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第8話

Author: 万相空
美月は咳の音で目を覚ました。ベッドの傍には誰もいない。

しかし確かに咳の音がする。不思議に思って傍らを見ると、そこは三人部屋の病室だった。

そしてその咳は、隣のベッドのおじいさんがしていたものだ。

昨夜の出来事を思い返していると、一人の看護師が入ってきた。

彼女はベッドまで歩み寄り言った。「千葉さん、他にどこか体調の悪い所はありますか?」

美月は首を振った。看護師は安堵の息をついた。

「よかったです。では、退院の際には受付でお会計をお願いしますね」

そう言うと看護師は部屋を出て行った。美月はその言葉に少し呆然とした。

その時、脳裏にシステムの声が響いた。

「覚醒を確認。補足説明です。昨夜、直ちに緊急処置を施さなかった場合、生命の危険があったですよ。

宏樹と言う男は本当にひどいですね。昨夜から彼からの連絡は一切確認されていません。本当に最低の男です!」

美月はそれを聞き、苦々しく口元をゆがめた。今頃、彼はきっと信子の相手をしているのだろう。だって昨日、彼はあれほど慌てていたのだから。

彼女は少し休んでからベッドを下りて、一階の受付に向かった。

人は少なくなかった。彼女は人混みの中で列に並んだ。

突然、後ろからの噂話が耳に入った。

「聞いたか?昨夜、大物が女を連れて入院してきて、VIPフロア全体を貸し切りにしたんだって。その豪勢な様子ったら、凄いね」

「きっとまたどこの社長のお気に入りなんだよ。前回こんな派手なことをしたのは堀江社長と千葉さんだったね」

以前美月が病気になった時、宏樹はまさにこのように病棟の一階全体を閉鎖し、彼女に静養してほしいと言った。

そう思い巡らせていると、次の一言が直接彼女を愕然とさせた。

「ただ君がそう言うと、昨夜の大物は堀江社長に少し似ていたような気がするね」

美月は平静に支払いを済ませ、そして脳裏で尋ねた。「宏樹はどの病室?」

システムは答えた。「推奨しません。記憶上書きの準備は完了しています。確認後、直ちに開始可能です。接触の必要性はありません」

美月は聞く耳を持たず、エレベーター乗り場へ歩いて行った。「ただ彼に別れを告げに行くだけ。何かするつもりはない」

システムが通知した。「609号室です」

美月はエレベーターに入り、6階のボタンを押した。

この階は果たしてあの人の言う通り使用制限されており、階全体でその一室だけが使われていた。

美月は病室の前まで歩き、深く息を吸い、ドアノブに手を伸ばして押し開けた。

目に飛び込んできたのは、信子が宏樹の体の上に座り、肌と肌を触れ合わせ、今にもキスをしようとしている光景だった。

彼女のドアを押す動作は止まった。多少覚悟はしていたが、実際に目にすると、心臓はやはり無意識に痛んだ。

宏樹はドアが開いたのに気づき、幾分怒りを帯びて口を開いた。「中に入るなと言っただろうが――」

入り口に立つ人物を見た時、彼は硬直した。

その後、さっと寄りかかっている信子を押しのけ、乱れた衣服を整え、慌てて美月の方へ歩いてきた。

「美月、説明を聞いてくれ……」

美月は彼の慌てた、偽りのない様子を見て、突然笑ってしまった。ただ笑っているうちに、涙がこぼれ落ちた。

失って初めてその大切さが分かっても、もう遅いのだ。

彼女は脳裏で軽く呟いた。「確認します。記憶の上書きを開始してもよろしいですか?」

システムの機械的な声が響いた。「上書きを開始しました。予想所要時間3秒」

言葉が終わるやいなや、彼女の目前はゆっくりと白い光に覆われ、次第に混沌とし、ぼやけ、意識を失った。

美月が最後に見た光景は、宏樹が自分に向かって走って来る、恐怖で歪んだ表情だった。

彼の両手は無力に伸ばしたが、ただ虚空を掴んだだけだった。

「美月!」男の声は心が引き裂けるようだった。

彼女の目前は真っ白になり、脳裏に冷たい機械音が響いた。「上書き完了しました」

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