りんは力いっぱい押したが、びくともせずに押し返された。明菜は中年の女性だが、毎日畑仕事に触れているため、体は丈夫で力も強い。お嬢様育ちで何もできないりんが、相手になるはずもなかった。りんの表情は見る見るうちに険しくなり、その目は蛇蝎のごとく明菜を睨みつけた。明菜は無表情のまま、ただ繰り返した。「望月さん、書斎は今、あなたが入るにはご都合が悪いかと。早めにお部屋にお戻りください」りんは歯ぎしりし、脅すような口調で言った。「渡辺さん、胤道が私にどういう態度をとっているか、よくわかるでしょう?彼が私と結婚したら、この家の奥様は私になるのよ。その時、私があなたに何かしたとしても、胤道が気にすると思う?」明菜は穏やかな笑みを浮かべた。「野崎様が気になさるかどうかは存じませんが、一つだけはっきりしていることがあります。奥様がここにいらっしゃる限り、私に何か起こることはありません。そして、奥様がここを去る時は、私も一緒に去ります。誰にも、私をどうこうすることはできませんよ」その頑として譲らない態度に、りんは爪が食い込むほど拳を握りしめた。中に入るのは無理だと悟ると、彼女は毒々しい声で言った。「私を入れないって言うけど、胤道が今どんな状態か、分かってるの?」りんは顔を近づけて吐き捨てるように言った。「彼は媚薬を飲まされたの。女がいなきゃどうにもならない状態よ。中には森さんがいる。しかも妊娠中。胤道が力を加減できると思う?」彼女は得意げに続けた。「ここで私を止めているより、先に救急車でも呼んでおいたら?森さん、大出血するでしょうから。すぐに病院に運べるようにね」明菜は一瞬硬直し、信じられないという目でりんを見つめた。「なんて悪辣な女……!野崎様に薬を盛るなんて!」りんは薄笑いを浮かべて踵を返し、静華が悲惨な目に遭うのを待つことにした。静華が病院に運ばれさえすれば、母子ともに始末する自信があった。りんが悠々と自室に戻っていく一方、明菜はいてもたってもいられず、ドアの前を慌ただしく行き来した。これから起こるであろうことを想像し、明菜は意を決して勢いよくドアを開けた。「野崎様!やめてください!」ドアを押し開け、顔を上げた彼女は、その場で固まった。胤道はバルコニーに座り、部屋に吹き込む冷た
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