「ないなら、それが一番」紗雪はゆるりと眉を上げ、「なら、西山さんは大人しく座って、私のスピーチでも聞いていればいいわ」加津也は紗雪の得意げな顔を睨みつけながら、拳を静かに握り締めた。クソ女、覚えてろよ。紗雪は微塵も怯むことなく、その視線を真正面から受け止めた。そんな二人の間の空気を感じ取った初芽が、加津也の腕を引いた。彼は渋々ながらも席に戻るしかなかった。その様子に、紗雪の唇はわずかに弧を描く。せっかく自ら道化役を買って出るのなら、こっちも付き合ってあげようじゃない。彼女は優雅に踵を返し、責任者の元へと向かった。そして、しっかりと書類を受け取る。「おめでとうございます、二川さん。我々椎名グループも、二川グループとの良い協力関係を築けることを願っています」「もちろんです」紗雪は落ち着いた笑みを浮かべながら答えた。そして、視線をパーティー会場にいる人々へ向ける。そこには、悔しさを隠せない加津也の姿もあった。彼女は優雅に息を吐き、自然な流れで感謝の言葉を述べる。その姿は、気品と自信に満ち溢れていた。この瞬間だけは、加津也も認めざるを得なかった。紗雪は、美しかった。かつての清楚なイメージは、彼女の本来の魅力を抑え込んでいただけだったのだ。本来の彼女は、野心を持ち、堂々と自分を貫く存在なのだ。結果はすでに決まった。加津也がどれほど怒ろうとも、もうこのプロジェクトを覆すことはできない。彼は悔しさを噛み締めながらスマホを取り出し、上層部にメッセージを送った。しかし、「相手があなたをブロックしました」画面に表示されたその通知を見た瞬間、加津也の表情は凍りつく。「使えねえな。貧乏学生も始末できないとは、前田と同レベルの無能か」二階から会場の様子を見下ろしていた京弥は、その一部始終を静かに見届けていた。隣に立つ匠が、腕を組んでぼそりと呟く。「どうやら、投票書をすり替えた黒幕は西山加津也で間違いなさそうですね」「でも、以前西山加津也って二川さんと付き合ってましたよね?相手にこんな手を使うなんて、下劣すぎません?」匠は思わず眉をひそめる。もし今回の件を京弥が事前に察知していなければ、紗雪の投票書は闇に葬られ、プロジェクトが二川グループに渡ることもな
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