夜は静まり返っていた。翔雅は澄佳の胸に身を伏せ、長いあいだ微動だにしなかった。寝室の空気には甘やかな香りが漂っている。それは二人の子どもたちが放つ、あの甘い匂い。だが当の二人は、もはや赤の他人のようだった。——もし、あの時ロンドンに追いかけていたら。違う未来があったのだろうか。少なくとも、彼女のそばにいて、子どもたちの誕生と成長を見守れたのに。翔雅が失ったものは数えきれない。けれど何よりも心の奥で悔やまれるのは、澄佳を失ったこと。本来なら、ゆっくりと、年月を重ねながら育めたはずの愛情だった。その夜、翔雅は泊まった。澄佳は客室に移り、寝室を翔雅と子どもたちに譲った。翔雅は遠慮してベッドには入らず、ソファで一晩をやり過ごそうとした。だが眠れるはずもない。少し横になっては、結局子どもたちの寝顔を確かめに行く。何度見ても飽き足りず、最後には芽衣をそっと抱き上げ、ソファに連れ戻し胸に抱いて眠った。小さな身体は父の腕にすっぽりと収まり、香り立つ寝息を立てていた。夜明け前、芽衣が目を覚ました。大きな瞳をぱちくりさせ、小さな両腕で父の首にしがみつく。まるで小魚のように身をよじらせ、やわらかな声で「パパ」と呼んだ。翔雅も目を覚ます。身長一九〇近い身体でソファに横たわっていたせいか、全身の骨が軋むように痛む。だが愛らしい顔を見た途端、心はふっと和らいだ。掌で小さな腕をつかみ、自分の腹筋の上にのせてやると、芽衣は新鮮な驚きに目を輝かせ、弾むように跳ねはじめた。「こら、命が縮むだろ……」慌てて抱きとめると、芽衣は笑って父の頬にキスを落とし、ころんと座り直した。そして自分の小さなお腹を撫でながら「おなかすいた、ミルクがほしい」と呟く。翔雅は髪をかきあげながら立ち上がった。「ミルクはどこだ?パパが作ってやる」ちょうど章真も目を覚まし、眠たげに目をこすりながらベッドを降りてトイレへ。その後、芽衣と並んでちょこんと座り、ミルクを待ちわびた。翔雅は子育てに慣れておらず、てんやわんや。幸い、使用人がやって来て二人分のミルクを用意してくれた。小さな手で哺乳瓶を抱え、夢中でごくごく飲む子どもたち。大きな黒い瞳でじっと翔雅を見上げるその姿は、生まれたばかりの動物のようだ。乱れた髪に皺だらけのシャツ姿で、それを見つめ返す翔雅。可愛
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