เข้าสู่ระบบその昔、お婆さんは犬を飼っていた。
名前は、なな。 毎朝の散歩はとても楽しく、お婆さんは行くたびに、ななに何度も語りかけていました。 「今日はご機嫌じゃのう♪」 「雨が降らんくて良かったな♪」 「何かおった?あぁ、そりゃカナヘビじゃのう♪」 「今日はもう少し歩くかのぉ♪」 孫のいないお婆さんにとって、ななは、家族同然の存在だった。 「どしたん?」 「何か見つけた?あっち?」 「今日は元気ない?」 「あぁ、お前の気持ちが理解できればのぉ」 お婆さんは、ななの気持ちを少しでも理解したかった。 だから、いつも問いかけた。 痛い所はない? お腹空いた? 寂しくない? ワン!と吠えるだけ、それとしっぽの振り方で、何を思っているのか、ななの気持ちを考えた。 そんな感じで、5年間毎朝、いつも楽しく散歩へ出かけた。 ところが、ある日。 お婆さんは散歩が終わった後の、ななの様子がおかしいことに気づいた。 ほとんど動けず、息を荒くし、口元から泡を吹いていた。 「なな!?ななぁ!!しっかりして!大丈夫!?」 お婆さんは、ななを抱えて大慌てで山を降りましたが、山を降りる途中で、息絶えてしまった。 お婆さんは悲しみのあまり、動かなくなったななを、抱えてその頭を撫でながら、どうして……どうして……と何度も何度も嘆いていた。 すると、お婆さんの隣を大きな散布用の除草剤タンクを背負った業者の人が通りかかった。 除草剤タンクが目に入った瞬間、お婆さんは確信した。 山道は、雑草が多く生えている。 ななは、あの除草剤が撒かれた草むらの中を通ってしまったのだ。 そう気づいたところで、今更遅い、何も考えずに除草剤を撒いた業者も許せなかったが、何よりもそれに気づけなかった自分自身を許せなかった。 後悔だけがお婆さんを飲み込んだ。 あの時、お前の気持ちに気づけていればこんな事には、ならなかったのにな。 大丈夫?痛い所は無い? 毎日の問いに意味は無かった。 だって、ななの気持ちなんて、一生分からないから。 お婆さんは山の中にあるそれなりに大きな木の根元に、ななを埋葬することにした。 何もしてあげられられなくてごめんね。 そう思いながら、何時間もかけて丁寧に埋葬した。 そして木の幹に名前を掘った。 ここがななの墓。 お婆さんが泣き腫らした顔で手を合わせる。 なな、疲れたでしょ?安らかに眠ってね。 後悔は無かった……後悔は無かった……後悔は…………いや後悔しかなかった。 どうして!? お婆さんの中でこの事実は信じたくなかった。 信じない信じない!ななはまだ死んでない! 埋葬したななを掘り返そうとした。 その時、お婆さんの記憶は自分自身を守るように改ざんされた。 ななはこの山で行方不明になったと。 いつの間にか、お婆さんの真実を僕は本人から聞いていた。 ななの墓の前に来た瞬間、お婆さんは自分から語り始めていた。 僕はただ黙って聞いていた。 お婆さんの面は完全に無くなっていた。 全て思い出したようだ。 ななは、既に亡くなっていて、その原因は、除草剤が散布された草むらを通ったことによる中毒死だった。 「何で、今まで忘れておったんじゃ……」 これが、面が無くなった瞬間なのか。 僕も同じように真実を知った瞬間、絶望していた。 だからこそ、かける言葉が見つからない。 「……」 ダメだ。きっと何を言っても真実を受け止めるには時間がかかる。 例え受け入れられなくても、苦しいけど時間をかけて、真実を直視し続けなければ、実感できないだろう。 お婆さんは、ななが死んだのは自分のせいだと、ななの墓の前でうずくまっている。 何度も謝りながら。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」 あれ?だとしたらおかしな点がある。 僕が見た犬は、ななじゃなかったのか? 野犬?いや、だったら首輪をしているのはおかしいし、あの犬は人に慣れた様子だった。野犬ではないだろう。 あれ?それじゃあ、お婆さんが探していた、ななはまだ生きてる? いや、生きてるはずがないんだ。だって、ななはお婆さんの目の前で亡くなった……はず…なのに、どうして? ななの墓の影に、一匹の犬が見える。 首輪にメダル、僕が追いかけていた犬、ななだ。 お座りをして、墓の影からこっちをじっと見つめている。いや、僕ではなくお婆さんの方を見ていた。 「お婆さん、なながいますよ」 「話したはずじゃ、ななは死んだと、ななは……なな!?」 徐々に顔を上げていったお婆さんは、墓の影に居る、ななに気づいた。 「あぁっ!?」 驚いたのかお婆さんは、しりもちついてその場から後ずさりした。 「ま、まさか!?ありえん!ななはワシの目の前で動かなくなったはずじゃ!」 何が起きてる? もし、お婆さんの話が本当なら、あそこにいる、ななは、幽霊犬だとでも言うのか? いや、そんなはずは無い。僕は毎日会社に行く途中、この山道でななとすれ違っていた。 「なな……きっとワシを恨んでおるんじゃな」 「え?」 「ワシは、ななを見殺しにした。あの時何も出来なかったワシに、強い恨みを抱いておる」 「そんな……」 恨んでる? 僕はななを見つめてみた。ななは純粋な目で首を傾げている。 唸ったり、吠えたり、怒っている様子はまるでない。 そもそも、自分が毒で死んだことに気づいているのだろうか?気づくわけが無い。 そうだ、恨んでいるわけが無い。 「ななはあなたの事を恨んではいないと思います」 「あんたに何が分かる!?」 ななは、お婆さんに恨んでここに来たんじゃない。 「ただ、あなたに会いに来た。それだけですよ」 「なんでそう思うの?」 「僕はこの山に、真実と向き合うために来ました。ななの首についているメダルを見れば、何が起きたのか分かるんです。それでずっと、ななを追ってきました」 「は?」 「僕は認めたくない真実を否定し、心の中に閉じ込めて、忘れようとした。だがそれは無理だった。真実はどれだけ目を逸らしても、逃れられない。だから僕は真実と向き合うことにしたんです、それがどんなに残酷だったとしても」 「ワシに、この真実を受け止めろと言うのか?」 「そうです」 「…だとしても、なながワシの事を恨んでなかったとしても、ワシは……ワシの犯した過ちを決して許すことは出来ん。あそこにいる、ななに触れる資格さえ無いんじゃ」 過ちが後悔となり、お婆さんを絶望させる。 どうすれば、お婆さんの心に救いをもたらすことができるだろうか? 目の前には、今もななが行儀よくお座りして、じっとこちらを見つめている。 ななは、ただお婆さんを待っているんじゃないか? ただお婆さんに会いたくてここにいるんだ。 自分が死んだとしてもお婆さんに会いたかったんだ。それなら。 「そんな事は無いです。ななは、お婆さんに会いたかっただけなんですよ。それでも自分の行為が許せないのなら、今は一緒にいれなかった時の分まで、可愛がってあげてください。それが、ななへの報いになります」 「……」 「ななも、きっとそれを望んでいます!お婆さん、あなたはずっと、ななの事を思ってきたじゃないですか!今ならきっとあなたの思いは届きますよ」 「ななぁ!!」 お婆さんは、ななに駆け寄っていった。 不確かな事も多い。 それでも、ななは、ななだ。 お婆さんが、真実と向き合い、目の前にいる、なな(幽霊かもしれないけど)と一緒にいた時と同じように撫でてあげれば、お婆さんはこの先きっと、ななの分まで生きていける。 そう思った。だから、僕はお婆さんを後押ししたんだ。 ななは、お婆さんの事が大好きだ。 お婆さんも、ななのことが大好きだ。 離れていても、心は1つだ。 そんな、僕の甘い考えは、次の場面でぐちゃぐちゃにかき消された。 お婆さんは、ななに抱きつくように両手を広げ、近づいた。 ちゃりん♪ すると座っていた、ななもお婆さんに近寄り、その純粋な目のまま、口の中に隠していた凶悪な牙を覗かせ、口を開く。瞬間。 ガブッ!! っとお婆さんに襲いかかってきた。 首元を噛み付かれたお婆さんは、堪らず後ろに倒れ込んだ。 「お婆さん!」 僕は飛び跳ねるようにお婆さんに駆け寄った。 そんな!どうして!? ななは、お婆さんを恨んでるはずは無い! 「ぎゃああああ!」 「離れろ!」 僕は、お婆さんからななを振りほどこうとしたが、ななは狂犬のようにお婆さんの首元に齧り付いて離さない。 ななの目は血走り、首元に刺さった牙がグリグリと傷口を広げる、お婆さんの鮮血がどんどん溢れてくる。 「やめろっ!」 その光景に耐えられなかった僕は、思わずななを蹴飛ばした。 逃げていく、ななの事など気にも留めず、お婆さんが無事なのか確かめずにはいられなかった。 お婆さんは、ななに噛まれた首元から血が止まらない。 お婆さんを抱き起こして、何度も呼びかけた。 「お婆さん!お婆さん!しっかりしてください!」 「…これで…………ええん…………じゃ」 「喋らないで!傷口を抑えて!」 僕のせいだ。 僕が勝手に解釈して、抱き締めてなんて、身勝手なこと言うからこうなった! 分かったつもりになっていた。 真実を受け入れれば、全て解決できるって思っていた。 だが、現実は違う。 お婆さんは、ななに噛まれて虫の息だ。 早く助けないと、このままでは死んでしまう。でもこんな傷どうすれば!? 「ありが……とうな」 「お婆さん!」 「あんたの言う通り……じゃった…………ワシも真実を……受け入れる…………だから、あんたも……………………………………真実を……追い………………かけ…………て」 「お婆さん!?お婆さん!」 お婆さんは、ぐったりして倒れ込んで、動かなくなった。 いや嘘だろ。 狂犬に襲われて、お婆さんが……お婆さんが死んだ? 最初からおかしかったんだ、死んだはずの、ななが僕の前に現れて、お婆さんの元へまるで誘われるかのように向かってしまった。 僕はメダルを、真実を追いかけただけなのに。 どうしてこんなことに…。 ちゃりん♪ その時、後ろからメダルが落ちる音が聞こえた。 なながやって来た。 そう思って後ろを振り返った僕は、そのあり得ない光景に、固まってしまった。 「なんで…で、電車!?」 そんな!山の中だぞ! どこから来たのか、はたまたどうやって来たのか。 線路も何も施されていない山奥に、1両の電車が突然現れたのだ。 地方を走るローカル線の電車だ。車に乗り始めてからは乗ることは無くなった。 幾ら目をこすっても間違いなく、僕の目の前には電車が、停まっている。 これは現実なのか疑った方がいいレベルだ。どう考えても夢だ、それか幻覚を見ているんだ。 僕がそうやって疑っていると、電車の窓に明天《あす》の姿が見えた。 明天はメダルを、指で弾いて空中で回転させながら、こちらを凝視している。 明天の手元など見えないはずなのに、そのメダルには鮮血が付着しているように、見えた。 賽銭箱に落として、ななの首輪に付いていた、血塗られたメダルが。 「まだ、見られてますね」 電車の中で明天がそう、言っているように聞こえた。 明天、僕はお前に聞きたいことが山程ある。その昔、お婆さんは犬を飼っていた。 名前は、なな。 毎朝の散歩はとても楽しく、お婆さんは行くたびに、ななに何度も語りかけていました。「今日はご機嫌じゃのう♪」「雨が降らんくて良かったな♪」「何かおった?あぁ、そりゃカナヘビじゃのう♪」「今日はもう少し歩くかのぉ♪」 孫のいないお婆さんにとって、ななは、家族同然の存在だった。「どしたん?」「何か見つけた?あっち?」「今日は元気ない?」「あぁ、お前の気持ちが理解できればのぉ」 お婆さんは、ななの気持ちを少しでも理解したかった。 だから、いつも問いかけた。 痛い所はない? お腹空いた? 寂しくない? ワン!と吠えるだけ、それとしっぽの振り方で、何を思っているのか、ななの気持ちを考えた。 そんな感じで、5年間毎朝、いつも楽しく散歩へ出かけた。 ところが、ある日。 お婆さんは散歩が終わった後の、ななの様子がおかしいことに気づいた。 ほとんど動けず、息を荒くし、口元から泡を吹いていた。「なな!?ななぁ!!しっかりして!大丈夫!?」 お婆さんは、ななを抱えて大慌てで山を降りましたが、山を降りる途中で、息絶えてしまった。 お婆さんは悲しみのあまり、動かなくなったななを、抱えてその頭を撫でながら、どうして……どうして……と何度も何度も嘆いていた。 すると、お婆さんの隣を大きな散布用の除草剤タンクを背負った業者の人が通りかかった。 除草剤タンクが目に入った瞬間、お婆さんは確信した。 山道は、雑草が多く生えている。 ななは、あの除草剤が撒かれた草むらの中を通ってしまったのだ。 そう気づいたところで、今更遅い、何も考えずに除草剤を撒いた業者も許せなかったが、何よりもそれに気づけなかった自分自身を許せなかった。 後悔だけがお婆さんを飲み込んだ。 あの時、お前の気持ちに気づけていればこんな事には、ならなかったのにな。 大丈夫?痛い所は無い? 毎日の問いに意味は無かった。 だって、ななの気持ちなんて、一生分からないから。 お婆さんは山の中にあるそれなりに大きな木の根元に、ななを埋葬することにした。 何もしてあげられられなくてごめんね。 そう思いながら、何時間もかけて丁寧に埋葬した。 そして木の幹に名前を掘った。 ここがななの墓。 お婆さんが泣き腫らした顔で
門宮の死、それはリーダーの仕業だった。それを知った僕もリーダーに殺されそうになったが、明天《あす》に助けられた。 彼は僕にとっての命の恩人だ。 だが僕が見たのは、賽銭箱を持ち去る、明天の姿だった。 その賽銭箱の中に、僕の求めているメダルが入っている。 明天を追わなければ。あのメダルは僕の真の姿を映すすと、明天は言っていた。 実際、あのメダルに刻印されていた肖像画は、奇妙な面を着けた僕だったのだ。それが僕の姿だった。 メダルだけでは無い。明天が居る神社も、明天の着ている服にある模様も、奇妙な面を付けた僕のことを表していた。 明天の事も何も分かっていない。 明天は一体何者なんだ? 神主?それとも警察?霊媒師?? 『見られている』、この発言は何を表しているんだ? 命の恩人とは言え、不可解な点が多い。 そして、これは現実の出来事なのか? 確かに、明天の言っているのはデタラメのように思えるが、実際に門宮を殺した犯人はリーダーだった。 僕はこの事実を認めたくないと強く思い、僕を含めた工場内の全ての社員の記憶を改ざんした。 そのせいで、門宮の遺体の発見が遅れてしまい、誰にも解けない事件が完成した。 でも本当にそんな事が有り得るのだろうか? それを確かめるためにも、今はそのメダルを見る必要がある。 明天は日が沈みかけた、薄暗い森の闇に紛れて、走っていった。 しかし、どうやって追えば。 そう考えていると、 ちゃっちゃっ♪ と、賽銭箱を揺らしているような音が聞こえてきた。 今も山の中を走っているのか。 そう思った僕は、賽銭箱の音を追いかけることにした。 間違いなくそこにいるはず。 でもどうしてだろう、追っていると言うよりは、誘われているような気がする。 それでも僕は、その音がする方へ生い茂った草木をかき分け進んだ。 どのくらい進んだのだろう。 暗闇の山の中、今自分がどこにいるのかさえ、分からない。 それでも、 ちゃっちゃっ♪ っと音は聞こえてくる。 その音から離れたり、近づいたりしている。 明天は何故、街ではなく、山奥へ逃げるのか? そう思っていると、音が止んだ。 視界が悪い。 辺りを見回しても明天のいた痕跡など分からない。 しまった。これでは、探しようがない。 ちゃりん♪ 硬貨を落としたような音が
メダル、神社の看板、明天《あす》の服、それらに描かれていた肖像画は、肖像画ではなく鏡だった。 そこには僕自身の姿が写っており、しかも、その姿は僕の方をずっと見ているのだと明天は言った。 「その面《めん》が原因なんです。今回の事件は」 「これが、僕の姿?」 鏡には言葉では形容し難い、不気味な面を着けた僕が写っている。いや、ありえないだろ、大体こんな姿になってたら、朝鏡を見た時点で気づくだろ。 いや、僕は、本当は知っていた。 思い出した。 わざと忘れていた、昨日の記憶を。 昨日、僕は門宮と一緒に、破砕機のメンテナンスの作業をしていた。 僕は工具を取りに、一旦離れた。 そして必要な工具を持って戻ってくると、そこにはリーダーに殴られている門宮がいた。 僕は怖くなり、その様子をただ見ていた。動けなかったのだ。 門宮は声を上げることなく、動かなくなり、破砕機の投入口に身体を無理やり突っ込まれた。 そしてリーダーは、なんの躊躇いもなく、破砕機のスイッチを入れたのだ。 ぐちゃぐちゃ、ベギィ!ゴギッ!ちゃりん。 肉と骨が碎ける音が響いて、機械は停止した。 落ちたメダルの音に反応して、リーダーは振り返った。 「あ…………」 僕はリーダーに見つかっていた。 呼吸は荒く、血走った目で僕を見つめている。 そして焦りながら僕の方へ、迫ってくるリーダーに対して、僕はこの事実を忘れたい。そう強く強く思った。 そしてこの事実を忘れる事にした。 リーダーも僕も、工場のみんなも、忘れた。 事故は起きていない。そう記憶は改ざんされたのだ。 僕は、嫌な現実を直視して、忘れたいと強く願うと、僕自身の記憶を含めた周囲の人間の記憶を改ざんできる。 願うたびに、そのことを思い出すんだ。 そしてこの時、改ざんした、全ての記憶を思い出す。 そして今、明天の言葉で、僕はこの事を思い出した。 だが、今回は記憶の改ざんは起きなかった。何故だ? 「それは、真実に気づいたからですよ」 「くっ!」 僕は逃げるように走り出した。 忘れたい!忘れたい!忘れたい! 違う、これは真実じゃない!ありえないだろ!僕が記憶を改ざんしたなんて!デタラメだ!そんな事、あるわけが無い! 僕は工場の普段は使われない古
工場内は常に騒音が鳴り響いていて、うるさい。 だがその日はやけに静かだった。いや、今はいつも以上に騒がしいはずだ。重大災害の発生、それに伴い慌てふためく職場の人。それでも僕は静かに感じたのだ。 救急隊の人が破砕機に挟まった人の救助を試みているようだが、半身が潰されているであろう人を、一体どうやって救うのか。 僕にはそんな事を気にする余裕などない。 周りの音もきこえないほどに、思考を巡らせる。 「誰だ!昨日ここで作業していたのは!答えろ木野!」 何があったのか問い詰められているが、僕は俯いたまま目を瞑った。 落ち着け、これはきっと現実じゃない。昨日の事を思い出すどころか、現実否定を始めていた。 それでも、目を開けたところで何も変わらない。 乾いた血が付着したメダルが真紅に輝いて見える、まるでそれが現実を突きつけてくるように感じた。 あの時付着したのは、油汚れじゃなくて血だったのか。 そんな訳ないだろ、誰も怪我なんかしてない、血なんか一滴も流してない。 「木野!」 「…だから!そのっ!」 「よしましょう。今この精神状態で話し合った所で何も理解できません。今し方警察の方も到着しました。今の我々に必要なのは冷静になる事です」 「人が死んだのに落ち着けってか!」 悲惨な現状を直視すれば、精神的におかしくなる。 僕たちは事務所に戻って、後のことは警察に任せた。 今日の仕事は無くなった。 でも微塵も嬉しくない。 人が死んだのだ。 それもごく身近な人が。 後に警察の調べで、遺体の制服から推測すると死亡したのは門宮と断定された。 遺体の一部(上半身)が著しく損傷しており。死因は見ての通りだった。 今もこれは事故死として捜査が進んでいる。 僕も警察の人に色々な事を聞かれたが、何一つ証拠にならなかった。 僕だけじゃない、この件については職場の誰もが何も知らなかった。 1つ僕たちの発言と矛盾しているのは死亡推定時刻だ。それは昨日の14時31分。僕たちはその時間、通常通りの作業をしていたのだ。 こんな大きな事故があったにもかかわらず、誰も気づかなかったのだ。 僕も警察にその事を言われたが、絶対に違う。その時間、彼は僕にメダルを渡していたはずだ。 それ以外、何も起きていない
忘れたい。誰しもが1度は願った事があるだろう。それがもし叶うことができたなら、この先どれだけの痛みや後悔を無くすことが出来るだろうか? 逃げたい。 今、僕は人生において、重要な選択の場面だ。 目の前の景色にただ唖然と立ち尽くしている。 現状、何も考えれる余裕などなく、今はただ逃げたい。 逃げた先に後悔しかないと分かっていても逃げたかった。僕が悩んでいるのは、それは。「これじゃ…僕が……」 この事故はどうして起こった? 全部、僕のせいだ。 ちゃりん♪ メダルが落ちる音を聞いて、ふと、我に返った。 何か考え事をしていたような気がするが、上手く思い出せない。清掃作業は退屈すぎて、よく考え事をするのだが、つい意識が遠のく時がある。 メダルが落ちる音、この音はここの職場では違和感があった。落ちているメダルを見ながら何故?と考える間もなく、声が聞こえた。「ハズレか……またサボりですか〜木野先輩?」「…門宮」 ぼーっとしているところを、後輩に見られた挙句、よく分からないメダルを投げつけられたようだ。サボりと指摘してくるところが生意気を超えて、失礼であるが、僕は気にしない。こんな態度にも、もう慣れた。 僕は入社5年目で、門宮は入社1年とちょっとの、ほぼ新社会人だ。 この職場は、プラスチック容器のリサイクル工場であり、僕らの仕事は破砕機や溶融機などの機械オペレーターだ。 機械が止まっている暇な時はメンテナンスと清掃をしている。 門宮は僕の隣に落としたメダルを拾い上げ、僕に見せてきた。「いいっしょコレ〜」「いい物なら職場に持ってこない方がいいだろ。汚れるし」「別にいいですよ、これ先輩にあげる予定なので」「だから汚れてもいいってのか!おい!」 さすがに突っ込んでしまった。舐められすぎだろ僕。慣れてないわ、やっぱり。「まぁ何でもいい。所でそれ何のメダル?」「これは旅行の記念メダルですよ」 見てみると百円玉と同じような色と絵柄で、五百円玉くらいの大きさのメダルだった。「ふーん。どっか行ってきたの?」「はい!実は―――」 はい、始まりました。門宮の俺の彼女めっちゃ可愛いでしょ話、旅行編。 門宮は饒舌に旅行での内容を話始める。何とか島に行ったとか、美味い飯を一緒に食べたとか。これを話し出すと止まらないのである。まぁ一応聞