一年、また一年が過ぎた。澪安は数えきれないほど探し回ったが、慕美の消息はどこにもなかった。――もしかしたら、海外へ行ったのかもしれない。そう思ったのは、宴司が「遠い国の旅先で、彼女らしき女性を見た」と言ったからだ。その年は、二人が別れて三年目の秋だった。やがて澪安は、その都市へ向かった。けれど――探そうとはしなかった。あまりにも大きな街だった。彼女はただの旅人として、人波に紛れて歩いているのかもしれない。そんな広い世界で、どう探せというのか。澪安は中央公園のベンチに座り、ひとり長い時間を過ごした。そのとき、小さな男の子がふらふらと歩いてきて、きらきらした風船を握りしめていた。頬は雪のように白く、笑うと愛らしい小さな前歯が覗く。「おじさん!」男の子は誇らしげに名乗った。「ぼく、思慕!」――思慕?その名前に、澪安は一瞬呼吸を忘れた。あの名前と、同じ文字がひとつだけ重なっている。秋の柔らかな光の下、澪安は思わず身をかがめ、その子を抱き上げた。幼い体は温かく、そしてどこか懐かしかった。そこへ、流暢な英語を話す家政婦がやってきた。「思慕はもう二歳半になります。立都市から来た方で、お母さまは留学しながら、ひとりでお育てになっています」――ひとりで。澪安は、その女性はきっとシングルマザーなのだと思った。改めて思慕を見ると、驚くほど整っていて――そして、奇妙なほど見覚えがあった。教会の鐘が鳴り始め、家政婦は思慕を名残惜しそうに抱き寄せた。「これから夕食の支度がありますので……奥様は授業が終わったあと、思慕と一緒に食事をされるんです。もしよかったら、ご一緒にどうですか?うちの奥様、とてもお若くて綺麗な方です。周防さんと、とてもお似合いになると思いますよ」異国の町。だが澪安に、浮ついた恋の余裕はない。それに、彼の心にはずっと慕美がいた。そんな想いを抱えたまま、ほかの女と関係を持てるはずがない。その三年間、彼の隣に女はいなかった。一夜限りの関係すらない。ずっと待っていた。待っても待っても、慕美は帰ってこなかった。連絡ひとつ寄越すこともないまま――それから先、彼はめったに彼女を探さなくなった。思い返すことさえ、少なくなっていった。―
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