All Chapters of 碓氷先生、奥様はもう戻らないと: Chapter 1041 - Chapter 1050

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第1041話

音々は穏やかな口調で話し、その瞳は未来への希望に満ち溢れていた。綾は、音々の幸せを心から喜び、飾らない素直な気持ちに感動していた。「恋をすると人は変わるものね。音々、あなたは私よりずっと素直ね。好きな人には積極的にアプローチし、ちゃんとそのために色々変えようと行動を起こす勇気があることは本当にすごいと思うよ」音々は思わず吹き出した。「私を子供扱いしないでくださいね!」「本気で言ってるのよ」綾は音々を見ながら微笑んだ。「もちろん、輝も変わったと思うよ。二人が一緒になれたのは、きっとお互いのために変わろうとしたからよ。そんな風に想い合える関係はきっと長く続くはずね」「長く続く」か、音々はこれまで考えたことがなかった。だけど、今の彼女はそんな期待に胸を躍らせていた。「私は孤児だから、愛に捧げられるのも、自分自身しかありませんから」そう言うと、音々の表情は自然と柔らかくなった。「輝にはそれだけの価値があると思ったから、全力で尽くそうと思いました。それは媚びへつらうためじゃなくて、輝を愛しているからです。彼を笑顔にできるように、幸せにしたかったです」綾はティーカップを手に取り、一口飲んでから、感慨深げに言った。「たった2週間で、あなたは本当に大きく変わったね」音々は顎に手を添え、ため息をついた。「でも、今は暇を持て余しています。みんな仕事があるのに、私は足を洗ってしまったから、何かすることが必要です。毎日家でゴロゴロしていたら、おかしくなってしまいそうです」一生遊んで暮らせるだけのお金はあったが、まだ32歳。悠々自適な生活を送るには若すぎるから、そんな暇な人生を彼女は耐えられなかったのだ。音々は綾を見た。「​実は私も副業を始めようと思います」「副業?」音々は顎に指先を当てた。「うまくいけば、本業になるかもしれないですね」「北城で?」綾は尋ねた。「そうですね」音々は言った。「こっちの方が知り合いも多いじゃないですか。今のところ、輝と一緒に星城市に行く予定はありませんので、まだ彼には何も言ってきません」「そうね。あなたがここにいれば、何かと助け合えるし。それに輝は今年はこちらで仕事が多いんでしょ?それなら遠距離恋愛にもならずに済むね」綾は少し考えてから、尋ねた。「で、何か考えていることはあるの?」「格闘技のジ
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第1042話

我妻家の人が乗り込んできたって?「大変なことですね?!」奈々は眉をひそめた。「でも、岡崎さんはそんな人じゃないと思いますよ。他の女の人と付き合うなんて、ありえないです。それに、今までだって、綾さん以外に岡崎さんと親しくしている女の人なんて、見たことありません。もし本当に二股をかけていたんだとしたら、どんな女の人なのか興味がありますね!」音々は何も言わずにいた。輝の新しい恋人である彼女は、とんだ濡れ衣を着せられた気分だった。お見合い相手と交際相手は違うでしょ?確かに輝と付き合うようになったのは彼が詩乃がお見合いをした後だけど、だけど、彼らはただお見合いをしただけで、交際を正式に始めていないはず。音々は、自分が誤解されても気にしなかった。もともと評判なんてどうでもいいと思っていたから。しかし、輝の場合はそうはいかない。彼は著名な修復師であり、岡崎家の後継者でもある。この話が大きくなれば、輝自身はもちろん、岡崎家にも大きな影響が出るのは避けられない。音々は唇を噛みしめ、応接室へ向かった。「音々さん、どこに行くんですか?」奈々は彼女を止めようとしたが、もう遅かった。音々が応接室のドアまで行ってしまうと、奈々は思わず親指を立てた。さすが音々、野次馬根性もすごいなと奈々は思った。応接室では、輝が頭を抱えていた。「もう3回も説明したんだ。なぜ分からないんだ?」「説明は結構よ」純玲は冷淡な表情でソファに座り、足を組み、高慢な態度で言った。「あの女を連れてきて。詩乃より優れているっていう女の顔を見てみたいのよ!」輝は唇を固く結んだ。もう我慢の限界だった。彼は音々を呼ぶつもりはなかった。純玲は明らかに喧嘩を売りに来ている。今回のことは自分の不手際だし、多少怒られても仕方ないと思っていた。しかし、音々には何の非もない。なぜ彼女がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?「文句があるなら私に言え。私の恋人に罪はない。あなたに会う義務もない」輝は冷たく言い放った。「男って、こういう略奪愛する女の正体を見抜けないのよ!」純玲は冷笑した。「岡崎さん、詩乃は何もかも完璧な女性よ。あの女が詩乃より優れているとは思えない。きっと裏で何か卑怯な手段を使ったに違いない。騙されてはいけないよ。あなたは岡崎家の後継者でしょ?詩乃と結婚
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第1043話

それを聞いて、輝の顔色は曇った。そして反論しようとした、まさにその時、応接室のドアをノックする音がした。コンコン。音々はノックした後、ドアを開けて入って来た。応接室のドアはガラス張りだったため、彼女は外に立って二人の会話を聞いていたのだ。音々は入るとすぐに、純玲の方を見た。純玲は一瞬たじろぎ、音々を上から下まで見て、眉をひそめて尋ねた。「あなたは?」音々は冷淡に口角を上げた。「輝の恋人よ。私に会いたがっていたでしょ?」「あなた?」純玲は目を丸くし、再び鋭く音々を見つめた。音々は、じっと見つめられても気にしなかった。そんな視線を向けられるくらいどうってことない。機関銃で撃たれるわけじゃないんだから。輝は音々のそばまで歩み寄り、「いいから、ここはは任せてくれ」と言った。「彼女、ずっと私の悪口を言ってたのよ!」音々は眉を上げて輝を見た。「あなたが格好つけたいのは分かってるけど、こういうのは私に任せて」音々は輝の胸を軽く叩き、言った。「最悪口喧嘩で負けたら、直接手を出すから。あなたの出番は、私が暴れた後、弁護士を呼んでくれればいいから」それを言われ、輝は何も言えなかった。音々は純玲の方に歩いて行った。純玲は音々を凝視した。これは自分の予想とは全く違っていた。確かに音々は綺麗だった。しかし、その美しさは自然体で、何より圧倒的なオーラを放っていた。初めて彼女を見た人は、まずそのオーラに惹きつけられるだろう。この女性は、妹の詩乃とは全く違うタイプだった。まるで正反対と言ってもいい。しかし、こんな女性は、自分たちのセレブな世界には全くそぐわないのだ。音々は純玲を見下ろして言った。「まずは自己紹介ね。中島音々。輝と付き合って18日目の恋人よ」「あなたが......」純玲は椅子に座り、音々は立っていたため、どうしても気迫で負けてしまう気がした。彼女は深く息を吸い込んだで、歯を食いしばって立ち上がった。しかし、音々は純玲に息つく暇も与えず、一歩前に出た。音々が一歩前に出るたびに、純玲は思わず一歩後ずさりした。この女のオーラは本当に強すぎる。純玲は、この女は一体どこの令嬢だろうかと考えた。こんなにも強いオーラを持っているということは、自分の家よりも後ろ盾が強い一族の出身かもしれない。もし
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第1044話

「岡崎さん、本当にがっかりした。まさか詩乃より劣るような、こんな下品で教養のない女を選ぶなんて。岡崎家は代々、人となりや教養を重んじているのに、こんな女を選んで、あなたのおじいさんが認めてくれるとでも思うわけ?」それを聞いて、輝はかっとなって怒鳴ろうとしたが、隣の音々に腕を掴まれた。彼は音々を見下ろした。音々は輝を落ち着かせるように視線を送り、「私に任せて」と言った。輝は顔をしかめ、怒りで険しい表情になったが、音々の戦闘力はよく知っていたので、それ以上何も言わなかった。音々は純玲の方を向き、冷淡な表情をした。「よく聞いて。まず、私と輝は知り合って1年以上経っていて、私が彼にアプローチしたの。だから、後先を言うなら私が先に彼と会ったのよ。詩乃さんの男を奪ったなんて言われる筋合いないから。それから、お見合い相手と交際相手は違う概念よ。あなたは高等教育を受けてきたはずなのに、そんな常識も分からないの?」「あなたは......」「反論するのはまだ早い」音々は純玲の言葉を遮り、冷たく笑った。「そして、輝と詩乃さんのお見合いの時、私は確かに彼にアプローチしていたけど、彼はまだ誰とも付き合っていなくてフリーな状態よ。あの時、輝と詩乃さんは確かお見合いで会っただけで、交際を約束したわけじゃない。つまり、優秀な男性が二人の女性から同時に好意を寄せられ、どちらかを選んだだけということだ。それのどこに問題があるの?」「結婚前提のお見合いよ!お見合いの後、詩乃を明確に断っていないなら、それは交際を認めたってことよ!」「じゃあ、その理屈だとお見合いした人はみんな交際相手になるわけ?我妻家は変わったお家柄なのね」「この――」純玲は怒って音々の鼻を指差した。「岡崎さんと付き合ってるからって勝ち誇らないで。我妻家と岡崎家は結婚を望んでる。あなたみたいな女、雰囲気も教養もないんだから、岡崎家が認めるわけがないじゃない。今に別れることになるからね!」「余計なお世話よ」音々は呆れたようにため息をついた。「ずっと我慢してあなたと話してきたのは、誤解されるのが嫌だったからよ。そもそも、ゴネるような人間とは関わりたくないから、もう帰って。これ以上騒ぐならこちらも手を出さないなんて保障はできないからね」「調子に乗らないで!」続いて、応接室のドアが乱
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第1045話

詩乃は唇を噛み、何も言い返せなかった。純玲の気の強さは有名だった。夫の浮気現場に遭遇した時、彼女は衆人環視の中で、その女性を罵倒し、離婚騒動を起こした。その結果、相手の女性は社会的に抹殺され、元夫は医学界から追放された。そんな強気な純玲の人生は、今まで思いがけない出来事もあったかもしれないが、これほど卑屈な思いをしたことはなかったのだ。しかし今日は、音々と輝にさんざん恥をかかされた。この仕打ちは絶対に忘れない。純玲は怒りがこみ上げてきて、出来の悪い妹の姿を見ると、その腹いせに彼女を叱りつけた。「おばあさんが、あなたのこんな情けない姿を見たら、どれだけ怒ることか!私の後をついて来ないで。これ以上、我妻家の恥さらしをするんじゃない!」純玲は詩乃の手を振り払い、一人で足を引きずりながら去っていった。輝と音々は応接室から出てくると、詩乃が純玲に叱責されている様子を眺めていた。二人は顔を見合わせ、ため息をついた。詩乃は二人の方を振り向き、軽く頭を下げた。「申し訳ありません。姉は心配のあまり、取り乱してしまいました。彼女の代わりに謝らせてください」輝は純玲にはいい印象を持っていなかったが、詩乃は違うと感じていた。純玲と比べ、詩乃はとても分別のある女性だった。「今回のことは、全部私の対応が悪かったからだ。迷惑をかけて本当にすまなかった。ご家族の皆さんが私に不満を持つのは当然だ。でも、何とかご家族に納得がいくように事情を説明してくれないか?全部私の独断でやったことで、音々は全然関係ない。責任を追及するなら、彼女を巻き込まないでほしい」「分かった」詩乃はこみ上げてくる涙をこらえ、音々の方を向いた。「中島さん、姉の無礼をお許しください」「謝らなくていい。人は自分のしたことに責任を持つべきよ」音々は、特に気にする様子もなく言った。「今回のことはあなたも不当な扱いを受けたから。だからあなたの姉さんのしたことは我慢するよ。でも、次こんなことされたら、容赦しないから」それを聞いて、詩乃は驚いた。音々は少しは遠慮するかと思っていたので、こんなにも率直な反応は予想外だった。これが、愛されている人が持てる強みなのかな?この時、音々の強さは、彼女自身の中から湧き出ているものだということを、詩乃は知らなかった。音々は輝を好きになって
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第1046話

雄太は当然、一人で来たわけではなかった。付き添いには、専属医、岡崎家の古株の執事夫婦である井上健一(いのうえ けんいち)と井上幸子(いのうえ さちこ)、そして専属シェフがいた。雄太は80歳を超えており、ここ数年は健康状態が芳しくなく、本来ならば遠出は控えるべきだった。輝の両親も反対していたが、雄太の頑固さには勝てず、最終的には専属医と専属シェフを同行させることを条件に渋々承諾した。今、専属シェフと幸子はキッチンで食事の支度をしており、健一と専属医は雄太の後ろに立っていた。そして、部屋全体に異様な空気が漂っていた。音々は輝の方を向き、「この方は?」と尋ねた。「私のおじいさんだよ」音々は言葉を失った。まさか、こんな形で突然、輝の家族に会うことになるとは......音々は気まずくなり、ゆっくりと頭を下げた。そして、輝と繋がれた手に気づき、顔が熱くなった彼女は慌てて手を離した。その行動に、輝は一瞬戸惑った。音々は二人にしか聞こえない声で言った。「私、一旦離れたほうがいい?」輝は顔を曇らせ、再び音々の手を握った。「もう会ってしまったんだから、挨拶くらいしていけ」音々は何も言えなかった。ドラマでよくある展開のように、こんな風に何も言わずに親御さんが押しかけてくるのはきっとひと悶着があるだろう。この時音々は自分の気持ちが分からなかった。緊張しているような、悲しいようなものはあったものの、でも怖気づいてはいなかった。自分の育ちや背景が、雄太の目には及ばないことは分かっていた。雄太に冷たくされても、輝のためなら、目上の人を敬ういい子でいようと心に決めた。とはいえ、今のこの雰囲気は、どうにも居心地が悪かった。音々は輝に手を引かれ、雄太の前に連れて行かれていた。彼女は手を離そうとしたが、輝はしっかりと握ったままだった。「おじいさん、紹介するよ。私の彼女、中島音々だよ」輝は音々の方を向き、優しい眼差しで言った。「音々、こちらは私のおじいさんだよ」「おじいさん、はじめまして」音々は雄太を見ながら、これまでの人生で一番愛らしい笑顔を浮かべた。「突然お会いすることになり、何も用意していなくて申し訳ありません」雄太は体裁を重んじる男だった。音々を孫嫁として認めていないとはいえ、面と向かって恥をかかせ
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第1047話

「おじいさん......」「黙れ!」雄太は輝を叱りつけた。「俺が彼女と話しているんだ。口出しするな」輝は何も言えなかった。「大丈夫です。自分で答えます」音々は輝を安心させるように視線を送り、そして雄太の方を向いた。「私は移民です」彼女の現在の戸籍は確かに移民だった。当時、音々を孤児院から引き取った夫婦は、E国に着くとすぐに彼女を組織の人間に引き渡したのだ。組織の中で、音々は10年間にも及ぶ過酷な訓練を受け、国際的なエージェントとなった。コードネームは葵(あおい)。任務ごとに身分を変え、当時は本当の自分のアイディーさえ持っていなかった。27歳の時、任務に失敗し重傷を負った彼女は、偶然にも孤児院で知り合った祐樹に助けられた。現在の名前は、祐樹が音々につけてくれたものだった。祐樹の妹になってから、二人はS国に定住した。音々は身分を偽り、目立たないように生活していた。それから長い年月が経ち、葵という存在は、完全に過去のものとなっていた。祐樹も移民だった。雄太は「移民」という身分に、すこし不満げだった。そして彼はさらに尋ねた。「他に家族はいるのか?」「兄が一人います。私たちはS国に住んでいます」この答えにも、雄太は不満だった。彼は音々を見ながら、疑わしげな視線を向けた。「ご両親は?」「私は兄も、孤児です」音々は正直に答えた。葵という存在に関する情報や出来事は全て隠すつもりだった。あまりにも危険な過去だったからだ。しかし、それ以外は隠したくなかった。輝と真剣に付き合っていくと決めた以上、自分が孤児であることは、いずれ伝えなければならないことだった。雄太に調べられるくらいなら、先に全て話しておこうと思った。それを聞いて雄太の顔色はさらに曇った。輝が孤児を連れてきたとは、夢にも思っていなかったのだ。彼はついに怒りを抑えきれなくなり、杖を突きながら立ち上がり、震える手で輝を指差した。「あんなに素敵な女性を捨てて、こんな女を選ぶというのか?輝、お前は何を考えているんだ!」そう言うと、雄太は目の前が真っ暗になり、杖を落とし、大きな音を立てた。「おじいさん!」輝は叫びながら、雄太を支えた。音々も、あまりの出来事に驚いていた。まさか、初めて輝の家族との初対面がこんなことになるとは.
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第1048話

ほどなくして輝が階下に降りると、音々の姿はリビングにはなかった。ガランとしたリビングを見渡すと、彼は急に不安な気持ちに襲われた。音々は、このまま出て行ってしまったのだろうか?輝は大股で外へ出て、ポケットからスマホを取り出し、音々に電話をかけた。聞き慣れた着信音が庭に響いた。輝は足を止めた。庭の小さなガゼボで、音々が電話に出た。「もしもし?」輝は闇に紛れた彼女の背中を見つめた。そして電話を切ると、輝は彼女の方へ歩いて行った。「音々」音々は驚いて振り返ると、すぐに彼に抱きしめられた。輝は音々を強く抱きしめ、顔を彼女の首筋に埋め、その独特の香りを嗅いだ。そして、ゆっくりと息を吐き出すと、どこか寂しげな声になった。「私を置いて出て行ったのかと思った」音々は呆れて苦笑した。「私そんなに薄情者に見えるの?すぐ出て行くような?」「違う」輝は低い声で言った。「私にとって、あなたは一番素晴らしい女性だ」「だったら、そんなこと思わないでよ」音々は輝の腰に腕を回し、ため息をついた。「私は別れるつもりはないけど、でも、こんな状況じゃ、私がここにいたら、あなたがもっと辛い思いをするんじゃないかと思って......」輝は音々から体を離し、彼女の目を見て言った。「つまり、やっぱり離れるつもりなんだな」「おじいさんの状況も分かってるでしょ?今のところ私のことを受け入れてくれなさそうだし。私が彼の気持ちを無視してここにいたら、万が一のことがあったら、岡崎家に申し訳が立たないじゃない」輝は唇を噛み締め、音々を見つめた。音々に辛い思いをさせたくない。しかし、今の祖父の状況では、他に良い方法が思いつかなかった。「おじいさんには、納得してもらえるように説得するつもりだ」輝は音々の唇に優しくキスをした。「音々、少し時間をくれ。必ず彼にあなたの良さを分かってもらえるようにする。ちゃんと解決するから、あなたには辛い思いはさせない」「大丈夫よ。そんなに気を張らないで」音々は輝の額を軽く叩いた。「おじいさんと喧嘩しないで。何よりも彼の体が大切なんだから」「あなたがそんなに理解のあるのは嬉しいけど......でも、ちょっと寂しいな」「どうして?」「あなたがあまりにも冷静だから、私のことがそんなに好きじゃないんじゃないかって思
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第1049話

たった2週間で、自分の心境はこんなにも変化してしまうものなのか?「音々」輝は音々がなかなか口を開かないので、眉をひそめて尋ねた。「私と付き合ってることを後悔してるのか?」音々は我に返り、輝の不安そうな視線に気づいた。彼女は唇を噛み締め、ため息をつくと、彼のハンサムな顔を撫でた。「輝、もしかして、振られる妄想でもしてるの?私は何も言ってないのに、どうして後悔してると思ったわけ?」「あなたがちっとも焦ってないからだ」「私が焦ったって仕方ないでしょ?」音々は聞き返した。「私が焦れば、おじいさんがすぐに態度を変えて私を受け入れてくれるの?」輝は言葉に詰まった。確かに、そうはいかない。音々は呆れたように彼を睨みつけた。「あの人はあなたのおじいさんよ。あなたの家族。認められないのは少し寂しいけど、私たち二人ともいい大人なんだから、物事を理性的に見て、解決策を見つけ出すべきでしょ。まだ会って一日目。これから先、長い時間があるんだから。私が焦ってないのは、長期戦の覚悟ができているから。あなたが諦めない限り、私も諦めない。これで分かった?」輝の不安で焦燥していた心は、音々の言葉で落ち着いた。「分かった!」彼は音々の顔を両手で包み込み、唇にキスをすると、彼女を抱きしめた。「音々ちゃん、こんなにも素敵なあなたをどうして今まで気が付かなかったのだろう。諦めずに一緒に向き合ってくれて、本当にありがとう。私は危うくあなたを逃すところだった」「当然よ。今までのあなたは、私の価値が分かっていなかったんだから」「ああ、私は本当に見る目がなかった!」輝は低い声で笑った。「だけど、もう大丈夫だ。これからは、私にとって、あなたがすべてだから!」音々は彼を抱きしめ返した。「安心して。私たちはまだ若いんだから、時間はたっぷりある。でも、おじいさんはもうお年寄り。あなたに後悔してほしくないから、約束して。彼と話すときは、なるべく穏やかに、焦らずに、ゆっくりと進めていくようにね」輝はその言葉に胸を打たれ、さらに強く彼女を抱きしめた。「分かった」......その夜、輝は音々を梨野川の別荘まで車で送った。送り届けた矢先、執事の健一から電話がかかってきた。雄太が目覚めて、また輝の姿が見えないと怒り出しているらしい。輝は仕方なく、急いで雲水舎に戻った。
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第1050話

音々は、北城にジムを開くなら、ついでに家も買おうと思っていた。しかし、北城にはあまり詳しくなかったので、綾に付き合ってもらうことにした。すると、アトリエの隣の通りのマンションで、ちょうど良い物件が出たのだ。綾が音々を案内して内覧すると、リフォーム済みの広い部屋で、28階からの眺めも申し分なかった。音々は気に入って、その場で決めた。60億円もの大金を、彼女はまばたきひとつせずに支払った。綾は、エージェントの稼ぎの良さを改めて実感した。音々は仕事が早く、名義変更を終えた翌日には家具屋に行き、午後には家具とカーテンを全て選んでしまった。3日で部屋は見違えるように綺麗になった。綾は、新しい家具やカーテンには多少なりともホルムアルデヒドが含まれているだろうからと、専門の業者を手配してあげた。だから、ここ数日、音々は梨野川の別荘に滞在していた。あれよあれよという間に、4日が過ぎた。この4日間、輝は仕事で忙しい上に、雄太の世話や説得もしなければならず、毎日、雄太が寝静まってからこっそり梨野川の別荘へ車で来ていた。今夜もそうだった。深夜12時、また庭に車の音が響いた。2階の寝室で、綾は寝入ったばかりだったが、かすかに車の音を聞きつけて、ゆっくりと目を開けた。するといつものように、誠也に抱きしめられていたことに気が付いた。こんな暑い夏に抱きしめられて寝るなんて、暑すぎる。彼女は誠也の肩を押し退けた。誠也は目を閉じたまま、眠そうな声で言った。「ん?水が欲しいのか?」「ちがう、少し離れて」誠也は体を離さず、少し身をかがめて、綾の額に優しくキスをした。「どうしたんだ?」「暑い」綾はため息をついた。「暑くて眠れない」「眠れないのか?」誠也は手を彼女のドレスの下に滑り込ませ、ゆっくりと弄り始めた。「じゃあ、少し運動でもするか?」綾は絶句した。起きなければよかった。「ふざけないで」綾は彼のいたずらな手を掴んだ。「今、車の音が聞こえたような気がしたの」「ああ」誠也も聞こえていた。「輝だろう」「ここ数日、彼も大変だったね」綾は小さくため息をついた。「音々は理解のある人でよかった。輝のことも、彼のおじいさんのことも責めていないんだから」「それは彼女の職業柄もあるだろう」誠也は綾の手を握り返し
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