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【番外編①】家庭科教師だって、恋をしたい①(八島莉央・談)

last update publish date: 2026-10-21 13:50:21
 運のいい人、悪い人——私は明らかに後者側の人間だ。

 両親には早々に相次いで先立たれ、引き取ってくれる優しい親戚もおらず、そのまま施設育ち。『自分は誰からも必要とされていない』なんて拗ねに拗ねて悪い仲間と遊び歩き、そのまま転落人生まっしぐら。……とは、幸いならなかった。

 私は途中で拾われたのだ、この学校の前理事長に。

 酔っ払った友人同士の喧嘩に巻き込まれ、近所の人の通報でやって来た警察から逃げている時、隠れた裏路地で突然知らない男に声をかけられた。

『あはは!君ってば、テンプレ的な拗ね方をしてるね、これはまた——実に面白い』

 んなセリフが背後から聞こえた瞬間はアイツを病院送りにするまで殴ってやろうかと思ったけれど、太った動物を抱きかかえた青い瞳のオジサマなんかとバッチリ目が合ってしまっては、現実味の無さに呆気に取られ、差し出された手を取る以外に何も出来なかった。

『面白いものを見せてくれたから、今度は私が君に“別の人生”をプレゼントしてあげよう。あぁ、私は妻しか愛せないから、君に恩を売って愛人にしたいとかアホな理由じゃあ無い。だから安心してついて来ていいよ』

 私の人生を面白い
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  • 魔女に呪われた“淫魔”達だけど、愛されたい!   【番外編①】家庭科教師だって、恋をしたい・最終回(八島莉央・談)

    「ひ、酷い…… 可愛い顔して、八島さんがこんなテクニシャンだったなんて…… 」 狭いシングルベットに二人で横になり、うつ伏せ状態の狸小路さんが私の枕に顔を沈めて泣いている。生娘じゃあるまいに、まるで襲われた後のような反応をされ困りつつも、それすら可愛い奴めと思える自分はもう終わってるかもしれない。 しかもテクニシャンって……。いやまぁ、ちょっとお口では色々しちゃいましたけど?でもそんなの、アナタをその気にさせるためだけに最初にちょーっとしたくらいで、後はご自分から色々なさっていましたよね?無理矢理人の口に指を入れて開かせて、達したばかりのモノを舐めさせてきたりとかしたの、そっちじゃないっすか。必死に全身を貪って、『もうキツイ』って言っても朝日が昇るまでいたしたの、そちらですよね? ——と、色々思う所がありつつも、それらは口にしないまま、私は視線だけを窓の方へやった。 遮光効果の無いカーテンの向こうはもう明るくなっており、車などの騒音が微かに聞こえる。御近所さんからは朝食を作る美味しそうな匂いが僅かに漂ってきて、私の鼻腔をくすぐった。「発情期でもない僕をこんなにするなんて!」 被害者感情丸出しの発言は流石に心外だ。「五回も六回も出しちゃってたのに、ソレ言っちゃうのかい?」 事後そのままの状態ないので、すごく眠いわ、全身ベタベタするわ、腹の中は色々な理由で重たいわで、文句を言いたいのはこっちの方だ。だがしかし、こちらが先に仕掛けたので、言われてもまぁ仕方ないかとも思う。「恥ずかしい事言わないで下さいぃぃ」 そう言って、狸小路さんはより一層枕の中へ深く沈んだ。「そんな事言ってぇ、狸小路さんだって、途中からめちゃくちゃノリノリだったのに。雄の顔してて、ビックリしちゃったよ。全部中出しだったし、子ども出来ちゃうかもだね」「子ども……子ども欲しいです!沢山産んでくださいね。僕、ちゃんと面倒見ますよ」 枕から勢いよく顔を上げた狸小路さんは、とても嬉しそうだ。種を残したいという思いは、“化け狸”であろうとも動物的本能として強いのだろうか。 じっと私の顔を見つめてきたかと思うと、ペタンとベッドに座り、私のお腹を嬉しそうな笑みを浮かべながらさすってくる。お互いに全裸のままなのでかなり恥ずかしいのだが、あまりに嬉しそうに撫でてくるので止めづらいし逃げ難い。

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     さっきまで正座をしていて、そのままの状態で倒れたので、ストレッチでもしているみたいに脚が痛い。だが、切羽詰まった瞳で、への字口を震わせ、上から私を覗き込んできている狸小路さんの心境を察すると、『ちょっと避けてもらえますか?脚が痛いんで』と言える感じでは無かった。「裏路地で、先代の理事長であるカミーリャさんに拾われた貴女を初めて見た時から、『いつかこんな可愛い子と番になりたいなぁ』って思ってたんです。で、でも、そんなふうに思ってるなんて人間である貴女になんて言えるはずがなくって『モテそうな姿はダメだよ、此処は学校だからね』ってカミーリャさんから指示があったから、人を寄り付かせないために僕あんなんだったから余計に無理で、そんな僕が可愛い貴女に話しかけなんかしたら嫌われそうで、いつもどうしていいかわからなくって遠くから見てるだけになっちゃって、でも八島さんはよく事務局まで顔を出しに来てくれたりするし、ケーキとかクッキーとか色々なお菓子を差し入れてくれて、バレンタインなんかでもちょっと皆んなよりも大きめなチョコをくれたりとかもしてくれるから、もしかしたらって思ったりもしちゃったけど、絶対にありえないから期待なんかしちゃいけない、ってずっと——」 長々と、そりゃもう色々本心をぶちまけてくれるのは嬉しいが、情報量が多過ぎる。よく一度も噛まずに言えるなと思う程の早口で捲し立てるように言われ、処理が追いつかない。「ま、待って下さい!えっと、つまり……狸小路さんと私は、ずっと前から両想いだったぞって事で合ってますか?」 彼の頰を両手で包み、ゆっくりとした口調で訊く。すると、彼はより一層顔を真っ赤に染め、おずおずとした仕草でこくっと素直に頷いてくれた。(……あぁ……もう、狸小路さんが可愛すぎてマジで辛い) 一生この人だけを推せる。この人以外を好きになるとか、ホントもう無理だわ。こんなイケメンにここまでの顔なんかされてはもう、全面降伏しか選択肢がない気がする。『変な受け答えとかしたらまずいよね』とか『姿形が全然違うけど、心変わりせずに好きでいられるだろうか?』なんて心配は無意味なのだと思わせてくれるくらい、狸小路さんの全身から溢れかえる好意が私の胸を熱くする。そのせいで、こちらの顔まで真っ赤になってしまう。「もっと早く、お互いにアプローチするべきだったみたいですね」

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     額に手を当てて天井を仰ぎ見る。 今の私は、情報の整理が必要な状態だ。 私はそもそも、筋肉質で細身の男性が好みだった。ちょっと着崩した格好のよく似合う、ワルっぽい感じだと更に良い。今まで付き合ってきた人達は皆そんなタイプばかりだったし、一般的にはそちらの方が比較的ウケはいいのではないだろうかとも思う。 そんな自分が、この学校で狸小路さんという内面がイケメンなおデブさんと出逢った事で、『ぽっちゃりも、なんだか素敵じゃね?』『あのお肉達にはもしかして、癒しが詰まっているのでは?』なんてふうに少しずつ思い始め、最終的には狸小路さん以外の力士系男子や重量級の柔道選手などにもトキメクにまで至ったというのに……。 まさか当の御本人の正体は、細マッチョとか。 ——コレはもう詐欺だ。訴えてやる。謝罪が欲しい。 正座をしたまま、天井に顔を向けて黙り込む私に対し不安を感じ始めたのか、狸小路さんがゆっくりと膝立ちになり、そっと私の太腿に手を乗せてきた。「やっぱり……人間じゃない奴なんか、そもそも論外ですよね」 顔は見ずとも、しゅんっと落ち込んでる事が声だけでわかる。「いやいや、違いますよ。ただちょっと……正体はイケメンかよって思っただけです」「——い、イケメンですか?僕!」 額から手を離しながら、前を向く。 目の合った狸小路さんはやっぱりどう見たってちょっと風貌の変わったイケメンだ。垂れ目がちな目は大きくって鼻筋も綺麗だし、“狸”要素は獣耳や尻尾、褐色の肌に柄のような濃淡が少しあるが、基本的な作りとしてはモデルさんレベルだといえる。ちらりと見える筋肉質な体なんて、風貌のせいもあってか、ファンタジー映画とかに出てくる格闘家の役とかがめっちゃ似合いそうで、何でか腹が立った。「何処に出しても恥ずかしくないレベルで、はい」 そう言って私が頷いてみせると、明るい笑顔で「ありがとうございます」と喜んでくれる。(あーもう、やっぱこの人可愛いなぁ) 中身から好きになっているせいか、ハムスターみたいな頬袋が無くっても、彼の笑顔が可愛く思えてしまう。顔についている肉のせいで、笑うと細められてしまった瞳が、実はこんなふうに輝いていたのだと知れた事もちょっと嬉しい。 騙されたぁ!と不貞腐れていた気持ちが少しずつ解けていくのを感じるが、これでいいのかよ私!とも思ってしまう。太っ

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    「……お察しの通り、僕は……狸です。古来から続く化け狸の一族で、土地開発で住処を失い、仕方なく人里で暮らす事になったパターンの一匹です」「お話なんかでもよく聞くやつですね。ガチで存在するとは思ってませんでしたが、居るんですねぇ。流石にビックリですよ」「僕は運良く仕事も手に入り、人里での暮らしにも馴染んでかれこれ十五年くらい経つのですが……今まで一度もあんな失敗しなかったのに……うぅっ!」 せっかく見えていたお顔が、また両手に覆われてしまった。「私がキスなんかしたせいですよね、すみません」「あ、謝らないで下さい!後悔しているなら、別ですが、そうじゃないなら……その……僕的には、嬉しかったんで……」 ゆっくりと顔から手を離し、恥ずかしそうにそう言ってもらえたが、視線は横に逸らされたままだった。「じゃあ、もしかして……私とのお付き合いはOKって感じだったりします?」「そ、そ、それは無理でしょぉぉぉ!田舎狸な僕なんかじゃ、八島先生みたいに素敵な女性と番になんか、とてもじゃないですけど不釣り合いです!」 もげて飛んでしまいそうなくらい、狸小路さんが首を横に振る。 拒否はされたが、この感じだと、好意は持ってもらえている気がするので良しとしよう。 だって、コレはちょっと押せばいけるでしょ。うん、そんな気がする。「私は、かれこれもう十年近く狸小路さんの事を好きで、それとなーく細々とアピールもしてきたりしたんですが、それでもダメですか?」「……や、でも……僕もまぁ……でしたけど、だけど——だし、でも……」 もごもごと何かを言っている感じがあるが、ちょっと上手く聞き取れない。「……ほ、本気で言っていますか?だって——」と言って、狸小路さんが自分の手に視線をやったかと思うと、脚やら腹やらを見渡して「僕、コレですよ⁈」と言い、不信感たっぷりの顔になった。「まぁ、確かにぽっちゃりはしてますけど、それも個性かなぁと。むしろ、今だったら私がもっと育ててあげたい的な?お腹とかもふもふしたいなーとか」「……し、信じられない。人から距離を取ろうとこの姿だったのに……それでも興味を持つ人がいるなんて」 がくりと狸小路さんの体が崩れ、床に手をついてその身を支える。 そこまでショックか?と不思議に思っていると、への字口をしながら急に私の方へ顔を向けてきた。

  • 魔女に呪われた“淫魔”達だけど、愛されたい!   【番外編①】家庭科教師だって、恋をしたい⑥(八島莉央・談)

     そわそわとした面持ちで、狸小路さんが床に敷いた座布団の上で正座をしている。 ワンルームなうえに、ベッドや棚が室内にそこそこ置いてあるせいで、座れる場所など限られているので、失礼ながら私はベッドの上だ。彼はそのすぐ側に、巨体を小さくさせながら座っているのだが、部屋が狭くて居心地が悪そうだ。背中はカーテンにぶつかり、棚とベッドに挟まれていて脚も伸ばせない。一番広いのはベッドの上だが、そんな場所を譲ったとしても、真面目なタイプである狸小路さんは決してそんな場所には座らないだろう。「すみません、ウチ狭くって。次の機会には引っ越しておきますんで……」 申し訳ない気持ちいっぱいに、ベッドの上で私も彼に倣って正座をする。軽く頭を下げて謝罪をすると、狸小路さんはひどく驚いた顔に。「へ?あ、や、わざわざそんな!」 手を横に振って『いやいやいや!君、何言ってんの!』と言いたげに焦られてしまった。コレは告白のお断りに来た、と取るべきか。 あー、やっぱ無理かぁ。でも……諦めたくなんか無いなぁ。実って欲しいなんていうワガママは言わないから、せめて諦められるようになるまでは、想うことだけでも許して欲しいものだ。 諦めの境地が見える気がする。だけど、今までの十年間に対して後悔は無いし、返して欲しいとも思わない。楽しい時間をありがとう、そして出来ればこれからも—— 一人で勝手にそんな事を思っていたのに、狸小路さんが持ち出してきた話題はちょっと予想とは違っていた。「……バッチリ見ちゃいました、よね。その……僕の逃走シーン……」(はい。そりゃもうバッチリしっかりと) だが、はっきりそう言ってしまっていいものか、少し悩ましい。 『見た』と言って、いっそ脅したい気持ちがちょっとはあるが、相手は“化け狸”っぽいので、私がサクッと始末される可能性だって捨て切れない。愛しい人にされるのならばソレもアリかもしれないが、記憶だけ消されては堪ったもんじゃない。(ならば、『見ていない』と答えるか?) 明らかにそれは“嘘”で“不誠実”な気がする。関係性を失いたく無いが故の答えだと、きちんと読み取ってもらえるかも心配だ。 さて、君ならどうする?——と、ゲームの選択肢でも提示されたような気分になってきた。「何も八島さんが嫌いで逃げたんじゃ無いんです……ただ、その、驚いちゃって」 顔を赤く

  • 魔女に呪われた“淫魔”達だけど、愛されたい!   【番外編①】家庭科教師だって、恋をしたい⑤(八島莉央・談)

    「——送信っと」 寝室のベッドに寝転がり、この間ゲットしたものの、一度もメッセージを送れていなかった狸小路さんに、今日作ったケーキの写真を送りつけた。『飾りのスワンは華先生の手作りです。市販品じゃ無いんですよ、ちょっとすごくないですか?』と、コメントも付け加え、敢えての驚く顔をした狸キャラのスタンプをぺんっと送る。 これで無反応でも、未読スルーでも、反応が返ってくるまで毎日送り続けてやろうと心に決めた。なんたってこちとら約十年越しの想いを抱えているのだ。相手が極度に太っていようが好きになれたのだ、実は正体が狸だろうともこの際そんな事はどうでもいい。 当面の問題は、私の事を彼が好きか否かだけだ。 いっそのこと『バラされたくなかったら私と交際しろ!』とでも言ってみる?この先も彼に触れる事が出来るなら、ソレもアリかも、と……拗らせ気味な脳が提案してくるが、そんな考えには流石に蓋をした。 ジッと彼の画面を開いたままでいたら、既読マークが私の送ったコメントの下に入った。その事が嬉しくって、ついスマホを両手で持ち、ベッドの上で正座をしてしまう。「よ、読んでくれたぁ!拒否されてなかったぁぁ!」 壁の薄いアパートだっていうのに、私は喜びのあまり大声で叫んだ。『メッセージを読んでくれた』 その事実だけでまた何年かは、狸小路さん不足のままでも“恋”という強敵と戦える。そんな気さえした。「おっし!気持ちを切り替えて、お風呂入ろう」 ぽいっとスマホをベッドに投げるように置き、着替えを持って風呂場へと行く。風呂に入るとは口にしたが、実際には今日もシャワーを浴びるだけで済ませるつもりだ。ウチの湯船は正方形に近くて、困ったことにすごく狭い。小柄な私ですら体育座りでなければ入る事も出来ない。ビジネスホテルの様にトイレと風呂場が一体になっているタイプでは無いだけマシだと言えなくもないが、狭ければどっちであろうと変わりが無いのだ。 いただいている給料ならもっと広くて新しい部屋へ引っ越す事も出来るのだが、何せ施設育ちの貧乏性なせいか、なかなか引っ越しを決意出来ぬまま、十代の頃から今の今までずっと六畳一間のボロアパート暮らしをしている。ココは勤め先である学校からもかなり近いし、商店街も目と鼻の先だ。やたらにお金のかかる引っ越しを先送りしてしまったまま何年も経っていようが、利便性

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