「慎重に考えた末、私は二川グループの会長の座を譲ることに決めました。その後任として私の次女、二川紗雪が就任します」紗雪はただ壇上に立って、静かに立っていればよかった。母である二川夫人が自ら彼女の名前を出したことで、彼女はようやく前に出て話をすることになった。夫人の言葉が終わると同時に、マイクが紗雪に手渡された。紗雪は自然な動作でそれを受け取り、唇を引き結びながら微笑んだ。「ありがとうございます、会長」すると夫人は紗雪の肩を軽く叩き、不満げに言った。「この場で会長なんて......よそよそしくしなくてもいいでしょう?」紗雪はただ唇を引き結んで微笑み、口元のえくぼがほのかに現れた。「わかった、母さん」その澄んだ「母さん」という呼び方に、場内は一瞬静まり返った。かつて一緒に働いていた社員たちも、初めは皆が混乱したような目をしていたが、次第にその顔には驚愕の色が浮かんだ。なんと、元会長のご令嬢が、自分たちと同じ部署で働いていたなんて。これはもう、名誉と言ってもいいレベルだった。もっと早く気づいていれば......と誰もが後悔した。同じ部署の同僚たちは、紗雪が社内でやってきたことを思い返した。前田俊介があんなにも早く失脚したのも偶然じゃない気がする。しかも入社してすぐに、椎名からの厄介なプロジェクトに直面した。それでも彼女は、その難題を見事に乗り越えた。それだけの実力があるという証だ。驚きはあったものの、その結果を受け入れることに、彼らは大きな抵抗を感じなかった。最初に反応したのは円だった。彼女は安堵の息をつき、胸を軽く叩いて言った。「まさか普段一緒に働いてたのが会長の次女だったなんて......本当に光栄だよ」「いやホント、次女様が来てから、あの前田っていう厄介者もいなくなったし、椎名のプロジェクトまで取ってきて、うちの会社は一気に成長した感じだよね」「次女様の実力はちゃんと結果で示されてるし、俺たちがとやかく言うことじゃないよ」......「皆さん」紗雪は軽く咳払いをし、マイクに向かって話し始めた。「ここにいる方々の中には、私のことを知らない方もいれば、知っている方もいらっしゃるでしょう」「もちろん、疑念や警戒心を持っている方もいると思います」紗雪は唇を
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