「啓介、早いわね!こちら前田凛さん。先日、料理教室に来てくれてね、今日の展示会も彼女が教えてくれたの。息子と会うって言ったら迷うと大変だからってここまで案内してくださったのよ。」「え、啓介さん?お久しぶりです。」「ああ、どうも。母を連れてきてくれてありがとうございます。」 啓介の母親は、凜から出た言葉に驚き目を丸くしている。「あら、二人は知り合いなの?」「うん、まあ。」「前田さん、今日は楽しかったわ。教えてくれてありがとうね。またお教室でも待っているので良かったら来てくださいね。」歯切れの悪い返事をする息子を見て、凜にお礼を伝え話を切り上げた。「こちらこそありがとうございます。お邪魔しては悪いのでこれで失礼しますね。」そう言ってにこやかに母親に微笑んでいるが、視線を外すほんの一瞬、啓介に対して刺すような鋭い視線を送ってきた。そのことに気が付き啓介は背中にゾクッとした寒気を感じた。啓介は複雑な思いを抱えながら母親と食事をしていると、結婚について話題を振ってきた。「そういえば、啓介、最近はどうなの?真剣に結婚を考えている相手はいるの?」啓介の母親は、息子にはまだ特定の相手はいないと考えている。それだけに、息子の個人的な幸せを案じる気持ちは人一倍強かった。 「まあ、今は仕事が第一かな」佳奈のことをまだ母親にきちんと話せていなかったため曖昧な言葉で回避を試みた。具体的な話は避けたい気持ちが強かった。 すると、母親は先程会った凛のことを思い出したように、明るい声で言った。「そうなの。さっきの凛さんという女性、とても感じの良い方だったわね。お母さん、あんな風に誠実で明るい方なら、啓介のお嫁さんに良い相手だと思うけれど。昔からの知り合いなの?」 「まあ……昔、少し付き合いがあったんだ」啓介は短く説明したが詳細まで話すつもりはなかった。しかし、その言葉を聞いた母親は声のトーンがあがり、さらに熱心に勧めてきた。「そうなのね!もし、今特に決まった相手がいないのなら、もう一度ゆっくりお話してみるのもいいんじゃないかしら?これは女の勘だけれど、彼女まだ啓介に気があると思うの」(まだ気があるだって?あんな別れ方しているし、それはないだろ……。)自分が結婚詐欺師のような気分になったトラウマの原因である元カノを母親が薦めてくることに困惑していた。その夜
Dernière mise à jour : 2025-05-20 Read More