵は続けた。

透子は無理に笑みを浮かべて言った。

「……本当に、何も話してないわ。ただ会社のことを少し聞いただけよ」

二人はそんなやり取りをしながら家路についた。

その頃、とあるホテルの前では。

タクシーが停まり、美月が蓮司を支えてホテルのロビーに入ろうとすると、蓮司は美月の手を振り払い、眉をひそめて言い放った。

「俺には妻がいる。少し距離を置いてくれ」

美月は心の中で毒づいた。

ちっ、ベッドに入ったら、彼がまだそんなこと言えるか見ものね。その距離、マイナスにしてやるわ。

「ええ、帰りましょう。透子が待ってるわ」

美月は微笑んで言った。

しかし、初めは素直に従っていた蓮司だったが、ホテルの入り口まで来ると、突然立ち止まり、ドアを見つめ、そして顔を上げた。

「どうしたの、蓮司?早くお家へ帰りましょうよ」

美月はそう言って、蓮司を中に押し込もうとした。

蓮司は逆に美月を振り払い、美月は思わずよろめき、ハイヒールを履いていたため危うく転びそうになった。

「ここは俺の家じゃない。俺は騙されないぞ」

蓮司は美月を睨みつけ、踵を返して歩き出した。

美月は内心焦った。まさか蓮司は酔いが覚めたのだろうか?

美月が慌てて後を追うと、蓮司が電話をかけ、少し拗ねたような声で言っているのが聞こえた。

「透子、迎えに来てくれ。酔っぱらったんだ。酔い覚ましのスープ、作ってあるか?飲みたいんだ」

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