Mag-log in「なぁ。俺、とりあえず今も急いで来たけど……。お前、こんな強いのに護衛って必要なの ? 」
「勿論、必要だよ。
でも、わたし……最初から友達とかバンドのメンバーを契約者にしようなんて思ってなかったの ! あれはシャドウくんが勝手に…… ! 」「あ〜聞いたよ。それに、ほら。俺は何時でも解約出来るんだから、そう悩まなくていいんじゃね ?
解約しないってことはさ、俺もサイも好きでやってるって事だしな」「……」
霧香は一旦、海を眺めてから恵也のそばに座り込む。
「わたしは地獄には行けないの」
「えーっと……属性が水だからってやつか。人間界にいれば安心なの ? 」
「統括は『そこは分からない』って。
わたしを狙ってくる奴がいるとしたら、悪魔よ。水の力が欲しいから。 でも悪魔は簡単に人間界に来れないし、人間が知ってるような名前のある大悪魔は余計にコキュートスの下から出て来れない。 でも、人間の中に召喚出来る本物の魔術師がいたら別かな。魔術で彼らを招く門を作る事が出来る」それを聞いた恵也が大口を開けて笑い出す。
「ねぇーよ ! 魔法だの魔女だの。そんなんオカルトの世界の話だろ ? 」
「事実、わたしはヴァンパイアだよ ? 」
「まー、ヴァンパイアは許可受けて出てこれるとして。じゃあ、召喚も難しい悪魔の呼び出しを、人間がどうやるんだよ ? 悪魔崇拝 ? そんなの真面目に拝むのなんて、オカルトマニアか狂信者的パフォーマーに煽られた厨二病くらいだぜ。本物の魔術ってのを、そもそもどうやって勉強すんだよ」
「天使がいるじゃん。天使が人に教えるのよ」
「はぁ !? 」
今まで何者とも接点が無かった恵也が一番最初に身近な天使を思い浮かべるのは至極当然のことである。
「ハラン……って、天使だよな ? あーゆーのが人間に教えるの ? 悪魔の扱いを ? 」
「だから。ケイは一括りにしがち。ハランは違
「四歳で画家デビューして、その後も油絵、水彩、鉛筆、彫刻……とにかく万能な人で、高校生の時に広告デザイン企業でアルバイトで高収入学生って話題になって、大学は何故か音大に来たって言う……」「音大 !? なんでそこで音大 !? 」『ぎゃはは〜 ! ウケるっしょ !? いや、うち、絵はやってたけどピアノもやってて〜、なんかピアノは全然駄目で〜ムカついたから音楽大学行ったんすよ』「やば〜」「あれ ? でも、専門学校は……服飾専門学校だったんですよね ? 俺、それで知ったんです。服飾に興味があって」『マジ ? 嬉しい〜。SAIの服、好きっすよー。動画観てきました』「あ、ありがとうございます」『そん後〜、やっぱ絵もいんじゃね ? って思ってデザインの専門行って、やっぱ勉強とか合わねぇわって今はフリーランスに近いかな。なんでもやる屋みたいな。 んで、テレビ局の美術さんとこで手伝いしながら絵描いてて、最近個展終わったんで暇になったとこ、ここに声掛けられたっす』「え ? 服飾の後そんな活動でした ? 幅広いですね。テレビでお見かけしましたけど、スタイルも抜群で人気でしたよね」『照れるっす〜。絵描き始めるとつい飲まず食わずになっちゃうんで〜肉付かねぇんすよねぇ。 うち、SAIがめっちゃ女嫌いって聞いてたんで、やべぇなって思ってたんすけど、全然大丈夫っすね。まぁ、うち咲さんより歳イッちゃってますもんね〜』「いや、えーと」 これには咲が一番驚いた。 まさか凛が歳上だとはプロフィールを見るまで考えてもいなかったのだ。 確かに女性の年齢は現代の美容では、外見で判別が付かないほど進歩したとは言え、だ。 この軽い調子で歳上とは……呆れが一割で、憧れが九割。才能で伸び伸びと生きる凛の個性的な姿には、美しい生き様にも思えた。 咲は自身の仕事は好きだが、あくまで才能ある者同士の縁結びだ。自分が特殊な才能を持っている訳では無いと、自己評価は割と低めなのだ。オマケにケアレスミスも多い。 周囲から見れば咲は、紹介も適材適所、人を選ばず営業先でも接す
「だぁ〜っはっはっ !! そんであたしんとこ来たの ? 悪魔って情けないわね〜 !! 」 路頭に迷った先、蓮は樹里の事務所へ駆け込んでいた。 蓮は恥ずかしそうに額をゴリゴリ擦りながら、キャリーケースに入れたシャドウを見る。「わざわざ猫抱えて事務所まで来ないでよ〜」「聞いてみたらハランのアパートはペット禁止だし……行く宛てが無くて。来週からシフトもみっちり入ってるし……どっか安いとこ無いですかね。 一番の問題は霧香もスマホ置いてったし、サイもケイも電話に出ない。咲さんにはさっき事情を話したけど、南川さんにはどう謝罪したらいいか」「事情から察するに、あんた信用されてないのよ。 そのお兄さんから監視されてるかもしれないからでしょ ? 」「……」「バンド内の売上とかスパチャの切り盛りは彩がしてるの ? 」「はい」「じゃあ、路頭に迷って野垂れ死にコースは無いか」 不穏な事を言い出し、蓮を更に不安にさせる。「そうね。最近関わった人は監視されてる可能性あるとか ? そんなにヤバい状況 ? 」「可能性は0では無いですが……。ただ彼の性格的には手広く部下を使って追い込むタイプでは無いですね。 監視者はいても、俺か霧香の方くらいだと思います」「部屋は……そうねぇ〜。京介はアレルギー持ちだし、千歳は実家なのよね。まぁ、どこか探して聞いてみるけど」「お願いします 」「それにしても、もうMINAMIには言っちゃえば ? 」「いちいちそんな事してたら、将来的に全員に言って回ることになりますよ」「でも今日はCITRUSに行けないでしょ ? 彩とか霧香ちゃんは会社に連絡してるのかしら」「朝の段階では、まだだったみたいですけど」「ホント。三人、どこに行ったのかしら。監視されてるとしたら、あんたから探さな
「寝た ? 」「うん」 恵也がルームミラー越しに後部座席を見る。安心したのか、霧香は彩にもたれて寝息をたてていた。 高速を降り、人気のない方角へと走らせ、田舎町の道の駅に駐車する。 もう日が昇る。「ケイ仕事は ? 」「明後日から。どうする ? 」「俺のアパートはあるけど……追っ手とかいないかな」「いるかもだぜ ? 地獄にキリを連れて行かれたら、俺たち助けに行きようがねぇよ」「そうだな。暫くはここにいようか」「道の駅かぁ。なんでもあるけど……車中泊か…… 」「ケイは出勤に車使うだろ ? 俺とキリは昼間、人の多い所にいた方がいいし」「俺はいいけどよ……。スマホの充電は車でするとして、トイレもあるし……。 風呂とかどうすんの ? 」 彩もこれには頭を抱える。「今日のCITRUSの会議は……何とかリモートで参加出来ればと……。家出したとか、印象の悪いことは言いたくない。 そう言えば、俺のアパート……水とガスは契約してない」「お前の生活どうなってたんだよ……」「……止めて貰ったんだよ。暫くキリの家に住むからさ」「じゃあ、スーパー銭湯でも行く ? 」「そうだな……週一……いや、三日に一回くらいはキリを行かせて……」「え ? お前は ? 」「俺は……そんな頻繁じゃなくても……」 恵也は何となく察する。「も、もしかして……財布忘れて来た ? 」「&hellip
「それは困ります ! 」「現に身体も壊しているようだし。何も辛い思いをしてまで労働することは無い」「音楽活動は労働とかじゃないです ! 」「ならば趣味か ? ただの趣味なら尚更、身を削る様な事は止めてもらおう」「あまりに極端な話だっ」 蓮が怒りを露わにする。「人間界にいるだけで、誰とも接触しない生活なんて無理なんだよ。霧香にとって人間に馴染みやすかったのが音楽だっただけだ」「音の魔法を使ってか ? 芸術の世界で魔法を使う…… ? 甚だ疑問だ」 誰も言い返せない。霧香もそれに関しては罪悪感が無いわけじゃないからだ。「昼間、周辺を見て回ったが、他の人間の暮らしより余程恵まれていると思うが ? まだ何か不満か ? 足りない物があればいくらでも……」「それは金銭的な話か !? そうじゃないだろ。 そもそも、ヴァンパイア領土に置いておけないなら仕方がないからと、そう言ってここに流されたんだろ。霧香も好きで来たんじゃあない」 蓮の言葉を聞くと、ディーはあっさり「そうか」と頷いた。「では人間界にいると周囲には誤魔化し、やはり霧香は領土に戻し、幽閉して城内で監視するとしよう」「え…… ! 」「……お兄さん、そのやり方はどうだろう ? 」「天使は黙っててもらおう」「いいえ。地獄で悪神に変化してしまうのではと恐れる気持ちも、それを起こさんとする理由も心労もお察ししますが、まずは本人の意見を聞いてからでも……」「身体を痛めてまで人間界に居たい理由か ? 」 取り付く島もない。 ディーは霧香の手をキツく握ると引っ張り歩く。「痛っ…… ! 」「戻るぞ。見送れ」「ふざけるな。絶対通さない。霧香を置いていけ」 扉に立ち塞がった蓮を腹立たしく見つめる。
「じゃあ、皆さん車内で仮眠してください。俺と福原の二人で運転しますから」「いいんですか ?! 」「勿論。それに仕事の内です。CITRUSのプロジェクト頑張ってください」 全員が荷物を持って、旅館を出たのは深夜二時であった。「なんか、全然怖い思いする前に帰ることになっちゃったね」 残念そうに言う希星に霧香は頷いたが、他の男性陣は無言だった。 思いの外、福原の怪談が怖すぎたのだ。 だがプライドの為に、口が裂けても認めたく無い。 なんなら思い出したくないトラウマを福原に植え付けられた。「川、涼しかったね」「うん ! いっぱい釣れた ! 」 そんな楽しい思い出は男共には無い。 鬱蒼とした山林を戦々恐々と眺めていた。 □□□□□□□□□□□□□「昼間、他の人間の家を見てきたがこの屋敷は広すぎか ? 」 ディーがシャドウに問う。「音楽活動をする上では皆、便利そうにしております」「そうか。あまり貧しい生活をさせて霧香に反乱を起こされても困るからな。あいつには甘い思いをさせて置くくらいで調度いい。 だが契約者はいいが、蓮や天使まで一つ屋根の下とはな」「……単純な……活動メンバーと言うだけの様ですが……」 それ以上は口答え出来ずシャドウもモニョモニョとしてしまう。 思いがけず、ディーの生活が不規則なのも疲労として蓄積していく。まさか自分だけ猫になってグーグー寝ている訳には行かない関係性なのだ。 そこへ気配を感じた。 まだ帰宅する予定の無いはずの主人と仲間の匂いだ。「どうやら早い帰宅となった様です。 お通ししますので、このままお待ち下さい」 そう言うと、シャドウは早歩きで玄関へ向かう。「たっだいま〜」「荷物重……」「あ、シャドウくん ! ただいま
「終わった〜 ! 」 二十三時。 配信終了。「お疲れ様でした」 ゆかりが挨拶をする。「わたしはこれでアイテールに戻るんです。福原さんは残りますけど、残り二泊楽しんでください ! 」「あ、それなんですけど……」 彩が全員に向かって話す。「アイテールの親会社のCITRUSから会議に参加の要請がある。もし参加する場合、俺達も明日午後にCITRUSだから……今から帰る事になるんだけど」 初耳のメンバーは勿論、ゆかりも目を丸くする。「CITRUSから…… ? お仕事ですか ? 」「ゆかりさんは聞いてないですか ? 」「ええ。CITRUSと繋がっているのはアイテールでも、もっと上の方々なので……。 でもこのタイミングだと……。あ、わたしからは言えないですね……すみません」「いえ。俺達もすぐミーティングしてメンバーに話すので。それも完全に把握出来てる訳でもないんですよ……」「大きなプロジェクトの噂はありますが、断言出来ませんし……。ノーコメントですね。 では、わたしは失礼させて頂きます ! お陰様で良いシナリオ書けそうです」「あ……ゆかりさん ! 」 立ち去る前に霧香がゆかりを呼び止める。「今回は、本当にありがとうございました ! これも……大事にします」 そう言って『自己肯定感爆上がり冊子』を握りしめる。「お易い御用です。わたしとしましても、炎上の発端から鎮火までが綺麗に見れたのが参考になりました」「そ……それも……。ホントにご迷惑おかけしました……」 苦い笑いをす







