All Chapters of 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私: Chapter 1201 - Chapter 1210

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第1201話

千景は部屋の中を見回しながら、静かに探索を始めた。足元のゴミやがらくたを、時折蹴り飛ばしつつ進んでいく。家具はすでにすべて運び出されており、もしもブレスレットが家具の中に入っていたのなら、とっくに持ち去られているはずだった。でも、もし本当にそこにあったのなら、それはそもそも安全とは言えなかった。若子の両親が蘭に盗まれることを心配していたのなら、もっとずっと見つかりにくい場所に隠していたはずだ。千景は壁をコンコンと指で叩きながら、何か手がかりを探す。「冴島さん、本当にブレスレットがあったとして......父さんと母さんが家に隠したと思う?」若子の問いかけに、千景は少しも迷わず答えた。「もしそれが本当に高価なものなら、他人には預けないはずだ。家の中に適当に置くのも危ないし、君の叔母さんが盗んで博打に使うのを恐れてたなら、なおさら慎重になる。だから......きっとどこか、誰にも気づかれないような場所に隠したんだと思う。君の両親って、そういう慎重な人だったんじゃないか?」「うん......そうだね」若子は両親の顔を思い出し、鼻の奥がつんとした。「ふたりとも、すごく真面目で、慎重で......何に対しても全力だった。仕事も生活も、大切にしてた。でも、どうして......神様はあんな仕打ちを......」俯いた若子のもとに、千景が歩み寄ってくる足音が聞こえた。両手のひらは埃まみれ。彼は彼女の前でしゃがみこみ、見上げながら言った。「君の両親は、きっと天国から、君のこと見守ってるよ」「そうだといいな。もし天国があるなら......行けてるといいな」若子はそうつぶやいて、静かに窓の外を見つめた。千景は立ち上がると、再び部屋の中を探し始めた。若子はそっと息子を抱きしめ、頬にやさしくキスを落とす。「暁......おじいちゃんとおばあちゃんも、きっと空の上で、君のことを見守ってくれてるよ」「おじいちゃん、おばあちゃん!」小さな声で、子どもがはっきりと呼んだ。若子は驚きとともに、思わず微笑んだ。「暁」幼い声が、胸の痛みをすっと和らげてくれた気がした。「そう、ふたりは暁の大切なおじいちゃんとおばあちゃん。ちゃんと覚えててね」暁の目はつぶらで澄んでいて、まるで黒くて小さな葡萄のようだった。その純粋な輝きに、若子は思
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第1202話

「どうしたの?」若子がすぐに尋ねる。千景は拳を握りしめ、もう一度コンコンと壁を叩いた。「この中、何かある」そう言いながらあたりを見渡し、床に落ちていた古いハンマーを見つけてしゃがみ込む。「若子、ちょっと離れてて」「うん」若子は後ろに下がり、子どもをぎゅっと抱きしめた。音に驚かないように、自然とその体を庇うように。千景は手にしたハンマーを壁に振り下ろした。ガンッ、ガンッ、ガンッ!数度の衝撃音のあと、壁の外側のコンクリートが崩れ、バラバラと地面に落ちていった。そして、その下から小さな空洞が現れる。「中に......何かある」千景はさらにハンマーで周囲を砕き、開口部を広げていった。やがて、その中から小さな金庫が姿を現す。壁は意外と薄く、金庫も手のひらほどの小型のものだった。それを目にした若子の胸がどくんと高鳴る。「まさか......あのブレスレット、ここに?」「ちょっと開けてみる」千景は金庫を慎重に壁から取り出した。錠前は簡易的なもので、外から見えない場所に隠されていたせいか、頑丈ではなかった。千景はハンマーでその錠前を叩き、パキンという音とともに開けた。しかし、金庫の中にブレスレットはなかった。入っていたのは、たった一枚の紙切れだけ。千景がそれを取り出して文字を確認する。【ここに置くのはちょっと心配なので、私が預かっておきます。また今度お渡ししますね】若子は紙を受け取り、その内容を読んだ瞬間、顔色が一変した。「誰?こんなの書いたの、誰?」千景も険しい顔で眉を寄せた。「俺たちが来る前に、誰かがここに来たらしい。手遅れだった......」紙はまだ新しく、インクも鮮明だった。どう見ても、長い間ここにあったとは思えない。「誰なんだろう......?」若子は不安げに呟いた。「あのブレスレットを、他に知ってる人がいたの?もしかして、叔母さんと関係あるの?」千景は少しの間考え込んだあと、首を振った。「いや、あいつにそこまでの力はない。もし本当に彼女が手に入れたかったなら、とっくに奪ってるはずだ。この紙、見た目が新しい。つまり、俺たちより先に誰かがここに来た。その誰かは、君のことをよく知ってるはずだ」「それって......」若子は、背筋がぞくっとするのを感じた。「いっ
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第1203話

「私ですよ、あなたを助けた者。こんなに早く忘れるなんて、ちょっと悲しいですね。まだそんなに時間も経っていないのに」「助けた?何の話よ......」若子が反論しかけたそのとき、ふと一つの記憶が蘇る。「......まさか、私を誘拐した人間?」電話の向こうの男は、少し大げさにため息をついた。「そんな言い方、ひどいじゃないですか。あのときだって、私はあなたを助けたんですよ?あのままだったら、命はなかった」「助けた?誘拐して、二択を迫って、私に感謝しろって言いたいの?ふざけないで!」男の声には、どこか寂しげな響きが混じる。「そんなふうに言われると、さすがに傷つきますね。そんなに私のこと、嫌いだったんですか」「ブレスレットを盗んで何がしたいの?ずっと私を監視してるの?あなた、一体何者なの!?」若子の声が震える。怒りと恐怖が入り混じったその声が、部屋の空気を張り詰めさせた。「そんなに一気に聞かれると、どう答えたらいいか分かりませんね。でも、どんな形であれ、私はあなたの命を救ったんですよ。それに、藤沢さんが病気じゃないことも教えてあげました。感謝してくれとは言いませんが、少しぐらい優しくしてくれてもいいのでは?」「何が目的なの!?」若子の声が一段と強くなる。「さあ、私にも分かりません。気分次第......でしょうか」若子は深く息を吸い、目を閉じて感情を落ち着ける。そして目を開き、毅然とした声で言い放った。「そのブレスレットで私を脅そうなんて無駄よ。欲しければ持っていけばいい。私は、そんなことであなたの言いなりにはならない」「そうですか」男の声は、どこか楽しげに揺れた。「分かりました。それでは」プツッ、と通話が切れる音が鳴った。若子は手をゆっくりと下ろし、その場に立ち尽くす。千景が彼女のそばに歩み寄り、表情を曇らせながら問いかけた。「さっきのやつ......ただのストーカーか何かか?前に何かあったのか?」若子は少しの沈黙のあと、かつての出来事を語り始めた。その話を聞き終えた千景の顔には、うっすらと怒りの色が浮かんでいた。「そんなことがあったのか......そりゃ、君が叔母さんとうまくいってなかったのも当然だな」「あの出来事......もう過去のことだと思ってたのに」若子の目が少し赤くなる。
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第1204話

しかも、その登場人物の名前は―ひとりは山田安奈、もうひとりは山田侑子。そして小説の中で起きている出来事も、ふたりが過去にやったこととまるで同じだった。―これ、私たちのこと?どう考えても偶然とは思えない一致に、ふたりの背中を冷たいものが這い上がる。「侑子姉も分かったでしょ?」安奈が低い声で言った。「......どうして、こんなことに?」「この作者......誰?」侑子はすぐに作者プロフィールを確認し、他に書いている作品も調べた。だが、どれもごく普通の小説ばかり。特に目立つようなものではない。しかし、今この瞬間、ふたりの心はパニック寸前だった。まさか、自分たちがやったことが、そのまま小説に書かれているなんて。しかもその作品は、安奈が長く読んでいた大好きな作品の一つだった。しかも―「安奈」と「侑子」という名前のキャラが出てきたのは、つい最近のことだった。ふたりは焦りながらも夜更けまで調べ続け、ネット上で作者の情報を探し出そうとした。だが、いくら検索しても、何も出てこなかった。その作者は、執筆しているプラットフォーム以外では、まったく姿を現していない。SNSアカウントもなく、個人情報も見当たらない。侑子と安奈は、完全に追い詰められていた。この小説の内容は、あまりにも「リアルすぎる」。偶然にしては出来すぎている。あり得ない。それに、仮に出来事だけならまだしも、名前まで一緒だなんて。そんな中、侑子はひそかに新しいアカウントを作成し、作者のページにコメントを投稿した。読者のフリを装って、わざと自然な文面にしたのだ。【この作品、ずっと読んでます!とても面白いです!でも、最近の内容がちょっと気になります......どうして急にこんな話になったんですか?安奈さんと侑子さんって、何か特別な意味があるんですか?ぜひ教えてください!】五つ星をつけ、コメントを送信したあと、侑子の手のひらはじっとりと汗ばんでいた。ベッドに横になっても心臓の鼓動は速くなるばかりで、スマホを握りしめたまま何度も画面を開いては、コメント欄を確認した。けれど、空が白んできても、作者からの返信はなかった。この件があまりにも不自然すぎて、侑子の心はざわついていた。「読者」を装ってコメントを投稿したものの、内心は不安でいっぱいだった。しか
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第1205話

侑子はさらに聞きたかったが、どう聞けばいいのか分からなかった。それに、「安奈」と「侑子」が実在する人物かどうか―そんなことは、怖くて聞けなかった。コメント欄には、ふたりが登場してからというもの、そのふたりについてのコメントが急激に増えていた。しかも、その多くが否定的なもので、内容はふたりがやったことを「いずれ知られることになる」と言わんばかりのものばかりだった。それを見て、侑子は明らかに動揺した。まるで、すでに大勢の人に知られてしまっているかのような錯覚に陥る。それからというもの、侑子も小説の更新を欠かさずチェックするようになった。新しい章では、彼女と安奈に関する記述がどんどん増えていき、どれもこれもリアルすぎる。人を傷つけた描写や、葬儀のシーンまで描かれていて―その台詞までが、ほとんど一致していた。そこでふたりは、ひとつの結論にたどり着く。この小説―書いているのは若子だ。ずっと執筆していた若子が、偶然にも安奈がその作品の読者だったことに気づき、現実のふたりをモデルにして書き始めたのではないか。ある午後、侑子と安奈は若子と会うことにした。若子はひとりで来た。子どもは連れていない。会場は、若子の指定したカフェだった。人の出入りが多く、何かあっても騒ぎにはなりにくい。侑子と安奈はすでに席に着いていた。若子は最後に到着した。テーブルの上には、コーヒーとスイーツが並んでいた。それは侑子が注文したものだったが、若子は手をつけず、無言で端に押しやった。「で?会いたいって言ったのはそっちだけど―何か、やったことを認めに来た?」若子は開口一番、容赦なく切り込んだ。侑子の表情が一瞬こわばる。「そんな言い方しなくても......前にあったこと、ちゃんと話しておきたかったの。ただ、誤解されたままなのが嫌で、説明できたらと思って......」「そうそう」安奈も続いて言った。「あの後、侑子姉にも注意されたんだけど......お墓の前であんなこと言って、本当に悪かったと思ってるの。ずっと後悔してて、だから直接謝りたくて」ふたりが若子に会いたい本当の理由は、もちろん口には出せない。若子の視線が安奈の顔に向かう。彼女は無理やり作ったような笑みを浮かべていたが、どう見ても謝罪の態度には見えなかった。―やっ
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第1206話

若子はスマホの画面を一瞥し、淡々と言った。「私が小説書いたって?......初耳なんだけど」「誤魔化しても無駄!絶対にあんたが書いたんでしょ。じゃなきゃ、私たちの名前がこんな偶然で出てくるわけないじゃない!」「さあね、それは私にも分からないな」若子の表情はどこまでも冷静だった。「他に誰が知るのよ!?絶対あんた......!」「安奈、やめなって」侑子が焦って彼女の腕を掴んだ。安奈は怒りをこらえ、スマホをテーブルに置く。侑子が口を開く。「松本さん、あなたが小説なんて書けるなんて、知らなかった」「書いてないよ。信じるも信じないもご自由に」そのとき、画面に新しい更新通知が表示された。また一章、追加されていた。今回もまた、内容は安奈と侑子のことだった。安奈はその場で一気に読み終え、最後に作者が書き添えた一言を確認した。【今日はあと数章投稿予定。今執筆中です、もう少しお待ちくださいね】ふたりは顔を上げ、若子を見た。......これ、絶対に事前に予約投稿されてる。若子はゆっくりと立ち上がる。「ほんと、くだらない。今日私に会いに来たのが小説のせいだなんて、呆れて笑いも出ないわ」そう言い残して、背を向ける。「待って!」侑子が後を追いかけた。「この小説が本当にあんたのじゃないとしても、絶対あんたが関わってる!だからあんな風に、私と安奈を侮辱するなんて許せない。私たち、名誉毀損で訴えるわよ!」「へえ、訴えれば?でもまず、書いたのが私って証明できる?」若子は振り返りながら冷笑する。「同姓同名なんていくらでもいるのに、そこまでムキになるなんて、かえって怪しまれるだけだよ?裁判所が受けてくれたらいいけどね」そして、くるりと背を向け、そのまま去っていった。「こいつ......!」安奈が立ち上がろうとするが、侑子がそれを止めた。「やめときなさい。追ったって意味ないわ......もっと別の方法を考えましょ」若子は車に戻り、運転席で待っていた千景の隣に座る。「どうだった?」千景が短く尋ねた。「ふたりとも、動揺してた」若子はそう言った。やましいことをしていれば、たとえそれが架空の物語に書かれていても、心に響いてしまう。自分たちの悪事が暴かれたような気がして、落ち着いていられなくなるのだ。
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第1207話

「このブレスレット、多分......君のだ」千景の表情が少しだけ険しくなる。「手に入れたあの人物が、わざと送ってきたんだと思う」そのとき、若子のスマホが再び鳴り響いた。画面には見知らぬ番号が表示されていたが、彼女にはもう誰からか察しがついていた。通話を繋ぎ、すぐにスピーカーに切り替える。「ブレスレット、気に入りましたか?あなたに届けておきましたよ」その声を聞いた瞬間、若子の血の気が引いた―まさか、子どもに接触していたというの?怒りが一気にこみ上げてきて、若子は怒鳴りつけた。「警告するわ。もしうちの子に指一本でも触れたら、絶対に許さない!」「そんなに興奮しないでくださいよ。もし本当に何かしたのなら、今ごろもう会えてませんよ?返しただけです、あなたの大事なものを」「......じゃあ、何が目的なの?あなたは何をしたいの?」「なぜそんなに怯えているのですか?本気であなたを傷つけたいなら、とっくに命なんてありませんよ」若子は歯を食いしばる。「なっ......!」「ちょっと用事ができたので、また連絡しますね」男は淡々とそう言い残し、通話を切った。「ちょっと、待って!......もしもし!?」若子はすぐに折り返し電話をかけたが、表示されたのは『存在しない番号』だった。相手が誰であれ―ただ者ではない。用意周到で、恐ろしいほど冷静だった。「若子、落ち着け。感情的になったら、あいつの思うツボだ。あいつは君を動揺させるためにわざとやってる」千景が冷静な声で言いながら、彼女の手をそっと握った。「でも......どうして?私、あんな人知らない。けど、あの人は私のことを全部知ってる。私の行動も、気持ちさえも......」「大丈夫、俺がいる。君はひとりじゃない」若子はその手を見つめた。自分の手を包み込むように握っている、大きくてあたたかい手を―ただ黙って見つめていた。......その頃、侑子と安奈は、眠れぬ夜を過ごしていた。何も喉を通らず、ただスマホを握りしめて―例の作者の新しい投稿を、震える手で読み進めていた。作家の更新は驚くほど早かった。そして―その内容は、まさに侑子と安奈のやったことを、あまりにもリアルに、赤裸々に暴き出していた。スマホを置いた侑子は、こっそりと横目で安奈の様子をうかが
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第1208話

侑子は自分の部屋に戻ると、まず扉に鍵をかけた。ベッドに腰を下ろし、スマホを取り出して何度も確認しながら画面を操作する。すべてを確認し終えた後、彼女は修の番号に電話をかけた。「こんな時間に......何か用か?」電話越しの修の声は、少し警戒したような冷たさを含んでいた。「修、お願いがあるの。迎えに来てくれない?どうしても、直接話さなきゃいけないことがあるの」「話なら電話で聞く。わざわざ会う必要あるか?」「だめなの。これは本当に大事な話なの......どうしても、直接じゃなきゃ。お願い、来て......おばあさんのことなの」修は短く黙り込んだ。その数秒後―「......わかった。今すぐ向かう」一時間もしないうちに、修の車は侑子の住むマンションの下に到着した。侑子はすでに着替えを済ませていて、彼からの着信を受けてすぐ、闇の中を抜けるように家を出た。駆け足でマンションの下まで降りていくと、車の前で修が無言で立っていた。彼女が近づくと、修は冷ややかな目で問いかけた。「こんな夜中に、何の用だ?」「とにかく......車に乗って、ここを離れましょ」侑子は助手席のドアを開けて乗り込んだ。修は眉をひそめながらも、特に何も言わずに運転席に乗り込む。「で、何なんだ?何がそんなに重要なんだ?」「修、少しだけ走らせて。話すには、ここじゃないほうがいいの」修は無言のままエンジンをかけ、車を走らせた。およそ十数分後、侑子が静かに言った。「......この辺りで停めて。もう大丈夫」修はちらりと彼女の横顔を見た。真剣そのもので、何か重大なことが起きたとでも言いたげな表情だった。「それで、話って何だ?おばあさんのことだって言ってたな」「修......ごめんなさい......本当に、ごめんなさい......」突然、侑子の目から涙が溢れ出す。「何があったんだ?」「......私......私、誰が......おばあさんを殺したのか、知ってたの......」修の目が鋭くなった。「誰だ......?早く言え」侑子は震える手でスマホを取り出し、録音アプリを開いた。そして―あの夜、安奈と交わしたやり取りを、再生した。修は録音を聞き終えると、顔色が固まり、まるで全身が硬直したかのように
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第1209話

侑子は涙を流し、声を詰まらせて言った。「修、ごめんなさい。安奈がこんなに悪質だなんて知らなかった。私、彼女がただ口が悪いだけだと思ってた。でも、まさか心までこんなに冷たいなんて......!」修は震える手でスマホを手に取り、再び録音を再生した。何度も何度も、安奈と侑子の会話を繰り返し聞いていた。侑子はその間、修の表情をひそかに観察していた。録音には、後ろの部分がカットされていた。残っているのは、侑子と安奈が交わしたやり取りだけ。聞く人が聞けば、この件はすべて安奈の仕業に思えるはずだ。侑子の名前は、まったく出てこないようにしていた。自分がこの事実を明かしたら、すぐに疑われることは分かっていた。しかし、安奈を突き出さなければ、二人ともいつかは暴かれる運命にある。今、彼を先に動かさせなければ、きっと彼が自分を責めてきたはずだ。だから、今のうちに彼を使って、この問題を解決しなければ。修が顔を向け、長い沈黙の後、低い声で言った。「いつから知ってた?」侑子は涙を拭いながら言った。「少し前、安奈が警察に連れて行かれたとき。あたし、あのとき彼女を保釈しに行ったの。理由は、集団で乱交してたって。調べたら出てくるよ」侑子は続けた。「あのときの安奈、全然反省してなくて、『殺人じゃないし、たいしたことない』って笑ってた......そのとき、もしかしてって思ったの。殺人、ほんとにやってるかもって。でも向こうも簡単には言わないから、ずっと探ってた。で、今日ようやく、あの言葉を引き出したんだ」スマホから流れる音声には、安奈が祖母を殺したことを完全に認めていた。修はスマホを握りしめ、次の瞬間、拳でハンドルを叩きつけた。侑子はびくりと肩を震わせた。「修、ごめん......ほんとに、こんなことになるなんて思ってなかった。私、安奈に会うべきじゃなかった。あんな人だって分かってたら、絶対に会わなかった......ごめん、修、ごめん」「黙れ!」修は怒声を上げて叫んだ。確かにこれは安奈がやったことだけど、侑子は安奈の従姉だ。もし安奈がここに来なければ、こんなことにはならなかった。修は録音ファイルを自分のスマホに転送し、侑子に投げ渡した。「出て行け、もうお前なんか見たくない!」侑子は心の中で震え、スマホを握りしめたまま涙を流しながら車を
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第1210話

スマホから流れてきた録音を聞いた安奈は、顔色を失い、もう少しで気を失いかけていました。「違う......違うの、そんなの嘘です!」声を震わせながら、彼女は地面から立ち上がろうとしました。しかし、背後の二人の男にがっちりと押さえつけられ、膝をついたまま動けなくなりました。「違う!」安奈は叫びました。「侑子姉が私をハメたんです!全部あの人の罠なんです!」「ほう、ハメた?」修は冷笑を浮かべながら言いました。「俺のばあさんを殺したのはお前じゃないと?自分の口で認めたんじゃないか?」「ち、違う!私じゃないんです!」安奈は涙混じりに訴えました。「侑子姉は人を使ってやらせたんです!わざと私を誘導して......あの録音も全部仕組まれていたんです!」安奈はようやく気づいた―あれは全部、仕組まれていた。侑子は最初から安奈を替え玉に使うつもりだった。あの録音も、切り取りと歪曲のオンパレード。あんな卑劣なやり口、許せるわけがない!「仕組まれていた、だと?」修は安奈の顔を片手で掴み、まるで壊れ物のようにぐっと力を込めました。歯を噛みしめながら、低い声で問い詰めました。「つまり、やったのは侑子だということか?」「そうです、全部あの人の仕業です!」安奈は叫びました。「主犯は侑子姉なんです!おばあさまを突き落としたのはあの人!でもおばあさまが生きていて、バレるのを恐れて......それで殺したんです。私は......私は利用されただけです!」修はすぐには安奈の言葉を信じなかった。しかし、その言葉が完全に嘘とは限らない、もっと証拠が必要だと感じていた。「どうして、彼女は俺のばあさんを突き落としたんだ?」「それは......」安奈は深呼吸をしながら答えた。「彼女、部屋の中で松本さんの悪口を言ってたんです。ひどく、あんなに悪口を言って、あの時おばあさまがそれを聞いちゃって、すごく怒ったんです。それを知って侑子姉は怖くなって、直接おばあさまを突き落としたんです。あの人は私のいとこだから、私も怖かったんです。あの人は私を脅して、もし私が口を滑らせたら、私を殺すって。あんなに悪い人だなんて、見た目の優しさなんて全然ないんです。私は確かに間違いを犯しましたが、それはかばうためで、私はおばあさまを殺してません、私
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