実のところ、それはわざとらしい問いかけだった。昨夜の記憶は朧げでも、身体に残る感覚だけはごまかせない。すべてを解き放ったあとの柔らかさ、満ち足りた表情……経験のある者なら、一目で察するだろう。洗面所に、しばしの沈黙が落ちた。響くのは澄佳の洗顔の音だけ。歯を磨き終えて振り返った瞬間、翔雅の手が彼女の手首を捉えた。そのまま華奢な身体を腕の中へ引き寄せる。翔雅は顎を澄佳の髪に押しあて、低く艶やかな声を落とした。「昨日、おまえを連れて帰ったとき、桂さんが二日酔いに効くお茶を持ってきてくれようとした。でも俺は断ったんだ。なぜだと思う?もしおまえが正気だったら、それでも俺を求めたのかって考えていた」澄佳は率直に答える。「わからないわ」翔雅の喉仏が上下し、悔しげに食い下がる。「じゃあ、今は?」朝の光に照らされた男を見上げながら、澄佳は思った。顔立ちだけで言えば、智也や悠よりも翔雅の方が勝っている。純然たる雄の匂いを纏い、女を惹きつけてやまない。もっと露骨に言えば、ベッドの上では格別だった。体力が違うのだ。女の眼差しに潜む満足を見逃さず、翔雅は畳みかける。「だったら……復縁する前に、お互いの欲は満たし合おうか?どうせ他に相手はいないんだろ」拒まれるとばかり思っていた。だが澄佳の口から出たのは意外な言葉だった。「考えてみるわ」翔雅の理性が揺らぐ。それでも朝という時間が、わずかな理性を繋ぎ止めていた。彼は澄佳を流し台に座らせ、覆いかぶさるように見下ろす。黒い瞳には、獲物を逃さぬ雄のような光が燃えていた。「はっきり言え。欲しいのか、欲しくないのか。昨夜、俺に気持ちよくされただろ?」澄佳は背をもたれ、微笑みを浮かべたまま彼を見返す。「そうかもしれないわね」二人とも独り身。後ろめたさはない。まして昨夜は既に関係を持った。——悪くはなかった。澄佳は自分に正直な女だった。彼の身体も技も気に入っていたが、言葉はきっぱりとしていた。「ただし、私たちの関係は公にしない。子どもがいるときは絶対に手を出さない。感情は絡めない。もしうまくいかなければ、きれいに別れる」翔雅はその言葉に引っかかった。「つまり……恋人になるってことか?」澄佳は問い返す。「単なる身体だけの関係がいいの
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