Home / BL / 鳥籠の帝王 / 花の舞

Share

花の舞

Author: 液体猫
last update Last Updated: 2025-04-20 17:20:07

 何がいけなかったのか。ふと、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の脳裏にそんな考えが浮かんだ。

 |殭屍《キョンシー》騒動に見舞われた村のその後を放置していたからか。

 |殭屍《キョンシー》になった者は、もう人間には戻れない。それを知っていながら、無事だった人たちを村に置いてしまったからか──

「……っ!?」

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は目頭を熱くし、村全体を悲痛な眼差しで見張った。

 村全体に広がったのは血の池である。建物や村人だった者たち、木々ですら、血中へと埋まってしまっていた。そのなかには|華 閻李《ホゥア イェンリー》が気にしていた子供──|雨桐《ユートン》──も含まれている。

「せめて、あの子だけでも助けられたら……」

 大きな両目から一粒の雫が滴り落ちた。それは額の汗と混ざり、村の上空にある|彼岸花《ひがんばな》へと落下する。

 すると|朱《あか》く、夕陽のように燃える大きな|彼岸花《ひがんばな》は恵みの水を受け、より一層の輝きを増していった。

 しかし……

 彼岸花の輝きは弱まってしまう。バランスを崩し、斜めになってゆっくりと転落していった。花びらはもげ、雌しべと雄しべは抜け落ちていく。

「……お願い、彼岸花。僕の気持ちに答えて! 村を救えなかった、小さな子供すら護れなかった僕に……」

 両手を前に突き出した。手が汗ばむ。額にひっついた髪が気持ち悪い。

 それでもやり遂げたかった。

 瞳に映るのは、|殭屍《キョンシー》に成り果ててしまった子供。血の池に体半分以上を取られてしまっても、なおも動き続けている。けれど言葉は発しない。

「少しでいいから、力を貸して!」

 喉の奥から叫んだ。瞬間、彼岸花はのっそりとではあるが、元の位置へと戻っていく。

「……ありがとう、彼岸花」

 負担が減ったのを見計らい、急いで宙に印を描いていった。

 数秒後に出来上がったそれは六芒星の陣である。

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は迷いなく陣を彼岸花へとぶつけた。陣を受けた彼岸花は一瞬だけ、さわさわと揺れる。それはすぐに止まり、大きさを感じさせない勢いで血の池へと沈下していった。

 音すらしない落下を成功させ、村全体に広がっていた血を一気に吸い上げていく。

 しばらくすると血の池が嘘だったかのように、村から鉄錆色《てつさびいろ》は消えてなくなっていた。

 |
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 鳥籠の帝王   蒼き彼岸花

     |透明《とうめい》な|硝子《ガラス》、ともすれば、海のように|碧《あお》く輝く|彼岸花《ひがんばな》。美しく光り続ける幻想的な光景が、静かに造りだされていった。 それを造ったのは他でもない、花の力を使う美しい少年である。子供は艶めいた瞳を花の中心で|瞬《まばた》かせた。 |雄《お》しべは|雌《め》しべを導く。 |碧《あお》き色は|魂《たましい》の声。   |蜘蛛《くも》の糸のように細く、|脆《もろ》い銀の髪が、|彼岸花《ひがんばな》の|碧《あお》に|彩《いろど》られていった。 長いまつ毛の下からのぞく大きな瞳は宝石のように|煌《きら》めき、白い肌は淡い光を浴びていく。薄い唇から|洩《も》れる吐息は優しく、弱々しさすらあった。 風に|靡《なび》く|柳《やなぎ》のように細く、しなやかな体が儚さを生む。 ぞっとするほどの|端麗《たんれい》さに包まれながら、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は今、軽く|踵《かかと》を踏んだ。瞬間、床を|覆《おお》いつくしていた|碧《あお》い|彼岸花《ひがんばな》は泡となる。 子供は輝くばかりの姿のまま、手に持つ枝へ|柔《やわ》らかな口づけを落とした。すると、枝はひとりでに宙へと浮かんでいく。「──|蝋梅《ろうばい》の枝よ。君に残された想い……心残りである友への気持ちを、伝えてあげて」 神秘的で幻想的。そんな言葉が、子供の全身から|漂《ただよ》っていた。 ふっと両目を閉じ、ゆっくり枝を|掲《かか》げる。次に目を開けた瞬間、枝は|浮遊《ふゆう》した。そしてゆっくりと、水平を|辿《たど》るように、ひとりの男の前で止まる。 男は|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》だ。彼は驚きから戻ってこれないようで、両目を大きく見開いている。だらしなく口を開いたまま、微動だにしない。

  • 鳥籠の帝王   戦場に咲く華

     何もかも、|黄《き》族が悪い。そう言われてしまっているような気がしたのだろう。 |黄 沐阳《コウ ムーヤン》は顔を真っ赤にして、|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》へと食ってかかった。体格の違いや知名度、そして才能の差。それらなど気にする余裕もなく、彼は大剣を扱う男の胸ぐらを|掴《つか》んだ。「あれが|爸爸《パパ》だって!? ふざけるな!」 あんなのが|尊敬《そんけい》する父であるはずがないと、言い切る。「それに、こっちだって|爸爸《パパ》の行方がわかってないんだ! お前だけが、家族を失った不安に|駈《か》られてるわけじゃねーんだよ!」「……何?」 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は彼の手を|叩《はた》き、どういうことだと問うた。 すると|全 思風《チュアン スーファン》が|仲裁《ちゅうさい》し、説明を始める。「──あの|黄 茗泽《コウ ミャンゼァ》は本物ではないだと? しかも、その本物は俺の|大哥《あにうえ》と同じく行方不明……」 どうやら、落ち着いて話し合えばわかる男のようだ。その場にドカッと座り、|胡座《あぐら》をかいて頭を|掻《か》く。「それに|奪《うば》い合った末に手に入れた女をその手にかけた、だと?」 瞳を細め、大笑いした。|膝《ひざ》を何度も|叩《たた》き、涙が|溜《た》まるほどに笑い続ける。けれどすぐさま息を吐き、口をきつくしめた。 音もなく立ち上がり、大剣を握る。そしてあろうことか、そこにある台座を|斬《き》り始めたのだ。「……ふざけた真似を! つまりは何か!? 俺たちは、親のくだらぬ争いに巻きこまれたという

  • 鳥籠の帝王   逃走と行方不明

     |豪快《ごうかい》なまでに|派手《はで》な登場をした男──|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》──は大剣片手に、場の空気を壊した。 そんな彼は逃げだしたように見える|全 思風《チュアン スーファン》を追いかけ、ここまでやってきたよう。目的の男を見つけるなり、大剣の先を向けてきた。「貴様、この俺から逃げられるとでも思っているのか!?」 大剣を両手で持ち替え、刃先を後ろへとやる。片足を後退させて、腰を少しだけ落とした。|軸足《じくあし》に全体重を乗せたと同時に、霊力を大剣へと流しこむ。「勝ち逃げは許さん!」 |全 思風《チュアン スーファン》を睨みつけ、大剣を下から上へと振り上げた。すると武器から青白い|焔《ほのお》が溢れだし、目標と定めた彼へと直進していく。 |全 思風《チュアン スーファン》はあきれながら苦笑いし、|嘆息《たんそく》した。瞬間、彼の瞳が|濃《こ》い|朱《あか》を生む。 しかし、空気の読めぬ男が放つ|焔《ほのお》を全身で食らってしまう。「はっはっはっ! この俺から逃げきれるなどと……そんな甘い考えが通じると思……むっ!?」 |豪快《ごうかい》を通りこした笑い声が、ピタリとやんだ。見張りながら大剣を強く握り、ギリッと|歯軋《はぎし》りをたてる。「……状況、読んでから攻撃してくれない?」 炎よりも熱い|焔《ほのお》の直撃を受けたと思われていた|全 思風《チュアン スーファン》だったが、彼は無傷だった。むしろ、|蚊《か》でも払うかのように片手で|扇《あお》いでいる。「化け物め!」「うん? あー、違う違う。私が化け物じゃなくて、君らが弱いってだけ。あ、|小猫《シャオマオ》は別だよ。とっても強くて、私では|敵《かな》わないからね」 仙人たちの中でも|屈指《くっし》の強さを誇り、|獅夕趙《シシーチャオ》というふたつ名すら持つ男。それが|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》だ。 けれど彼はそんな男を前にして、弱いと|称《しょう》する。 当然、そう言われた|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は納得できるはずもなく……大剣を床へ突き刺して、ズカズカと足音をたてながら彼の元へとやってきた。 体格はほぼ同じ。けれど身長は|全 思風《チュアン スーファン》の方が少しだけ高いようだ。それでも見下ろすほどの差があるわけではないので、ふたりは同じ位置で目を合わせる。「

  • 鳥籠の帝王   黄 茗泽(コウ ミャンゼァ)と白氏(はくし)

     |全 思風《チュアン スーファン》の瞳から|溢《ほこぼ》れるのは、優しい眼差しだった。それは銀髪の子供に向けられている。 「|小猫《シャオマオ》、よく頑張ったね。もう、大丈夫だからね」 低いけれど心にすっと|留《とど》まる声で、子供に話しかけた。そして腕に抱えている|華 閻李《ホゥア イェンリー》の体を|縛《しば》る|鎖《くさり》、これを強く握る。 瞬間、彼の暗闇そのものだった瞳の色が|朱《あか》へと支配された。 |鎖《くさり》をぐっと引っ張る。するとどうしたことか。|鎖《くさり》は音もなく|粒子《りゅうし》となって空気へと溶けていった。 |全 思風《チュアン スーファン》は子供を横抱きにする。部屋の|隅《すみ》で|呆然《ぼうぜん》としている|黄 沐阳《コウ ムーヤン》の元へと進み、そっと床へと寝かせた。 |黄 沐阳《コウ ムーヤン》は疲れつつある体にムチ打ちながらも、子供へと駆けよる。「おい|華蘭《ホゥアラン》、大丈夫か!?」 |華 閻李《ホゥア イェンリー》を|字《あざな》で呼びながら子供の肩を揺すった。|身綺麗《みぎれい》にしていたはずの見た目がボロボロになっていても、それよりも子供の心配をする。 すると子供はゆっくりと腕を動かし、彼へと微笑んだ。霊力を|奪《うば》われ、苦しいはずなのに、微笑みかける。 子供は意識すら|朧気《おぼろげ》なままに、|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を「|黄哥哥《コウにいさん》」と、親しげに呼んだ。 そんなふたりを見、|全 思風《チュアン スーファン》は瞳を細める。 ──|小猫《シャオマオ》を|字《あざな》で呼ぶのか。|小猫《シャオマオ》も、この男を|哥哥《あに》と言っている。……ああ、私が離れていた年月が悔しい。 |全 思風《チュアン スーファン》の中では、ど

  • 鳥籠の帝王   決意とけじめ

    「──|黄 茗泽《コウ ミャンゼァ》、あんたには|黄《き》族の長を|退《しりぞ》いてもらう。それが内戦を引き起こした者の……」 |黄 沐阳《コウ ムーヤン》はいつになく、ハッキリとした口調で宣言した。 |爸爸《パパ》と呼び、|黄 茗泽《コウ ミャンゼァ》を親として|尊敬《そんけい》していた。けれどそんな、大好きだった者はもういない。いるのは|私利私欲《しりしよく》のために仙人を戦争へと介入させ、人間たちを|混乱《こんらん》と|恐怖《きょうふ》に|陥《おとしい》れた男だ。 彼は、それをよしとはしない。 元々、|仙道《せんどう》が人間の争いに参加しないということを|律儀《りちぎ》に守っていた。 大切な|母親《オモニ》に手をかけられても、自身の|偽物《にせもの》が現れて|窮地《きゅうち》に立たされたとしても、内戦への参加など許さない。 普段は|無鉄砲《むてっぽう》でわがままな彼だが、|筋《すじ》を通すところは通す。そんな性格も持ち合わせていた。「家族に手をかけた者を|裁《さば》く。それが今、俺にできる、唯一の事だ!」 視線を決して|逸《そ》らすことはない。『……ははは。本気で言ってるのか? お前、|爸爸《パパ》を当主の座から降ろして、その後どうするつもりだ? ああ、そう。お前自身が、新しい当主になるってわけか?』 |自意識過剰《じいしきかじょう》なやつの考えそうなことだ。お腹を抱えながら笑った。そして|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を見、プッと吹き出す。『本当に新当主になれるとでも? お前、自分が嫌われてるって知らないのか? 皆、お前のわがままさに嫌気がさ……』「知ってるさ」 |飾《かざ》らぬ自然な声がこぼれ

  • 鳥籠の帝王   写し鏡

     |全 思風《チュアン スーファン》の手の中にあったはずの|彼岸花《ひがんばな》が、光の|粒子《りゅうし》となって|消滅《しょうめつ》していった。 彼は|悔《くや》しさを|壁《かべ》にぶつけ、何度もたたく。そのとき、壁がガコンッという鈍い音をたてて前へと倒れてしまった。「うわっ! ……っ!? これは……隠し通路か!?」 奥へ続く道が現れたが、明かりひとつもない場所となっている。しかし彼は元々|夜目《よめ》が利く。明かりなど必要ないと|云《い》わんばかりに、暗黒しかない空間へと足を|踏《ふ》み入れていった── □ □ □ ■ ■ ■ 部屋の|隅《すみ》に、大きな台座がひとつある。台座のいたるところには札が貼ってあり、常に光っていた。 部屋の中を見渡せば、食器棚や勉強机も置かれいる。 そして何体もの|殭屍《キョンシー》が、部屋を囲うように|等間隔《とうかんかく》に立っていた。この者たちには一枚ずつ、札が|額《ひたい》に貼られている。それが、やつらの動きを封じているようであった。 |殭屍《キョンシー》らに囲まれるようにして部屋の中央では、男がふたり。互いに剣をぶつけ合っていた。  ひとりは扉側に、もうひとりは台座を背にしている。『……安心しろよ。|黄《こう》家の|跡取《あとと》りは、俺がしっかりとやってやるからさ』 上は|黄《き》、下にいくにつれて白くなる|漢服《かんふく》を着るのは|黄 沐阳《コウ ムーヤン》と、もうひとり。彼とまったく同じ顔をした男が語りを入れてきた。 難しい顔など一度もせす。人を|小馬鹿《こばか》にするような笑みを浮かべ続けていた。勝ち|誇《ほこ》ったようにケタケタと笑い、|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を力任せに剣ごと|薙《な》ぎ払う。 そんな男の後ろ

  • 鳥籠の帝王   過去と疑問

     |全 思風《チュアン スーファン》の心は不安で押し|潰《つぶ》されていった。大切な存在である子供が危険に|曝《さら》されているからだ。 そう思うだけで、死んでしまいたい。精神がバラバラになりそうだと、|唇《くちびる》を強く|噛《か》みしめる。「──|小猫《シャオマオ》、無事でいて!」 屋根の上を飛び続け、目的地の屋敷へと到着した。危険を|省《かえり》みず、扉を|豪快《ごうかい》に壊す。 中に入ればそこは玄関口だった。 一階は入り口近くに左右の扉、奧にもふたつある。部屋の中央には|朱《あか》の|絨毯《じゅうたん》を|敷《し》いた階段があり、天井には異国からの輸入品だろうか。大きな|枝形吊灯《シャンデリア》がぶらさがっていた。「……最初に|侵入《しんにゅう》したときは地下からだったからわからなかったけど、もしかしてここは、元|妓楼《ぎろう》なのか?」 心を落ち着かせようと、両目を閉じる。 ──ああ、聞こえる。|視《み》える。ここで何が起きたのか…… |全 思風《チュアン スーファン》が目を開けた瞬間、彼の瞳は|朱《あか》く染まっていた。そして映し出されるのは、今ではなく過去の映像である。 建物の|構造《こうぞう》、中の物の配置などは同じだ。違いを見つけるとすれば、人の姿があるかないかである。 そして過去の映像には、きらびやかで美しい衣装を|纏《まと》う女たちが行き交いする姿が視えていた。 数えきれぬほどの美女、そんな彼女たちと金と引き|換《か》えに遊ぶ男たち。仲良く腕組みしている男女もいれば、女性に言いよっては出禁を食らう者。年配の|妓女《ぎじょ》の言いつけで|掃除《そうじ》をする若い女など。 当時、この|妓楼《ぎろう》で暮らしていた女性たちの姿が、ありありと映っていた。

  • 鳥籠の帝王   明かされていく謎

     |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は重たい口を開いていく。 |友中関《ゆうちゅうかん》は|黒《くろ》と|黄《き》、互いの領土の中間にある。そこで働く兵たちはふたつの勢力から選ばれた者たちだった。どちらか一方が多くならぬよう、均等に両族から|派遣《はけん》させる。それが、この國が始まりし頃からの決まりごとであった。 しかし、互いの勢力がそれで手を取り合うというわけではない。度々いざこざが起き、そのたびに|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》や|爛 春犂《ばく しゅんれい》などが出向いて|仲裁《ちゅうさい》していた。「……うん? 何であんたや、あの|爛 春犂《ばく しゅんれい》なんだ? |黄 茗泽《コウ ミャンゼァ》とか、親玉が出向く方が早くない?」  腰かけられそうなところへ適当に座り、|全 思風《チュアン スーファン》は三つ編みを後ろへとはたく。穴が開くほどに|眼前《がんぜん》にいる男を|注視《ちゅうし》した。 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》は|瓦礫《がれき》の上に座りながら、空を見上げる。いつの間にか灰を被った色になった雲と、遠くから聞こえてくる雷の音。それらにため息をつき、首を左右にふった。「いや、あの場所は互いの族で二番目に|偉《えら》い者が|視察《しさつ》しに行くという決まりになっていた。兄上はおろか、|黄《き》族の|長《おさ》である|黄 茗泽《コウ ミャンゼァ》ですら|関与《かんよ》してはならないとされているんだ」 |皮肉《ひにく》にも、昔作られた決まりごとが今回の事件を引き起こす切っかけにもなってしまう。そして|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》という男を暴走させる原因にもなってしまった。  男は両手を|太股《ふともも》の上に置き、これでもかというほどに彼を睨む。「……私を睨んだって、しょうがないじゃないか」 今にも殺しにかかる。そんな

  • 鳥籠の帝王   鬼人(きじん)

     |全 思風《チュアン スーファン》は剣を|鞘《さや》に収め、ふっと美しく|笑《え》む。 |眼前《がんぜん》にいるのは先ほどまで場を独占していた男、|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》だ。彼は苦虫を噛み潰したような表情をし、これでもかというほどに怒りを|顕《あらわ》にしている。「……な、んだ。何だこれはーー!?」 その場を支配していた直後、|焔《ほのお》が消化されていったからだ。 何の|前触《まえぶ》れもなく現れた|全 思風《チュアン スーファン》だけでも手に|負《お》えないというのに、上空から降る|蓮《はす》の花。その花から雨のように水滴が降り|注《そそ》いでいるからである。 花は|仄《ほの》かに甘い香りをさせながら|焔《ほのお》を消し去っていった。しばらくすると辺り一面に|焦《こ》げた匂いだけが充満し、|蓮《はす》の花は泡となって天へと昇っていく。「くそっ! どうなっている!? 貴様、何をしたーー!?」 まるで、腹から声をだしているかのような|怒号《どごう》だ。 大剣を強く握り、勢いをつけて地を|蹴《け》る。風のように|疾走《しっそう》し、剣で空を斬った。「|朱雀《すざく》の|焔《ほのお》を消せる者など、この世にありはしないはず!」 |全 思風《チュアン スーファン》を斬りつけようと、|空《くう》に|豪快《ごうかい》な一|閃《せん》を放つ。重みのある大剣が|瓦礫《がれき》を|削《けず》り、|蹴散《けち》らしていった。 しかし、それでも、|全 思風《チュアン スーファン》は何の|痛手《いたで》も負っていない。眠そうにあくびをしながら、右手で持つ剣で応戦した。 互いの剣がぶつかり合い、金属音が響く。「……ふわぁ。ねえ、まだ続けるのかい?」&nbs

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status