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~第一話⑥~夢の終わりは残酷すぎる

Author: 倉橋
last update Last Updated: 2025-07-26 22:10:58

 悠馬が不思議な夢を見た頃。悠馬の知らないところで、こんな事件が起きていた。

 それは、あるどこかの大都市の車道。卵を大きくしたような形をした赤い乗用車がひっくり返っている。乗用車と書いたが、道路を走るほかの車と同様、タイヤはついていなかった。まさに近未来的な構造である。

 歩道では、時間に余裕のある人々が、その場に立ち止まり、ワイワイガヤガヤと車道に目を向けていた。ひとりの女性が車のそばで、まだ三歳くらいの少女を抱きしめている。顔がそっくりだから、間違いなく母娘だろう。ピンクのワンピースに白いショートソックスの娘は、ずっと声をあげて泣いている。

「リル、大丈夫。泣かないでね」

 母親は、ハイネックのシアートップスにタイトスカート、ガーター付ストッキング姿。ボブの髪型は大きく乱れ、顔に擦り傷があった。レースのガーターストッキングはあちこちが裂け、白い皮膚が覗いていた。スカートはボロボロになり、マシャマロのように白く大きな太腿がパープルのショーツごと丸見えだった。

 もし悠馬が母親の姿を見たら、驚いて駆け寄るに違いない。

 そして

「彩良先生!」

と声を震わせるに違いない。

 悠馬には見えないところで、母娘の回りには銃を構えた六人の兵士がいた。黒の軍服に軍帽姿。

 彼らを背に、軍服姿の女性が立っている。彼女だけは、他の兵士とは違った軍服だった。ハンチングに似た平たい軍帽を被り、前開きでレッドとスカイブルーの縦縞《たてじま》のワンピース。ワンピースの胸元は大きく盛り上がり、軍服が窮屈そうだった。白く盛り上がった太腿にライトピンクのハイソックス、レッドの軍用ブーツ。セミロングの髪につりあがった鋭い眼。高い鼻の下には真一文字に結ばれた口。歩く姿に少しも隙がない。

 高貴さを感じさせる美人だが、軍人であるためか太腿の筋肉が固く盛り上がっていた。膝から下のふくらはぎを覆うライトピンクのハイソックスの鮮やかな色だけが、女性らしさを強調していた。

 軍服姿の女性は、母娘にじっと目を向けている。母親は泣きだしそうな表情だったが、最後の誇りをかけて軍服姿の女性を見返していた。 

「王宮警護隊長のアマンです。サライ先生、私はあなたの生徒でした。覚えておいでですか?」

 王宮護衛隊隊長のアマンが丁寧な口調で母親に話しかけた。

「性格も悪く成績の悪い生徒でした。私が一番大好きで一番大切な愛しい生徒と共に、あなたのこともよく覚えています」

 サライと呼ばれた母親は毅然とした態度で答える。アマンは顔色も変えなかった。

「このような再会になって大変残念ですが、先生も地球の調査に携わった以上、仮想敵国への密航がどのような意味を持つか、よくご存知のはずです」

 サライは憎しみを込めて妖艶に笑った。

「クラスの劣等生が教師にお説教ですか?」

 アマンが兵士の方を振り返る。兵士のひとりが母娘に近づくと有無を言わせずふたりを引き離し、リルと呼ばれた娘に布で目隠しをした。

「お許しください。劣等生だった私が出来ることはこれだけです」

 兵士たちがサライに近づき、両手を後ろに回すと、鎖で厳重に縛り上げていく。サライは必死で身をよじり抵抗したが、無駄な努力だった。娘のリルにこの姿を見られなかったのがせめてもの救いしかいいようがない。

 縛られてすべての抵抗を封じられたとき、サライの目から涙があふれた。緊張の糸が切れたように激しく慟哭し、その場に座り込んだ。

 小さな赤い布袋が道路に落ちた。サライの顔色が変わる。アマンが袋を拾って中を改める。真珠の指輪、そして銀色に光る岩石の指輪が出てきた。

 サライはそれを見て、すべての誇りを忘れたかのように声をあげて泣き崩れた。

「これは月の石……」

 一体、この指輪がどんな意味を持つのだろうか?アマンは興味深く、指輪を見つめていた。袋に戻すと、そばの兵士に預ける。

「連行せよ」

 サライは鎖の先端を兵士に握られ、鎖の音をガチャガチャ鳴らしながら徒歩で連行されていく。兵士のひとりがリルを抱きかかえた。

「反逆者です。セレネイ王国への反逆者を連行します」

 兵士のひとりが大声で人々に説明する。徒歩で連行するのは、もちろん見せしめのためである。

 サライ母娘の泣き声と共に、突然、明るく陽気でかん高い女性アナウンスが聞こえてきた。録音を流しているようだ。

「みなさ~ん、こんにちは、キラーリ公主です。私が主催する『セレネイ王国少年少女なかよしチェスコンテスト』。まもなく参加者締め切りで~す。優勝者は私と夢の対局。第三位までは私からチェスの個人教授。それからね。王宮で一緒にディナーを楽しめるからね。参加者全員、私とハイタッチして、ツーショット。ほかにもたくさん賞品が待ってるよ。みんな参加してね。みんなの友だち、キラーリ公主でした」

 明るく陽気なアナウンスが流れるなか、サライ母娘の泣き声が遠ざかっていった。

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