栄光グループの中堅・上層部は、周防社長が大病を患い記憶を失ったことを皆知っていた。古参株主の中には、内心でこう毒づく者もいる。——京介は、もう役に立たん。だが当の本人は、春風のような笑みを浮かべた。「ずいぶん驚いた顔をしているな……ああ、葉山社長から聞いてないのか?俺はすでに、彼女の専属アシスタントに任命された。どこの部署にも属さず、直接葉山社長に報告する」そして中川へ視線を向ける。「佳楠、椅子を持ってきてくれ」佳楠は一瞬きょとんとしたが、すぐに目頭が熱くなった。——周防社長が自分を名前で呼んだ。それは、記憶が戻った証だ。心腹の部下として、彼の本当の状態を口に出すことはしない。椅子を運び、舞の隣へ置いた。高層や株主たちは一斉にざわめく。「葉山社長、そこは公私をお分けにならないと……」「今は栄光の正念場です。不穏な噂が立てば、株価にも響きます」「周防社長が記憶喪失なのは、誰でも知っています」「記憶を失った人間に、どうやって経営が務まるんですか」……京介は何も言わず、ただ舞を見つめた。彼女は一瞥をくれ、手にしていた書類を置くと、冷ややかに言い放った。「私には、アシスタント一人を決める権限もないの?アシスタント一人で株価が揺らぐなら、あなたたち全員が無能ということよ」室内が水を打ったように静まり返る。そんな中、石川が茶化すように口を開いた。「周防社長は本当に人材ですね。どこへ行っても大活躍じゃないですか。石川としても嬉しい限りで……いや、正しくは『周防アシスタント』でしたね」それをきっかけに、一同が手を叩き始める。「周防アシスタント、ようこそ!」京介は相変わらず春風の笑みを浮かべた。「これから、どうぞよろしく」佳楠は、心の中で名前リストに一つ印をつけた。会議後、人々が散っていく。黙って成り行きを見ていた輝が、ゆっくりと京介に近づき、世間話のように言う。「今朝な、母さんがクルミ汁を作って、お前の頭の回転が良くなるようにって持たせようとしたんだ。でも……いらないみたいだな。もう十分働いてるじゃないか」——ヒモ生活ってのは癖になるもんなんだな。京介は相変わらず上品ぶった口調で返す。「兄貴が頼りになるなら、俺が人に陰口叩かれながらヒモなんてやって、わ
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