All Chapters of 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた: Chapter 971 - Chapter 980

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第971話

「大石社長はどうして奏を狙うの?二人の間に何か恨みでもあるの?もし前から恨みがあるなら、どうして彼はここに来たの?」とわこはどうにも納得がいかず、首をかしげながらつぶやいた。「前回、二人で酒を酌み交わしてたぞ」ボディーガードは真剣な表情で言った。「金持ちの世界なんてそんなもんだ。今日の友は明日の敵。すべては利益次第で、関係性なんか関係ない」とわこは心配そうに山の上を見上げた。そういえば、昨夜、彼のスマホに、妙なメッセージが届いていた。あれが何か関係しているのでは?山の上。奏は大石社長の姪に連れられ、社長の部屋に足を踏み入れた。大石社長は細長い目を細め、彼を見た。「奏、まさかお前、ここまで読んでいたとはな。油断してたよ」彼は感心したように言った。「一体、誰が耳打ちしたんだ?」奏は机の上に置かれたタバコの箱を無造作に取り上げ、その中から一本を抜いた。「とわこを山から下ろして、自分だけここに残るとはいい度胸だな」大石社長はその余裕ある態度に感心し、思わず声を漏らした。「聞いた話では、昨夜、お前の操縦士が飛行機を運んできたとか。つまり、お前は逃げるつもりだったってわけか?」奏はタバコを指にはさみ、低い声で問い詰めた。大石社長はふと興味を示し、口を開いた。「もしお前がここで死んだら、俺に何かしらの不都合があると思うか?」奏は笑った。「俺が死ぬ時は、お前も道連れにする。むしろ聞きたいのは俺がここで死んだ場合、お前の家族にどんな報いがあるかってことだ」大石社長の顔が、一瞬で真っ青になった。その異変に反応したボディーガードたちが、ぞろぞろと奏を囲み始める。「そうそう。お前の飛行機、青山からは飛び立てないぞ」奏はボディーガードたちなどまるで眼中にない様子で、さらりと言い放った。「今はもう、お前の父親の時代じゃない。情報技術も兵器も、進歩してるんだよ。お前が呼んだ客の中で一人でも被害が出れば、大石家は終わりだ。俺たちを爆殺しようなんて、正気か?健康食品でも食いすぎて、脳ミソまで柔らかくなったんじゃないのか?」大石社長は怒りに震え、体まで小刻みに揺れていたが、どうすることもできなかった。「さあ、誰がこんなくだらない計画を持ちかけたんだ?」奏は時計を見ながら冷ややかに言った。「時間は、もうあまり残ってないぞ」「な、
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第972話

「とわこ、俺は無事だ」電話の向こうから奏の低く落ち着いた声が聞こえてきた。「今朝のことは......」「会ってから話して」彼女の声は震えていた。「無事でよかった。奏、本当に、死ぬかと思った」とわこの怯えたような声を聞きながら、奏は優しくなだめるように言った。「もう大丈夫だ。すぐに山を下りて会いに行くよ」電話を切ったとわこは、手で涙をぬぐった。側にいたボディーガードは慰めようとしたが、出てきたのはこんな言葉だった。「社長はまだ死んでないよ!泣いてる女って、正直見てらんねぇんだよな」とわこは涙に滲んだ目で彼を見つめ、不思議そうに聞いた。「どうしてそんなに冷静なの?心配じゃなかったの?ずっと落ち着いてるように見えたけど」ボディーガードは鼻で笑った。「今日の騒ぎなんて大したことねぇよ。社長は今まで何度も命狙われてんだ。何回も、もっとやばい状況に陥ったことがある。君があの人と一緒にいるってんなら、自分もいつ殺されるか分からない、覚悟しとけよ」とわこ「???」彼女の呆れたような顔を見て、ボディーガードも思わず固まった。もしかして、怖がらせすぎて別れたりしないよな?だが、すぐに考え直す。もしそれくらいの覚悟もないなら、彼女は社長にふさわしくない。「危ないのはあんただけじゃねぇ。子どもも危険だぜ?海外のニュース見たことあるだろ?富豪の子どもが誘拐されたなんて話、いくらでもある。わざわざ俺が説明するまでもねぇだろ」とわこ「......」奏が山を下りてきた時、とわこの顔はまだ青ざめていた。明らかにショックから抜け切れていない。「とわこ、今朝は本当に怖かったよな」彼は彼女をしっかりと抱き寄せた。「奴らが君を人質にしたら、俺は動けなくなる」とわこはこくりと頷き、尋ねた。「奏、いつも暗殺されそうになるの?」奏は苦笑した。「なんで急にそんなこと聞く?今日のは暗殺ってほどじゃない。大石が誰かにそそのかされて、あの別荘にいた全員を爆破しようとしたんだ。国を混乱に陥れれば、経済を握れるとでも思ったんだろう。バカげてるにもほどがある」「どうしてそんな恐ろしいことを」「そいつ自身にそんな知恵はない。裏で誰かが操ってた」「誰が?」とわこは背中に冷たいものが走った。「名前は言わなかった。俺の身近にいる人間だとだけ。帰ったらちゃん
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第973話

もともと二人は青山でバカンスを過ごして、関係を深める予定だった。だが一夜明けた途端、命に関わるような危険に巻き込まれてしまった。「瞳が今朝一番に電話してきて、昨日の夜とわこからメッセージがあって、奏と再婚するって決めたって!」マイクはそのニュースに興奮していたが、それからわずか30分後、二人が青山で危険な目に遭ったことを知った。「でも無事でよかったよ、本当に」「これは一郎を呼び戻して一緒に盛り上がらないと!」子遠はスマホを取り出し、海外出張中の一郎に連絡しようとした。マイクは腕時計を見て立ち上がる。「俺、蓮の学校に行ってくる。この話、突然すぎるから、事前に伝えておかないと夕方家に帰ったときにショックが大きすぎるかもしれない」子遠はマイクの腕を掴んで頼み込む。「お願いだ、蓮を説得してやってくれ。社長ととわこ、ここまで来るのに本当に大変だったんだ。やっと一緒になれるって決めたんだから、蓮の反対でダメになったら辛すぎる」マイクはうなずいた。「大丈夫、分かってる。それに蓮は、そんな理不尽な子じゃない。あれだけ奏を憎んでるのも、奏が手加減なしだったからだろ?」子遠はバツが悪そうに苦笑した。「うん、社長、レラと蓮が自分の子だって知らなかった時期は、本当に手がつけられないくらい短気だった。でも今はすごく変わった。これからは、絶対に子どもたちを大切にするよ」「分かってる。任せとけ、蓮にはちゃんと話す」マイクは真剣にうなずいた。夕方、館山エリアの別荘。とわこと奏が無事に帰ってきたことを祝って、みんなが集まり、ちょっとしたパーティーが開かれた。とわこは、蓮が奏に会っても部屋に引きこもらなかったことに驚いた。全員が席につき、ディナーが始まった。とわこは二人の子どもたちに視線を向けた。「蓮、レラ、ママから二人に話したいことがあるの」レラの澄んだ瞳が彼女を見つめた。「うん、ママ。パパと結婚するんでしょ?それってママが自分の結婚相手を決めることでしょ?私たちの旦那さんを選ぶわけじゃないんだから、私たちに許可取らなくていいよ!」蓮も静かに頷いた。とわこ「......」あまりにあっさりした二人の反応に、とわこは逆に戸惑った。こんなにスムーズで、本当に現実なのかと疑ってしまうほどだった。「ありがとう。でも、ママはやっぱりちゃんと
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第974話

彼女はほとんど考える間もなく、車のドアを開けて飛び出した。視界の先に見えたのは黒介の兄だった。以前アメリカで彼らを探した時、近所の人に「引っ越した」と言われ、その後も彼らの行方をずっと探していた。まさか、彼らが日本に来ていたなんて!車を降りると、彼女はその男性のもとへ駆け寄った。「白鳥さん!」とわこは彼の腕を掴み、息を切らしながら言った。「どうして引っ越したの?ここに移住したの?今どこに住んでるの?私、黒介に会いたい!」振り返った哲也の顔に、あからさまな苛立ちと嫌悪が浮かんだ。父が奏に殴られて入院しており、今朝は父のために朝食を買いに出ていたところだった。まさかこんな時にとわこに遭遇するなんて。「三千院先生、いい加減にしてよ。俺たち、あなたとそんなに親しい?俺たちの引っ越しがあなたと何の関係があるの?どうしてうちの弟に執着する?」哲也は彼女の手を振り払った。「父が入院してる。今から病院に行かなきゃいけないんで、どいて」とわこは一瞬驚き、問い返した。「お父さん、どうしたの?治療のために来たの?私だってあなたを煩わせたいわけじゃない。でも、どうして黒介からスマホを取り上げてるの?彼は人間よ!動物じゃない。あなたたちに、彼の自由を制限する権利なんてないわ!」「自由だって?笑わせないでよ。アイツはバカなんだ。バカに自由を与えたら、死ぬのも時間の問題だよ」哲也は軽蔑を込めて吐き捨てた。その言葉に、とわこは怒りで理性を失いかけた。拳をぎゅっと握りしめ、今にも爆発しそうなほど感情が高ぶる。黒介はもう「バカ」なんかじゃない。彼には、ちゃんと自分の意思がある!「あなた、本当に彼の実の兄なの?」とわこは歯を食いしばって睨みつけた。「もし本当の兄だったら、そんな非道なこと言えるはずがない!」「実の兄かどうか、あんたに関係ないでしょ?でかい声出して、道の真ん中で演説でも始めるつもり?」そう吐き捨てて、哲也は彼女を無視して立ち去ろうとした。とわこは再び彼の腕を掴み、低い声で警告する。「ここは日本よ。もし今夜、私が黒介と連絡できなかったら、あんたとお父さん、覚悟しときなさい。私が誰か、忘れたわけじゃないわよね?私はただの先生じゃない。三千院グループの社長よ」彼女の一言に、哲也の顔は真っ青になった。柔らかくて大人しそうに見えるが、と
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第975話

「どうして君の車がレッカー移動されたんだ?」彼は眉間に皺を寄せ、声を落とした。「何があった?どうして俺に連絡しなかった?」「大した事じゃないわ」とわこは水を手に取り、口を潤した。「道中で、アメリカにいた患者さんのお兄さんに偶然会ってね。その患者さんの家族は、ちょっと変わってるの。彼らは私に、患者さんと連絡を取らせようとしないのよ。私はそれがどうしても納得できなくて、つい声を荒げちゃった」とわこの説明を聞いた奏は、どこか呆れたような表情を浮かべた。「とわこ、患者さんの家族がその人と連絡を取らせたくないと言うなら、それを尊重すべきじゃないか?その人はあくまで君の患者であって、家族ではない。君には他人の家庭に干渉する権利はない」「やっぱり、そう言うと思った」とわこは眉をひそめた。「でも、あの人は普通の患者じゃないの」「分かってる。彼も結菜と同じ病気だったよな。だから君は特別に気にかけてるんだろ?」奏は彼女の言葉を遮って続ける。「でも、彼の家族が高額な費用を払って君を雇ったってことは、きっとそれなりに裕福な家庭なんだ。だからきちんと面倒は見てるはずだよ」「でもね、問題はそこなの。ちゃんと面倒を見ていないから、私は気になって仕方ないのよ」とわこは目を伏せた。「あなたには無関係に見えるかもしれない。でも、私には放っておけなかった」奏の表情が一瞬和らぐ。「とわこ、君を責めてるわけじゃない。ただ、もし本当に虐待されてるのなら、君が関わっても構わない。俺が後ろ盾になる」とわこは慌てて首を横に振った。「私はおせっかいなだけで、自分の手に負えないことはしないわ。あなたは私との結婚式で忙しいでしょ?この件は私だけで何とかするから、心配しないで」「うん」「ねぇ、奏、あなたも昔この病気だったって聞いたわ。名医に治してもらったって」とわこはふと気になっていたことを口にした。「その後、その先生に会いに行ったことはある?」奏の瞳がわずかに揺れる。「そんな話、誰にも聞いたことがない。先生のことも何一つ覚えてないし、探しようがないよ」「そう、残念ね」とわこは時計を見て立ち上がった。「そろそろお昼に行こう。お腹空いちゃった」「いいよ。次から車がレッカー移動されたら、ちゃんと俺に言って。君が一人で動く必要なんてない」「もう、次はないわ」とわこは少し恥ずかし
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第976話

「とわこ、何を見てるんだ?」奏の整った顔が、少し赤く染まった。和解して以来、ふたりは以前のような親密さを取り戻していたが、彼女が喧嘩もしていないのに、こんなふうに真っ直ぐ自分を見つめてくるのは珍しい。彼には、彼女の心の内が読めなかった。だからこそ、彼女に惹かれてしまうのだろう。「今日のあなた、なんだか特別にカッコいいわ」とわこは彼の手を取り、ソファへと座らせると、彼の髪にそっと指を通した。「ヘアジェル付けてるの?付けすぎると髪に悪いわよ。付けなくても、十分カッコいいんだから」「......」奏は疑問を隠せなかった。今日は何か変だな。薬でも飲み間違えたか?「朝ごはんは食べた?ミルクでも飲む?」彼女はそう言うと、返事も待たずにキッチンへ行き、温めたミルクを持ってきた。「温かいから、飲んで」ミルクのカップを受け取った彼は、彼女の様子を怪訝そうに見つめる。「とわこ」「動かないで!あなたの髪に白髪が見えたかも!」彼女は彼の顔を正面に向け直し、慎重に髪の中から二本ほどを引き抜いた。痛みは大したことなかったが、精神的な衝撃はかなりのものだった。白髪があるなんて。「見せてくれ」奏は自分の白髪を確認しようとした。とわこの表情に一瞬、動揺の色が走った。「白髪なんて見るものじゃないわ。さっき引っこ抜いたの、もう床に捨てちゃったし。探したかったら、床を見てみる?」そう言って、彼女は大きくあくびをした。奏が床にしゃがみ込んで自分の白髪を探すわけがない。だが、不思議なことに、彼女の様子は、その白髪を抜いたあたりから、妙に落ち着いてきた気がする。「昨日、今朝来るなんて言ってなかったでしょ?こんなに早く来たってことは、何か用事?」とわこはそう言いながら寝室へ向かう。「着替えてくるから、リビングで待ってて」奏はミルクを持ったまま、ソファから立ち上がった。ちょうどそこへ三浦が、蒼を抱いて現れた。「蒼は今朝の五時に起きて、七時まで遊び続けてました。今はとっても気持ちよさそうに寝てますよ」三浦は笑顔で言った。「寝返りも上手になってきたし、あと二ヶ月もすれば、歩き出すかもしれませんね」奏は、息子の丸いほっぺたを見つめ、優しく目を細めた。「三浦さん、とわこ、さっきちょっと変じゃなかった?」三浦はきょとんとして答えた。「変で
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第977話

「で?一緒に暮らす話って何か特別な条件でもあるの?」椅子に腰を下ろしたとわこが、顔を上げて彼を見つめた。奏は首を横に振る。「俺がこっちに引っ越したら、蓮が気を遣うんじゃないかって思って」「それならハッキリ言っておくけど、私があなたの家に住むことは絶対にないわ」とわこは即答し、言葉を続けた。「子どもたちをそっちに連れて行くつもりもないし、私は子どもたちと離れて暮らせないの。あなたを傷つけたくないけど、私の中では、三人の子どもがあなたより優先なのよ」奏は無言になった。彼女が言わなくても、そんなことはとうに分かっていた。けれど、改めて言葉にされると、胸がチクリと痛んだ。どうすれば、誰も傷つけずに済むんだ。彼が黙り込むのを見て、とわこは言いすぎたと後悔した。「じゃあ、こんなふうに考えない?」彼女は優しく言った。「どっちに住むかを大きな問題にしないで、あなたがこっちに来てもいいし、私がそっちに行ってもいい。ただの選択肢。悩みすぎたら、本当に難しくなっちゃうから」奏は、少しだけ微笑み、静かに言った。「ちゃんと考えた結果なんだけど、結婚式までは、子どもたちに少し時間をあげたいと思って。俺たちがもう仲直りしたって、自然に受け入れてもらえるように。だから式までは、一緒に住むのはやめておこう」彼女は冗談交じりに褒めた。「昔からそのくらい冷静で思慮深かったら、私たちもこんなに遠回りしなかったかもね」彼は自嘲気味に笑う。「白髪も生えたしな。大人にもなるさ」「一応フォローしておくけど、私が見たのは一本だけよ。全然気にするほどじゃない」彼女は笑いながら言った。「ちゃんと運動続けてたら、誰もあなたのこと私のパパだなんて思わないって」「......」朝食を食べ終えると、奏はデザイン案を持ってきて見せた。一つはプロのデザイナーが作ったもので、もう一つは彼自身が描いたデザイン。とわこは両方をじっくり見比べた後、奏が描いた方を選んだ。「別にあなたの方が上手ってわけじゃないの。でも、あなたがデザインした指輪を着けてたら、周りに自慢できるでしょ?『これ、私の旦那がデザインしたのよ』って。それって、ただの指輪じゃなくて愛そのものじゃない?」その言葉に、奏の顔がパァッと明るくなった。「今日は仕事?それとも家でゆっくり?」彼が尋ねた。
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第978話

「いい知らせ?僕を地獄に突き落とさないなら、それが一番の朗報だよ」弥は皮肉たっぷりに笑った。とわこは数秒沈黙し、わざと挑発的に言った。「それが限界?もしあなたの叔父さんに呼び出されたら、ビビって逃げ出すつもり?」「とわこ!」弥は怒ったように叫ぶ。「何でそんなに僕を責めるんだよ!もう全部失ったんだ、放っといてくれよ!君と叔父さんの話なんて聞きたくもないし、どうでもいい!結婚でも何でも勝手にすればいいけど、僕には関係ない!どうせ叔父さんは僕なんか絶対に呼ばないよ!」彼の言い分を最後まで黙って聞いたとわこは、落ち着いた声で言った。「確かに、私とあなたの叔父さんは結婚する予定よ。でも、招待するかどうかは私が決める。今の彼は、私の言うことをちゃんと聞くの」弥は言葉を失った。「弥、一度会って話せない?直接伝えたいことがあるの」彼女は奏の名を餌にして誘いをかけた。「あなたの叔父さん、実はそんなに冷たい人じゃない。ちゃんと会って話せば、分かることもあるはずよ」弥は少し考えた末、しぶしぶ会うことに同意した。約四十分後、二人はとあるカフェで落ち合った。窓際の席に座ると、とわこはラテを一杯注文した。「本当に叔父さんと結婚するのか?」弥はじっと彼女の顔を見つめて聞いた。「そんなこと、嘘ついても意味ないでしょ」とわこはさらりと言った。「ところで、あなたとお父さん、あの家売ったんでしょ?今はどこに住んでるの?結婚式に来たいなら、招待状送らせるけど」「えっ、マジで?僕も呼ぶつもりなの?」弥は少し驚いたような、そして戸惑ったような表情を浮かべた。「他にどうするのよ?あんたとお父さん、二人で来たって、食費かかるのはせいぜい二人分。奏が破産するほどじゃないでしょ」彼女はニヤリと笑って続けた。「で、今はどこ住んでるの?」「今は賃貸。新しい家、まだ決まってない。親父はこの街から出たいって言ってるけど、僕は嫌だって反対しててずっと揉めてる」弥は少し気落ちした様子で言った。「僕が親不孝だったのは認める。これからは、もっと親父に尽くしてやりたいって思ってる」「その気持ちがあるだけでも偉いよ」とわこは優しく言いながら、無意識に彼の髪に目をやった。「それで、これからどうするの?仕事のこととか」「起業するつもり。自分の会社を持ちたい」弥はうんざりしたように言
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第979話

「白髪なんて、見てもしょうがないでしょ。白い髪よ?頭の中で想像くらいできるでしょ」とわこの返答に、弥は言葉を失った。「やっぱりわざとだろ、これ」彼は小声でぶつぶつ言った。「アンタの脂っこい髪を文句も言わずに抜いてやったのに、感謝しなさい。奏がやったら、髪なんて抜かない、頭ごと持ってくから」とわこが涼しい顔で言うと、弥の顔色は一気に青ざめた。「ちょっと、さっきは、叔父さんそんなに冷たくないって言ってたじゃんか!」「そうよ。だから今、生きてるんじゃない。もしあんたが本当に他人だったら、とっくにこの世にいないでしょ」とわこはあっさり言った。「このコーヒー飲み終わったら、私帰るから」「え?え、もう?ちゃんと話があるって言ってたじゃん。何を話すつもりだったの?」「もう話したよ」とわこはラテをひと口飲んで、まっすぐ彼を見た。「ただ、あんたが今どうしてるか知りたかっただけ。でも、そんなみすぼらしい暮らししてるって分かったらなんか、言葉が出なくなった」「なんで?」弥は素直に聞いた。「だって私、今すっごく順調なんだよ。何を言っても、全部マウントみたいになりそうで。それって、ちょっと道徳的にどうかと思って」最後のひと口を飲み終えると、彼女はバッグを持って立ち上がった。「コーヒー代は私が払うから、ゆっくり飲んで」弥は彼女の去っていく背中を呆然と見送った。彼らが交わした言葉なんて、少ない。しかも、ほとんど電話で済むような内容ばかりだ。電話では絶対にできなかったこと、それは、とわこが彼の髪をひと束抜いたことだけ。そう、一本じゃない。弥は今でも断言できる。抜かれたのはひと束だった。今も頭皮がジンジン痛むのが、その証拠。カフェを出たとわこは車に乗り込み、DNA鑑定センターへと向かった。胸の奥がざわついて、落ち着かない。緊張もしていた。結果がどうなるのか、まったく予想がつかない。もし奏と弥が叔父と甥としてDNA上で一致したら、これまで通りの日常が続いていくだけ。ただ、自分の常識が覆されるだけだった。つまり、世の中には本当に見かけによらない天才がいる、ということを信じることになる。でも、もし一致しなかったら......彼女は思わず、重いため息をついた。もし結果が一致しなかったら、それはつまり奏が常盤家の人間ではな
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第980話

常盤グループ。一郎は奏の椅子にふんぞり返り、ふざけたような笑みを浮かべていた。ドアが開き、奏が入ってくると、すかさず口を開いた。「奏、さすがに早すぎない?たった二日でとわこを落として、もう結婚準備って。子遠から電話もらわなかったら、式が終わるまで黙ってるつもりだった?」からかい口調だが、悪意はない。今の奏が何を言われても怒らないことを、一郎はよく分かっていた。奏は無言で机まで歩くと、短く問いかけた。「三木家と大石家って、関係が深かったか?」「大石家ってどの?」「青山の大石家。大石が亡くなって、今は息子の大石修介が当主だ」その口調には明らかな怒気が混じっていた。「俺があの時、内部のスタッフを買収してなかったら、今ごろ死んでいたかもしれない」「マジかよ」一郎は仰天し、勢いよく椅子から立ち上がった。「子遠からは、君ととわこが結婚するって話しか聞いてないぞ。命の危機なんて一言も!三木家と大石家の関係は正直よくわからん。直美って家の話はほとんどしなかったからな」「数年前、直美が休暇を取ったことがあっただろ?あれ、大石家の宴に出席するためだった。お前は、忘れたかもしれないが」「そう言えば、そんなこともあったな」一郎は腕を組み、眉をひそめた。「でもまさか、彼女が君を殺そうとしたって思ってるのか?無理だろ、それは。直美って、君のためなら命だって捨てるタイプだぞ?」「彼女はもう、あの頃の直美じゃない」奏の目が鋭く光る。「殺そうとしたのは俺だけじゃない。あの別荘にいた全員を殺す気だった。彼女の心は、もう完全に歪んでるんだ」一郎は、言葉を失った。「もう、彼女を野放しにはできない」奏は彼の目をじっと見つめる。「今度の結婚式の招待状、彼女に届けてくれ。それとなく話を引き出してくれ。俺は、確信が欲しいんだ」その言葉に、一郎の笑顔がすっと消えた。「もし、彼女が自分じゃないって言ったら?」「なら、スマホを見せてもらう。あの夜、大石と通話していたかどうかを調べる」奏の声は冷徹だった。一郎は小さくうなずいた。「了解。けど、もし本当に彼女が犯人だったらどうする?やっぱり、殺すのか?」「殺さなければ、俺が殺される」奏の拳がきつく握りしめられる。「俺はもうすぐとわこと結婚する。俺たちには三人の子どもがいる。死ぬわけにはいかない。とわこや子どもたちに
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