Tous les chapitres de : Chapitre 21 - Chapitre 30

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21.独身女で何が悪い?(後編)

就職のために海外から日本に帰国したのだが、日本社会に根強く残る女性と男性の社会的地位の差に以前から疑問を持っていた。海外では、個人の能力や実績が重視され性別や結婚の有無で判断されることは少なかったからだ。そして、この会社の出来事はその疑問をさらに強めるものだった。仲の良い人事部の採用担当者からは、「独身は出世に不利になる」とはっきり言われていたし、他の企業に勤める友人たちに話を聞いても、「日系企業はまだまだ男女の格差が大きい」という答えが返ってくるばかりだった。結婚は個人の自由だ。誰かと人生を共に歩みたいと思う人もいれば、一人で生きていくことを選ぶ人もいる。どちらの生き方も尊重されるべきで、結婚していないことが仕事の評価や昇進に影響を与えるなどあってはならないことだ。しかし、現実は違った。多くの企業で独身者は肩身が狭い。特別仲がいいわけでもない上司に独身と分かると結婚の心配をされる。だからこそ片井さんのような生き方は、多くの人にとって「理解できないもの」「かわいそうなもの」として映ってしまうのだ。私は結婚に特に興味はない。仕事で評価されて出世することが一番の目標だ。評価されるためには実績が必要で働き続けたかった。結婚して、妊娠・出産・子育てをする時間がもったいない。私は自分の人生を、自分のために時間を使いたかった。そんな時にふと思ったのが啓介との結婚だった。啓介も結婚願望がない独身主義者で意気投合し交際に発展した。自身で起業し経営者として忙しい生活を送っている。仕事での成功を収めた今も事業拡大のために精力的に活動する姿はとてもかっこよく自慢の彼氏だ。啓介も仕事が第一で、自分の時間や金銭面など『自由』を求めている。結婚して縛られる生活は嫌らしい。また子どもも好きだがたまに会うのと育てるものは別物だと冷静に捉えており仕事中心の生活をしたいため考えられないらしい。「結婚は恋愛の墓場」という言葉があるように、結婚することで自由や個性が失われパートナーに束縛されるのではないかという恐れがあり、私も同じイメージを持っていた。しかし、片井さんの件で私は初めて「結婚」を自分の人生の選択肢の一つとして真剣に考えるようになったのだ。結婚すれば社会的な信用が得られる。家族を持つことで一人前と認められる。それは、私にとって不本意ながらもキャリアを築く上で有利に働く可能性
last updateDernière mise à jour : 2025-06-04
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22.揺れる啓介の心

凛と別れてから一度も会わなかったが母親と食事の約束をした日に再会した。そして、その日から頻繁に凜の姿を見かけるようになった。(職場も住んでいる場所も違うはずなのに何故……?)また、知らぬところで凛が母の料理教室に通い、食事に行くきっかけとなった展示会も凛が教えてくれたということがひっかかりを感じていた。(考えすぎかもしれないが、凜は最初から母に会うために料理教室に行き展示会の話をしたのではないか……。なんでそんなことをするんだ?)たまたま料理に興味があっただけかもしれない。展示会についても、単に情報を共有したかっただけかもしれない。そう思おうとしたが一度芽生えた疑念は簡単には消えなかった。考えれば考えるほど、凛の行動は俺に近づくために意図的に作り出したように思えてならなかった。それは、昔忘れたはずの感情を再び燃え上がらせ、俺の心を静かに騒がせる。凜が何か企んでいるのではないかと疑念を抱き始めていた。一方の佳奈とは母と食事に行った翌日に連絡を取ったが「楽しかったならよかった」と素っ気ない返事のみで心の中が少しざわついた。母親に近づく凛にも恐怖を感じていたが、丸っきり興味がないような態度の佳奈にも少し寂しさを感じていた。(確か、佳奈は結婚を『面倒なことからの開放』と言っていた。もし、自分の出世のためだけで俺の家族との交流を面倒だと思い一切拒否してきたら……?)佳奈は違う。自身のキャリアや仕事での更なる成功へ強い野心を持っており結婚に興味がない。出世こそが最優先事項であり、結婚願望が俺自身の価値観と完全に一致していた。佳奈は俺の仕事に対する情熱や、結婚に興味がないという生き方を誰よりも深く理解し肯定してくれる存在だ。一緒にいるとお互いの夢や目標について熱く語り合い、刺激を与え合うことができる。彼女こそが、俺の人生のパートナーとして理想的だと最近は強く感じ始めていた。だが、凛との再会とそれに続く佳奈の素っ気ない態度が俺の中に疑問を突きつけたのだ。
last updateDernière mise à jour : 2025-06-05
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23.元カノ凛の襲来

凜は、結婚願望が非常に強く、将来家庭を持つことを何よりも大切に考えている女性だ。俺の母親とも波長が合い、母もまた凛の家庭的な雰囲気や人当たりの良さを高く評価していた。「凛さんみたいな人がお嫁さんなら良いのにね」と口にするほどなので気に入っているのだろう。母にとって、息子が温かい家庭を築くことが何よりの願いであり、凛はその理想の嫁像だったのかもしれない。そして、母が楽しそうに凛と話す姿が印象的だった。母は、結婚や家庭を重んじる凛を心から気に入っている。では、結婚願望がなく自由な発想で生きる佳奈と母は分かり合えるのだろうか?二人を会わせたとして、仲良く談笑するような関係を築けるのだろうか?佳奈の常識に囚われない価値観は、伝統的な考えを持つ母にはどう映るのだろうか?(佳奈はビジネスパートナーとしても人としてもかけがえのない存在になりつつある。ただ、だからと言って結婚までする必要があるのか?ビジネスパートナーとして今後は付き合っていった方がいいのか?)俺の心は揺らいでいた。佳奈との連絡も少し頻度が開くようになってしまった。そんな時だった。金曜の夜、仕事が終わり会社から家に帰ろうとオフィスの戸締りをして外に出たら凜が待ち伏せをしていたのだ。「啓介、話があるの。これから少しいいかな?」この時、母親の料理教室へ行ったのも展示会の件も偶然ではないと確信した。再会したあの日から俺の前に姿を現すようになったのも意図的だった。理由は分からないが、凛は何か目的があって動いている。そして今ここで凛の誘いを断れば分からないままだと思った。「分かった。」俺は短く返事をして凛と夜の街へと向かった。
last updateDernière mise à jour : 2025-06-05
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24嵐の前の静けさ

啓介にプロポーズをすると戸惑いながらもOKの返事をもらった。結婚後もお互いが楽しく過ごせるために婚前契約書を結ぼうと啓介に提案し、前回会った際に家に誘い、契約書の内容を話そうと思っていた。しかし、家に着き契約書の話をすると疲れているからまた今度にしてほしいと断られてしまい話は進んでいなかった。翌週は、啓介は母親との食事で私も別の用事があったため会えていない。結局2週間以上話は進められていなかった。(んー、急ぎってわけではないけれど早く啓介と話をして大まかな内容だけでも決めたいな。今日会えないかな?)金曜日の夜、啓介に『家に行っていいか?』とメールを送る。送信ボタンを押すと同時に胸が高鳴った。最近、仕事が忙しくてなかなか会えていなかったため、啓介の温もりを感じたかった。また啓介にも少しでも癒しと安らぎを与えたい。しかし、返信どころか既読すらつかない。普段から接待や仕事に没頭している時は返事が遅れることがあったので特に気にしていなかった。今月は仕事が溜まっていて忙しかったので頑張った自分へのご褒美に、少し贅沢なディナーを楽しんでから啓介の家に向かおう。そう決めて一人でも楽しめるカジュアルなバーでお酒とご飯を楽しんだ。(こんな時間まで連絡がないってことは誰かと一緒にいるのかな?)啓介は接待や誰かと会っている時はスマホはバッグの中に入れっぱなしで見ない。スマホを見るのは相手に失礼に当たると考え、緊急時は特定のアドレスのみスマートウォッチに着信が来るように設定していた。店を出たのは夜の10時を回った頃だっただろうか。ほろ酔いの私は、タクシーを拾い啓介のマンションへと向かう。お酒を飲んでいるせいか、マンションのエントランスに近づくにつれて、啓介に会えるのが待ち遠しくてたまらなかった。前回会った時から2週間近くが経ち、早く彼の顔が見たい、彼の匂いに包まれたい。そして、彼の腕の中で一日の疲れを癒したいと思っていた。だが、私の期待は無残にも打ち砕かれることになる。
last updateDernière mise à jour : 2025-06-06
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25.凛から宣戦布告のキス

エントランスの少し手前で、一台のタクシーが停まった。後部座席から女性が降りてくる。その女性に見覚えはないが、小柄で艶やかな黒髪とパッチリとした目に整った顔立ちの美しい人だった。街で会ったら思わず振り返って二度見したくなるような華やかなオーラを放つ優雅な美貌に思わず釘付けになった。しかし、女性の美しさに見惚れていたのはほんの一瞬で、次の瞬間、私の目の前で信じられない展開が繰り広げられた。その女性に続いてタクシーから降りてきたのは、紛れもなく啓介だった。「え……?」私の頭の中は真っ白になった。(啓介が見知らぬ女性とタクシーから降りてきた。……一体、どういうこと?)動揺と困惑で私はその場に立ち尽くすことしかできなかった。足が鉛のように重く、声も出ない。ただ、目の前の光景を、呆然と見つめることしかできなかった。啓介は、再び女性をタクシーに乗せて見送ろうとしている。そして、タクシーのドアが閉まろうとした時に彼女と目が合った。彼女は、私の存在に気づくと挑発するように妖艶な笑みを浮かべた。そして、そのまま啓介の肩に腕を回し、私の目の前で彼の唇に深く情熱的なキスをしたのだ。(キスをした……?)全身の血が逆流し頭がくらくらする。目の前の光景が、現実のものだと信じたくなかった。啓介は、驚いたように目を見開き慌てて顔を背けた。そして強引にその女性をタクシーに押し込み、まるで何かから逃げるようにタクシーを走り去らせた。(一体何が起こっているの?あの女性は誰?二人の関係は?)様々な疑問が私の頭の中で渦巻いている。しかし、どの疑問にも答えは見つからない。ただ、彼が目の前で見知らぬ女性と熱烈なキスをしたという事実だけが残っていた。啓介は、深いため息をつきマンションの中に入ろうとした。その時、彼は初めて私の存在に気が付いた。「佳奈……?なんで」彼の声は驚きと戸惑いに満ちていた。「奇遇だね。私も啓介に、なんで?って聞きたかったところなの」私の声は、自分でも驚くほど冷静だった。しかし、その内側には激しい怒りと悲しみが渦巻いていた。嵐の前の静けさのように、二人の間に不穏で張り詰めた重く激しい空気が流れる。私は、彼の目を見つめながら次の言葉を待った。しかし、彼は何も言わない。ただ困ったように私を見つめ返すだけだった。「ねえ、啓介。説明してくれるよね?あの女性は
last updateDernière mise à jour : 2025-06-06
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26.嘲笑う悪女・凛

シャワーを浴びて脚をマッサージしながら、私は今日の夜の出来事を思い出して喜びに浸っていた。「ふふふ、啓介とも再会出来たしタイミングよく佳奈もあらわれて目の前でキスも出来た。運は私に味方しているのかも。本当はもっと長く見せつけてやりたかったけれど、まあいいわ。佳奈の呆然と立ち尽くす姿なんて最高だった。今頃ふたりは揉めているんじゃないのかしら。思いっきり揉めて結婚なんてなくなればいいのに。」今日の夜、啓介の会社の前で待ち伏せをした。「啓介、話があるの。これから少しいいかな?」啓介は私を見て驚いていたが、先週の土曜日に自分の母親と私が仲良く談笑していることが気になったのか「分かった」と短く返事をした。レストランの個室に入ったので啓介も私への気持ちが変わったのかと期待をし、食事が終わって店を出たら、このまま啓介を誘い身体の関係を作ろうと思っていた。しかし、タクシーを見つけて帰ろうとする啓介を見て無理矢理、隣に乗り込んだ。啓介は怪訝そうな顔をしたが、運転手がいる手前タクシー内で揉めるのを避けるため何も言わずに車を走らせたのだった。社内でもビジネスバッグを両手で抱え込みガードが固い啓介。潤んだ瞳でゆっくりと見つめたり、事あるごとにさりげなくボディタッチをするなど気を引くためにありとあらゆる事をしたが啓介には全く響かなかった。(他の男の人ならすぐに落ちて惚れてくれるのに……。)啓介自身は無自覚だろうが興味のない態度を取られたことで、今夜、絶対啓介を落とすと闘争心に火をつけた。私は啓介の太ももに手を置いてゆっくりと撫でその気にさせようとする。「こういうことはやめてくれないか。」啓介は小さな声呟き、私の手をどかすように脚を組んで私と距離を置いたのだった。そのままタクシーは啓介のマンションのエントランスについた。タクシーの構造上、運転席の斜め後ろ……私が座っている方の扉が開く。啓介が会計を済ませると、私側のドアが空いたので車を降りて、啓介も続いた。本当はマンションに着くまでに良い雰囲気になって部屋にあがりこむつもりだった。しかし、断られたため降りた瞬間を狙って襲いかかろうと考えていた。その時、佳奈の姿が見えた。今までぼやけた写真でしか見ていなかったがあの女性がきっと佳奈だ。私は佳奈に視線を向け微笑んだ後に、啓介の頬に手を添えて勢いよく唇を重ね舌を入れ
last updateDernière mise à jour : 2025-06-07
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27.凜が残した傷跡と争う啓介と佳奈

「あの女性は誰なの?」 啓介の部屋に入ってすぐに、怒り混じった声で私は啓介に問いただした。 「誤解を与えてしょうがいない状況だったけれどやましいことは何もないよ」 「嘘。じゃあなんでキスなんかしていたのよ。あなたはやましい気持ちがなければ誰とでもキスをするの?」 啓介は何か話そうとしていたがその前に私が言葉をかぶせて喋らせようとしなかった。 「そんなことはしない。彼女は……昔付き合っていたんだ。」 「昔?昔の彼女にしては随分仲がいいのね。今も付き合っているみたいだったわ」私の言葉に啓介は一瞬言葉を失ったようだった。彼の表情は、驚き、戸惑い、そしてほんの少しの罪悪感がないまぜになった複雑なものに変わった。彼は何かを言おうとしたが、私の鋭い視線に射抜かれ言葉を飲み込んだようだった。乾いた笑いを漏らしながらさらに言葉を続けた。心臓が張り裂けそうなほど痛いのに涙は一滴も出てこない。ただ、彼の言葉を、彼の本心を、確かめなければならないという衝動に駆られていた。「違う。そうじゃない。本当に誤解なんだ。彼女とはもう何年も会っていなかったし、ただ、偶然再会しただけで……」啓介は必死に弁解しようとしたが、彼の言葉は私の耳には届かなかった。偶然?再会?そんな言葉で納得するはずがない。あの女性の挑発的な笑み、そしてキス。それらが、彼の言葉を全て嘘だと物語っているように思えた「偶然?ふーん、偶然ね。偶然にしてはずいぶんと情熱的なキスだったじゃない。彼女、こっちを見て笑ってきてからキスしてたわよ。啓介は私のものとでも言ってみるみたいだった」私の声は震えていた。それは、怒りなのか、悲しみなのか自分でも分からなかった。「佳奈、落ち着いて聞いてくれ。確かにキスはした。でも、それは彼女が一方的に…」「一方的に?じゃあ、あなたはあれでキスを拒否したって言うの?そんな風には見えなかった。本気で言っているの?」私は、彼の言葉を信じることができなかった。あの時、彼は確かに驚いていた。そしてすぐに彼女をタクシーに押し込み走らせていた。それが、本当にキスされたことに対する驚きだけなのだろうか?ほんの少しでも、喜びや、懐かしさのような感情が混ざっていたとしたら?「……」「何も言えないってどういうことよ。久々に彼女にキスされて嬉しかった?懐かしくなって抱きたくなった?タクシーじゃな
last updateDernière mise à jour : 2025-06-07
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28.修羅場を迎えた2人

夜の街を、私はひたすら走った。どこへ行けばいいのかも分からなかったが、ただ、彼の側から離れたかった。彼の声も、彼の匂いも、彼の存在そのものから、遠く遠く逃げたかった。マンションから大通りに出るところで背後から近づく足音に気づいた。「佳奈!」啓介の声だ。私は立ち止まることなく走り続けた。「待ってくれ、佳奈!お願いだから俺の話を聞いてくれ!本当に誤解なんだ。君が想像しているようなことはないし、彼女に気持ちなんて全くない。俺は、君以外を異性として見たり好意を持ったりすることなんて絶対にないんだ!」啓介は、息を切らしながら必死に私の後を追いかけてきた。普段の啓介は、どちらかというと冷静で感情を表に出すタイプではない。彼の肩書や容姿に惹かれて近づいてくる女性は多かっただろうし、彼自身が積極的に行動を起こさなくても女性に困った経験などほとんどないだろう。結婚をせがまれれば彼女への想いはあっても願望を叶えることは出来ないと別れを選んでいた。相手の幸せを願いつつも『去るもの拒まず』なクールな一面もあると思っていた。そんな啓介が、ここまで必死になっているなんて……。啓介の必死な様子に、私は感情的になり彼の言葉を聞こうともせずに、一方的に責めてしまったことを少しだけ反省した。「……分かった」ようやく足を止め振り返った。「……本当?ありがとう、佳奈」啓介は安堵したように微笑み、私をそっと抱きしめた。お酒の匂いはしない。でも、さっきのキスで彼の服に少しだけ女性物の香水の残り香が移ってしまったのがどうしても気になった。私は、彼のネクタイを掴み自分の顔に引き寄せ口づけをした。彼のものについた香りを上書きするための私なりの抵抗だった。「分かったけど、この服からさっきの女の香水の匂いがするの。すぐに着替えて、洗濯してくれない?」私は、少し意地悪な口調で言った。「ごめん、すぐに着替えるよ……」啓介は私の言葉に素直に従い、申し訳なさそうな顔をした。私たちは彼の部屋に戻り、彼はすぐにシャワーを浴びて部屋着に着替えた。そして、改めて今日起こったことの詳細を落ち着いた口調で話し始めた。
last updateDernière mise à jour : 2025-06-07
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29.今夜の真相と疑念の佳奈(前編)

部屋に戻りシャワーを浴びて部屋着に着替えた啓介は落ち着いた口調で話し始めた。「今日、佳奈が見た女性は凛という名前で昔付き合っていたんだ。」啓介は俯きながらそう言った。彼の口から出る「昔付き合っていた」という言葉がチクリと痛む。「別れてから一度も会っていなかったけれど、先週の土曜日に母さんと食事をするために待ち合わせ場所に行ったら凛が母さんと一緒に現れたんだ。」「なんで彼女が啓介のお母さんと一緒にいるの?」私は、冷静さを保とうと努めたものの、「なぜ?」「どうして?」という疑問符が頭の中で嵐のように渦巻いていた。「分からない。凛を両親に紹介したこともなかったし、全く面識のない二人がなんで一緒にいるのか全く分からなかった。不審に思って母さんに聞いてみたんだ……」啓介は少し言葉を選びながら話を続けた。彼の困惑した表情は嘘をついているようには見えなかった。「実は、最近になって凛が母さんの料理教室の生徒として通い始めたらしいんだ。それで、土曜日の展示会も凛が母さんに教えたらしくて……。会場で会った後も、母さんが迷わないようにと待ち合わせ場所まで送ってくれたらしい。そこで再会したんだ。」まるでドラマか小説のような展開にますます混乱した。あまりにも都合の良い偶然が重なりすぎている。「なんで急に啓介のお母さんの料理教室に?展示会にしても偶然にしては出来過ぎてない?」「ああ、俺もおかしいと思った。」「……それからというもの、今まで別れてから一度も会わなかったのに街中で偶然見かけることが多くなったんだ。俺は気が付いても特に声をかけてくるようなことはしなかった。だけど今日の夜、俺の会社の前で彼女が待っていたんだ。」私はますます混乱してきた。凛が啓介と会うためにそこまでする理由が全く理解できなかった。そして、彼の目の前に現れるようになり今日は会社の前で待ち伏せするなんて意図的だとしか思えない。ただの偶然や未練では片付けられない、何か強い執着を感じざるを得なかった。「話があるから時間を作ってほしいと言われて、母さんのこととか色々気になってたから、食事に行ったんだ……」彼の言葉に怒りが込み上げてきた。
last updateDernière mise à jour : 2025-06-08
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30.今夜の真相と疑念の佳奈(後編)

「は?それで食事に行ったの?二人で?」私は思わず語気を強めてしまった。突然現れて、啓介が知らないところで母親に近づくような怪しい女と二人きりで食事に行くなんて信じられない。どうかしている。「ああ。それで俺と母さんが会うように仕向けたことが分かったんだ。彼女の話を聞いたうえでキッパリと断って店から帰ろうとしたら、彼女が突然タクシーに乗り込んできて…」啓介は言いづらそうに言葉を続けた。彼の視線は、わずかに宙を彷徨ったがすぐに私に向けられた。「それでマンションの前で無理矢理キスをされた。君が見たのはその瞬間だったんだ」「……信じられない」元カノが彼の知らないところで彼の母親と親しくなり、近づくために周到な計画を立てていた。そして偶然を装って再会し、最後には私の目の前で彼にキスをするなんてまるでドラマのような展開だった。「ねえ、本当に?信じていいの……?」嘘をついているのではないか、後ろめたさがないか探るために彼の目を睨みつけるようにじっと見つめ呟いた。啓介は目を泳がすことなく、視線を外さずにじっとこちらを見ている。その表情は、嘘をついているようには見えない。むしろ、困惑と俺を信じてほしいという切実な願いが込められているようだった。「信じてほしい。俺はもう彼女に何の気持ちもないんだ。佳奈だけしか見ていないよ。ただ、向こうが俺のことをまだ諦めきれないみたいで……」彼の言葉には真剣さが宿っていた。しかし、それでも私の心は完全には納得できなかった。「彼女への気持ちがないなら、あんな女、最初からタクシーに乗せるべきじゃなかったわ。それになんで二人きりで食事なんか行ったのよ?」彼の言葉を遮り再び責めるように言った。今の話が嘘ではなかったとしても、元カノと食事に行くのは面白くない。しかも、不審な動きをするような相手なら尚更だ。私の心の中では、納得したい気持ちと、裏切られたかもしれないという疑念が激しくぶつかり合っていた。「ごめん。でも俺の知らないところで母に近づいてきたから、何か母に危害がおよばないか気がかりだったんだ。」啓介は重い口を開いた。彼の言葉に、私はわずかながら理解を示した。彼の母親を心配する気持ちは私にも痛いほどよく分かる。「そうね。その気持ちは分かるわ。それで店で彼女とどんな話をしてきたのよ?」冷静を装っていたが私の口調はどんどん厳しくなっ
last updateDernière mise à jour : 2025-06-08
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