立光ホテルを出て、願乃は確かに病院へ向かった。ピーターを見舞うために。もともと願乃はどこか西洋的な価値観を持っている。周防家のような家庭で育った人間だ。一途に一人を想い続ける、そんな考え方にどっぷり浸かっているわけではない。ピーターとの関係が終わったのも、ただ相性が合わなかったからだ。今は友人。それだけのことだ。隠す必要も、気まずがる理由もない。……一方で、彰人はその後を追おうとしていた。だが、その前に夕梨が立ちはだかった。温もりの残る請求書を、彼の胸元にぺたりと押しつける。拾い上げて目を落とすと、そこには千五百万円。彰人は眉をひそめた。「こんなボロいテーブルと椅子で、千五百万円?」夕梨はにこやかに微笑む。「全部、金メッキ仕様ですから」彰人は苛立ったように手帳を取り出し、さっと数字を書き込むと、そのまま夕梨に叩きつけた。夕梨は優雅に微笑む。「ありがとうございます、氷室様。またのお越しをお待ちしております」彰人はきつく彼女を睨みつけた。夕梨は何食わぬ顔で小切手を秘書に渡し、二人で並んでオフィスへ戻っていく。その途中でも、夕梨はしっかりと指導を忘れなかった。「今後は、氷室様みたいな上質なお客様をもっと獲得しなさい。できれば元奥様とセットでね。ああいう方は見栄があるから、ケチるなんて絶対にしないわ。一円でも少なかったら、男としてどうなんだって思われるのが怖いのよ。この年頃の男性って、本当に繊細だから」秘書は深く頷いた。「勉強になります……」本来なら、彰人はそのまま願乃を追いかけるつもりだった。だが、結局はやめた。傷だらけの体で車に座り込む。――孤独だった。資産が二兆円を超えていようと、何一つ手にしていないような感覚。彼にはもう帰る場所がなかった。煙草を一本吸い終えると、静かに車を走らせた。それから数日間、願乃の姿を見ることはなかった。代わりに週末、結代を迎えに周防本邸へ向かったとき――思いがけない声が耳に入った。あの軽薄な調子。間違いない、ピーターだ。ロンドン訛りの英語混じりで、ふざけた話をしている。その声に重なるように、周防家の女性たちの笑い声が響く。中でも、いちばん楽しそうに笑っていたのは夕梨だった。彰人が玄関を抜け、リビングへ足を踏
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