共有

君のひと言

作者: 姫吏祢夢
last update 公開日: 2026-09-11 22:30:14

更衣室の扉を開くと、夏の日差しが眩しく差し込んできた。

「おーい! 伊吹!」

先に着替え終わっていた陸が、大きく手を振る。

「ごめん、お待たせ!」

そう言って三人の方へ歩いていくと、陸が一瞬だけ目を丸くした。

「……。」

「え、なに?」

「いや、なんでも。」

照れくさそうに視線をそらし、頭をかく陸。

その反応が少しおかしくて、私は思わず笑ってしまった。

「似合ってるじゃん。」

玲央がさらっと言う。

「ありがとう。」

自然に褒められると、少しだけ照れくさい。

そして最後に、湊と目が合った。

「……。」

なぜか何も言わない。

「な、なに?」

思わず聞き返すと、湊は少しだけ困ったように笑った。

「……似合ってる。」

たったそれだけ。

なのに胸がどきりと鳴る。

「……ありがと。」

小さく返事をすると、湊は照れ隠しをするように海の方へ歩き出した。

「よし! 泳ぐぞー!」

陸が勢いよく走り出す。

「待って!」

四人で海へ向かう。

足元に冷たい波が押し寄せてきて、思わず声が漏れた。

「冷たっ!」

「伊吹、こっち!」

湊が笑いながら手を振る。

その瞬間。

「えいっ!」

陸が海水を思い切りかけてきた。
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 青春の真ん中で君を想う   君のひと言

    更衣室の扉を開くと、夏の日差しが眩しく差し込んできた。「おーい! 伊吹!」先に着替え終わっていた陸が、大きく手を振る。「ごめん、お待たせ!」そう言って三人の方へ歩いていくと、陸が一瞬だけ目を丸くした。「……。」「え、なに?」「いや、なんでも。」照れくさそうに視線をそらし、頭をかく陸。その反応が少しおかしくて、私は思わず笑ってしまった。「似合ってるじゃん。」玲央がさらっと言う。「ありがとう。」自然に褒められると、少しだけ照れくさい。そして最後に、湊と目が合った。「……。」なぜか何も言わない。「な、なに?」思わず聞き返すと、湊は少しだけ困ったように笑った。「……似合ってる。」たったそれだけ。なのに胸がどきりと鳴る。「……ありがと。」小さく返事をすると、湊は照れ隠しをするように海の方へ歩き出した。「よし! 泳ぐぞー!」陸が勢いよく走り出す。「待って!」四人で海へ向かう。足元に冷たい波が押し寄せてきて、思わず声が漏れた。「冷たっ!」「伊吹、こっち!」湊が笑いながら手を振る。その瞬間。「えいっ!」陸が海水を思い切りかけてきた。「きゃっ!」「ははっ! 大成功!」「もう、陸!」私は両手ですくった海水を思い切り陸へかけ返す。「うわっ!」その様子を見て玲央まで笑い出した。「玲央も!」「え、ちょっ──」気づけば四人で水を掛け合い、大笑いしていた。子どもの頃と何も変わらない。それなのに。胸の中だけは、少しずつ変わっている。ひとしきり遊んだあと、砂浜へ戻る。「喉乾いたな。」陸が自販機を指差した。「飲み物買ってくる。」「俺も行く。」玲央も立ち上がる。「伊吹たちは?」「私はここで待ってる。」そう答えると、湊も砂浜に座った。二人きり。波の音だけが静かに聞こえる。「楽しい?」湊が海を眺めたまま聞く。「うん。すごく。」「よかった。」その優しい横顔に、また胸が熱くなる。ふと風が吹き、私の麦わら帽子が砂浜を転がった。「あっ!」追いかけようと立ち上がる。でも、その前に湊が走り出していた。波打ち際で帽子を拾い、砂を払って私に差し出す。「はい。」「ありがとう。」帽子を受け取る瞬間、指先が少しだけ触れた。その一瞬だけで、心臓が大きく跳ねる。「……顔、赤いけど大丈夫?」

  • 青春の真ん中で君を想う   夏の海へ

    海へ行く朝。私は鏡の前に立って、じっくりと自分を見ていた。「……大丈夫。」白いTシャツにデニムのショートパンツ。その下には、昨日まで悩みに悩んで決めた水色の水着を着ている。昨日、那月が「絶対こっち!」と勧めてくれたもの。自分ではまだ少し慣れない。鏡の中の私は、いつもと同じようで。でも、今日は少しだけ違って見えた。「伊吹ー!朝ごはんできたよ!」一階からお母さんの声が聞こえる。「今行くー!」私は鏡から離れた。そして、もう一度だけ自分の姿を確認する。……変じゃないよね。そんなことを考えている自分が少し恥ずかしくなった。「だって今日は海でしょ?」小さく呟く。ただ四人で海に行くだけ。いつもと同じ。そう思おうとしても。昨日から、どうしても気になってしまう。もし湊が見たら。「……何考えてるの。」私は自分で自分に突っ込み、慌てて部屋を出た。リビングへ行くと、お母さんが朝食を並べていた。「おはよう。」「おはよう、伊吹。」席に座ろうとした瞬間、那月が私の服を見て笑った。「その服かわいい!」「ありがとう。」「水着も?」「……うん。」「やっぱり水色にしたんだ!」那月は満足そうに頷いた。「絶対似合うって言ったもん。」「はいはい。」「湊お兄ちゃんにも見せるんでしょ?」「……っ!」思わず箸を落としそうになる。「なんでそうなるの!」「だって今日一緒に海行くんでしょ?」「そうだけど……。」「じゃあいいじゃん。」那月は楽しそうに笑う。私は何も言い返せず、黙って朝ごはんを食べた。「水分もしっかり取るのよ。」お母さんが言う。「はーい。分かってるよ。」朝食を食べ終え、玄関で靴を履く。「行ってきます!」「楽しんできてね!」「湊お兄ちゃんによろしくー!」「もう!そういうこと言わないで!」笑い声を背中に受けながら、私は家を出た。駅前に着くと、玲央がベンチに座って待っていた。「おはよう。」「おはよう!」少しして陸が走ってくる。「セーフ!間に合った!」「またギリギリ。」玲央が呆れたように言う。「今日は寝坊してないから!」「それ、昨日も聞いた。」「今日は本当!」そんな会話をしていると。「悪い、待った?」聞き慣れた声がした。振り向く。湊だった。黒いTシャツに薄いデニム。飾らない服

  • 青春の真ん中で君を想う   どれがいいのかな

    翌日。昼食を食べ終わって部屋に戻ると、スマホが震えた。四人のグループLINEだった。【水曜日、何時集合にする?】陸からのメッセージだった。【朝の九時くらいでいいんじゃない?】玲央がすぐに返す。【早くない?!】私は思わず笑って送ると、【海なんだから早いほうがいいでしょ。】またまた玲央からの返信に湊からも返信が来た。【俺もそれでいい】たった一言。それだけなのに、私の口角が上がった。【じゃあ九時ね!】送信してから、スマホを胸元に置く。「……楽しみだな。」もちろん、海に行くことが。陸も玲央も一緒だから。昔から何度も四人で遊びに行っていた。それなのに、今年は少しだけ違う。体育祭の日、湊が走っている姿を見た時も。夏祭りで迷子になった私を、湊が見つけてくれた時も。胸が変に騒がしかった。_________________海へ行く約束をしてから三日が経った。私は朝から自分の部屋でクローゼットを開けていた。「……どうしよう。」ベッドの上には、水着が二着。昨年着たネイビーの水着。そして、先日買ったばかりの淡い水色の水着。どっちにしよう。「うーん……。」鏡の前で合わせてみる。昨年のでもいい。でも、新しい方も着たい。「決まんない……。」その時だった。「お姉ちゃーん!」勢いよく部屋のドアが開く。「……ノックしてよ。」「ごめんごめん。」笑いながら入ってきた妹は、ベッドの上の水着を見て目を丸くした。「え!海!?」「うん。」「いいなー!」妹は新しい水色の水着を手に取る。「こっち可愛い!」「そうかな?」「絶対こっち!」私はもう一度鏡を見る。確かに可愛い。でも。「派手じゃない?」「全然!」妹は腕を組んで私を見る。「……お姉ちゃんさ。」「ん?」「誰か意識してる?」「え?」思わず固まる。「そんなに悩むなんて珍しいじゃん。」「海だからだよ。」「ふーん。」その返事に、妹はにやっと笑った。「湊お兄ちゃん?」「なっ……!」思わず声が裏返る。「違う!」「じゃあなんで顔真っ赤なの?」「暑いだけ!」「部屋クーラーついてるけど?」「……。」何も言い返せない。妹はケラケラ笑いながら部屋を出ていこうとする。ドアの前で立ち止まり、「私はその水色が好き!」と言い残して階段を

  • 青春の真ん中で君を想う   夏の予定

    「暑っ……。」駅前を歩きながら、陸が首元をあおぐ。「さっきからそれしか言ってないね。」]私は笑って陸の方を見る。「だって暑いんだから仕方ないだろ。」「確かに今日は暑い。」湊も苦笑する。「まだ夏休み始まったばっかりなのに、これじゃ先が思いやられるな。」玲央が空を見上げる。真っ青な空に、入道雲が大きく浮かんでいた。「でも夏って感じする!」私は嬉しくなってそう言う。「暑いの嫌いじゃなかった?」陸が聞く。「嫌いだけど、夏は好き。」「矛盾してる。」「いいの!」四人で笑いながら歩く。こういう何気ない時間が、私は好きだった。特別なことなんて何もない。ただ一緒に歩いて。くだらない話をして。笑っているだけ。それだけなのに、今年は少しだけ、胸がくすぐったかった。四人は商店街を抜け、いつものアイス屋へ向かった。小さい頃から夏になると必ず来るお気に入りのお店。「ここ来るの久しぶりじゃない?」伊吹が店を見上げる。「昨年も来た。」玲央が即答する。「……そうだっけ?」「来た。」「覚えてない。」「伊吹はすぐ忘れるからな。」陸が笑う。「失礼な!」そんなやり取りをしながら、店の前に並ぶ。「私はソーダ!」「俺はチョコ。」「抹茶。」「バニラ。」それぞれアイスを受け取り、店の前のベンチに並んで座る。「やっぱ夏はアイスだな。」湊が満足そうに笑う。「おいしい!」私もアイスを食べる。「冷たっ……!」「当たり前だろ。」「分かってるよ!」また笑い声が響く。しばらくアイスを食べながら、四人で夏休みの予定を話していた。「そういえば、海行きたいって言ってたよな。」湊が私を見て言う。「うん。行きたい!」「じゃあ行く?」湊はあっさり返した。「え?」「海。」その一言で、みんなの動きが止まる。「いいじゃん!」陸が身を乗り出した。「毎年行ってるし。」玲央も珍しく反対しない。「今年も行こうぜ。」「じゃあ決まり!」私はわくわくしながら笑う。「いつにする?」四人でスマホを見ながら予定を合わせる。「来週の水曜日なら全員空いてる。」「じゃあ水曜!」「決定!」こうして、今年最初の海の日が決まった。「楽しみだな。」湊が笑う。「うん!」私も笑って頷く。その笑顔を見て、湊も少しだけ嬉しそうに目を細め

  • 青春の真ん中で君を想う   夏色の1日

    終業式が終わり、ついに夏休みが始まった。朝。目覚まし時計を気にしなくていいだけで、少し幸せな気分になる。「夏休みだー!」ベッドの上で大きく伸びをする。窓を開けると、蝉の鳴き声が一気に部屋へ飛び込んできた。夏だ。昨日まで制服を着ていたのが嘘みたいだった。その時、スマホが震える。『暇。』送り主は陸。思わず笑ってしまう。『夏休み初日の感想がそれ?』送ると、すぐに返事が来た。『暇だから遊ぼう。』『急すぎる!』そこへまた通知。今度は四人のグループだった。湊『今日みんな暇?』まるで示し合わせたみたいなタイミング。玲央『暇。』陸『暇。』私は笑いながらスマホを打つ。『みんな暇なんだね。』少しして湊からメッセージが届く。『駅前集合で。アイス食べ行こう。』『行く!』送信ボタンを押した瞬間、自分でもびっくりするくらい返事が早かった。「……。」私はスマホを見つめる。やっちゃった。こんなの、楽しみにしてたみたいじゃん。いや、楽しみなんだけど。「はぁ……。」顔が熱い。恋を自覚した途端、全部が気になってしまう。服は何を着よう。髪は巻こうかな。いや、気合い入れすぎ?鏡の前で何度も着替えては首を傾げる。「伊吹ー!」一階から母の声が聞こえた。「そろそろ出る時間じゃない?」「今行くー!」結局、白いTシャツにデニムといういつもの服を選んだ。駅前に着くと、一番最初にいたのは玲央だった。「早いね。」「五分前だし。」うん、玲央は相変わらずだ。「お待たせ!」次に陸が走ってくる。「暑すぎ……。」「走ってきたの?」「二度寝した。」「珍しい!」そんな話をしていると、「悪い、待った?」最後に湊が現れた。その瞬間。自然と目で追ってしまう自分がいた。黒いTシャツに、ベージュのパンツ。シンプルなのに、なんだかよく似合っている。「伊吹?」「えっ?」「ぼーっとしてた。」「してない!」慌てて目を逸らす。陸はその様子を横で見て、小さく眉をひそめた。玲央だけが気付いたように、そっと苦笑する。「じゃあ行くか。」湊の一言で、四人は歩き出した。駅前から歩き出す。蝉の声が響く道を、四人で並んで歩いた。「そういえばさ。」陸が口を開く。「夏休み、何する?」「宿題。」玲央が即答した。「真面

  • 青春の真ん中で君を想う   恋の始まり

    花火が夜空に大きく咲いた。「きれい……。」思わず声が漏れる。色鮮やかな光が夜空いっぱいに広がり、ゆっくりと消えていく。「毎年見てるのにな。」湊が笑った。「うん。」「でも、何回見てもすごい。」私は小さく頷いた。その時だった。「伊吹ー!」遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。「いた!」陸が人混みをかき分けながら駆け寄ってくる。その後ろには玲央の姿もあった。「よかった……。」陸は私の顔を見るなり、安心したように息をついた。「ごめん、陸。」「怪我は?」「してない。」「ならいい。心配したんだからな。」陸は少しだけ眉をひそめた。「電話もつながらないし。」「ごめん…。」「人混みで一人になるな。」そう言って軽く頭をぽんと叩く。昔から変わらない。陸なりの優しさだった。「俺も探した。けど見つからなくってさ。」「ごめんね。」「無事ならそれでいい。次から気を付けろ。」そう言いながらも玲央はどこか安心したように笑った。その様子を見た湊は、小さく息を吐いた。四人そろって、もう一度花火を見上げる。しばらく誰も言葉を発しなかった。夜空には次々と大きな花が咲いては消えていく。色とりどりの光が私たちを照らしていた。屋台の賑わいも。子どもたちの笑い声も。今はどこか遠くに聞こえる。私はただ静かに花火を見上げた。こうして四人で並んで花火を見るのは、もう何回目だろう。小さい頃は、何も考えずに笑っていた。中学生になっても。高校生になっても。ずっと変わらないと思っていた。だけど、今年だけは違う。同じ景色なのに。私の心は、少しずつ変わっているようで。そう思いながら私は口を開いた。「今年の花火、昨年よりすごくない?」空を見上げてそう言うと、「それ毎年言ってる。」玲央がぼそっと言う。「え、そうだったっけ?」「うん、言ってるな。」陸も頷きながら笑う。「伊吹は毎年同じこと言うよな。」「そんなに同じこと言ってる?」「昨年は『来年も来ようね。』って言ってた。」湊が思い出したかのように笑う。「言ったかも。」「俺、ちゃんと覚えてる。」そう言って湊は私と目を合わせた。その一言に、私は胸が温かくなっていくのを感じた。昔の何気ない言葉まで覚えてくれていた。そんなことが、少し嬉しかった。「来年も四人で見られるか

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status