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第211話

Author: ちょうもも
悠良は彼の言葉に言い返せなかった。

この男、言うことがいちいち......

「ベッドに入り込んだ」とか、どういう言いぐさなのよ。

ちょうどそのとき、伶が何かを見て表情を変えた。

眉間に深いシワを寄せ、不機嫌そうな顔になる。

悠良も気づいたが、彼が何を見たのか聞く間もなく、自分のスマホが突然震えた。

画面を見ると、発信者は葉。

悠良は深く考えずにそのまま通話ボタンをスライドした。

「葉、どうしたの?」

「やばいよ!大変なことになってる!昨日の夜、ずっと寒河江社長と一緒にいたでしょ?」

悠良は驚きながらうなずいた。

「え......なんで知ってるの?」

「私だけじゃないよ!今やネット中が知ってるよ!昨夜、あんたと寒河江社長がバーに行って、寒河江社長がケガして警察まで来たって。で、そのあとずっと病院で一緒に過ごしてたんでしょ?」

「ネット中が知ってる」という言葉を聞いた瞬間、悠良は完全に固まった。

頭の中に浮かんだのは、たった三文字。

しまった!

葉は彼女の沈黙に気づいて、さらに叫んだ。

「早くスマホ見て!あと、今日からしばらく会社に来ない方がいいよ。外には記者が押し寄せてる。写真撮られないように注意して!じゃないと白川社長に殺されるよ!」

悠良は慌ててニュースアプリを開いた。

目に飛び込んできたのは、ド派手な見出し。

【白川家の若奥様、深夜にYKの寒河江社長と密会――離婚危機か!?】

そして、詳細な記事はさらに脚色がひどくて、悠良も思わずツッコミを入れたくなった。

これ書いた人、記者よりネット小説家の方が向いてるんじゃないの?

そんなことを考えていた矢先、今度は史弥からの電話がかかってきた。

着信画面に表示される彼の名前が、何度も点滅する。

悠良は思わず唇をきつく引き結んだ。

怖くて出られない。

初めて、そんな心情を体感した。

一方、伶は病室の窓際まで歩いて外を覗き込んだ。

下には、メディアの群れがびっしりと詰めかけていた。

悠良も窓辺に駆け寄って、思わずクラッとした。

「こんなに記者が......どうして......」

伶はすぐに光紀へ電話をかけた。

声は低く、冷たかった。

「入り口のメディアをなんとかしろ」

「寒河江社長、それが......今ここには雲城中のメディアが集まっていて、一社や二社って規
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Comments (2)
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maasa16jp
愛人孕ましたクズ男なんかに怯えないで反撃...️
goodnovel comment avatar
千恵
浮気してる男に怯えるな! 外道浮気男に?怯えないでやり返してやって!!
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