「え、みんな、なんで彼女が妊娠してるって知ってるの?」思わず私はそう口にした。こんなこと、知ってる人なんてほとんどいないはずなのに。「さあね」来依は足を組み、気だるげに座った。「不倫女を叩きたい人なんて山ほどいるし。たぶん、本人がどこかでヘマしたんじゃない?それで噂が広まったんでしょ」「見てるだけにしときなよ。深入りしないで」私は別に、正義の味方でもなんでもない。江川アナと江川宏が婚姻中に不倫したところで、どれだけ叩かれようが自業自得だと思ってる。ただ、江川宏の性格が厄介だ。彼がアナのために「正義」を振りかざすようなことをすれば、来依が巻き込まれるのが心配だった。彼女はこの鹿児島で一人でなんとかやってきた。それだけでもう、精一杯だ。江川宏に目をつけられたら、ひとたまりもない。来依は落ち着かないように耳を触りながら、早口でぼそっと言った。「……わかってるってば」早すぎて、正直ほとんど聞き取れなかった。お腹いっぱいになったら、彼女は素直に薬を飲んで、それからソファにくるまってゲームに夢中になった。私はというと、テーブルにうつ伏せになって、デザインコンテスト用のアイデアを考え続けていた。MSからの締切はタイトで、頭の中にある構想もまだぼやけていて、なんとか形にしないと間に合わない。午後、ダイニングテーブルに置いていたスマホが突然鳴り出した。来依がちらっと画面を覗いて言った。「彼からじゃん。なんの用?」「さあ」私は首をかしげながら電話を取った。すると、江川宏の感情の読めない声が耳に飛び込んできた。「今日、会社に来てないのか?」「うん」まさか彼が私の出社を気にしていたなんて、ちょっと驚いた。「この2日、ちょっと用事があって。在宅で仕事してるの」昨晩、小林にはちゃんと伝えてある。何かあれば電話してくれって。私の今の業務は、パソコンさえあればできる。それに会議だって、江川アナは私に発言権を取られるのを恐れて、むしろ来ないでくれたほうが都合がいいと思ってる。「なにか、あったの?」私がそう訊いた瞬間、電話の向こうからもう一人の声が割り込んできた。「宏、こんなときにまで彼女の心配?あなたが聞かないなら、私が聞くから!」電話を奪い取ったらしく、江川ア
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