Tous les chapitres de : Chapitre 11 - Chapitre 20

216

11.避けたい元カノ・凛との再会

「啓介、早いわね!こちら前田凛さん。先日、料理教室に来てくれてね、今日の展示会も彼女が教えてくれたの。息子と会うって言ったら迷うと大変だからってここまで案内してくださったのよ。」「え、啓介さん?お久しぶりです。」「ああ、どうも。母を連れてきてくれてありがとうございます。」 啓介の母親は、凜から出た言葉に驚き目を丸くしている。「あら、二人は知り合いなの?」「うん、まあ。」「前田さん、今日は楽しかったわ。教えてくれてありがとうね。またお教室でも待っているので良かったら来てくださいね。」歯切れの悪い返事をする息子を見て、凜にお礼を伝え話を切り上げた。「こちらこそありがとうございます。お邪魔しては悪いのでこれで失礼しますね。」そう言ってにこやかに母親に微笑んでいるが、視線を外すほんの一瞬、啓介に対して刺すような鋭い視線を送ってきた。そのことに気が付き啓介は背中にゾクッとした寒気を感じた。啓介は複雑な思いを抱えながら母親と食事をしていると、結婚について話題を振ってきた。「そういえば、啓介、最近はどうなの?真剣に結婚を考えている相手はいるの?」啓介の母親は、息子にはまだ特定の相手はいないと考えている。それだけに、息子の個人的な幸せを案じる気持ちは人一倍強かった。 「まあ、今は仕事が第一かな」佳奈のことをまだ母親にきちんと話せていなかったため曖昧な言葉で回避を試みた。具体的な話は避けたい気持ちが強かった。 すると、母親は先程会った凛のことを思い出したように、明るい声で言った。「そうなの。さっきの凛さんという女性、とても感じの良い方だったわね。お母さん、あんな風に誠実で明るい方なら、啓介のお嫁さんに良い相手だと思うけれど。昔からの知り合いなの?」 「まあ……昔、少し付き合いがあったんだ」啓介は短く説明したが詳細まで話すつもりはなかった。しかし、その言葉を聞いた母親は声のトーンがあがり、さらに熱心に勧めてきた。「そうなのね!もし、今特に決まった相手がいないのなら、もう一度ゆっくりお話してみるのもいいんじゃないかしら?これは女の勘だけれど、彼女まだ啓介に気があると思うの」(まだ気があるだって?あんな別れ方しているし、それはないだろ……。)自分が結婚詐欺師のような気分になったトラウマの原因である元カノを母親が薦めてくることに困惑していた。その夜
last updateDernière mise à jour : 2025-05-20
Read More

12.啓介の回想ー結婚したい女たちー

凛との思いがけない再会に、啓介は過去の彼女たちのことを思い出していた。「ねえ、いつになったら結婚してくれるの?私じゃダメ?」20代後半になってから付き合っていた彼女たちから幾度となく言われたこの台詞。そのたびに『結婚願望がないだけで君が悪いわけではない』と伝えてきたがいつも愛想を尽かされて破局するのだった。結婚したくないための言い訳ではなく、本当に彼女たちは個々に魅力的だと思っていた。真面目で努力家な人、周りへの気遣いや配慮が抜群な人、仕事や趣味に夢中な人、苦手なことを克服しようと頑張る人など、一緒にいると刺激を貰うことが多かった。そんな頑張り屋な彼女たちだからこそ『君のせいではない』と言っても、本当は何か私に足りないものがあるのではないかと思わせてしまっていたようだ。自分で自分を追い詰めてしまう彼女たちは別れ際は少し疲れて切なそうな顔をしている。そうなる前に感謝の意を述べたり、愛の言葉をささやいたりするのだが、『結婚』というゴールに向かっていないことへの失望は他の言葉や行動では満たされないらしい。何人かと結婚が理由で別れてからは、結婚願望がないと事前に伝えたうえで付き合っていた。結婚願望があるのに俺といたら時間の無駄だ。事前に伝えることは、結婚願望がない身としてのせめてものマナーだと思っている。しかし、中には結婚願望があることを隠していて『付き合ったら変わるかもしれない』という淡い期待を持っているケースもあった。それが凛だった。「結婚は当人たちがしたければすればいいし、焦ってするものではないよね。」そう笑っていっていたが交際してしばらく経つと過去の彼女たちのように結婚について言及してきた。「付き合ったら啓介も変わってくれるかもと信じていたのに。」と泣きわめかれた時は自分が詐欺師にでもなったかのような気分だった。(結婚に興味がないという言葉を鵜呑みにしてはダメだ。本心で言っている相手でないと傷つけてしまう……。相手にも申し訳ないし貴重な時間を奪ってはいけない。)それ以降、付き合う人は本心を見極めてからでないといけないと思い、より慎重に選ぶようになっていた。
last updateDernière mise à jour : 2025-05-21
Read More

13.啓介の回想ー母の暴走ー

凜と別れてからしばらくしたある日、母から電話がかかってきた。「あ、もしもし啓介?来月、時間を作れる日ある?会ってほしい人がいるのだけれど。」「会ってほしい人って?何?」「ほら、親戚に県庁に勤めているおじさんがいたでしょ?おじさんの部下の方も啓介と同い年くらいで結婚していなくて。真面目な人だし啓介にも合うと思ったから今度会ってみたらいいんじゃないかって盛り上がったのよ。女性の方も是非と言ってくれて」「勝手なことするなよ。俺は結婚する気はないし、おじさんの部下だって本心じゃないかもしれないじゃないか。真面目な人なら余計に上司から言われたら『はい』と答えなくてはいけないと思うかもしれないだろ。付き合う相手は自分で見つけるから、母さんたちは勝手に話を進めるようなことだけはしないで欲しい。」そう言って電話を切ったが、そのあとは一気に疲れを感じた。(結婚、結婚ってもう子どもじゃないんだから子どもの人生に口出ししないで欲しいよ……第一、結婚しないって選択もあるのにどうしてこんなにうるさく言わなくてはいけないんだ)子どもが嫌いなわけではない。しかし仕事柄、出張で家を長く開けることも帰宅時間が不規則なこともある。そう思うとペットも寂しい思いをさせたり他の人に世話してもらうなど環境の変化が伴うことに申し訳なさを感じ飼えなかった。命と育てることの責任と重さを考えたら、可愛いだけで決断するのはいけないと思っている。だからこそ、結婚したら子どもを授かって育てるのが一連の流れになっていることが啓介の意思を固くさせていた。しかし結婚願望がないといくら伝えても、啓介の気持ちが変わることを期待したり理解がない人ばかりだった。そんな時に出逢ったのが佳奈だった。佳奈は今まで出逢った人たちとは違う価値観を持っており、啓介は一気に佳奈に夢中になっていった。
last updateDernière mise à jour : 2025-05-22
Read More

14.佳奈との運命の出会い(前編)

佳奈と初めて言葉を交わしたのは、活気あふれる企業の異業種交流会の場だった。錚々たる顔ぶれが揃うその場所は、主に起業家、広告代理店のクリエイター、そして大企業の野心的なサラリーマンたちで構成されており、俺も起業家として自社のCEOという肩書を引っ提げて参加していた。異業種交流会という性質上、参加者の大半は男性で女性の参加率は数パーセントに過ぎない。そんな中で、佳奈のように若く凛とした佇まいの女性は否が応でも周囲の視線を集めていた。会場の喧騒の中、少し離れた立食テーブルの傍で用心深く周囲を見渡している佳奈の姿が目に留まった。すらりとした長身に体にぴったり合ったライトグレーのパンツスーツをびしっと 着こなし、黒のビジネスバッグ。色味こそ控えめだったが、その背筋の伸びた姿勢と、自信に満ち溢れた瞳は、成功を掴む人間特有のオーラを湛えていた。「初めまして。こういう場は初めてですか?」「ええ、少し緊張しています。でも、人脈を広げたくて参加しました。えっと……高柳さんは何度か来られているんですか?」会社の指示で参加しているのではなく明確な目的意識を持ってこの場に身を置いていることに感心しながら俺は会話を続けた。「ああ、これで4回目かな。俺も情報収集や、将来に繋がる人脈を広げたくて来ているんです。こういう場って、ただたくさんの人に名刺を配っても、チラシくらいにしか受け取ってもらえず、深い興味を持ってもらうのは難しいんですよ。それよりも、自分と感性が似ていそうとか話が合いそうだと感じる人を見つけてじっくりと話をした方が、今後の関係に進展する可能性は格段に上がりますよ。」おせっかいだったかもしれない、とは思った。しかし、情熱と野心を持った大人たちが集まる この世界は、初参加者には戸惑うことも多いだろう。勝手が分からず、闇雲に声をかけて名刺を渡し歩く人もいるが、大抵、渡す側も渡された側も笑顔で交換はするものの、相手の顔や特徴などは記憶に残らず、時間が経つとただの紙切れと化してしまうのだ。向上心の高そうな彼女が、 心折れてしまわないようにほんの小さなアドバイスのつもりだった。「あの、高柳さん!今日はありがとうございました。」帰り際に佳奈はわざわざ俺のところに来て、丁寧に頭を下げてお礼を言いに来た。ほんの数分の、込み入った話などしていない短い雑談だったにも関わらず、わざわ
last updateDernière mise à jour : 2025-05-23
Read More

15.佳奈との運命の出会い(後編)

その後も、佳奈はこの異業種交流会に度々顔を出すようになった。そのたびに、時間が空くと必ず俺のところにも挨拶をしに来てくれる。それは、女を主張しているわけでも、媚びているわけでもなく、まるで会社のサラリーマンが役員に挨拶に行くような、社会人としての自然な礼儀としての顔出しだった。そして、他の参加者の名前もきちんと記憶し親しげに交流する姿も頻繁に見かけるようになった。そのうち、俺が親しくしている起業仲間に佳奈を紹介し、交流会の後に仲間内で飲みに行くような仲になる。親しくなるにつれて、佳奈が高校時代から海外に留学しており、いくつかの言語を喋れることを知った。大学も海外で過ごし、就職のために日本に帰国したそうで学生時代から日常生活の中で異文化に触れていたことからグローバルな視点を持っている。海外生活が長かった影響か自分の意見や軸を持っており、はっきりと主張することに抵抗がない。しかし、相手に不快感を与えるような感情的な発言はなく、自分の考えをあくまでも一つの案として伝えるところも感心していた。常識や価値観に捉われず、自分の意見を率直に主張し、裏表のない少々楽天的な性格の佳奈は、一緒にいて刺激的でいい意味で俺の固定観念を破壊するような破壊力があった。彼女といると、それまで嫌だったことや悩んでいたことも、「なんでこんなちっぽけなことに悩んでいたのだろう」と不思議に思えた。また、これまでとは違う視点で物事を捉えれることが出来て新しい解決策が見えてくることもあった。真面目で朗らかに談笑しているが心の奥に眠る野心のようなものも感じられる佳奈に次第に心惹かれていった。女性としてだけではなく、坂本佳奈という一人の人間として感受性や仕事への姿勢、みなぎる野心などすべてが魅力的で好意を持っていた。(しかし、それだけで進んではいけない。これまでの失敗を繰り返してはいけない……。)そう思い佳奈に二人で飲まないかと連絡をした。
last updateDernière mise à jour : 2025-05-24
Read More

16.ジャッジ!結婚場願望はある?

佳奈に惹かれている自分に気がついていたが、その前にどうしても確認しなくてはいけないことがある。「坂本さんって早く結婚したいとか思うことある?」バーで二人で飲んでいる時に佳奈に尋ねた。「んー。そうですね、結婚したいという気持ちは今はないです。高柳さんはどうですか?」「実を言うと俺は結婚願望がないんだ。今の生活が楽しいしこのままで良いかなって。」その言葉を聞いた途端に佳奈は目を輝かせ始めた。「そうなんですか!?本当に?実は私も今はないどころか興味がないんです。仕事で出世して上にいってバリバリ稼いで自分の好きなことを楽しみたいんです!!結婚・妊娠・出産で仕事をセーブしている時間がもったいなくて。私はもっと上にいきたい。だから結婚したいと思わないんです」興奮気味に早口で話す佳奈。今までの少し丁寧なビジネスマン同士の距離感より少し砕けた口調で結婚について熱く語っている。過去の女性たちが様子を伺うように『結婚願望がない』と控えめに言っているわけではなく、ものすごい熱量で語る佳奈を見てこの子は本心で言っていると思った。「ゆとり世代がー、Z世代がー、最近の若者はー、とか否定する時だけ世代のことをとやかく言うのに、家を持ったら一人前とか結婚していないなんて、とか昭和の価値観が美徳みたいなのもどうかと思う。今、令和だっつーの。」度の強いカクテルも水のように飲みながら、その後も佳奈は結婚について延々と話し始める。酒豪だから大丈夫だと思うが他の女性なら泥酔して椅子から転げ落ちるか、まともに歩けなくなるのではないかと心配になるほどだった。「そうなんだ、分かる気がするよ。俺たち気が合うのかもね」「はい、本当にそうだと思います!!私、結婚に興味がないってここまで本音で言ったの初めてです。きっと高柳さんと気が合うと思います。」相手の反応を見るための駆け引きのような言葉だったが、熱くなった佳奈はその様子に気が付いてない。逆に、信じて止まない瞳で俺のことを見る姿に圧倒されてしまった。「政治家だって年配の人ばかりだし、選挙に行く人も団塊の世代だから自分たちの価値観や都合のいい政策ばかりじゃない。結婚してないのがそんなに悪くて問題かって話なんだよ。」「そもそも海外ではファーストレディーが再婚相手で不倫していたってケースも珍しくないのに日本では重大犯罪でも起こしたかのように扱わ
last updateDernière mise à jour : 2025-05-25
Read More

17.刺激的な彼女

「坂本さん、結構飲んだねー。俺もここまで結婚に興味がないっていう女性は初めてだよ。結婚願望がないって言うと女性に泣かれたり、愛想を尽かされたりでね。そのくせ親は結婚はまだかってうるさくて……だから全部とまではいかないけど分かる部分もあるよ。」「やっぱり高柳さんと私は合うんですって。高柳さん私と付き合いましょうよー」佳奈に惹かれていて今日の質問の返事次第では告白も考えていたが、佳奈に先を越され付き合おうと言われた。しかし、よく飲んでいる佳奈はどこまで本気で言っているか分からない。「ありがとう。坂本さん結構飲んでいるでしょ?もし酔いがさめてそれでも付き合いたいと思ってくれているなら付き合おうか。今日は帰ろう。」そう言って席を立つと佳奈はスーツの裾を掴んできた。「私、高柳さんと手を繋ぎたいです。今、すっごく繋ぎたいです。」潤んだ瞳で上目遣いをして明るい声で陽気に言ってくる佳奈。手の負えないくらいに本格的に酔っぱらってしまったのかと思ったが、足取りはふらついておらず、呂律もしっかりしている。スタスタと歩きながらも甘える彼女にドギマギしていた。会計を終えて店を出た後もまだ手を繋いでいる。エレベーターに乗ってからは肩にもたれかかってきてより密着していた。他の男の前でもこんな風になるのか、もしそうならホテルに連れていかれたり危ないことにならないかと心配になった。俺は他の男と一緒にならないと決めて、そのままタクシー乗り場まで彼女を送り届けることにした。「坂本さん、家はどこ?タクシー乗り場まで送るからそこからは一人で帰れる?」そう言うと彼女は急に抱き着いてきて熱烈なキスをしてきた。舌を絡めるとバーで飲んだジントニックの爽やかなライムの香りと味が広がる。「高柳さん、私、酔っていません。一人で帰れます。もし明日も覚えていたら付き合うって約束してくれますか?」顔を少しだけ話し耳元で囁くように言ってきた。「分かったよ、約束する」「良かった。約束ですよ?明日連絡します。おやすみなさい」「あ、ああ。」そう言ってスッと身体を離し、カツカツとヒールの音をたてて佳奈はタクシー乗り場へと歩いて行った。その足取りは軽く酔っぱらっている様子もない。手を繋ぎたいと甘えてきたと思ったら、熱烈なキスで付き合いたいと誘惑し、自分の言いたいことを伝えたらさっさとその場を後にする佳奈に
last updateDernière mise à jour : 2025-05-26
Read More

18.彼女の虜

佳奈との交際は、温かく穏やかな幸福感に満ちたものへと変化していった。昇進への強い意欲を持つ佳奈は、週末のデート中でも鋭いビジネス思考を働かせていた。人気のカフェに足を踏み入れれば、その内装やメニュー構成から隠されたトレンドを読み解き、自身の仕事に取り入れられる要素はないかと分析していた。革新的なサービスを提供する企業を見つければ、そのビジネスモデルや資金調達の方法をネットで徹底的に調査していた。話題のセレクトショップを見つけた時、佳奈は商品の配置、照明、音楽、店員の接客態度などを詳細に観察し、顧客がどのような体験を求めているのか、どのように購買意欲を高めているのかを真剣に考えていた。そして、そのデータを自身のスマホにメモし後でじっくりと分析するのだ。人前では優雅なプロフェッショナルを演じていた佳奈だが、一人になるとスマートフォンにごく細かい点までメモを取り、自分の視点からの分析を加えていた。それは起業家である俺自身も一人になった瞬間に無意識に行っている行為であり、彼女のその向上心を痛いほど理解できた。気になる情報を徹底的に調べ上げ、自身の立場や視点に置き換えて咀嚼し、活用できるものは貪欲に吸収していく。仕事のことを真剣に考え、自己成長への飽くなき向上心を持ち、自分の確固たる軸を持って行動する佳奈はキラキラと輝いていて、俺はますます深く惹かれていった。また、海外生活が長かった佳奈のスキンシップは、驚くほど積極的だった。公の場では手を繋ぐ程度だったが、二人きりの空間になると自然に密着してきた。「おはよう」のキス、「行ってきます」のキス、「ただいま」のキス、「おやすみ」のキス、そして「ありがとう」や「ごめんね」の短いキス……最初は、日常生活にこんなにもキスをする場面が存在するのかと驚きを隠せなかった。朝、まだ眠たそうな目で「おはよう」と囁きながら、自然にキスをしてくる佳奈に、最初は戸惑ったが、慣れてくるとその温かさに包まれる瞬間が一日の始まりを特別なものにしてくれることに気づいた。セックスも二人で楽しみ愛を深め合うための自然な行為だと捉える彼女は、情熱的そのものだった。仕事のことを理知的に考えている時の凛とした姿は影を潜め、本能のままに求め合う女豹と化した佳奈は、普段とは全く異なる妖艶な魅力に満ち溢れていた。ベッドの中で見せる彼女の甘えるような仕草や、
last updateDernière mise à jour : 2025-05-27
Read More

19.スピード結婚?佳奈からのプロポーズ

付き合って3か月でレストランで食事をしていた際に佳奈から「結婚しよう」と言われたときの衝撃は今でも忘れられない。(え?何だって?今、なんて言ったんだ?結婚?……嘘だろ?)「佳奈、なんでそうなったか聞かせてもらえないかな。この前、同僚が結婚したって話をした時に君は結婚の意味が分からないって否定的なことを言ってたよね。それが今日は急に結婚しようだなんて。言っていることが矛盾していると思うんだ。」俺は混乱した頭を整理するために、佳奈に問いかけた。(もしかして本当は結婚したかったけれど隠していたのか?あんなに熱く語っておいて?冗談にしては度がすぎるぞ……。)どんどん佳奈の魅力の沼に入っていたが、実はとんでもない策士だった可能性が頭をよぎり我に返った。もし打算的に仕組まれたものなら女性と付き合うことが嫌になるかもしれない。そんな事を思いながら佳奈の返答を待っていると、あっけらかんとした様子で笑顔で言う。「結婚の意味が分からないのは今でもそうだよ。だから、私たち最高の夫婦になると思う!私たちは独身のままの生活を守れる結婚生活を送ろう。私たちは永遠の愛は誓わずに、お互いの自由を守るために結婚するの。」意味が分からず理解に困っていたが、この時の佳奈は付き合う前にバーで結婚の意味が分からないと豪語していたあの時のままだった。(どうやら結婚に興味がないのは本当のようだな……。)「私は啓介が大好きだし、啓介も私を好きだって言ってくれている。愛のある結婚だよ」愛のある結婚と自由の尊重が両立するのか疑問だった。佳奈の言った通り『自由を守る結婚生活』が出来るのであれば、俺にとっても理想の結婚生活だ。それに佳奈に惹かれている今、離れるのも侘しかった。まだ3か月しか一緒にいないというのに俺はいつの間にか佳奈の虜になっていた。
last updateDernière mise à jour : 2025-06-01
Read More

20.独身女で何が悪い?(前編)

私が結婚を意識するようになったのは、プロポーズの1か月前。啓介と付き合ってすぐのことだった。「片井さんかー、仕事は出来るけれど独身だもんな。恋愛がダメだったから仕事にかけるしかないんじゃないの。」「仕事が恋人ってやつ?寂しいよな。もっとも今年も昇進は難しいだろうけどな」喫煙所から出てきた男性の役職者たちが話をしているのを、私は偶然耳にしてしまった。片井さんは、私の会社の法務部に所属する40代後半の独身女性だ。化粧っけがなくいつも落ち着いた色の服を着ている。服のサイズも少し大きいため体型が分かりにくく、実年齢よりも上に見える。物事をはっきり言う勝ち気な性格で、自分の信念は決して曲げない。そのせいか社内では「男勝りな片井」と影で呼ばれている。しかし、片井さんは誰よりも努力家だった。難関の国家資格を独学で取得し法務部でも男性社員顔負けの活躍を見せていた。その知識量と実務能力の高さから、周囲の信頼も厚く私も個人的に尊敬していた。当時の会社は、長らく女性の管理職が不在だった。しかし、数年前から社会の流れを受け女性管理職の育成に力を入れ始めた。片井さんは、その資格とこれまでの実績が評価され課長候補に名前が挙がった。社内では初の女性管理職誕生かと期待する声も上がっていた。しかし、最終面接の結果は不合格。理由は、公にはされていないが彼女が独身であることだった。『40代にもなって結婚していないのは性格に難があるかもしれない』、『結婚が女性の幸せ』面接官たちは、古い価値観を振りかざし片井さんの生き方を否定したそうだ。彼女の能力や実績には一切触れずただ「結婚していない」という一点だけをもって管理職としての適性がないと判断したのだ。そして3年連続で課長職への昇進試験は不合格となっている。面接官の一人が飲みの席で独身が理由で不合格にしたことを話してしまったが、事の重大さに気が付き翌朝には否定。評価シートにも別の理由に書き直して保存されているので真実は闇の中だが、火のないところに煙はたたないのではと勘ぐっている。早ければ30代前半で昇進する男性社員たちの中で、一人、女性で40代後半の片井さんは、嫌でも目立つ存在だった。そして、その「目立つ」ということが、彼女の昇進を阻む大きな要因になったのだ。(片井さんと同じ資格を後から取得した同世代の男性は、どんどん出世しているという
last updateDernière mise à jour : 2025-06-02
Read More
Dernier
123456
...
22
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status