透子は聡を振り返った。自分のために時間を無駄にしないでほしい、すべては無意味だと、そう言いたかった。しかし、透子が口を開こうとした、その時、聡が先に口を開いて透子の言葉を遮った。「この頼みだけは、断らないでくれ。新井みたいなクズでも、まだ君を追いかけているんだ。俺の方が、よほど資格があるはずだ」透子は思った。――新井蓮司は、ただ厚かましく、しつこく付きまとっているだけだ。しかし、聡には、本当に時間と労力を無駄にしてほしくなかった。そんな暇があれば、聡はいくつもの大型契約をまとめ、莫大な利益を生み出せるはずだ。透子は、やはり言った。「聡さん、私、ずっと聡さんのことを、親友のお兄さんだと思ってきました。たくさんのことで助けていただいて、心から感謝しています」透子は同時に、手首の腕時計を外し、それを返しながら言った。「すみません、このプレゼントは、あまりにも高価すぎます。受け取れません」聡は透子を見つめた。その眼差しは、寂しげで、悲しげだった。ビジネスマンとして聡は成功者だが、求愛者としては、完敗だ。透子は、追いかける資格さえ与えてくれず、プレゼントも受け取らない。聡は言った。「もし、重荷に感じるなら、友人としてのプレゼントだと思えばいい。君だって、俺に腕時計をくれたじゃないか」透子は、その二つの意味合いは違うと言いたかった。彼女が贈ったのは、聡が以前、助けてくれたことへのお礼の気持ちで、彼が自分に贈るのは……おそらく、透子がまた断ろうとしているのを見て、聡は、先にもう一度言った。「気に入らないなら、捨ててくれ」透子はそれを聞き、ただ黙って聡を見つめた。捨ててしまえば、何の価値もなくなる。どうせ、すべては理恵の悪戯が原因なのだから、理恵に渡せばいい。透子がそう思った、その時。不意に、別の方向から走ってくる足音が聞こえ、透子は無意識にそちらを振り返った。階段の上は東屋で、その東屋の向こう側、もともと誰もいなかった場所から、突然、人影が飛び出してきて、透子はぎょっとした。その人物が誰か分かった途端、透子は瞬時に目を見開いた。そこにいたのは、なんと──蓮司だった!聡も、同じように蓮司を見た。特に、蓮司が血相を変え、まるで闘鶏のように突進してくるのを見て、聡はすぐに尋ねた。「新井社長、どうしてここに?俺の知る限り
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