All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 121 - Chapter 130

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第121話

「ないなら、それが一番」紗雪はゆるりと眉を上げ、「なら、西山さんは大人しく座って、私のスピーチでも聞いていればいいわ」加津也は紗雪の得意げな顔を睨みつけながら、拳を静かに握り締めた。クソ女、覚えてろよ。紗雪は微塵も怯むことなく、その視線を真正面から受け止めた。そんな二人の間の空気を感じ取った初芽が、加津也の腕を引いた。彼は渋々ながらも席に戻るしかなかった。その様子に、紗雪の唇はわずかに弧を描く。せっかく自ら道化役を買って出るのなら、こっちも付き合ってあげようじゃない。彼女は優雅に踵を返し、責任者の元へと向かった。そして、しっかりと書類を受け取る。「おめでとうございます、二川さん。我々椎名グループも、二川グループとの良い協力関係を築けることを願っています」「もちろんです」紗雪は落ち着いた笑みを浮かべながら答えた。そして、視線をパーティー会場にいる人々へ向ける。そこには、悔しさを隠せない加津也の姿もあった。彼女は優雅に息を吐き、自然な流れで感謝の言葉を述べる。その姿は、気品と自信に満ち溢れていた。この瞬間だけは、加津也も認めざるを得なかった。紗雪は、美しかった。かつての清楚なイメージは、彼女の本来の魅力を抑え込んでいただけだったのだ。本来の彼女は、野心を持ち、堂々と自分を貫く存在なのだ。結果はすでに決まった。加津也がどれほど怒ろうとも、もうこのプロジェクトを覆すことはできない。彼は悔しさを噛み締めながらスマホを取り出し、上層部にメッセージを送った。しかし、「相手があなたをブロックしました」画面に表示されたその通知を見た瞬間、加津也の表情は凍りつく。「使えねえな。貧乏学生も始末できないとは、前田と同レベルの無能か」二階から会場の様子を見下ろしていた京弥は、その一部始終を静かに見届けていた。隣に立つ匠が、腕を組んでぼそりと呟く。「どうやら、投票書をすり替えた黒幕は西山加津也で間違いなさそうですね」「でも、以前西山加津也って二川さんと付き合ってましたよね?相手にこんな手を使うなんて、下劣すぎません?」匠は思わず眉をひそめる。もし今回の件を京弥が事前に察知していなければ、紗雪の投票書は闇に葬られ、プロジェクトが二川グループに渡ることもな
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第122話

紗雪は終始微笑を湛えながら、その場に立っていた。今回ばかりは、ようやく肩の力を抜くことができる。美月の試練を乗り越えた。だが、これからが真の挑戦だ。社員たちの興奮がようやく落ち着くと、美月は柔らかな笑みを浮かべながら紗雪を見つめた。「紗雪、ちょっと私のオフィスに来なさい」紗雪は少し驚いたが、ただ「はい」とだけ返事をし、美月の後についていく。「会長は絶対、二川さんに何かご褒美をあげるつもりね」「昇進じゃないかな?」「それ、あり得るな。二川さんの実力は、誰の目にも明らかだし」「そうそう。このプロジェクトを取れたのも、二川さんが大活躍したもんな」部署の皆は、それぞれ思い思いに話しながらも、誰も疑いや妬みを抱くことはなかった。全員が心から紗雪の成功を祝福していた。紗雪は美月とともにオフィスへと入り、心の中で、これは「賭けの清算」の時間だと悟る。だが、あの一件以来、彼女の心には、どうしても拭えない棘が残っていた。「会長、私に何かご用ですか?」紗雪はドアを閉めると、表情を崩さずに美月を見つめる。美月はゆっくりと振り返り、目の奥に満足の色を滲ませた。「今回は、本当によくやったわ。椎名グループのプロジェクトを手に入れたことで、二川グループはさらに大きく成長できる」「次のプロジェクト進行も、気を抜かないようにね」「そのつもりです」紗雪の冷静な返答に、美月の満足感はさらに深まる。まさか本当にこのプロジェクトを勝ち取るとは。彼女には、若き日の自分の姿が重なって見えた。「このプロジェクトの成功を機に、商業パーティーを開こうと思っているの」「うちがこの案件を手にしたことを、取引先にしっかり伝えるためよ」紗雪が口を開こうとした瞬間、美月が続けて言葉を紡ぐ。「紗雪が何を考えているのか、分かっているわ。二川グループに入りたいのでしょう?」「賭けは賭けです。私はただ、母に約束を守ってほしいだけです」その言葉に、美月は思わずクスッと笑う。「本当に昔の私によく似てるわ」そして、美月の表情が少し引き締まる。「安心して、紗雪。このパーティーで、もう一つ発表することがあるの」「『二川家の次女』としての正式な身分を、公表するつもりよ」紗雪は少し驚いた。まさか、母がこんなにもあっ
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第123話

この言葉が発せられるや否や、周囲はざわめきに包まれた。「本当に?」疑う者もいる。「いやいや、椎名グループの社長がこんなパーティーに出席するわけがないだろ?普段から彼の素顔を見たことがある人すらほとんどいないんだぞ」「俺も噂で聞いただけだ。真偽のほどは分からない」「だが、もし本当に彼が来るなら、二川グループの地位は一気に跳ね上がるぞ」皆、一様に頷いた。誰もが知っている。あの男が鳴り城で振るう手腕を。椎名グループの名は、この街では絶対的な権力の象徴なのだ。二階。緒莉はその光景を見下ろし、表情が歪む。美しい顔に、嫉妬と怒りが滲み出ていた。彼女には分かっていた。このパーティーが何のために開かれたのか。だが、なぜ?同じ二川家の娘であるはずなのに、なぜ母はあの女ばかりを贔屓するのか?緒莉の胸の中で、不満が溢れ出しそうになる。そのとき、ふと視線の先に並ぶ扉が目に入った。「更衣室」と書かれたプレートを見つけると、彼女の目が細められる。いいことを思いついた。「紗雪、主役の座がそんなに好きなら、鳴り城中の人間にしっかり覚えてもらうといいわ」そう呟くと、緒莉は更衣室へ向かい、静かに扉を押し開けた。......紗雪はメイクを終え、着替えるために更衣室へ向かった。そこに用意されていたのは、淡いブルーのビスチェ風マーメイドドレス。その裾には、なんと繊細なダイヤモンドが散りばめられていた。紗雪の瞳が、一瞬だけ驚きに染まる。母の本気度が分かる。このドレスからも、どれほど今回のパーティーに力を入れているかが伝わってきた。相当な大金をかけたことは間違いない。紗雪はドレスを身に纏い、無言で背中のファスナーを引き上げる。そして、静かに更衣室の扉を開けた。ゆるく巻いた髪を無造作に後ろへ流し、その姿は洗練された優雅さとダボダボ感を兼ね備えていた。ビスチェデザインのドレスは、彼女の美しい鎖骨を際立たせ、一つ一つの仕草が、どこか艶やかで魅惑的だった。その頃、パーティー会場に現れた加津也は、期待に胸を躍らせていた。彼は今日のために、わざわざヘアスタイルまで整え、念入りに準備をしてきたのだ。二川家の次女は来るのだろうか?そんなことを考えながら、彼はワイングラスを手に、会場
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第124話

「ご次女様」という言葉を耳にした瞬間、加津也は呆然と立ち尽くした。まるで思考が止まったかのように、しばらく反応できない。目を見開き、口を半開きにしたまま、ひどく間抜けな顔で叫ぶ。「お前が......二川家の次女?」紗雪は眉を軽く上げ、当然のように頷いた。「それがどうした?そんなに驚くこと?」こうしてみると、なんとも滑稽な話だ。三年間も付き合っていながら、目の前の相手が誰なのかすら知らなかったなんて。パーティー会場のマネージャーも、怪訝な顔で加津也を見た。そこまで驚くこと?彼のあまりに大げさな反応が、周囲の注目を集める。小さな騒動の中心が、ここにできあがった。加津也の頭の中には、過去の記憶が一気に駆け巡る。三年間、彼女はいつも地味な服装だった。住んでいた部屋も質素な賃貸で、あまりにみすぼらしく見えたため、見かねた自分が「一緒に住め」と言ったのだ。そんな女が、噂の二川家の次女だと?ありえない。ようやく状況を理解した途端、彼の表情は驚愕から嫌悪へと変わった。「苗字が二川だからって、適当なエキストラを雇って俺を騙せるとでも思ったのか?」「バカバカしい。三年間も一緒にいた俺が、お前の正体を知らないとでも?」紗雪は呆れ顔で、肩をすくめる。「三年間も一緒にいたからこそ、西山さんがどれだけ見る目がないかよく分かったよ」「クソ女が......!二川家の次女を騙るとは、よっぽどの命知らずだな?」加津也は正義を振りかざすような口調で言い放った。「お前みたいなパトロン頼みの女が、あの品のある次女に敵うと思うなよ」紗雪とマネージャーは、一瞬視線を交わした。どちらの目にも、「こいつ、何を言ってるんだ?」という疑問が浮かんでいる。「目が悪いなら病院に行けば?西山さんみたいのを付き合う暇はないの」彼女が立ち去ろうとすると、加津也はますます得意げな顔をした。「おやおや、俺が二川家の次女を知ってると分かって怖気づいたか?」「当然だよな。彼女は俺に好意を持ってるし、俺が二川グループで働くお前なんか、たった一言でクビにできるんだからな」彼は顎を少し持ち上げ、傲慢に言い放つ。「紗雪、今すぐ真剣に謝るなら、許してやってもいいぜ?」「......頭おかしいのか?」紗雪は
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第125話

紗雪は軽く頷き、部屋へ向かい美月と対面した。美月は、目の前の紗雪を見つめ、心の奥底まで驚嘆の色を浮かべた。彼女の洗練された顔立ちは、少し手を加えただけでまるで人間離れした美しさを放っている。それを見て、美月はますます満足げに微笑んだ。「今夜は緊張しなくていいわ。オープニングダンスでは、しっかりと自分をアピールしなさい」紗雪は頷いた。開幕のダンスは、彼女が社交界の目にさらされる第一歩なのだから。「そうだ、椎名さんは来たのかしら?」紗雪は、先ほど京弥から届いたメッセージを思い出しながら答えた。「もうすぐ着くって。今、移動中みたい」「ならいいわ」美月は満足げに頷く。「二川グループの規則は分かっているでしょう?そうでなければ、あなたが二川グループに入ることもなかった」紗雪は理解していると伝え、美月と共にパーティー会場へと向かった。二人がホールに入ると、すでにほとんどの招待客が到着していた。美月は心の中で密かに喜びと誇りを感じていた。二川グループが椎名のプロジェクトを獲得したことで、集まった人々がどんな思惑を抱いているかなど、すべてお見通しだ。美月の姿が見えるや否や、客たちは次々に近寄り、笑顔で挨拶を交わす。口々に祝福の言葉を並べているが、彼らの本音は明白だった。二川グループに取り入るための絶好の機会。このパーティーで、少しでも良好な関係を築いておきたい。誰もがそんな思惑を抱えていた。紗雪は、それを見ても特に気に留めることなく、一歩引いた位置で様子を伺う。美月は微笑みながら言った。「皆さん、お祝いの言葉ありがとうございます。パーティーもそろそろ始まりますので、私は司会を務めに行きます。また後ほど」そう言い、美月は舞台へと向かった。彼女の纏うドレスは、普段の強気な印象を和らげ、より優雅で洗練された雰囲気を演出している。壇上に立つと、美月は今夜のプログラムを発表した。「本日は、お忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。このように多くの方々が足を運んでくださり、心より感謝申し上げます。それでは、前置きはこれくらいにして――さっそくパーティーを始めましょう」その言葉と共に、舞踏会の幕が開けた。オープニングダンスには、紗雪、緒莉、そして二川グループと親
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第126話

しかし、緒莉は計画が失敗に終わったことに納得がいかず、簡単に紗雪を見逃すつもりはなかった。彼女はしつこく追いかけ、紗雪のドレスの背中のジッパーを掴もうとしながら、表向きは心配そうな声をかける。「紗雪、やっぱり私が手伝うわ。一緒に行きましょう?」「このパーティー会場は広いし、二人でいた方が安心でしょ?」そう言いながら、自然な動作で紗雪の隣に寄り、右手をそっと伸ばす。しかし、紗雪はその意図を見抜き、すぐさま身をかわす。目にわずかな苛立ちを滲ませながら、きっぱりと言った。「必要ないって。自分でできるから」彼女が向かった更衣室には、すでに準備を整えたスタッフが待機していた。ドレスを着替えながら、紗雪は違和感を覚える。しかし、それも予想の範囲内だった。彼女は最初から、緒莉が何か細工をしているかどうか確かめるつもりだったのだ。そして、今こうして緒莉が焦っている様子を見れば、答えは明白だった。舞踏会はまだ続いているが、二人の小競り合いはすでに周囲の視線を集めていた。紗雪は周囲の視線を察し、これ以上この場で争うことを避けようとした。ちょうどその時――会場の入り口が騒がしくなり、人々のざわめきが広がる。「ちょっと、あの人誰!?」「今まで見たことないほど気品のある男性だわ!」「いや、気品なんてどうでもいい!あの顔......芸能界にいたらトップクラスじゃない!?」数人の女性は頬を紅潮させながら言った。「さっき私の方を見たの!もう、心臓がもたない......!」「どこの御曹司なの?なんで今まで見たことなかったの?」この言葉をきっかけに、周囲の人々はさらに好奇心を募らせる。「待って、この男......たしか、二川家の次女の旦那さんじゃなかったっけ?」「言われてみれば、そんな気がする......でも、こうして見るとまるで別人ね」紗雪も視線を向けた。人混みを逆光の中、真っ直ぐに歩いてくるのは――京弥だった。深みのあるネイビーのスーツを纏い、その姿は紗雪のドレスと見事に調和している。元々、彼の顔立ちはどこか妖艶な美しさを持っていたが、今日はさらにセットされた髪型と洗練された装いが加わり、一層際立っていた。まるで人間界に迷い込んだ冷徹な神のような佇まい。紗雪の視線は、自然と京
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第127話

そのことを思いながら、京弥の視線が隣にいる緒莉へと向けた。その冷淡な瞳が一瞥しただけで、緒莉の背筋にひやりとした感覚が走る。彼の視線と真正面からぶつかった瞬間、思わず怯んでしまった。だが、次の瞬間にはその考えを打ち消し、自嘲気味に笑う。彼女は二川家の堂々たる長女。こんな素性も分からない男を恐れる理由なんて、どこにもない。そう思い直し、背筋をピンと伸ばすと、口を開こうとした。しかし、その前に、外の騒ぎがさらに大きくなった。「えっ、椎名グループの社長が来たって!?」「本当?私も見に行く!」この言葉に、緒莉の意識も一気に引き寄せられる。辰琉も優秀な男ではある。だが、人間なら誰しもより強き者に惹かれるもの。この世は弱肉強食。より良い選択肢があるのなら、それに乗り換えるのは当然のこと。そんな考えが頭をよぎりながら、緒莉も人々に混ざり、期待に満ちた視線を外へと向けた。一方、紗雪も少しばかり疑問を抱く。彼女は小さく呟いた。「あの社長、普段はめったに姿を見せないのに......まさか本当に来るなんて」隣で京弥は紗雪の横顔を見つめながら、口を挟まずに薄く微笑む。ただ、その目はどこか探るような光を帯びていた。美月ですら、少し興奮を隠せない様子だった。もしあの噂の社長が本当に訪れたのなら、二川家は鳴り城で一気に飛躍することになる。今後の立ち位置も、確実に一段上へと昇るだろう。今までの競合たちは、間違いなくこの状況を羨むに違いない。美月は足早に外へと向かった。その様子を見ながら、京弥は微かに眉を上げる。「行かないのか?」しかし、紗雪は首を横に振る。「彼が来るとしても、母を見に来るだけでしょ。私には関係ないわ」今の彼女は、周囲の人間から見ればただの駒にすぎない。京弥は黙って紗雪の腰を抱き寄せた。何も言わなかったが、その眼差しには、どこか含みのある笑みが滲んでいた。一方、加津也も必死に人混みに紛れ込もうとしていた。彼はこの場に来た目的を忘れてはいなかった。二川家の次女と親しくなること。だが、もしそれ以上の存在――椎名グループの社長と繋がれるならば、父に認められるチャンスではないか?その考えに思い至った瞬間、加津也の目は興奮に輝いていた。周囲の人
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第128話

緒莉はその言葉を聞いた瞬間、もはや笑顔を保てなくなった。紗雪自身も驚きを隠せなかった。彼女と椎名グループの社長の間には何の関係もないはずなのに、どうして贈り物を?「間違いじゃないですか?」紗雪は思わず口に出してしまう。だって、彼女とあの人は特に親しい間柄ではない。ただの社員に過ぎないのだ。緒莉は密かに期待を抱いた。もしかして、本当は自分宛ての贈り物で、単に彼女と紗雪を間違えただけでは?だが、そんな淡い期待もすぐに打ち砕かれる。「いいえ、間違いありません」ボディーガードは真剣な表情で首を横に振った。「社長からの特別な指示で、二川紗雪様にお贈りするよう申し付かっております」緒莉は奥歯が砕けそうなくらい噛みしめ、嫉妬の炎が燃え上がる。周囲の視線も紗雪に集中し、特に彼女と共に働いていた同僚たちは戸惑いを隠せない。「二川さん、こちらが社長からの贈り物です。どうぞご確認ください」ボディーガードが丁寧に言いながら、贈り物の説明を始めた。「まず、こちらの一つ目はリュウスミ町の一戸建て別荘です。最高層の棟が二川さんのものになります」そう言いながら、彼は不動産証書を取り出して見せた。「次に、こちらはパーティー用のドレスになります。二川さんにお気に召していただけると幸いです」披露されたドレスは、無数のダイヤが散りばめられた豪華なロングドレス。その輝きに、会場の人々から驚きの声が漏れる。「三つ目は、社長が二川さんのためにご用意した今シーズンの新型スポーツカーです。二川さんは以前、車がお好きだと伺いましたので......」紗雪は、目の前の高級車を見つめながら、驚きを隠せない。間違いなく、彼女の好みを的確に把握した贈り物だった。この場で拒むのはさすがに失礼だろう。「ありがとうございます。この方は......どのようにお呼びすればよいですか?ぜひ、社長に感謝をお伝えください。後日、改めてお礼に伺います」紗雪は、思わず額を押さえたくなる衝動を抑えながら礼を述べた。これはもう、桁違いの贈り物だ。それぞれの価値を考えなくても、最初の三点だけで、普通の人が一生かけても手に入れられないほどのもの。そんなものを、あの人は簡単に贈ってきたのだ。一体、彼は何を考えているのだろう?まさか、何か企
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第129話

美月は紗雪に目配せし、ドレスに着替えるよう促した。今の彼女の服はすっかり濡れてしまっており、このままではあまりにも失礼だった。紗雪自身も、この格好のままでは良くないと感じ、礼を述べた後、スタッフに案内されて着替えに向かった。緒莉は今回はついて行かなかった。新しく施したネイルを握りしめ、爪が手のひらに深く食い込む。しかし、その痛みよりも胸の痛みの方が強かった。彼女は紗雪を甘く見ていた。まさか、椎名グループの社長と繋がることができるほどの力を持っていたとは。いつも仕事ばかりで、特に目立たない存在だと思っていたのに、なるほど、すべてはこのための布石だったというわけか。いいわ、見ていなさい。美月は、椎名グループの社長からの贈り物が、絶妙なタイミングで届いたことを心の中で喜んでいた。彼自身が来るよりも、むしろ効果的だったかもしれない。周囲の人々は美月のもとに集まり、探るように言葉を交わしていた。さっきの贈り物を届けた方は、もしかして二川家の次女なのでは、と。美月は意味深な笑みを浮かべるだけで、何も答えなかった。その様子を見て、皆は確信した。だが、加津也や紗雪と同じ部署の同僚たちは、未だに状況を飲み込めずにいた。椎名グループの社長が、どうして紗雪にこんなに贈り物を?それに彼らが言っていた「二川家の次女」とは、まさか紗雪のことなのか?「そんなはずない......」加津也は呆然と呟いた。「俺は知ってる......二川家の次女はこんな顔じゃない......」「どうなってるんだ、みんな何を言ってる......?」彼が困惑し続ける一方で、京弥は余裕のある表情で赤ワインを傾けていた。彼の視線の先には、驚きと興奮に包まれる人々の姿があった。さっちゃんは、もともと輝くべき存在。塵に埋もれるような器ではない。人々の反応は、彼にとって想定内だった。そんな中、紗雪がゆっくりと二階から降りてきた。椎名グループの社長から贈られたドレスを身に纏い、ロングトレーンのドレスは床を優雅に滑る。彼女が階段を降りるたび、その足音が人々の胸に響く。どうして、こんなにも美しい存在が......?会場にいる者たちは、息を呑んだ。紗雪は、注がれる視線を余裕のある態度で受け止め、顎をわずかに
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第130話

人々の注目が集まる中、美月は誇らしげな表情で壇上に立った。「皆さん、」その声に、会場の視線が一斉に美月へと向けられる。彼女が何を話そうとしているのか、誰もが期待していた。美月は歩み寄ってきた紗雪に目を向け、そっと手を差し出した。その意図を察した紗雪は、初雪が溶けるように柔らかく微笑むと、静かに彼女の手を取った。美月は再び会場を見渡し、ゆっくりと口を開いた。「本日このビジネスパーティーを開催したのには、二つの重要な理由があります」「一つ目は......私の隣に立っている彼女こそが、二川グループの次女、二川紗雪です!」その瞬間、会場はどよめきに包まれた。事情を知っていた者たちは、特に驚くこともなく、むしろ美月と紗雪の顔立ちがどことなく似ていることに納得していた。しかし、何も知らなかった者たちは、衝撃を隠せなかった。「えっ、彼女が二川家の次女......?」「いや、おかしいだろ?これまで椎名グループとの入札会に出席していたのも、この二川家の次女だったよな?」「確かに、以前のパーティーでも彼女を見かけたことがある......今日のパーティーの意図がようやく分かってきたぞ」その中でも、最も衝撃を受けたのは加津也だった。先ほどまでの混乱からようやく意識を取り戻した彼は、口を半開きにしたまま、壇上の紗雪を見つめていた。彼女はまるで棘を持つ紅い薔薇、美しく、それでいて触れる者を拒むような存在だった。あの三年前とはまるで別人のように見える。「違う......こんなはずない......」加津也は信じたくないというように、後ずさりしながら呟いた。「だって、あの日見た二川家の次女は別人だった!なぜ紗雪が二川家の次女になっているんだ......?」彼はかつての「二川家の次女」の顔を思い出し、目の前の紗雪と比較する。どう考えても、見間違えるはずがなかった。それなのに、現実は無情にも彼を押し流し、信じざるを得ない状況へと追い込んでいく。一方で、そんな彼の様子を見ていた京弥は、冷ややかに口角を上げた。真珠を石ころと見間違えるとは、滑稽だな。だが幸いなことに、彼のさっちゃんはこんな目の曇った男を見限っていた。そう考えると、彼はふっと息を吐き、壇上で輝く紗雪に熱い視線を向けた。胸の奥
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