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第972話

Author: かんもく
「とわこ、俺は無事だ」電話の向こうから奏の低く落ち着いた声が聞こえてきた。「今朝のことは......」

「会ってから話して」彼女の声は震えていた。「無事でよかった。奏、本当に、死ぬかと思った」

とわこの怯えたような声を聞きながら、奏は優しくなだめるように言った。「もう大丈夫だ。すぐに山を下りて会いに行くよ」

電話を切ったとわこは、手で涙をぬぐった。

側にいたボディーガードは慰めようとしたが、出てきたのはこんな言葉だった。「社長はまだ死んでないよ!泣いてる女って、正直見てらんねぇんだよな」

とわこは涙に滲んだ目で彼を見つめ、不思議そうに聞いた。「どうしてそんなに冷静なの?心配じゃなかったの?ずっと落ち着いてるように見えたけど」

ボディーガードは鼻で笑った。「今日の騒ぎなんて大したことねぇよ。社長は今まで何度も命狙われてんだ。何回も、もっとやばい状況に陥ったことがある。君があの人と一緒にいるってんなら、自分もいつ殺されるか分からない、覚悟しとけよ」

とわこ「???」

彼女の呆れたような顔を見て、ボディーガードも思わず固まった。

もしかして、怖がらせすぎて別れたりしないよな?

だが、すぐに考え直す。もしそれくらいの覚悟もないなら、彼女は社長にふさわしくない。

「危ないのはあんただけじゃねぇ。子どもも危険だぜ?海外のニュース見たことあるだろ?富豪の子どもが誘拐されたなんて話、いくらでもある。わざわざ俺が説明するまでもねぇだろ」

とわこ「......」

奏が山を下りてきた時、とわこの顔はまだ青ざめていた。明らかにショックから抜け切れていない。

「とわこ、今朝は本当に怖かったよな」彼は彼女をしっかりと抱き寄せた。「奴らが君を人質にしたら、俺は動けなくなる」

とわこはこくりと頷き、尋ねた。「奏、いつも暗殺されそうになるの?」

奏は苦笑した。「なんで急にそんなこと聞く?今日のは暗殺ってほどじゃない。大石が誰かにそそのかされて、あの別荘にいた全員を爆破しようとしたんだ。国を混乱に陥れれば、経済を握れるとでも思ったんだろう。バカげてるにもほどがある」

「どうしてそんな恐ろしいことを」

「そいつ自身にそんな知恵はない。裏で誰かが操ってた」

「誰が?」とわこは背中に冷たいものが走った。

「名前は言わなかった。俺の身近にいる人間だとだけ。帰ったらちゃん
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