「ということは、栗原さんはその北条先生を弟子にしたんですね?」「ああ」史也は言った。「なんでも、北条先生は若い頃から才能に恵まれていて、栗原さんにも大切な人材として重視されていたらしい」輝は軽く眉をひそめた。「北条先生には会ったことがあるんですが、物腰は柔らかく上品で、誰にでも親切で紳士的でした。でも、どうも引っかかるものがあるんですよ」史也は輝の方を向き、少し眉を上げた。「輝、自分よりイケメンだからって、危機感を感じてるんじゃないだろうな?」輝は言葉に詰まった。史也は輝の肩をポンポンと叩いた。「優希は顔が良ければ誰でも好きだからな。文子と一緒になって、北条先生はかっこいいって褒めていたぞ」輝は言った。「......どんなにかっこよくたって、おじさんでしょう。私はこれでも名付け親ですよ!優希が一番好きなのは、きっと私に決まっています!」史也は笑って、それ以上何も言わなかった。メリーゴーラウンドは回り続け、音楽が響いていた。優希が可愛らしく笑うので、輝は急いで何枚か写真を撮った。「安人くん、これ乗りたいか?」その時、隣でベビーシッターの山下彩(やました あや)の声がした。安人はメリーゴーラウンドを指さして、頷いた。「じゃあ、私に言ってごらん?『メリーゴーラウンドに乗りたい』って」彩は優しく安人に話しかけた。しかし、安人は眉をひそめ、ただひたすらメリーゴーラウンドを指さしたまま、口を固く閉ざしていた。「安人くん、それはいけないよ。欲しいものがあれば、言葉で伝えなきゃ。そうしないと、みんなに何が必要なのか伝わらないよ!」彩はさらに言葉を続けた。「『メリーゴーラウンドに乗りたい』って、ゆっくりでいいから、少しずつ、口に出して言ってごらん?」安人は首を横に振った。彩はため息をついた。「口に出して言わないと、今日は遊べないよ」それを聞いて、安人は眉をひそめ、手を引っ込めて、大きな黒い瞳で彩を見つめた。彩は、安人は言葉の意味は理解しているけれど、ただ変化を嫌っているだけだと感じた。ベビーシッターとして、彩は安人のこの状態には介入が必要で、しかも早ければ早いほど良いことをよく分かっていた。そうでなければ、年齢を重ねるにつれて、この殻に閉じこもる状態はさらに深刻になってしまうだろう。その時、メリー
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