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第4話

Auteur: ご飯ちょうだい
私は背を向けて立ち去ろうとしたところ、トレイを持ったウェイターとすれ違った。

もう一杯シャンパンを手に取ろうとしたその瞬間、私の手が遮られた。

代わりに、温かい白湯の入ったグラスが手のひらに押し付けられ、目の前には咎めるような表情を浮かべた啓司がいる。

「まだ酒を飲む気か。白湯を飲め!」

私はくすりと笑い、少し茶化すように彼の頬に触れた。

「はいはい、厳しい執事さん。あなたの言う通りにするわ」

背後で小さく息を呑む音がし、琴美のわざとらしい声が響いた。

「一葉さん、それは一体……」

私は眉をひそめて振り返った。

どこまでも付きまとってくるこの女が、煩わしくて仕方がない。

一方、正人の表情には珍しく激しい感情――怒りに近い色合いが滲んでいる。

「一葉、僕たちはまだ離婚していないぞ」

「すぐよ。あなたが潔く署名さえすれば、明日からは他人よ」

これ以上、この二人に付き合うのは時間の無駄だ。

啓司の腕を取って立ち去ろうとした時、琴美が自ら進路を塞いだ。

彼女は両手にシャンパンを持ち、偽りの申し訳なさを浮かべて近づいてきた。

「一葉さん、さっきは私のわがままが過ぎた。

お詫びにこのシャンパンを受け取って。もし許してもらえるなら、今回のリゾート開発の提携案で、楠木グループの取り分からさらに五パーセントを譲歩する」

傍らにいた正人も、珍しく自ら妥協案を提示した。

「人前で君に恥をかかせてしまったのは、僕も悪かったと思っている。琴美を許してやってくれ。その代わり、前回のプロジェクトの利益配分は七対三でいい。

君は七だ」

私は心の奥底で冷笑した。

しばらく天秤にかけた結果、公私混同はしないと決めた。

どうせ離婚するのだから、得られる利益を逃してわざわざ損をする必要はない。

啓司は黙って私の手を抑え、小さな声で忠告してきた。

「まだ体も治りきってない。そんなはした金のために無理をするな……」

私は眉をひそめた。啓司の金銭感覚は、いつの間にかそんなに麻痺したのだろう。

「40億円が、はした金だって?」

彼の制止を振り切り、私は儀礼的にシャンパンを一口含んだが、意外なほどの苦味に眉をひそめた。何か言おうとした矢先、激しい咳に襲われ、全身が制御不能なほど震え始めた。

「……っ……」

苦悶の声が漏れた。

次の瞬間、私の指の間から血が溢れ出した。

床に滴り落ちる赤い染みは、見る者の目を見開かせるほど無惨だ。

会場中の視線が凍りつき、シャンパンを差し出した琴美までもが呆然と立ち尽くしている。

「……そんな、馬鹿な」

正人の声は驚愕に震え、崩れ落ちそうになる私の体を咄嗟に支えようとした。

だが、彼よりも速い男がいる。

啓司は私を横抱きに抱え上げた。その顔からは、普段の不敵な笑みが完全に消え失せている。

「救急車を呼べ!早くしろ!」

――痛い。

声も出せないほどの激痛が走り、私は啓司の腕の中で体を丸めることしかできない。口からは絶え間なく血が溢れ、彼のシャツとジャケットを赤く染めていった。

意識が急速に遠のき、私は深い闇の中へと沈んでいった。

手術室の外。

啓司は怒りに燃えた野獣のように正人の襟首を掴み、冷たい壁に叩きつけた。鈍い衝撃音が廊下に響き渡った。

「吉永正人、てめえ、彼女に何をさせたんだ!あのシャンパンに何を混ぜたんだ!

彼女が死にかけたことを知ってるか?後遺症を抱えてる人間に、よくもあんな真似ができたな!」

殴られた衝撃で顔を背けた正人の口元から、血が滲んだ。

その顔には、隠しきれない動揺と、これまでにないほどの狼狽が入り混じっている。

「離せ!あのシャンパンは琴美が用意したもので、僕は……

待て、後遺症だと?何のことだ?」

啓司の拳が、再び正人の腹部にめり込んだ。吐き捨てられる一言一言が、相手の残酷さを告発するかのように突き刺さった。

「知らないだと?

ふざけるな!てめえがあの女を連れ帰ったあの日、一葉の車は高速で追突されて、路外へ弾き飛ばされた。車は何回も回転して大破したのだ。

調べてもらった。15回だ。彼女は15回も助けを求めたのに、てめえは一度も電話に出なかった!」

啓司は閉ざされた手術室のドアを指さし、絶望のあまり声を震わせた。

「てめえは知らないだろうが、彼女は失血がひどく、救置が遅れたせいで、三度も危篤状態と診断されたんだぞ!

心臓も肺も肝臓も、すべての臓器が損傷してボロボロだった。生きてるだけで奇跡だ!

それで、よくもまた彼女を殺しかけたな!」

正人の瞳孔が激しく縮み、視線が定まらない。

全身が氷の穴に叩き落とされたかのような感覚に襲われている。

「事故?危篤?……いったい何の話をしているんだ?」

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