|全 思風《チュアン スーファン》は自らの鼻を疑った。
彼は死者と生者、そのどちらもを嗅ぎわける能力に自信を持っている。それは間違えるはずがないという絶対的な自信であった。
──私は|冥界《めいかい》の王だ。その私を|騙《だま》せる者など、そうそういないはず。その私をここまでコケにした奴、か。会ってみたいものだ。
そして殺してしまいたい。そう願った。背景にあるものが何にせよ、大切な子を奪われたのである。|冥界《めいかい》やこことは違う世界のことよりも、それが一番許せなかった。
「……|爛 春犂《ばく しゅんれい》、もしもあんたの言う通りなら、私たちは何を相手にしている? そして、何に馬鹿にされた?」
死者を|統《す》べる王としての怒りは凄まじく、周囲に|強烈《きょうれつ》な突風を|撒《ま》き散らす。
笑う唇の裏にあるのは|静寂《せいじゃく》という名の|怒涛《どとう》。|漆黒《しっこく》を詰めた瞳は|燦々《さんさん》と燃え盛る|焔《ほのお》となった。
|爛 春犂《ばく しゅんれい》は彼の変化に驚きを隠せないのだろう。恐怖とは違う、凍えるまでに|冷淡《れいたん》な表情を見せられグッと拳を握った。額から流れる汗は|妓楼《ぎろう》に集まる人々に対するものではない。|全 思風《チュアン スーファン》という人物への警戒の現れだった。
それでも今だけは頼もしい味方である。唯一正常かつ、目的をともにする者であるのだと、|全 思風《チュアン スーファン》に口を酸っぱくして伝えた。
「……ああ、そうだったね。私たちの目的はそれだった」
|全 思風《チュアン スーファン》の瞳は|徐々《じょじょ》に落ち着きを取り戻していく。ふーと深呼吸をし、|爛 春犂《ばく しゅんれい》を見やった。
|爛 春犂《ばく しゅんれい》は心の底から肩を落としている。
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『──そもそも、あの姿ってのがおかしいんだよね』 映像に映る美しい子供、そして仔虎と|青龍《せいりゅう》と呼ばれる生物を凝視する。 少女は小さな体に似合わない表情をし、うーんと|唸《うな》った。隣にいる|全 思風《チュアン スーファン》と顔を見合わせ、視線を映像へと戻す。『|白虎《びゃっこ》だってそうだ。本来|神獣《しんじゅう》は、強い霊力を持ってる。いくら人間たちの住む世界に来たからって、いつまでも仔猫の姿ではいられないはずだよ。ましてや、霊力の|塊《かたまり》にも等しいあの子の側に常にいるんだ』 常にその強力な霊力を浴び続けているのならば、自然と本来の姿に戻るはず。 それが、|雨桐《ユートン》の体を|媒介《ばいかい》にしている|神獣《しんじゅう》──|麒麟《きりん》──の出した答えだった。「……どちらにしろ、それについては私の関知する事ではない。それに今大事なのは、|小猫《シャオマオ》を助ける事だけだ」 冷めた眼差しで|麒麟《きりん》を見つめる。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》以外は知ったことではない。 そんな|潔《いさぎよ》いまでの徹底ぶりを貫く彼に、少女は苦笑いを送った。タハハとあきれた様子で空を仰ぎ見、両目を閉じる。『……|青龍《せいりゅう》たちの事は気になるから、それは|拙《せつ》が調べてみるよ。王様は、あの子を取り戻す事だけに集中すればいいんじゃない?』 ニヤニヤと、口元からにやけていった。にんまりと、無邪気を通り越した|厭《いや》らしさすらある。|肘《ひじ》で彼の足をつつき「愛だね~」と、からかった。 「そうだね。私は誰よりもあの子を愛している。世界がどうなろうとも、|冥界《めいかい》が|滅《ほろ》びようとも、私はあの子だけを求める」 |麒麟《き
|蒼《あお》い|紐《ひも》のようなものが落ちている。子供はそれを軽くつつき、小首を|傾《かし》げた。 ──何だろう、これ? 触ってみた限り、|紐《ひも》って感じじゃないし。というかこれ……「……もしかして、|鱗《うろこ》?」 |鬼灯《ほおずき》を近づける。 するとそこには|紐《ひも》のように長い体を持つ、|蛇《へび》がいた。ただ、蛇というにはいささか|身体《からだ》の長さが足らず、とても短い。 「へ、|蛇《へび》!?」 うわあっと恐怖に負けた声をあげ、二匹が眠っている場所まで後退りしてしまった。 ふと、仔虎の|牡丹《ボタン》が目をさます。大きくあくびをして牙を見せ、両前肢をうーんと伸ばした。全身をぶるぶると左右にふり、長い尻尾をピンっと立てる。右前肢をペロペロと|嘗《な》めれば、愛らしいつぶらな瞳をぱちくりさせた。 みゃおと、かん高く鳴く。|華 閻李《ホゥア イェンリー》の元へとより、彼の腕に毛を|擦《こす》りつけた。「……ぼ、|牡丹《ボタン》。これ|蛇《へび》、だよね!?」 僕、|蛇《へび》無理だよと大きな瞳に涙を|溜《た》める。 |牡丹《ボタン》はかわいらしい足取りで|蛇《へび》の元へと向かった。じっと見つめ、ちょんちょんと前肢でつつく。 刺激された|蒼《あお》い蛇は、|尾《お》っぽをあたりを上下にタシタシとした。ゆっくりと両眼を開け、細い両眼で子供を凝視している。 子供はうっと言葉を詰まらせた。それでも仔虎が|警戒心《けいかいしん》というものを出さずにいるのを見て、勇気を振り|絞《しぼ》る。 |蛇《へび》の前まで進み、自身も軽くつついてみせた。「…&hell
ピチョン、ピチョンと、雫が|滴《したた》る。どこからもともなく落ちるそれは、|不規則《ふきそく》に音を奏でていた。 ここは光すら通さない場所のようで、昼なのか、夜なのかすらわからない。気温も非常に低く、息を吐いただけでも唇が冷たくなるほどだ。「……っ!」 そんな寒さと静けさだけがある空間に、ひとりの子供が横たわっている。非常に美しい|顏《かんばせ》をした子供だ。一見すると少女のような外見。けれど実際は少年で、|華 閻李《ホゥア イェンリー》という名の子供である。 彼は寒さに震えながら、深く閉じていた両目を開いていった。「……ふみゅう?」 かわいらしい声とともに、ゆっくりと上半身を起こす。小さなあくびとともに小首を|傾《かし》げ、ここはどこだろうと周囲を見回した。 けれど真っ暗に近い状態なため、|夜目《よめ》の利かぬ子供は限界を覚えていく。「……何も見えない。それに僕、どうしたんだっけ? えっと確か……」 なぜ、ここにいるのか。それが疑問でならなかった。 ──確か僕は、黄と|黒《くろ》の会合に参加してなんだよね? そのときに…… あれ? と、両目を大きく見開く。「何があったんだっけ? ……うーん。思い出せないや。それに……何だろう? いつも側に、誰かがいたような?」 顎に人差し指を当てて、じっくり考えてみた。 最後の記憶としてあるのが、会合場である。そこには|黄《き》族の|長《おさ》代理、|黄 沐阳《コウ ムーヤン》が参加していた。それにつき|添
|絶望《ぜつぼう》と怒り、その両方を|兼《か》ね備えた|全 思風《チュアン スーファン》の叫びがその場を走る。|悔《くや》しさでいっぱいな気持ちで、床を何度もたたいた。 |瓦礫《がれき》がガラガラと落ちてこようとも、その身に|纏《まと》う黒き|焔《ほのお》が消し去る。墨と化した|瓦礫《がれき》は灰となって|空《くう》を舞った。 それでも大切なものが目の前から消えた恐怖に負け、彼はさらに|焔《ほのお》を強くする。「……お、おい、あんた……うわっ!」 |無防備《むぼうび》にも、何とか体勢を立て直すことに成功した|黄 沐阳《コウ ムーヤン》が彼の肩に触れた。|瞬刻《しゅんこく》、黒い|焔《ほのお》が|増殖《ぞうしょく》していく。 |瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》と|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》、そして|黄 沐阳《コウ ムーヤン》のさんにんは彼を|警戒《けいかい》した。『……私に触るな。触っていいのは、|小猫《シャオマオ》だけだ』 普段の、|穏《おだ》やかで品のある声ではない。 オオカミ、もしくは|獅子《しし》の遠吠えのような……身の毛もよだつほどの低音が、二重、そして三重にも聞こえた。 そして、さんにんへと振り向く。瞳は闇の|焔《ほのお》によって|赫奕《かくやく》しきっていた。|鮮血《せんけつ》のように|朱《あか》く成り果てた瞳が|捉《とら》えるのは、先ほどまでともに|助力《じょりょく》の限りをつくした者たちである。『あってはならない。このような、ふざけた出来事……あってなるものか』 静かに。 それでいて苛立ちを|纏《まと》う彼の|焔《ほのお》は、よりいっそう強大になっていった。 ゆらりと立ち上がり、己の剣を握る。 美しい見目そのままに両目を閉じた。瞬間、|瓦礫《がれき》を利用して会合場の屋根に登る。やがて足を止め、地上を見やった。 会合場の扉の前には無数の人々が|群《むら》がっている。肌のいたるところに血管が浮かび、両目にいたっては、黒い部分などありはしなかった。両腕を前に伸ばし、ひたすら飛びはねている。 それは彼らが|殭屍《キョンシー》である証だった。 |全 思風《チュアン スーファン》は扉を壊そうとしている|屍《しかばね》たちに、冷めた視線を送る。剣を強く握り、軽めの舌打ちをした。『──|愚《おろ》かだ』 黒き渦で全身を包
ゴーン、ゴーン── 王都の上空に|突如《とつじょ》現れた大きな鳥籠は、鐘の音のようなものを響かせていた。それは非常に大きく、耳の|鼓膜《こまく》を破るかと思われるほどだった。 外に出た誰もが耳を|塞《ふさ》ぎ、いったい何だと|騒《さわ》ぎたてた。 |瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》たちも両耳を|塞《ふさ》ぎながら上空に視線をやっている。 けれど|全 思風《チュアン スーファン》だけは平然とした顔をしていた。銀の髪をした子供の耳に両手を|添《そ》える。 そんな彼の不思議な行動に|華 閻李《ホゥア イェンリー》は小首を|傾《かし》げた。 そのとき、鳥籠に異変が|訪《おとず》れる。鐘の音は静かに消えていった。直後、鳥籠が|朱《あか》みをおびた黒い|焔《ほのお》に包まれていく。その|焔《ほのお》の粉が地上へと降り|注《そぞ》ぎ、人々の体に触れていった。 |瞬刻《しゅんこく》、触れた者たちが突然苦しみだす。そして|焔《ひ》の粉が燃え上がっていった。 |雄叫《おたけ》び、恐怖からくる泣き声など。それらが、そこかしこから聞こえてきた。 やがて人々の肌は|土気色《つちけいろ》になり、両目は血走っていく。「──これはいったい、どういう事だ!?」 真っ先に外へ出て確認したのは|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》だ。|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》、|黄 沐阳《コウ ムーヤン》も後に続く。 彼が会合場の外に顔をだしたときには、何人かが苦しみ|踠《もが》いていた。近よってみれば、腕や首などに血管が浮かび上がっている。「これはまさか!」 誰が口にした言葉か。それを考える余裕すらないほどに、次々と人々の見目が変わっていった。 |瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》は青い|漢服《かんふく》の袖
黄と|黒《くろ》が同盟を結んだ翌日、|全 思風《チュアン スーファン》たちは机の上にある地図を囲んでいた。 地図は|禿《とく》王朝全体を見渡せるものではあったが、いたるところに赤いバツ印がついている。その数たるや、とてもではないが数えていられないほどだ。「|殭屍《キョンシー》が絡んだ事件、こんなにあったんだ」 さらりとした銀の髪を揺らした美しい子供が、地図を眺めて呟く。 右隣には|黄《き》族の代理|長《おさ》、|黄 沐阳《コウ ムーヤン》が立っていた。彼は|頷《うなず》き、|黄《き》族|領土《りょうど》を指差す。「ああ。結構……というか、ありえないぐらいあるよな。ここ一年で、こんなに起きてるなんてさ。俺もビックリしたぜ」「でも、明るみに出てないやつもあるんだよね?」 |尋《たず》ねれば、彼はうんざりした様子で肩を落とした。もう一度地図を見やり、|休憩《きゅうけい》と称して背伸びをする。「……報告が来てないだけで、細かなやつはもっとあると思うぜ? ただ、それら全てを拾ってったら日が暮れちまう」 関係のない情報も入っている可能性すらあるため、わかる範囲での確認となっていた。それでも数えきれないほどに起きている事件だったため、彼らは疲れを見せていく。「|國《くに》中で起きてるって事はわかるけど……それ以外は、何もわからないね。どうしよっか?」 子供の視線は|黄 沐阳《コウ ムーヤン》……ではなく、左側にいる|全 思風《チュアン スーファン》へと|注《そそ》がれていた。 視線を送られた彼は首を左右にふって、ごめんねと子供の髪を指に絡めていく。回答できるほどの情報を持ってはいなかったこともあり、大切な子の期待に|添《そ》えなかったのが|悔《くや》しいと口にした。 情報が足りない状態では|迂闊《うかつ》なことは言えない。それが彼の答えだった。 地図を人差し指の|爪先《つまさき》で軽くたたく。コンコンという音が|響《ひび》くなかで、向かい側にいるふたりを|注視《ちゅうし》した。 己の向かい側には左に|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》、右に|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》が立っている。 そんなふたりは、どちらも比較的整った顔立ちをしてはいた。けれど、お世辞にも親しみやすさを感じるような柔らかさはない。むしろ|厳《いか》つく、気弱な者なら|裸足《はだし
二度目。 これは、|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》が人間たちの戦争へ加入した数だと|云《い》うのか。 当然、名指しされた|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は納得できるはずもなく、子供の元へ靴音を響かせながら向かった。しかし|全 思風《チュアン スーファン》が子を守るように前に出て男を睨む。「……少女よ、どういう意味か!?」 彼の後ろから見える|華 閻李《ホゥア イェンリー》の長い髪を目で追いかけた。 怒ってはいるものの、子供を本気で問いつめるつもりはないのだろう。盛大なため息をつき、頼むから教えてくれと弱腰になっていた。「ごめんなさい。言い方がおかしいのかな? ……えっと、あなたが人間の戦争に参加するのが二回目って事じゃないんです」 |全 思風《チュアン スーファン》の後ろから、ひょっこりと顔を出す。 大きな目と、この場にいる誰よりも白い肌。長く、美しい|煌《きら》めく銀の髪や、小柄な体。それら全てが相まって、子供の小動物っぽさを強く印象づけていた。 このような|儚《はかな》い見目の子供に強く出れるはずもなく……|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》はうっと言葉を飲みこんでしまう。|黄 沐阳《コウ ムーヤン》や|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》に目線で助けを求めるが、ふたりは首を左右にふっていた。「ぐっ! ……し、少女よ。つまりは、どういう事だ?」 子供に結婚を申しこんだことも手伝って、どうやら強く出れないよう。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》はうーんと、|顎《あご》に手を当てた。数秒後、|全 思風《チュアン スーファン》を前に|躍《おど》り出て、男と向き合う。「あなたが人間同士の戦争に参加してしまったのは事実。でも、もしも……あなたの前に、違う|仙道《せんどう》が参加してしまっていたら?」 |獅夕趙《シシーチャオ》というふたつ名を持つほどの男が河で行っていたこと。あれは内戦への介入でもあった。 けれどそれよりも前に、すでに誰かが介入していたのなら話は変わってきてしまう。この男が人間たちと仙人の条約を破ったのは事実ではあるが、それでも火種ではない。そういうことになるのではと、子供は|唸《うな》りながら伝えた。「た、確かに、俺よりも前に仙人の誰かが介入していたらそうかも知れぬが……」 もちろんそれで|京杭《けいこう》大運河で起こしたこと、|杭西《こ
|黄《き》と|黒《こく》族の会合場に、予想もしなかった人物が現れた。 それは|黄《き》族に|潜入《せんにゅう》していた男、|爛 春犂《ばく しゅんれい》である。しかし彼の正体は|黄《き》族ではなかった。|禿《とく》王朝の前皇帝、|魏 曹丕《ウェイ ソウヒ》の|命《めい》で動いていたのだ。 その証拠として|黄《き》族用のものではなく、薄い青色を主体とした|漢服《かんふく》を着ている。 腰に巻きつけてある|紐《ひも》に、小さな八角形の八卦鏡(パーコーチン)がぶら下がっていた。中心には【正一位】と書かれたものがはまっている。 そんな見慣れぬ|装《よそお》いをする|爛 春犂《ばく しゅんれい》は、にこりともしなかった。黄でも黒でもない場所……部屋の奥にある大きな机の横に腰かける。 ともに来ていた|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》はといえば、彼は大きな机を前に|鎮座《ちんざ》した。 すると彼の右側に、黒い|漢服《かんふく》を着た男が立つ。巻物を広げ、つらつらと読み上げていった。「──ただいまより|黄《き》族、ならびに|黒《こく》族の会合を開始いたします。それでは皆様、各々席に着いて……」 ふと、黒い|漢服《かんふく》の男の横に座っている|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》が立ち上がる。部屋の中を一周するように見回し、唯一の青を持つ|爛 春犂《ばく しゅんれい》を見やった。「話の前にひとつ。伝えておかねばならぬ事がある」 |爛 春犂《ばく しゅんれい》を机の前まで誘う。彼はうなずいて腰を上げ、静かに|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》の前で足を止めた。 右手を拳の形に変え、左手で包んで|会釈《えしゃく》をする。それは、お手本とすら思えるほどに|洗練《せんれん》された|拱手《きょうしゅ》であった。軽く|拱手《きょうしゅ》を済ませ、|黄《き》と|黒《こく》族の者たちにも会釈をする。「この男……|爛 春犂《ばく しゅんれい》がここに呼ばれたのは他でもない。こいつが目的とするものに、我らがこれから話す事が、深く関わっているからだ」 会合場が一気にざわついた。 それでも彼らは気にする様子はなく、淡々と話を進めていく。 第一声として|爛 春犂《ばく しゅんれい》が口を開いた。「……ご存知の方もいるように、私は|爛 春犂《ばく しゅんれい》という名で通っております。しかしそれは
すーすーと、規則正しい寝息が聞こえた。銀の長い髪を持つ|見目《みめ》|麗《うるわ》しい子供が、|床《ベッド》の上で寝ている。 そんな子供の額に触れるのは、美しい顔をしている青年だ。彼、|全 思風《チュアン スーファン》は、寝ている子供の肩をゆっくりと揺らす。「|小猫《シャオマオ》、起きて、|小猫《シャオマオ》」 あくまでも優しく。子供が泣かないよう、そっと|愛称《あいしょう》で呼んだ。 しばらくすると子供は両目を開け、目をこする。「……ふみゅう。|思《スー》?」 どうしたのと、子供は寝ぼけ|眼《まなこ》で上半身を起こした。ふあーとあくびをし、頭をぐらぐらとさせる。「|小猫《シャオマオ》、今から大事な会合が始まるみたいだよ。私たちも参加しないかって誘われているから、行かないかい?」「かい、ごう?」「うん。実はね──」 子供の細い腰に手を回し、優しく横抱きにした。 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》が|碧《あお》い|彼岸花《ひがんばな》の世界に入り、亡くした友と再会を果たす。その後、これからのことを決意した。 すると床一面を|覆《おお》っていた|碧《あお》色は|消滅《しょうめつ》する。同時に花を|操《あやつ》っていた|華 閻李《ホゥア イェンリー》は体力を使い果たし、その場で倒れてしまった。 |全 思風《チュアン スーファン》が子供を運ぶ|最中《さなか》、|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》に声をかけられる。どうやらこれからのことについての話のようだ。 子供が目を覚ましたら町の東にある、|黄《き》族の屋敷へと連れてきてほしい。とのことだった。「&hell