美人でお金持ちなのに、どうして男を見る目がないのかしら。よりによって、あんなクズを好きになるなんて。その場には、理恵と翼の二人だけが残された。理恵が振り返ると、翼は、まるで今、我に返った様子だった。彼は理恵に二歩ほど近づいたが、その表情には、気まずさや戸惑い、そしてどこかぎこちなさが浮かんでいた。やがて、彼は言い淀むように口を開いた。「あの……理恵ちゃん、さっきの話……」理恵は彼の言葉を遮り、悪戯っぽく微笑んだ。「私が、上手く助け舟を出してあげたってこと?」翼は一瞬きょとんとし、すぐにその意味を悟った。そして、遊び慣れた彼も、思わず赤面した。それは、羞恥と、身の置き所のない気まずさからだった。理恵がああ言ったのは、自分の顔を立てるためだったのだ。本気で……言ったわけではなかったのだ。翼は、先ほど勘違いしたことを口に出さなくてよかったと、心から安堵した。もし言っていたら、さらに気まずいことになっていただろう。しかし、これほど動揺するのは、普段の彼らしくない。いつもなら飄々として、どんな場面でも冗談を飛ばし、たとえ人前でズボンが破れたとしても、恥じたりはしない男だ。だが、なぜ今、理恵の前でこれほど体裁を気にしているのだろうか。翼は、自分が彼女より五つ年上で、昔から彼女の成長を見守ってきたからだろうと思った。おそらく、どこか「兄」のような気持ちが、そうさせているのだろう。翼は雑念を振り払い、いつもの調子を取り戻して言った。「助かったよ。おかげで丸く収まった」理恵が助け舟を出さなくても、別に恥じることはなかった。何しろ、あの女が言ったことは、一つだけ正しかったからだ。確かに、あの女に本気になったことなどない。ただの遊びだった。それに、衆人環視の中で振ったのは自分であり、振られたわけではない。もっとも、振られたとしても痛くも痒くもない。そんな修羅場は数え切れないほど経験している。別れなど日常茶飯事だ。周りの目など気にしたこともない。だが、理恵が自ら泥をかぶるような真似をして、自分の顔を立ててくれたことには、やはり感謝していた。翼は話題を変えた。「今日は買い物か?それとも誰かと待ち合わせ?」理恵は答えた。「一人でぶらつきに来たの。本当は透子と約束してたんだけど、仕事が忙しくて、まだ現場にいるんだ
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