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第6話

Auteur: 冴木沙耶
私は震える手でアカウントを作成し、そのままライブ配信のボタンを押した。

4年が過ぎ、今や祐一が世間に名を知られる存在となっていたこともあり、配信には瞬く間に数万人もの視聴者が押し寄せた。

私は一滴の涙も流さなかった。ただ恐ろしいほど冷静に、当時起きた出来事を時系列に沿って説明し、先ほどリビングで美樹が私に吐いた挑発の言葉まで、一つ残らず語った。

コメント欄は当初こそ、「人殺し」「死人が話題作りのために生き返った」という罵詈雑言で埋め尽くされていたが、私が淡々と事実を並べていくにつれ、次第に困惑と疑問の声が混じり始めた。

中には、美樹がサブ垢で書き込んだ呪いの言葉を見つけ、そのスクリーンショットを拡散する視聴者まで現れた。

世論の流れが、確実に変わり始めていた。

そのとき、傍らに置いたスマホが震えた。

画面には祐一の名前が表示されていた。

「配信を切れ」

通話を繋ぐなり、彼の声は凍りつくような冷たさを帯びていた。

「絶対にお断り」

私は奥歯を噛み締め、低く唸った。

「霧子。どうしても共倒れになりたいのか」

祐一は歯ぎしりするような声で、抑えきれない怒りを滲ませた。

「美樹がお前の配信を見て取り乱し、切迫早産の兆候が出た。今、処置を受けている」

「それは自業自得でしょう!」

「お前の両親は今、ICUにいるな。莫大な治療費は、すべて俺が立て替えてやっているんだぞ。

明日には、それぞれ大きな手術を受けさせるよう手配してある。もしお前が今すぐ、さっきの配信はすべてお前のでっち上げだったと声明を出さないなら、今後の治療費は一切負担しない」

心臓を巨大な氷の手で鷲掴みにされたようだった。呼吸の仕方が分からなくなる。

「祐一、この人でなし!両親の命を盾にして、私を脅すつもり!?」

「1分だけ待ってやる」

無慈悲に電話は切られた。

配信画面を見ると、私を擁護するコメントが濁流のように流れ、高額な投げ銭が次々と画面上で弾けている。

その光景を見た瞬間、せき止められていた涙が決壊したように溢れ出した。

私の、完全な敗北だ。

彼らには到底敵わない。今の私には権力も金もない。何より、愛する両親の命を賭ける勇気など、あるはずがなかった。

私は涙で赤くなった目でカメラを見つめ、無理やり笑みを作ると、最後の言葉を絞り出した。

「申し訳ありません。先ほどの配信はすべて、私の作り話です。私は重い精神疾患を患っており……美樹への嫉妬から、彼女を貶めたくて嘘をつきました」

そして、配信の終了ボタンを力なく押した。

画面が漆黒に染まったその瞬間、ネット上の私に対する怒りと罵倒は、かつてないほど激しく燃え上がった。

私は完全に、救いようのない道化に成り下がったのだ。

私はネットカフェを飛び出し、狂ったように市立病院へと駆け出した。

両親の顔を見なければ。たとえ、ほんの一目でも。

息を切らして病棟の最上階まで階段を駆け上がり、病室のドアを乱暴に開け放った。

だが、ベッドはもぬけの殻だった。シーツはしわ一つなく、きれいに整えられていた。

「看護師さん!」

通りかかった看護師の腕を、私は縋るように強く掴んだ。

「このベッドにいた野秋圭(のあき けい)と野秋百合子(のあき ゆりこ)は、どこですか!?」

看護師は一瞬怪訝な顔をしたが、私のただならぬ様子に表情をこわばらせた。

「ご家族の方ですか?おふたりなら、先ほど非常階段のほうへ向かわれました。屋上へ行かれたのかもしれません!」

私は手すりに縋りながら、転げるように屋上へと駆け上がった。

階段の角で膝をひどく擦り剥いたが、痛みなど一切感じなかった。

錆びついた鉄扉を全力で押し開ける。屋上は、立っているのも困難なほどの強風が吹き荒れていた。

目の前の光景を頭が理解するより先に、遥か下の地上から、恐怖に引きつった絶叫が鼓膜を打った。

「人が落ちたぞ!誰か救急車を!」

私は全身を硬直させたまま、ふらふらと屋上の縁まで歩み寄り、下を見下ろした。

見間違えるはずがない二つの人影が、遥か下の地面に横たわり、その周りには血が広がっていた。

「お父さん……お母さん……っ」

声にならなかった。喉の奥から、ヒューヒューと空気が漏れる音しか出ない。

若い看護師が一人、血相を変えて息を切らしながら駆け上がってくると、真っ青な顔で私に数通の封筒を差し出した。

「1時間ほど前、お腹の大きな妊婦さんがお見えになったんです。その方が帰られた後、おふたりはずっと泣き崩れておられて……これ、枕の下に隠すように置いてありました」

妊婦?

美樹だ!

私は小刻みに震える手で、封筒を乱暴に開けた。

便箋は、乾いた涙の跡でしわだらけになっていた。

【霧子、母さん、昨日の夜もまたあなたの夢を見たよ。

霧子、あの美樹さんという子が、今日わざわざ来てくれてね。祐一くんが私たちの治療費の工面で大変そうだからと、ふたりの新居を売って治療費に充てると言ってくれたんだよ。

あの子、大きなお腹で冷たい床に膝をついて、泣きながら頼んでくれたの。生まれてくる子どもから家を奪うわけにはいかないって。私たちはこの2年間、あの子たちの足を引っ張ってきたのに、これ以上、罪を重ねるわけにはいかないわ。

霧子、何も怖がることはないよ。父さんも母さんも、すぐにそっちへ行くからね。好きな厚手のコートも一緒に持っていくよ。向こうの世界は、きっと寒いだろうから】

手紙が力の抜けた手からすり抜け、屋上を吹き荒れる風にさらわれて、空へと舞い上がった。

どうして?私の人生は、なぜこんな残酷な結末を迎えてしまったのだろう。

私は無意識に一歩後ずさり、屋上の縁にある冷たい手すりに背中を預けた。

風が長い髪を激しく乱す。私は再び、スマホの配信アプリを立ち上げた。

インカメラに映る私の顔は血の気を失い、まるで死人のようだった。

私はスマホの録音アプリの再生ボタンを押した。それは先ほど、祐一が両親の手術費を盾に私を脅した通話の録音データだった。

「莫大な治療費は、すべて俺が立て替えてやっているんだぞ」

その冷酷な一言が、ライブ配信を通じて何万人もの視聴者に響き渡った。

「これは音声合成でも、AIによるフェイクでもありません」

私はカメラを見つめ、泣き出しそうなほど痛々しい笑みを浮かべた。

「もし、それでも私を疑うのなら……」

私はゆっくりと振り返り、遥か下の地面に広がる二つの血だまりを見下ろした。

「私が死んで、真実を証明してあげる」

私はスマホを握り締めたまま、一切のためらいもなく手すりを越え、仰向けに身を投げ出した。

身体が宙に浮いた。その瞬間、遠のく意識の中で、毎朝私を起こしてくれた母の優しい声が聞こえた気がした。

【霧子、起きなさい。お日様が高く昇ってるわよ】

もしこれが現実だったなら、どんなに幸せだろう。

これはただの悪夢で、目が覚めれば、私はまだあの誰にも負けない学年トップの優等生なのだと。

もし、本当に過去へ戻れるのなら。あの希望に満ちた18歳のあの日へ。

祐一。私は神に誓う。二度と、あなたなんて愛さない。

必ず、あなたたちふたりに地獄の代償を払わせてやる!

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