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第一話⑤~夢の中の再会

Author: 倉橋
last update Last Updated: 2025-07-26 22:10:30

 入学式の前の晩、悠馬は久しぶりに彩良先生に出会った。

 夢の中で、彩良先生が悠馬に会いに来てくれた。

「悠ちゃん、目を覚まして」

 懐かしい声に目を開ける。部屋には誰もいなかった。

「悠ちゃん、悠ちゃん」

 悠馬はあたりを見回しながら、念のため部屋の窓を開けてみた。

 大きな満月が、まるでパーティのシャンデリアのように、キラキラと大きな輝きを放っていた。

 満月を背に大きな光に包まれ、彩良先生の姿があった。昔のようにハイネックのシアートップスにタイトスカート、ガーター付ストッキングの姿で、悠馬に微笑みかけてきた。左手を悠馬の方に伸ばす。左手の薬指に、悠馬がプレゼントしたエンゲージリングがはめられている。

「ほら、悠ちゃんのエンゲージリングがこんなに輝いているよ。こんなに、こんなに輝いているよ」

 彩良先生が左手を高く掲げる。

「もうすぐ悠ちゃんのエンゲージリングを渡しに行くからね。それはね、幸運を呼ぶ月の石の指輪なの」

 彩良先生が大きく両手を振る。

「きっと、きっと渡しに行くからね。悠ちゃんのことは私が守る。きっときっと、幸せになろうね」

 それが本当の夢の終わりだった。目が覚めたとき、悠馬の両目から涙がポロポロあふれてきた。

 何度も顔を洗ったのに、両目の縁が真っ赤なままだった。

 今日は入学式なのに……。

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