「見て、あそこ」夏美は少し先を指差しながら、ふと目に哀しみの色を浮かべた。「私の娘はもう亡くなってしまった……この人生で、もうあの子に償うことはできない。でも、こうして少しでも何か残すことで、ほんのわずかでもこの後悔が癒される気がするの」「このお願いが自己中心的だってことは分かってるし、無理なことを頼んでるのも承知してる。千さん……君が嫌なら、もちろん無理にとは言わない」賢は柔らかな口調でそう言い、願いを込めた眼差しを瑠璃に向けた。瑠璃は、彼らの視線の先にある写真館を見つめ、静かに微笑んだ。——なるほど、私の顔を借りて、家族写真を残したいのね。瞬の言葉が脳裏に浮かんだ。——謝罪なんて、本心からとは限らない。ただ自分たちの気持ちを軽くしたいだけ。そういう人間は多い。家族写真を撮って、彼らの心は少し癒されるのかもしれない。けれど、自分は?瑠璃は苦笑を漏らした。目を閉じれば、まだはっきりと思い出せる。——かつて夏美と賢に冷たく突き放されたあの時の光景を。この短い間、彼らに与えてきたものは、もう十分すぎるほどだった。「申し訳ないけれど……お応えできません」瑠璃ははっきりと断った。「私は、瑠璃の代わりになるつもりはありません。彼女の悲しい人生をなぞる気はないし、その名前と関わることも、望んでいないんです」夏美と賢の胸が、ずしりと沈んだ。虚しさが心に押し寄せてきた。「誤解しないでください、ヴィオラさん……私たちはあなたを瑠璃の代用品だなんて思っていないわ。ただ、お願いが勝手すぎたと自覚している。本当にごめんなさい」夏美は慌てて謝った。目には深い悲しみがにじんでいたが、それでも無理やり微笑みを作っていた。「この間、ヴィオラさんには本当にたくさん助けてもらった。無理なことを言ったのは、私と賢の身勝手だわ」「千さん、本当に申し訳ない」賢も頭を下げた。「ヴィオラさんは美しくて賢くて、隼人様にも大切にされている。あなたがあの子のような運命をたどることなんて、決してないはず。私は心から、あなたの幸せを願っているよ」夏美は優しく瑠璃を見つめながらそう言った。けれどその瞳には、じわりと涙が浮かび、彼女は慌てて目元を拭った。そしてまた、笑顔を作り出した。「お引き止めしてごめんね。賢、ヴィオラさんをお送りして」「い
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