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第4話

Auteur: 鳳小安
すぐ隣のベッドから響く水音が、次第に大きくなっていく。遮るカーテンが揺れるほどの振動がこちらまで伝わってくる。

未玖はもう、我慢の限界だった。震える手を伸ばし、ベッド脇のナースコールを強く押し込んだ。

海斗、そんなに飢えているというなら、見せてあげる。みんなに、あなたのその醜く飢えた姿を。

あなたの被っている「良き夫」という仮面も、今日で終わりよ。

ナースコールが鳴り響いているというのに、隣の二人は何も聞こえていないかのように、激しく求め合い続けている。

やがて、当直の医師が数名の看護師を引き連れて病室へ駆け込んできた。

「瀬戸さん、どうされました!?」

しかし、彼らが真っ先に目にしたのは、カーテンの隙間から覗く、扉際のベッドで絡み合う男女の姿だった。

「きゃあっ!!誰が入っていいって言ったのよ!出てって、出てってってば!」

香奈は悲鳴を上げ、慌てて掛け布団を引き寄せ、露わになった体を隠した。

海斗も狼狽し、その顔色は瞬時に真っ青へと変わる。

「何しに入ってきた!全員出ていけ!さっき見たことは誰にも言うな。さもなければ、全員クビだ!」

あまりの剣幕に、全員が慌てて頭を下げる。

「も、申し訳ございません、瀬戸社長。どなたかがコールを押されたものですから、急変かと思いまして……どうかお怒りにならず、すぐに失礼いたします!」

医師と看護師たちは後退りしながら病室を出ていくが、ひそひそとした囁き声が漏れてくる。

「一体どういうこと?瀬戸社長が他の女と……奥様のことをあんなに愛してるって評判なのに?」

「気持ち悪い。カーテン一枚隔てただけで他の女と寝るなんて。奥様がすぐ横に寝ているのに!」

「でも、奥様は耳が聞こえないから……」

「いや、でも聞いた話だと、実はもう聞こえてるんじゃないかって……」

足音が遠ざかっていく。

カーテンの向こうでは、香奈がすでに服を整えていた。

海斗が彼女を急かし、早く帰るよう促す声がする。

「道中、気をつけて」

「分かってます!ちゃんと私のこと、想っててくださいね!」

香奈が病室を去って、ようやく未玖の目から涙が零れ落ちた。

シャッ、とカーテンが開けられる。海斗だ。

彼女が目覚めているのを見て、彼は慌てて駆け寄り、抱き起こそうとした。

けれど近づいた途端、彼の体から漂う生々しい情事の匂いに、強烈な吐き気を催してしまう。

未玖は彼を乱暴に押しのけ、病室内のトイレへと駆け込み、激しく嘔吐した。

「うっ――」

「どうした?未玖、大丈夫か?頭が痛いのか?医者を呼んでくる」

焦燥を露わにして手話を繰り出す彼の瞳には、確かに心配の色が浮かんでいる。けれど未玖にとっては、ただただ不快で、吐き気がした。

何か言おうと口を開きかけた時、彼のポケットでスマホが震えた。海斗は苛立った様子で電話に出る。

「何だ?」

「社長、早くネットのトレンドを確認してください!」アシスタントの焦った声が響く。

「社長と、あの声優の件が……写真に撮られてネットに上がってます!しかもこの動画のせいで、瀬戸グループの株価が一気に6%も暴落しました!このまま下がり続けたら、まずいことに――」

「何だと?」

海斗がスマホを取り出し、SNSのトレンド欄を開く。

トップに躍り出ていたのは、彼と香奈の、まさにこの病院での写真、そして動画だった。

高画質で、修正など一切ない。あらゆる角度から、二人の痴態が克明に撮影されている。

【瀬戸グループ社長・瀬戸海斗の「愛妻家」の仮面が剥がれ落ち、病院で声優とゲス不倫か!】

【ゲス不倫!瀬戸海斗、美人秘書と病院不倫!】

海斗が事態を飲み込めずに呆然としていると、今度は香奈から着信が入った。彼女は泣きじゃくりながら訴えてくる。

「海斗さん!私、記者たちに囲まれて動けないんです。早く助けて!」

海斗は狼狽し、未玖のことなど構いもせず、病室を飛び出していった。

遠ざかるその背中を見つめながら、未玖は蒼白な顔のまま、口元だけを歪めて笑った。

どうやら海斗は、あの女に本気で心を奪われてしまったらしい。

いいだろう。この茶番劇が、どう幕を閉じるのか――最期まで見届けてやる。

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