เข้าสู่ระบบ工場内は常に騒音が鳴り響いていて、うるさい。
だがその日はやけに静かだった。いや、今はいつも以上に騒がしいはずだ。重大災害の発生、それに伴い慌てふためく職場の人。それでも僕は静かに感じたのだ。 救急隊の人が破砕機に挟まった人の救助を試みているようだが、半身が潰されているであろう人を、一体どうやって救うのか。 僕にはそんな事を気にする余裕などない。 周りの音もきこえないほどに、思考を巡らせる。 「誰だ!昨日ここで作業していたのは!答えろ木野!」 何があったのか問い詰められているが、僕は俯いたまま目を瞑った。 落ち着け、これはきっと現実じゃない。昨日の事を思い出すどころか、現実否定を始めていた。 それでも、目を開けたところで何も変わらない。 乾いた血が付着したメダルが真紅に輝いて見える、まるでそれが現実を突きつけてくるように感じた。 あの時付着したのは、油汚れじゃなくて血だったのか。 そんな訳ないだろ、誰も怪我なんかしてない、血なんか一滴も流してない。 「木野!」 「…だから!そのっ!」 「よしましょう。今この精神状態で話し合った所で何も理解できません。今し方警察の方も到着しました。今の我々に必要なのは冷静になる事です」 「人が死んだのに落ち着けってか!」 悲惨な現状を直視すれば、精神的におかしくなる。 僕たちは事務所に戻って、後のことは警察に任せた。 今日の仕事は無くなった。 でも微塵も嬉しくない。 人が死んだのだ。 それもごく身近な人が。 後に警察の調べで、遺体の制服から推測すると死亡したのは門宮と断定された。 遺体の一部(上半身)が著しく損傷しており。死因は見ての通りだった。 今もこれは事故死として捜査が進んでいる。 僕も警察の人に色々な事を聞かれたが、何一つ証拠にならなかった。 僕だけじゃない、この件については職場の誰もが何も知らなかった。 1つ僕たちの発言と矛盾しているのは死亡推定時刻だ。それは昨日の14時31分。僕たちはその時間、通常通りの作業をしていたのだ。 こんな大きな事故があったにもかかわらず、誰も気づかなかったのだ。 僕も警察にその事を言われたが、絶対に違う。その時間、彼は僕にメダルを渡していたはずだ。 それ以外、何も起きていない。 あれから一夜明けた今でも、このことが事実だと受け入れられない。まるで長い夢を見ているようだ。 警察に話さなかったことがある。いや話せなかったことだ。 このメダルだ。 何度見返しても、乾いた血が付着していることに変わりは無い。 これを警察に渡せば、事故の証拠品になるかもしれない。いや、僕が疑われるだけか。そう考えると恐ろしくて、黙っていた。 今日から仕事が再開する。 僕は車で職場に向かう途中、運転中である事を気にせずに、何度もメダルを確認した。それは事実から目を逸らそうとしたからだ。 だがいつ見ても、どんな角度で見ても、付着した血が真紅に輝いている。 「そんな訳が無い」 だが真実はこのメダルが語っている。 門宮は事故死。そのことを誰も覚えていない。 「でもどうして、門宮が…」 僕は苦悶の表情で、車窓の景色を見た。すると、何か見覚えのある肖像画が描かれている小さな神社が、目に入った。 「こんな所に神社なんてあったか?あの肖像画はメダルの?」 通勤中なのにその神社の側に吸い寄せられるように、向かって行った。今日はいつもより早く出て来てしまったので時間には余裕があった。 そんな事よりも何故か、あの神社の肖像画が気になる。 門宮から貰ったメダルに刻印された肖像画と同じものが、この神社の看板に描かれている。それだけの事だ。 それがめちゃくちゃ気になる。 深く考えもせずに、車を停め、賽銭箱の前に立っていた。 「やっぱり、同じ肖像画だ」 メダルと比べても違わない、全く同じ肖像画だった。 でもどうしてこの場所に? 門宮は旅行先で買ったと話していた。この神社と何か関係があるのだろうか? 考えながら、手に持ったメダルをじっくり見つめていた。 すると足元にモフっとした感触がした。 ちゃりりん。 鐘のような音も聴こえ、下を見るとそこには、え!?犬!? 通勤途中でよく見かける、あの場所の犬がいたのだ。不思議そうな顔をして、こちらを覗き込んでいる。 鐘の音は首元にぶらさげたベルから聴こえたものだろう。 だが如何せんこの状況は、僕にとっては悪い状況だ。 何故かって? 僕は犬猫アレルギーなんだよ! 大袈裟に思えるかもしれないが、僕は動物の毛が目に入ると、目が溶けるんだ。 「うわっ!?」 その場からすぐさま後ろに飛び退いた。その時、手に持っていたメダルを落としてしまったのだ。 ちゃりん。 しかもメダルは、僕の目の前にある賽銭箱の中に入ってしまった。 最悪だ。どうにかして取らないと。他の人に、拾われたらマズイ。 犬は飛び退いた僕に驚いて、キャンキャン鳴きながら山奥へ逃げていった。 「やってくれたな、あの犬」 賽銭箱を覗き込んでいると、明らかにデザインが違う物、門宮から貰ったメダルがあるのが分かった。 どうしよう。 すると、神社の奥からのっそりと神主らしき人物が顔を出した。こんな所に人がいるのは驚きだ。 「客人ですか?」 神主らしき人物は、透き通った男の声色で、焦げ茶色の袴を着ている。まるで歴史の教科書で見た江戸時代の人の格好をしていると思った。 袖には、神社やメダルに描かれている肖像画のような模様も入っている。 やばい、今僕は賽銭箱を凝視していた。ひょっとしたら賽銭泥棒か何かだと、疑われているのかもしれない。 僕は挙動不審になりながら、視点が定まらない。 「あ、あの…」 神主は僕の顔をじっと見つめながら、こう言った。 「?ひょっとしてその作業着、例の事故があった工場の職員の方ですかな」 「あ……はい」 神主の顔が僕の瞳に鮮明に映る。その顔は凛々しく、目や鼻は細い。その被っているのは角頭巾と言うのだろうか?比喩だか、頭の形がイカのエンペラに見える。 焦げ茶色の袴の右胸辺りに、メダルや神社にあった物と同じ、肖像画のような模様が刻まれていた。 だが1番特徴的だったのは、アイラインに黒い線が入っている事だ。それはまるでマジックで書いたように、太かった。歌舞伎役者か? 「それは災難でしたね」 「はい、今、色々と大変でなんです」 「従業員の方が1名、亡くなったとお聞きしました」 「ご存知でしたか」 「彼はまだ見ています」 「え?」 神主は角頭巾に手を当てて続ける。 「いえ、分かるんですよ。あなたのそばに居て、ずっと見ていますよ」 やばい、この人めっちゃ怖いこと言ってくる。 「そんな事!ど、どうして分かるんですか!?」 「いやねぇ、神仏の類に深く関わっていると、見えちゃいけないものまで見えてくるんですよ。ほら、彼はどうやら、この世に未練があるんじゃないんですか?ほら、今もあなたの肩に手を乗せて、苦しそうに呻いていますよ。どうします?」 未練?何を言っているんだこの人は、霊媒師か何かなのか? 神主は僕の顔を真顔で、じっと見つめたままだ。僕の顔はだんだんと強ばってきた。 門宮は幽霊として、今も僕を見つめている。 そんなの。 そんなのって。 怖っっっっっわ! 「……おっと、まさかそこまで深刻そうに受け止めるとは。あなた真面目ですね」 「はい?」 「冗談ですよ、冗談。私に霊など見えませんよ」 いや、冗談で済むか!人の死をなんだと思ってるんだ!? 何だこの人!? 「少し魔が差しました。こうやって話しかけると、亡くなった方とどういう関係なのか、分かるんですよ」 何言ってんの!? 「あ、あの!僕もう仕事があるので失礼します!」 ヤバい人だ。 「だが、念の為、お祓いをしましょうか」 すると神主は突然、手拍子でお経?の様なものを唱え始めた。 ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち ぱち。 一定のリズムの手拍子に合わせて唱えている。そんなのありかよ。 僕は見つめてくる神主の方を振り返らないように、車に乗り、その場を去った。 良かった、逃げきれたようだ。 賽銭箱に入ってしまったメダルの事を思い出した。 何にせよメダルの事が他人にバレるのだけは防がなければならない。 血の着いたメダルなんて、見つかったら、あの人が何をしでかすのか分からない。他の人に見つかってもダメだ。 だがまたあの人と会うのは、絶対に嫌だ。 神主が居そうにない、夜に来よう。 でもそれじゃ、僕が本物の賽銭泥棒みたいじゃないか。 ところで今何時だ?…やべ。 僕はアクセルを踏みこみ、急いで会社へ向かった。 何とか始業時間に間に合った。 事務所に入ると、そこには昨日帰ったはずの警察がまだいた。 事故の調査は既に終わっているはずだ。なのにどうして? 「木野、やっと来たか、警察の人から話があるそうだ」 リーダーは眉間に皺を寄せ、明らかに嫌な顔をしていた。 昨日で事故の話は終わったはずだ。 「話?」 「ここからは我々が、木野さん、こちらへ。昨日の事故の件ですが、殺人事件の可能性があります」 「殺人事件!?」 警察の人に連れていかれる。事故じゃなかったのか。嘘だ、信じられない。 もしかしたら、見つめられてる!?いやいやいや、無い無い無い無い、ありえない。 会社の事務所から聴取室に向かう僕の足取りが、心拍数を上昇させる。 「いや、ほんとにおかしな話ですよ、人が死んでいるのに誰も気づかないなんて。あなた達全員、疑わしいんだけどね」 「…ほんとに、すみません。でも何も知らないんです」 「今はそれで済むんですけど。いずれは正直に話してくださいよ。誰かは知ってるのは事実なんでね……失礼します」 警察に続いて、僕も聴取室に入る。そこには昨日は見かけなかった、意外な人物がいた。 「失礼します…って!あなたは!?」 「おや、いかがされました?」 太い黒縁のアイライン、凛々しい顔と透き通った声、見覚えのある肖像画が描かれた服、今朝会ったヤバい神主じゃないか!? 「あの神社に居た!神主さんですよね!?」 「神主?私はこう見えても、刑事ですよ、人違いでは?」 いやいやいやいや、無理があるって。あの歌舞伎役者みたいな顔は、誤魔化せてねぇだろ。忘れられるか、あんな事言っておいて! てか、僕より早く、どうやってこの会社に来たんだ?どうしよう?このままじゃまともに話せそうにない。 平常心を保てるかどうか分からないが、ここは何も知らないフリをしよう。 「すみません、人違いでした。まだ気が動転してるかもしれません」 「いやぁ、人が亡くなっておられますから、そうなるのも無理はないですね」 口癖まで似てる気がする。 「自己紹介が遅れました。刑事の明天《あす》と申します。本日はどうもよろしくお願い致します」 明天と名乗る神主?は頭を下げる。 「あっ僕は木野です。さっきの方から聞いたんですが、殺人の可能性があるとは、一体どういうことでしょうか?」 躊躇わずに、思い切って聞いてみた。 確かに疑われているのは怖いし、辛い。だが聞かれるのは時間の問題だ。 「はい、今回の事故なのですが。現場で働いている職員は誰も気づかず。事故が発覚し、我々が調査を開始したのは、その翌日だった。そして調査の結果、死亡事故と断定されましたが、1つ見落としている点がありました」 「それは?」 「被害者の遺体に複数の殴られた様な痕があったんですよ。それもかなり新しい」 「新しい、殴られた様な痕ですか?」 「えぇ、被害者は破砕機に入る前に打撲を受けた形跡があるんですよ。それはつまり、何者かによって暴力を受けた可能性を示唆しているんです」 「なんと…」 「工場長は、破砕機の投入口で打撲したのでは?と仰ってましたが、あの痕は人間の拳くらいのサイズでしたので、その可能性は低いです」 門宮が何者かに殺された可能性がある。そんなはずない、あれは事故だ。 「信じて貰えないでしょうが、何度も言いますけど、僕は何も知りません」 「では知りたくないですか?」 「はい?」 「この事件の真相を」 「それは…知りたい……ですけど」 「だったら見に行きましょう。あなたの発言を疑っている訳では無いが、何か重要な事を忘れているかもしれません」 正直、現場には行きたくない。辛いからだ。 だが真相というワードが、どこか引っかかっている。確かめずにはいられなかった。 もし門宮を、殺した犯人がいるとすれば、決して許される問題では無い。 「分かりました。同行します」 「いやぁ、どうも」 いやぁ、だ。 僕と明天は例の事故が起こった破砕機の前に来た。 門宮の遺体は回収されたが。破砕機は、まだ血の跡が着いている。 目を逸らしたくなる嫌な光景だった。事実では無いと、思いたい。 「一昨日、あなたはここで通常の仕事を行っていた。そうですね?」 「はい、掃除をしてました」 明天に話した内容をまとめると、 ・門宮が破砕機に巻き込まれる ・職員は誰1人、この事に気付くことなく仕事をしていた ・昨日の朝に門宮の遺体が見つかる こんな感じだ。 そして僕の一昨日の行動は、 ・門宮からメダルを渡される ・2時間残業をして清掃作業をする ・終業後、門宮と適当な話をして家に帰る 以上だ。メダルの話は明天にはしなかったが、それ以外にも不明な点がある。 僕は門宮が亡くなった時間以降で、門宮と会話をしているのだ。 「あなたは帰る前に被害者と話している。これは一体どういうことですか?」 「……分かりません、でも確かに門宮と話したんです!」 僕の声は震えている。 完全に、疑われてしまったのだ。最悪だ。これじゃ僕が犯人じゃないか。あぁ、頭痛が酷くなっていく。 「いやぁ、困りましたね。でもね、現場に入って新しい発見もありました。木野さん、これは見覚えがありますか?」 明天は、飛散した血痕に円形の跡があるところを指さした。その形は、門宮から貰ったメダルと同じくらいのサイズだった。 その円形の部分だけ、切り取られたように、血痕が付着してなかった。 ドクンっ!と動揺で心音が一気に大きくなった。 「い、いっいい、いえ、分かりません!!!!」 あそこは僕がメダルを拾い上げた場所だ。でも血なんて着いてなかった。 ただ床の油汚れが着いていただけだ。 見間違うはずが無い!平穏を装わなければ、メダルの存在を悟られないように。 「まるで何かが落ちていたような形跡があるのですが、困るんですよね、現場の物を勝手に持ち出されるのは、重要な証拠になる可能性もあるんですから」 「ま、まさか、ぼぼ僕が持ち去ったとととでも?」 落ち着け!僕!その発言は致命傷だ! 「落ち着いてください。被害者も見てますよ」 やっぱり、あの時のヤバい神主じゃないか! こんなのおかしい、絶対夢か何かだ! 「あ、あなたは何なんですか!?今朝から、僕をどうするつもりですか!?」 声を荒らげてしまった。 違う、僕じゃない! 「いやぁ、だって、あなた見えてますもん」 「僕には門宮の事は見えてないです!」 忘れたい、こんなの事実じゃない。嘘だ。 「集団における、記憶改ざん、現場の状況と記憶の相違を直視し発生する。そしてあなたにしか見えなかったんですよ」 「何がです!?」 「この顔です」 明天は服の右胸辺りに描かれている、肖像画を見せてきた。 「肖像画とお思いでしょうが、それは違います、これはあなた自身です」 僕?これが? それは、何とも形容し難い形をしていた。肖像画の人物はお面をつけている。それも、沢山の立方体の骨組みが、乱雑に組み合わさった、全体がやんわりとハートの形をしている、ような物だった。 きっと上手く伝わらないだろう。 「肖像画じゃないんですか?」 「はい、これはあなたを写す鏡ですから。あなたを、ずっと見ていたんですよ」その昔、お婆さんは犬を飼っていた。 名前は、なな。 毎朝の散歩はとても楽しく、お婆さんは行くたびに、ななに何度も語りかけていました。「今日はご機嫌じゃのう♪」「雨が降らんくて良かったな♪」「何かおった?あぁ、そりゃカナヘビじゃのう♪」「今日はもう少し歩くかのぉ♪」 孫のいないお婆さんにとって、ななは、家族同然の存在だった。「どしたん?」「何か見つけた?あっち?」「今日は元気ない?」「あぁ、お前の気持ちが理解できればのぉ」 お婆さんは、ななの気持ちを少しでも理解したかった。 だから、いつも問いかけた。 痛い所はない? お腹空いた? 寂しくない? ワン!と吠えるだけ、それとしっぽの振り方で、何を思っているのか、ななの気持ちを考えた。 そんな感じで、5年間毎朝、いつも楽しく散歩へ出かけた。 ところが、ある日。 お婆さんは散歩が終わった後の、ななの様子がおかしいことに気づいた。 ほとんど動けず、息を荒くし、口元から泡を吹いていた。「なな!?ななぁ!!しっかりして!大丈夫!?」 お婆さんは、ななを抱えて大慌てで山を降りましたが、山を降りる途中で、息絶えてしまった。 お婆さんは悲しみのあまり、動かなくなったななを、抱えてその頭を撫でながら、どうして……どうして……と何度も何度も嘆いていた。 すると、お婆さんの隣を大きな散布用の除草剤タンクを背負った業者の人が通りかかった。 除草剤タンクが目に入った瞬間、お婆さんは確信した。 山道は、雑草が多く生えている。 ななは、あの除草剤が撒かれた草むらの中を通ってしまったのだ。 そう気づいたところで、今更遅い、何も考えずに除草剤を撒いた業者も許せなかったが、何よりもそれに気づけなかった自分自身を許せなかった。 後悔だけがお婆さんを飲み込んだ。 あの時、お前の気持ちに気づけていればこんな事には、ならなかったのにな。 大丈夫?痛い所は無い? 毎日の問いに意味は無かった。 だって、ななの気持ちなんて、一生分からないから。 お婆さんは山の中にあるそれなりに大きな木の根元に、ななを埋葬することにした。 何もしてあげられられなくてごめんね。 そう思いながら、何時間もかけて丁寧に埋葬した。 そして木の幹に名前を掘った。 ここがななの墓。 お婆さんが泣き腫らした顔で
門宮の死、それはリーダーの仕業だった。それを知った僕もリーダーに殺されそうになったが、明天《あす》に助けられた。 彼は僕にとっての命の恩人だ。 だが僕が見たのは、賽銭箱を持ち去る、明天の姿だった。 その賽銭箱の中に、僕の求めているメダルが入っている。 明天を追わなければ。あのメダルは僕の真の姿を映すすと、明天は言っていた。 実際、あのメダルに刻印されていた肖像画は、奇妙な面を着けた僕だったのだ。それが僕の姿だった。 メダルだけでは無い。明天が居る神社も、明天の着ている服にある模様も、奇妙な面を付けた僕のことを表していた。 明天の事も何も分かっていない。 明天は一体何者なんだ? 神主?それとも警察?霊媒師?? 『見られている』、この発言は何を表しているんだ? 命の恩人とは言え、不可解な点が多い。 そして、これは現実の出来事なのか? 確かに、明天の言っているのはデタラメのように思えるが、実際に門宮を殺した犯人はリーダーだった。 僕はこの事実を認めたくないと強く思い、僕を含めた工場内の全ての社員の記憶を改ざんした。 そのせいで、門宮の遺体の発見が遅れてしまい、誰にも解けない事件が完成した。 でも本当にそんな事が有り得るのだろうか? それを確かめるためにも、今はそのメダルを見る必要がある。 明天は日が沈みかけた、薄暗い森の闇に紛れて、走っていった。 しかし、どうやって追えば。 そう考えていると、 ちゃっちゃっ♪ と、賽銭箱を揺らしているような音が聞こえてきた。 今も山の中を走っているのか。 そう思った僕は、賽銭箱の音を追いかけることにした。 間違いなくそこにいるはず。 でもどうしてだろう、追っていると言うよりは、誘われているような気がする。 それでも僕は、その音がする方へ生い茂った草木をかき分け進んだ。 どのくらい進んだのだろう。 暗闇の山の中、今自分がどこにいるのかさえ、分からない。 それでも、 ちゃっちゃっ♪ っと音は聞こえてくる。 その音から離れたり、近づいたりしている。 明天は何故、街ではなく、山奥へ逃げるのか? そう思っていると、音が止んだ。 視界が悪い。 辺りを見回しても明天のいた痕跡など分からない。 しまった。これでは、探しようがない。 ちゃりん♪ 硬貨を落としたような音が
メダル、神社の看板、明天《あす》の服、それらに描かれていた肖像画は、肖像画ではなく鏡だった。 そこには僕自身の姿が写っており、しかも、その姿は僕の方をずっと見ているのだと明天は言った。 「その面《めん》が原因なんです。今回の事件は」 「これが、僕の姿?」 鏡には言葉では形容し難い、不気味な面を着けた僕が写っている。いや、ありえないだろ、大体こんな姿になってたら、朝鏡を見た時点で気づくだろ。 いや、僕は、本当は知っていた。 思い出した。 わざと忘れていた、昨日の記憶を。 昨日、僕は門宮と一緒に、破砕機のメンテナンスの作業をしていた。 僕は工具を取りに、一旦離れた。 そして必要な工具を持って戻ってくると、そこにはリーダーに殴られている門宮がいた。 僕は怖くなり、その様子をただ見ていた。動けなかったのだ。 門宮は声を上げることなく、動かなくなり、破砕機の投入口に身体を無理やり突っ込まれた。 そしてリーダーは、なんの躊躇いもなく、破砕機のスイッチを入れたのだ。 ぐちゃぐちゃ、ベギィ!ゴギッ!ちゃりん。 肉と骨が碎ける音が響いて、機械は停止した。 落ちたメダルの音に反応して、リーダーは振り返った。 「あ…………」 僕はリーダーに見つかっていた。 呼吸は荒く、血走った目で僕を見つめている。 そして焦りながら僕の方へ、迫ってくるリーダーに対して、僕はこの事実を忘れたい。そう強く強く思った。 そしてこの事実を忘れる事にした。 リーダーも僕も、工場のみんなも、忘れた。 事故は起きていない。そう記憶は改ざんされたのだ。 僕は、嫌な現実を直視して、忘れたいと強く願うと、僕自身の記憶を含めた周囲の人間の記憶を改ざんできる。 願うたびに、そのことを思い出すんだ。 そしてこの時、改ざんした、全ての記憶を思い出す。 そして今、明天の言葉で、僕はこの事を思い出した。 だが、今回は記憶の改ざんは起きなかった。何故だ? 「それは、真実に気づいたからですよ」 「くっ!」 僕は逃げるように走り出した。 忘れたい!忘れたい!忘れたい! 違う、これは真実じゃない!ありえないだろ!僕が記憶を改ざんしたなんて!デタラメだ!そんな事、あるわけが無い! 僕は工場の普段は使われない古
工場内は常に騒音が鳴り響いていて、うるさい。 だがその日はやけに静かだった。いや、今はいつも以上に騒がしいはずだ。重大災害の発生、それに伴い慌てふためく職場の人。それでも僕は静かに感じたのだ。 救急隊の人が破砕機に挟まった人の救助を試みているようだが、半身が潰されているであろう人を、一体どうやって救うのか。 僕にはそんな事を気にする余裕などない。 周りの音もきこえないほどに、思考を巡らせる。 「誰だ!昨日ここで作業していたのは!答えろ木野!」 何があったのか問い詰められているが、僕は俯いたまま目を瞑った。 落ち着け、これはきっと現実じゃない。昨日の事を思い出すどころか、現実否定を始めていた。 それでも、目を開けたところで何も変わらない。 乾いた血が付着したメダルが真紅に輝いて見える、まるでそれが現実を突きつけてくるように感じた。 あの時付着したのは、油汚れじゃなくて血だったのか。 そんな訳ないだろ、誰も怪我なんかしてない、血なんか一滴も流してない。 「木野!」 「…だから!そのっ!」 「よしましょう。今この精神状態で話し合った所で何も理解できません。今し方警察の方も到着しました。今の我々に必要なのは冷静になる事です」 「人が死んだのに落ち着けってか!」 悲惨な現状を直視すれば、精神的におかしくなる。 僕たちは事務所に戻って、後のことは警察に任せた。 今日の仕事は無くなった。 でも微塵も嬉しくない。 人が死んだのだ。 それもごく身近な人が。 後に警察の調べで、遺体の制服から推測すると死亡したのは門宮と断定された。 遺体の一部(上半身)が著しく損傷しており。死因は見ての通りだった。 今もこれは事故死として捜査が進んでいる。 僕も警察の人に色々な事を聞かれたが、何一つ証拠にならなかった。 僕だけじゃない、この件については職場の誰もが何も知らなかった。 1つ僕たちの発言と矛盾しているのは死亡推定時刻だ。それは昨日の14時31分。僕たちはその時間、通常通りの作業をしていたのだ。 こんな大きな事故があったにもかかわらず、誰も気づかなかったのだ。 僕も警察にその事を言われたが、絶対に違う。その時間、彼は僕にメダルを渡していたはずだ。 それ以外、何も起きていない
忘れたい。誰しもが1度は願った事があるだろう。それがもし叶うことができたなら、この先どれだけの痛みや後悔を無くすことが出来るだろうか? 逃げたい。 今、僕は人生において、重要な選択の場面だ。 目の前の景色にただ唖然と立ち尽くしている。 現状、何も考えれる余裕などなく、今はただ逃げたい。 逃げた先に後悔しかないと分かっていても逃げたかった。僕が悩んでいるのは、それは。「これじゃ…僕が……」 この事故はどうして起こった? 全部、僕のせいだ。 ちゃりん♪ メダルが落ちる音を聞いて、ふと、我に返った。 何か考え事をしていたような気がするが、上手く思い出せない。清掃作業は退屈すぎて、よく考え事をするのだが、つい意識が遠のく時がある。 メダルが落ちる音、この音はここの職場では違和感があった。落ちているメダルを見ながら何故?と考える間もなく、声が聞こえた。「ハズレか……またサボりですか〜木野先輩?」「…門宮」 ぼーっとしているところを、後輩に見られた挙句、よく分からないメダルを投げつけられたようだ。サボりと指摘してくるところが生意気を超えて、失礼であるが、僕は気にしない。こんな態度にも、もう慣れた。 僕は入社5年目で、門宮は入社1年とちょっとの、ほぼ新社会人だ。 この職場は、プラスチック容器のリサイクル工場であり、僕らの仕事は破砕機や溶融機などの機械オペレーターだ。 機械が止まっている暇な時はメンテナンスと清掃をしている。 門宮は僕の隣に落としたメダルを拾い上げ、僕に見せてきた。「いいっしょコレ〜」「いい物なら職場に持ってこない方がいいだろ。汚れるし」「別にいいですよ、これ先輩にあげる予定なので」「だから汚れてもいいってのか!おい!」 さすがに突っ込んでしまった。舐められすぎだろ僕。慣れてないわ、やっぱり。「まぁ何でもいい。所でそれ何のメダル?」「これは旅行の記念メダルですよ」 見てみると百円玉と同じような色と絵柄で、五百円玉くらいの大きさのメダルだった。「ふーん。どっか行ってきたの?」「はい!実は―――」 はい、始まりました。門宮の俺の彼女めっちゃ可愛いでしょ話、旅行編。 門宮は饒舌に旅行での内容を話始める。何とか島に行ったとか、美味い飯を一緒に食べたとか。これを話し出すと止まらないのである。まぁ一応聞