渚は去っていった。いや、正確には、慌てふためいて逃げて行ったのだった。優希は彼女を引き止めなかった。だが、このまま見逃してやるつもりもなかった。5年前、自分が情けをかけたことで傷つけられたツケは、きっちり払ってもらわないとだから。そう思って優希はボイスレコーダーと、防犯カメラから抜き出した映像のバックアップをファイルに入れた。それから、彼女は光葉をオフィスの中に呼んだ。「このファイルを、すぐに佐藤グループ病院まで届けて、河内さんに渡して」優希は念を押した。「必ず、河内さん本人に直接手渡すのよ」「はい」光葉はうなずくと、ファイルを持ってすぐに病院へと向かった。十数分後、哲也が秘書に届けさせた抹茶ケーキが届いた。優希は一口分の抹茶ケーキを手に、大きな窓の前に立った。沈んでいく夕日を眺めながら、ゆっくりとケーキを口に運んだ。クリームの甘さと、ほろ苦い抹茶の香りが口の中に広がり、まさに彼女好みの味だった。すると机の上のスマホが震えた。知らない番号からの着信だ。だが、優希に慌てる様子はなかった。彼女は抹茶ケーキを続けて食べてから、ゆっくりと振り返った。そして、彼女はケーキをテーブルに置き、通話ボタンをスライドして、スピーカーをオンにした。「優希さん、私です」すぐにスマホから、勲の疲れたしゃがれ声が聞こえてきた。「河内さん」優希は椅子に腰掛け、スマホに視線を落とした。「お久しぶりです。残念ですね。5年ぶりの連絡が、こんな気まずい形になってしまって......」「優希さん、本当にすみません。あんな言い方をするべきではなかったです......」「謝る必要はありません。あのボイスレコーダーの中身は聞いていませんから」優希の声は平坦だった。「河内さん、あなたが哲也のことを心から思ってくれているのは分かっています。でも、心配のあまり、冷静な判断ができなくなってしまうこともあるものです」「渚は今まで苦労をしてきたから......」「もし、小林さんのことで言い訳をしようとお電話されているのなら......」優希は彼の言葉を遮った。「私たちに、もう話すことはありません」「言い訳をしたいわけではありません。ただ......」勲はため息をついた。「優希さん、あなたのお考えを教えていただけませんか?」「5年前、私は小
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