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第9話

作者: ロジック
それ以来、安弘は毎日やって来た。

何も言わず、ただ隅の席に座るだけ。

いちばん安いアメリカーノを一杯頼んで、午後ずっとそこに座っている。

私は彩香に彼を追い払わせようとした。

「お客様、何もご注文なさらないのでしたら、ご退店ください」

安弘はカップを掲げた。「ちゃんと払ってますよ」

彩香が私を見る。

私は手を振った。「いい、放っておいて」

相手にする気も起きなかった。

彼はそんなふうに毎日来た。

私がお客様に対応するのを見て、ケーキを作るのを見て。

勇樹が店に来るのを見て、私と勇樹が提携の話をするのを見て。

私がどんどんうまく生きていくのを見ていた。

彼を必要としないほどに。

ある日、宅配便が届いた。

開けると、ケーキの箱だった。

中身はストロベリーのナポレオンパイ。

とても心を込めて作られていたけれど、手つきはまだ不慣れなのがわかる。

メモが入っていた。

【これは自分で作ったもの。何度も失敗した。ごめん。君の好きな味を、やっと今になって覚えた】

私は一口食べた。

甘さはちょうどよく、甘ったるくもない。

それでも私は、そのケーキをゴミ箱に捨てた。

夜、店を閉めると、安弘が入口で待っていた。

「美咲!」彼が駆け寄ってくる。

私は入口に塞がれた。「また何か用?」

「今の俺が君にふさわしくないのはわかってる」

彼の声は焦っていた。「でも、俺は本当に変わったんだ。

お菓子作りを覚えたし、『お客様に恥じない』って君の言葉もわかった。

毎日バイトして借金を返してる。もう、これ以上手っ取り早い方法に頼ることはしていない。

俺は君が望んでいたような人間になった」

私は彼を見る。「それで?」

安弘は焦った。「美咲、ずっと待つから。君が許してくれるその日まで」

「死ぬまで待てばいい」

安弘は突然ひざまずいた。「美咲、お願いだ……」

通りすがりの人々が足を止めて見始めた。

スマホを取り出して写真を撮る人もいた。

私は彼を見下ろした。「あなたが愛しているのは、私じゃない。

ただ、かつてあんなにあなたを愛していた人が、もう愛さなくなったことを受け入れられないだけ。

あなたが取り戻したいのは私じゃなくて、『必要とされている』という感覚よ」

私は少し間を置いた。「でも、あなたを必要としていた美咲は、一年前の手術台の上
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