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碓氷先生、奥様はもう戻らないと のすべてのチャプター: チャプター 1241 - チャプター 1250

1338 チャプター

第1241話

それを聞いて大輝は無意識に真奈美の方を見た。真奈美は少し気まずそうに、頬に手をやると、視線を逸らした。すると、大輝は口の端を上げて笑った。「お母さん、声が大きすぎだよ。真奈美に聞こえてる」「......」若葉は数秒黙り込んだ後、どもりながら言った。「そ、それじゃあ、あなたから真奈美に聞いてみてくれない?」そう言われて、真奈美は言葉に詰まった。彼女が気まずそうにしているのに気づいた大輝は、彼女を困らせたくなかったので、「お母さん、今運転中だから、また後で」と言って、一方的に電話を切った。大晦日の街は、普段よりずっと人通りが少なかった。交差点の信号が赤に変わると、大輝はゆっくりとブレーキを踏んだ。車の中で、大輝は真奈美に向き直った。「真奈美、もし気まずいなら、今夜は光風苑で、家族だけで過ごそうか。久保さんたちには万葉館のほうへ行ってもらうから......」「石川家に戻るのは、ご家族に会うためでもあるの」真奈美は大輝の言葉を遮った。「大輝、ご両親には、今まで一度も蔑ろにされたことがないの。それどころか、彼らはいつも私に良くしてくれてた。だから、私たちが別々に暮らしてきたここ数年間、私もずっと彼らには申し訳ないと思っていたの。特に、お母さんには」「お母さん」という言葉に、大輝は一瞬、呆然とした。「真奈美、本当に......いいのか?」「ええ、これが私の本当の気持ちよ」真奈美は言った。「だから、あなたにも分かってほしい。私たち二人がどうなろうと、あなたが他の女性と結婚でもしない限り、あなたの家族も、ずっと私にとって大切な家族なの」「俺が他の女と結婚するわけないだろ!」大輝はすぐに言い返した。「あなたは俺の人生においてたった一人の女だ!たとえあなたが永遠に俺とやり直すつもりがなくても、俺が他の女を好きになることなんてないさ」それを聞いて真奈美はかすかに口元を綻ばせた。「あなたももうすぐ40歳だけど、80歳まで生きるなら、あと40年もあるのよ。そんなに急いで私に誓わなくてもいいのよ」「120歳まで生きたって、俺はあなただけを愛し続けるから!」真奈美は、彼のその負けず嫌いな口の利き方にはとっくに慣れていた。この4年余りの間で、大輝はずいぶん大人になり、変わった部分も多かった。でも、持って生まれた性格というのは、
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第1242話

石川家の皆は、その光景にほっと胸をなでおろした。こうでなくっちゃ。「真奈美、やっと帰ってきたのね!」若葉は急いで玄関から出てくると、石の階段を駆け下りて真奈美を抱きしめた。真奈美も若葉を抱きしめ返した。「お母さん、心配かけちゃってごめんなさい」そう言いながら、彼女は玄関に立っている三人のほうに視線を移した。そしてそこにいた家族一人ひとりに挨拶をした。「おじいさん、おばあさん、お父さん。ただいま」その言葉を聞いて、三人は思わず目頭が熱くなった。真司は何度も頷きながら言った。「お帰り。元気でよかった、本当によかった!」「真奈美、さあ早く中に入って!」楓も真奈美に手招きしながら言った。真奈美は素直に頷いて、「はい」と答えた。「海外にいた何年間、ちゃんと食べてなかったでしょ。こんなにも痩せちゃって」若葉はそう言って真奈美の手を引いて家の中へ促した。「さ、中で話そう。まずは中に入って!」真奈美は頷いて、若葉に手を引かれるまま家の中へ入った。そして、「お父さん、お母さん、先に中に入ろう!」若葉はさらにご老人の二人にも言った。「真奈美は退院したばかりだから、体を冷やさないようにしないと」「そうね、そうね。早く中に入ろう!」楓は真奈美のもう片方の手を握り、家の中へ引っ張った。「あら、手がこんなに冷たいじゃない。あなたはこの数年、海外で苦労したんでしょ?」「おばあさん、苦労なんてしていませんよ。ただ、海外にいた数年間は仕事がとても忙しかったんです。それに、気候も食べ物も国内とは違うから、少し環境不適応だったのかもしれません」「じゃあ、これからは国内にいるのよね?」楓は真奈美をリビングのソファに座らせた。「哲也も国内の学校に通っているし、あなたもこっちにいてくれれば、私たちもあなたをよく見てあげられるじゃない。私ももう年寄りだから、海外なんて遠すぎて、あなたに会いたくても飛んでいけないのよ!」楓の言葉に、真奈美の胸は感動でいっぱいになった。でも、それと同時に申し訳なさもこみ上げてきた。石川家のご老人たちは、彼女にとても良くしてくれた。たとえ、哲也を無理やり身ごもったのだと知っても、彼女を非難したり、冷たい態度をとったりしたことは一度もなかった。みんな、いつも彼女のことを気にかけてくれていた。それは、新井家では決
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第1243話

「また始まったよ!」大輝は四人のご老人を見て、仕方なさげに言った。「俺はもう、とっくに心を入れ替えたじゃないか。みんな、一応俺の家族なんだろ?小さい頃からずっと見てきたのに、そんなに俺を信用できないの?」それを聞いた隼人は、ふんと鼻を鳴らした。「信用してやったこともあったがな。それで、お前は一体何をしたんだ?」「あれは若気の至りだよ!今はもうちゃんと考えてる!これからは絶対に同じ過ちはしないから!」だが、「今日であなたももう40歳。4年前は36歳。どこが若気の至りなのよ」若葉はそう言って、容赦なく追い打ちをかけた。「いい年してどうかしてるわよ。今回だって真奈美が、子供たちに免じて、もう一度チャンスをくれただけじゃないの!」「そうとも。真奈美は心優しい、いい嫁だから、子供たちに免じて、お前に情けをかけてやっただけなんだ」そう言われて、大輝は唖然とした。一方で、真奈美は、家族から総攻撃を受けている大輝を見て、思わず笑みがこぼれた。もちろん、これはみんなが自分に気遣って、わざと言ってくれているのだと真奈美も分かっていた。戻ってきたばかりの自分が、気まずい思いをしないようにと、みんな精一杯気配りをしてくれているのだ。真奈美も本当は、このにぎやかで温かい石川家の雰囲気がとても好きだった。「ママ!」そう思っていると、階段の方から、明るくて可愛らしい子供の声が聞こえてきた。みんなが一斉に振り返ると、そこから、赤いワンピースを着た心優が、哲也の手を振りほどいて、楽しそうにこちらへ走ってくるのが見えた。そして彼女は近づくと、真奈美に飛びついた。真奈美は心優を抱き上げると、自分の膝の上に乗せた。このお正月が明ければ心優ももうすぐ5歳になるのだ。彼女は真奈美の首に手を回し、ぷにぷにの丸いほっぺを彼女の胸にすり寄せていった。「ママ、体はもう大丈夫?」「ママはもうすっかり元気よ」真奈美はそう言って娘の柔らかな頬を撫でた。その目元は優しく、そして声のトーンも自然と柔らかくなっていったのだった。「お兄ちゃんとパパがね、病院に行っちゃだめって。病院はばいきんがいっぱいだから、子供がいくとうつっちゃうって言うの!」「その通りよ」真奈美は辛抱強く説明した。「あなたはまだ小さいから、大人みたいに抵抗力がないの。もし病気になったら、注射し
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第1244話

そう言われて、心優は力強くうなずいた。「うん、わかってるよ。パパもお兄ちゃんも真剣に話してくれたもん。それに、もう念書も書いて、指印も押したんだから。ママ、安心して。私は約束をちゃんと守る子だから、信用して!」彼女は小さな体で大人みたいなことを言って、胸をぽんっと叩いてみせた。その、子供のくせに大人びた様子が、その場にいた大人たちの笑いを誘った。真奈美は小さい娘の頭を撫でると、顔を上げて哲也を見た。まだ幼稚園児で、たまにわがままを言って休んでは大輝と一緒に海外にいた真奈美に会いに行ける心優に比べて、哲也が真奈美と会える機会はずっと少なかった。彼が真奈美に会いに行けるのは、毎年夏休みと冬休みだけだった。しかも、勉強がかなり大変だから滞在できる時間もそんなに長くなかったのだ。大輝と聡は哲也に早く会社を継がせたいと思っているので、英才教育をしているのだ。一方、哲也自身も、それを受け入れているようだ。彼は早くから物分かりが良く、大人びた子供だった。そして、年齢を重ねるにつれ、ますますクールで自律的になってきたのだった。ただ、心優と優希の前だけでは、哲也も滅多に見せない優しさや心配りを見せていた。心優は自分の妹なのだから、可愛がるのは当然だ。優希のことも、哲也はもちろん妹のように可愛がっていた。ただその気持ちの中に、彼女の「哲也お兄ちゃん、私大きくなったらあなたのお嫁さんになりたい!」という言葉が影響しているのかどうかは、10年後の哲也がわかることだろう。もちろん、これは後の話だ。現在13歳の哲也は、同年代の子よりもずっと背が高い。ここ数年で顔立ちもますますはっきりしてきた。同い年の子が思春期に入り、太ったり歯が生え変わったりする気まずい時期を迎える中で、彼はそのすべてを完璧に避けてきた。まさに非の打ちどころがない成長ぶりだと言えるだろう。「哲也、こっちにいらっしゃい」真奈美はそんな哲也に手招きした。そう言われて、哲也は素直に彼女の前に立ち、真剣な目つきで「お母さん」と声をかけた。「1学期会わないうちに、また背が伸びたわね」真奈美は彼の手を握った。「もうすぐ13歳だけど、何か欲しいプレゼントはある?」そう言われて、哲也は物分かり良く首を横に振った。「お母さん、僕は何もいらないよ」「あなたが何も不自由していないのは
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第1245話

今夜の万葉館は、みんなの楽しそうな笑い声が響いていて、とても賑やかだった。そして、大晦日のごちそうを食べ終わると、子どもたちが一番楽しみにしていたお正月恒例のカウントダウンライトアップを見に行く時間になった。そこで、家族はみんなで、予め予約していた観覧スポットへと向かったのだった。きれいなライトアップが夜空を照らすとき、大輝は心優を抱きながら、隣にいる女性を見つめていた。真奈美も哲也の隣に立ち、彼の肩に両手をかけながら顔を上げて、空に輝くライトアップを見つめているのだった。すると、その輝く瞳には、色とりどりのライトアップがキラキラと映り込んでいるように見えた。大輝は、そんな真奈美をじっと見つめていた。夜空に映えるライトアップなんかよりも、彼女のほうがずっと眩しく輝いているように感じたのだ。「パパ、どうしてライトアップを見ないの?」心優は小さな両手で大輝の顔を挟むと、「ライトアップ、とってもきれいだよ。パパも見て!」と言った。大輝は我に返ると、心優を見てにっこり笑った。「パパはね、ライトアップよりもっときれいな景色を見てるんだよ」「ライトアップよりきれいな景色なんてあるの?」心優は目をぱちくりさせると、すっかり好奇心を掻き立てられた。「どこにあるの?心優も見たい、見たい!」心優の声に気づいた真奈美が、彼女のほうを振り向いた。娘の頭をなでながら、「心優、どうしたの?」と聞いた。「パパがね、ライトアップよりきれいな景色を見てるんだって。心優も見たい!」それを聞いた真奈美は、きょとんとした。彼女もなんだか気になってきて、「なにかしら?」と尋ねた。大輝は真奈美を見て、片眉をくいっと上げた。「本当に見たい?」真奈美はまだ何も気づかず、ますます好奇心をそそられた。「そんなに珍しい景色なの?」「ああ」大輝は、真剣な顔で答えた。「じゃあ、もっと見たくなった!」心優はもう待ちきれなかった。「パパ、もったいぶらないで、早く私たちに見せて!」「まずママに見せてあげてもいいかな?」大輝は娘に尋ねた。「うん!」心優は二つ返事で頷いた。「ママはうちで一番偉くて大事な人だもん!キレイな景色だってママに一番に見せないとね!」「心優は偉いな」大輝はかがんで心優を降ろすと、スマホを取り出して画面をタップした。一方で、
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第1246話

真司は頷いた。「そうじゃ!真奈美の帰りを祝って、うちのビルにもでっかい『石川』の文字をライトアップさせよう!今夜はもう間に合わんからな。隼人、すぐに業者に頼んでくれ。1日から8日まで毎日ライトアップさせるようにするのじゃ!」それを聞いて、隼人は言った。「......お父さん、本気か?」「ああ、本気だ。そんなことで冗談を言うわけないじゃない?」「......わかった。すぐに秘書に電話して、残業してもらって手配させる」「正月早々、残業させるのは申し訳ないからのう。彼にはしっかりお年玉を弾んでやれよ!」隼人はスマホを手に、笑いながら応えた。「お父さん、わかっているよ」......若葉は、ライトアップの話には加わらなかった。彼女が気にしているのは、そういうことではなかったからだ。若葉はてっきり、真奈美が戻ってきてくれるとは言え、5年も離れていたのだから、また元に戻るには少し時間が必要だと思っていた。しかし、息子がキスするのを目の当たりにして、自分の考えがまだ控えめだったと感じた。そこで、若葉は満面の笑みで梨花を脇に引き寄せた。「私が先手を打って、ブライダル寝具を用意しておいて正解だったようね。ほら、ちょうど今にも役に立ちそうじゃない!」梨花は笑った。「はい、奥様の見通しはさすがです」「備えあれば憂いなしって言うでしょ!」若葉はそう言って口元が緩みっぱなしだった。そして彼女はさらに急かした。「あなたが先に帰って、大輝たちにあのブライダル寝具を敷いてきてちょうだい!」「はいはい、今すぐ行ってまいります!」だが、梨花が数歩歩き出したところで、若葉は手を叩いた。「あらやだ、まだ準備してないものがあった!私も一緒に行こう」「何でございましょう?」梨花は思わず好奇心から尋ねた。「まあ、それは秘密よ!」そう言って、若葉は梨花を引っ張りながら、屋敷へと一緒に戻って行った。そして屋敷に戻ると、若葉はすかさず自分の部屋へと入って行き、それから再び出てきた時、バッグを手に、彼女は少し不自然な顔つきをしていた。「行こう、光風苑へ」梨花は若葉の手にあるバッグを一瞥し、とても不思議に思った。「奥様、お正月から光風苑へ行くのに、どうしてバッグなんてお持ちに?」若葉は彼女を睨むように見た。「いいの、余計なこと聞かないで!早く行
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第1247話

2日。街には実家に帰省する人たちの車が行き交っている中、聡と霞は、まだ霞の実家にいて、戻ってくるのは5日の予定だ。だから、今日、真奈美が新井家に行く必要はなかった。大輝はそのことを知っていたから、昨夜は少しも我慢せず、何度も何度も真奈美を求めた。お互い5年以上もご無沙汰だったのだ。大輝は激しく求めるのに対し、真奈美も敏感に反応した。その証拠をシーツは物語っていたようだった。最後の行為が終わったときには、外の空はすでに白み始めていた。大輝が真奈美を抱いてバスルームで体をきれいにしてあげると、彼女は目を閉じた途端に眠ってしまった。結局体力では、到底大輝にはかなわないのだ。一方で、大輝は真奈美を抱きかかえて部屋に戻ると、ソファの上にそっと降ろした。真奈美にネグリジェを着せてあげた後、汚れたシーツを交換し、それからようやく彼女をベッドに運び、腕に抱いて眠りについた。この夜は、大輝にとってここ数年で一番安らかに、ぐっすり眠れた夜だった。目が覚めると、腕の中には愛しい温もりがあった。大輝はこの上なく満たされるのを感じた。3時間くらいしか眠っていないはずなのに、体にはまったく疲れが残っておらず、まるで昨夜、あれほど激しく求めたのが自分ではないかのようだった。彼は腕の中の真奈美を、飽きることなくじっと見続けた。真奈美は深く眠っている。部屋には暖房が効いていて、彼女のきめ細かい肌の頬はほんのり赤くなっていた。閉じられた瞼には、長くてカールしたまつ毛が影を落とし、ピンク色の唇はとても魅惑的に見えた。それを見た大輝はごくりと喉を鳴らし、真奈美の眠りを妨げないように、込み上げる欲情をなんとか抑えた。彼も、昨夜は少し我を忘れていた自覚はあった。彼女は退院したばかりなのだから、まだ体を休ませてあげないといけないんだから、そう思って、大輝は身をかがめると、真奈美の額にそっとキスをした。それから静かに彼女を腕から離し、ゆっくりとベッドから起き上がった。......一方で、若葉の実家は北城の奥山家という名家で、まだ彼女の母親は健在だから毎年2日には、若葉と隼人が実家に挨拶に行くのが恒例だった。朝8時半。大輝はシャワーを浴びて着替えを済ませると、寝室から出て隣の子供部屋へ向かった。そして、心優と哲也を起こすと、二人をまとめて万葉館
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第1248話

若葉はあきれて笑いながら、大輝の腕を軽く叩いた。「あなたが作るもの、ちゃんと食べられるんでしょうね!」「心配しないでよ。妻に食事を作ってあげるくらい俺にだってできるさ」「妻?」若葉は容赦なく突っ込んだ。「真奈美は、あなたとよりを戻すことに同意しただけで、再婚するとは一言も言ってないのよ。大輝、あなたに彼女を『妻』って呼ぶ資格はまだないんだから」そう言われて、大輝は絶句した。......それから大輝は光風苑に戻ると、まず二階に上がって真奈美の様子を見に行った。真奈美はまだ眠っていた。すると、大輝は彼女を起こさないように、階下へ降りてキッチンに向かった。梨花は休みを取っていたが、冷蔵庫にはいつも通り食材が揃っていた。御曹司として今まで何不自由なく育った大輝は、料理なんて一度もしたことがなかったが、それでも、今から学べば遅くはないだろう。今の時代、スマホさえあれば、料理を覚えるのは難しくない。そう思って、朝食は胃に優しいお味噌汁がいいだろうと考え、大輝はお味噌汁とご飯を作ることにした。彼は米を取り出すと、動画の手順通りに、米を研いで炊飯器にいれてから、お味噌汁も出汁からとって作ろうとした。......一方で、真奈美が目を覚ますと、ベッドの傍には誰もいなかった。寝室は静まり返っていて、彼女は目をこすりながらベッドに手をついて体を起こすと、自分が着ているネグリジェに目を落とした。昨夜のことは途中から記憶がなく、最後にバスルームにいたことだけを覚えていた......布団をめくると、シーツが替えられていることに気づいた。シャンパン色のシーツを見ていると、いくつかの場面が脳裏に浮かび、彼女の頬が熱くなった。その時、寝室のドアが開けられた。顔を上げると、食事を運んできた大輝が部屋に入ってくるところだった。「起きたんだな」彼は部屋に入ると、ソファの前の小さなテーブルに食事を置き、ベッドのそばに腰を下ろした。そして真奈美の頬に手を伸ばし、「よく眠れたか?」と尋ねた。真奈美はまつ毛を微かに震わせながら、彼に触れられた頬がさらに熱を帯びていくのを感じて、彼女は大輝の顔を見ていられなくなり、恥ずかしそうに頷いた。片や、大輝は視線で真奈美の鎖骨に残る痕をかすめ、満足そうに口角を上げた。「お味噌汁と
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第1249話

一方で、梨野川の別荘。綾と誠也は、三人の子供たちを連れて、空港へ向かった。南城にある古雲町に住む、澄子と仁に会いに行くためだ。一年前、澄子と仁は、思いがけず新しい命を授かった。澄子は、仁の細やかな世話のおかげで、ここ数年ですっかり体調がよくなった。精神的にも、かなり落ち着きを取り戻しているのだった。二人にとっては、歳をとってからの子供だったので、特に大切にしていた。そして話し合った末に、仁は澄子と古雲町に移り住むことを決めた。古雲町の漢方診療所はずっと営業を続けている。要が去ったあと、仁が引き継いで人を雇っていた。主に漢方薬を販売しているが、専門の医師が見つからなかったので治療の方は中断していた。それもあって、仁は、漢方診療所をこのままにしておくのはもったいないと思って、澄子と相談した後、二人は古雲町へ引っ越すことに決めたのだ。澄子もここ数年、仁から漢方について学んでいた。診察はできなくても、薬草はだいたい見分けがつくようになったから、薬を調合する手伝いくらいはできた。ただ、澄子は今、妊娠している。だから、仁も彼女に漢方診療所の心配をさせないようにしたかった。二人が古雲町に着くと、かつて綾が購入した家でそのまま暮らし始めたのだった。そこに、子供のいない史也と文子夫婦も、年末には澄子に会いに来ていた。彼らはみな、綾を愛する大切な人たちだ。今ではみんなが集まって、まるで本当の家族のように仲良く暮らしているのだった。......そして、今回は2週間ほど滞在して、子供たちの学校が始まる少し前に帰ってくる予定で、誠也は、前もってプライベートジェットを手配していたのだ。空港へ向かう車の中で、10歳の優希は、キッズスマホで誰かとずっとおしゃべりしていた。その隣には、同じく10歳でクールな安人が座っているのだった。それで、安人はスマホに夢中な妹が気になったのか、何度も振り返っては綺麗な眉をひそめて言った。「優希ちゃん、車の中で下を向いてスマホをいじってると、酔うぞ」こうして、彼は口を開けば、いつもしっかりとした大人びた口調だ。優希はここ2年ほど、兄の口うるささにうんざりしていた。特に、哲也とメッセージをやり取りしていると、兄からはいつも裏切り者でも見るような目で見られるのだ。「ほんとうるさいわね!」優希
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第1250話

それから、遮音パーティションが静かに上がり、運転席と後部座席が完全に仕切られてしまった。その様子に、誠也は片手で綾の手を握ると、低い声で尋ねた。「どうした?」綾はため息をついた。「安人って、大きくなるにつれて、性格がどんどんクールになってきてない?」「自分の考えができてきた証拠だよ」誠也は指の腹で綾の手の甲を優しくなでた。「あまり心配しなくてもいい」「でも彼はまだ10歳なのに、もうこんなにもどっしり構えるようになっているのよ。このままだと、性格が強すぎて彼女もできないんじゃないかって、心配にならないの?」それを聞いて、誠也は動きを止めた。ちょうど前の信号が赤になった。誠也はゆっくりとブレーキを踏み、綾の方を向いた。「子供が大きくなれば、自分の考えや選択を持つようになる。仕事を見つけて、いい人と出会って、家庭を築く。親なら誰でもそんな結果を望むものだ。でも、それが絶対というわけじゃない」「分かってる」綾は静かにため息をついた。「ただ、安人が考えすぎて、何でも自分で把握してないと気が済まないような子になるのが心配なの。そうなったら、気難しい子になっちゃうでしょ」誠也も綾の心配を理解していた。実際のところ、安人の性格は大部分が自分からの遺伝だ。そのことは、誠也自身が一番よく分かっていた。ただ、安人の性格が昔の自分のようにはならないという自信があった。なんと言っても、二人が育った環境はまったく違うのだから。「綾、子供は成長すると、より多くの選択肢を持つようになるものだ。そして、自分の望む人生を追い求める力もそれに伴ってついてくるようになる。安人は賢い、それは彼の強みだよ。将来、もし会社を継ぐなら、きっとうまくやってくれると信じてる。でも、安人が成長する目的は会社を継ぐためじゃない。もちろん、本人が望むなら、俺たちには彼の選択を支えてあげる力がある。それはいいことじゃないのか。もし安人が別の職業を選んでも、本人が好きなら親として応援するつもりだ。それもまた、悪くない人生だと思うよ。同じように、俺たちみたいに愛する人ができれば結婚を望むだろうし、その時は愛する人のために自然と変わっていくだろう。でも、もしそういう人に出会えなくて、一生独身だとしても、それも彼自身の選択であって、安人がそう選ぶなら、きっとそれなりの覚悟は
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