結局のところ、願乃は少し早めに席を立った。胸の内はひどく掻き乱されていた。あの光景はまるで時の歯車が噛み合わなくなったかのようで、眩暈を覚えるほど現実感がなかった。人というものはなんと厄介なのだろう。片方では確信をもって選びながら、もう片方ではどうしようもなく後悔している。――どうして、こんな結末になったのか。自嘲の念が静かに胸を満たす。それでも、生活は続いていく。彰人と自分のあいだには、一人の娘がいる。それは否定しようのない事実だった。だからこそ、彼と向き合えば、今でも胸が痛むとしても。向き合わなければならない。結代は十二歳。ちょうど思春期の芽が出始める年頃だ。願乃は子どもの気持ちを冷やす母親にはなりたくなかった。過去の出来事を何度も蒸し返し、父親への憎しみを心に植えつけるようなことは決してしない。心に愛を持つ子どもこそが、遠くまで歩いていける。そうしてこそ、将来、より多くの幸福を掴めるのだと、彼女は信じていた。胸のざわつきを抑えきれず、願乃は脇に置いたバッグから細身の煙草を一本取り出した。火をつけ、唇に運んで、ゆっくりと一息吸い込む。淡い煙が風に溶けていく。半分ほど吸ったところで、もう消そうと思った、その瞬間――先に伸びてきた手があった。彼女の指から煙草を奪い取り、そばで押し消す。続いて、低く掠れた男の声が落ちた。「二年も会わないうちに、煙草を覚えたのか。願乃……前は煙の匂い、あんなに嫌ってたのに」願乃は黙って彼を見つめた。しばらくしてから、低く言葉を落とす。「あなたが言ってるのは昔の願乃よ。今、あなたの前にいるのはメディアの社長。大きな会社を動かしていれば、煩わしさもあるし、煙草だって吸う。それに――彰人、あなたも時間を巻き戻せないでしょう。全部をやり直すことなんて、できない。私だって、選べるなら、こんなに険しい道は選ばなかった。もしあなたが現れなければ、メディアは最初からプロ経営者体制だったはず。でも、あなたは現れた。周防家の婿にまでなった。変わったのは私じゃない。あなたよ。あなたがすべてを変えたの」男は何も言わなかった。ただ、彼女の言葉を受け止める。どうしようもないのだ。彼は手放せない。けれど、それ以上に――願乃のいない人生など、耐えられなかった
続きを読む