星が地図を取ろうとした手が、ふと止まった。「もう遅いし……仁志は休んでるんじゃない?」航平の声には、責めるような刺が混じる。「翔太はあいつのせいで攫われたんだぞ。それでも眠れるのか?」雅臣はもう、仁志を差し出して引き換えるつもりなどなかった。冷たく言う。「放っておけ」その口調の変化に、航平が気づく。目の色がほんのわずか揺れた。星と雅臣はそこで話を切り上げ、地図の検討を続けた。計画を詰め終えた頃には、外の空がうっすら白み始めていた。雅臣は、疲れが濃い星を見て言う。「星。先に戻って少し寝てくれ。出発は昼だ」人員と装備の手配がまだ残っている。今すぐは動けない。二人とも焦りで胸が焼けるようだったが、分かっていた。準備も整えず突っ込めば――救出じゃない。破滅だ。星も拒まなかった。今は体力を残すべきだ。「分かった」……だが、部屋に戻っても星はすぐ眠れなかった。なぜか急に、仁志の様子が気になった。時計を見ると午前五時。仁志が起きているかは分からない。しかも彼は不眠症だ。翔太が攫われた今、なおさら眠れるはずが――迷った末、星は仁志の部屋の前へ行き、そっとノックした。「仁志、起きてる?」返事はない。もう一度ノックしても無反応だった。仁志は警戒心が強い。こんなに深く眠るはずがない。これだけ叩いて反応がないのは――明らかにおかしい。電話をかけようとした、その時。夜勤明けの使用人が通りかかり、星の様子を見て言った。「星野様。仁志様はお部屋にいらっしゃらないかもしれません。昨夜、外出されてから戻られていません」星がはっと顔を上げた。「……何?仁志が出て行った?いつ?」使用人は少し考える。「だいたい……深夜の二時頃だったと思います」その言葉で、星の胸に不吉な影が差した。彼女はそれ以上聞かず、すぐ監視映像を確認させた。――やはり。正道に呼ばれて皆が動いた直後、仁志は屋敷を出ていた。映像の中、彼の顔は闇に沈み、表情は読み取れない。ただ纏う気配だけが、異様なほど冷たい。黒い服は闇に溶け、まるで夜そのもの。星の知らない、よそよそしい仁志。心臓がきゅっと締めつけられ、脳裏に彼の言葉が勝手に蘇る。「星野さん。安心してください。あなたを困らせません」「星野さん。あなたが望む
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