夫も息子もあの女を選ぶんだから、離婚する!의 모든 챕터: 챕터 1291 - 챕터 1300

1682 챕터

第1291話

星が地図を取ろうとした手が、ふと止まった。「もう遅いし……仁志は休んでるんじゃない?」航平の声には、責めるような刺が混じる。「翔太はあいつのせいで攫われたんだぞ。それでも眠れるのか?」雅臣はもう、仁志を差し出して引き換えるつもりなどなかった。冷たく言う。「放っておけ」その口調の変化に、航平が気づく。目の色がほんのわずか揺れた。星と雅臣はそこで話を切り上げ、地図の検討を続けた。計画を詰め終えた頃には、外の空がうっすら白み始めていた。雅臣は、疲れが濃い星を見て言う。「星。先に戻って少し寝てくれ。出発は昼だ」人員と装備の手配がまだ残っている。今すぐは動けない。二人とも焦りで胸が焼けるようだったが、分かっていた。準備も整えず突っ込めば――救出じゃない。破滅だ。星も拒まなかった。今は体力を残すべきだ。「分かった」……だが、部屋に戻っても星はすぐ眠れなかった。なぜか急に、仁志の様子が気になった。時計を見ると午前五時。仁志が起きているかは分からない。しかも彼は不眠症だ。翔太が攫われた今、なおさら眠れるはずが――迷った末、星は仁志の部屋の前へ行き、そっとノックした。「仁志、起きてる?」返事はない。もう一度ノックしても無反応だった。仁志は警戒心が強い。こんなに深く眠るはずがない。これだけ叩いて反応がないのは――明らかにおかしい。電話をかけようとした、その時。夜勤明けの使用人が通りかかり、星の様子を見て言った。「星野様。仁志様はお部屋にいらっしゃらないかもしれません。昨夜、外出されてから戻られていません」星がはっと顔を上げた。「……何?仁志が出て行った?いつ?」使用人は少し考える。「だいたい……深夜の二時頃だったと思います」その言葉で、星の胸に不吉な影が差した。彼女はそれ以上聞かず、すぐ監視映像を確認させた。――やはり。正道に呼ばれて皆が動いた直後、仁志は屋敷を出ていた。映像の中、彼の顔は闇に沈み、表情は読み取れない。ただ纏う気配だけが、異様なほど冷たい。黒い服は闇に溶け、まるで夜そのもの。星の知らない、よそよそしい仁志。心臓がきゅっと締めつけられ、脳裏に彼の言葉が勝手に蘇る。「星野さん。安心してください。あなたを困らせません」「星野さん。あなたが望む
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第1292話

星は振り返り、航平を一度だけ見た。たったそれだけで、航平の心臓が底へ沈んでいく。星はこれまで、彼にこんな目を向けたことがない。淡々としていて、遠い。感情の欠片すらない。航平が言いかけた言葉は喉に詰まり、結局一文字も出なかった。星は視線を外し、雅臣に言う。「都合が悪いなら、私一人でも手配できる」そう言い終えると、返事も待たずに身を翻して歩き出した。雅臣は彼女の手首を掴み、伏し目がちに星の瞳を見つめる。「……いや。俺も一緒に行く」星は短く答えた。「ありがとう」それ以上は何も言わず、彼女は部屋へ戻って支度を始めた。星の背中を見送った瞬間、航平は堪えきれず雅臣に噛みついた。感情が少し、昂っている。「雅臣、あの仁志ってやつ……星を洗脳でもしたのか?あいつを、そこまで信じさせるなんて」息を吐く間もなく続ける。「仁志が一人でこっそり出てったのだって、罪を恐れて逃げた可能性があるだろ。私たちに突き出されるのが怖かったとか。それなのに、どうして星は翔太を助けに行ったって決めつけられる?買いかぶりすぎじゃないのか?」さらに追い打ち。「本当に度胸があるなら、翔太が自分のせいで攫われたって分かった時点で、男として堂々と前に出るべきだった。なのに星の後ろに隠れて、黙ってただけだろ!」雅臣は数秒黙ってから、静かに言った。「航平。星が彼を信じるなら、それには星なりの理由がある」航平はその言葉で固まった。「……雅臣、お前もあの胡散臭い男を信じるのか?」雅臣の目は遠く、深い。「翔太が彼を気に入ってる。翔太の見る目は、間違わない」航平は反射で言い返す。「子どもにそんなの分かるかよ。翔太だって昔、清子のこと好きだった。でもあいつのどこが善人だった?」雅臣は航平を見た。「航平、少し取り乱してるぞ」航平は息を詰まらせ、そこでようやく理性を取り戻した。「……すまない。私はただ、翔太が心配で……」申し訳なさが滲む。「翔太が連れ去られた時、守りきれなかったのは私だ。あれは……私にも半分責任がある。雅臣、星の代わりに、私がノールと交渉してもいい」雅臣は航平の肩を軽く叩いた。「仁志がもう向かった以上、まずは状況を見てから判断しよう。今は支援が先だ」航平は深く息を吸った。「分かった
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第1293話

ノールの鋭い視線が、仁志の顔に貼りついた。かすり傷ひとつない。服も乱れていない。埃ひとつついていない――外に仕掛けた罠の数々が、一瞬で笑い話になった。仁志は部屋の中を軽く見渡す。椅子に縛りつけられた翔太。口にはガムテープ。室内にいるのはノールと翔太だけじゃない。体格のいい外国人が五人。無駄のない立ち方、視線の配り方――場数が違う。翔太は仁志の顔を見るなり、ぱっと目を輝かせた。さっきまで必死に耐えていたのに、急に暴れ出す。「んんっ!ううっ!」必死に何かを訴えて、もがく。涙が滲んだ。仁志は翔太に微笑みかけた。「翔太さん。怖がらないで。必ず助けます」翔太の涙が、ぽろりと落ちた。仁志は視線をノールへ戻す。「さぁ、条件を言ってください」ノールは驚きを押し殺し、冷笑に切り替えた。「条件を聞きたいなら、まず跪け。そうしたら話してやる。さもなければ――」目配せひとつ。護衛がナイフを抜き、刃先を翔太の指に当てた。仁志は眉を少し上げる。「……それだけですか」ノールの眉がぴくりと動く。「いいか。余計な真似はするな。この子が将来、障害を負うかどうかは――お前の協力度次第だ」言葉が悪意で濁る。「運に賭けるつもりなら、助け出せても役立たずになる。生きてても苦しいだけだ。いっそ死んだほうが楽だろう」仁志は低く言った。「ノールさん、あなた……こういうの初めてですか?」ノールの目が細くなる。仁志は淡々と続けた。「跪かせるのは屈辱、つまり気分の問題です。面の皮が厚い相手なら、何も効かありません。跪いたって死にません」小さく息を吐く。「出だしが低すぎます。これじゃ、この先どう遊ぶつもりですか」ノールが族長になれたのは、血の雨をくぐって勝ち上がったからじゃない。後継人は彼一人。争う必要がなかった。悪事はしてきたが、人を折ることに長けてはいない。図星を刺され、ノールの怒りが露わになる。「俺にやり方を教える気か!?」仁志は脅されている側とは思えないほど落ち着き、ゆったりと言った。「ただ、がっかりしただけです。血も見せません。誘拐ごっこですか?」ノールの口元が歪む。目に残忍な光が灯った。「……ほう。ならいい方法があるってことか?言ってみろ。俺が満足しなければ、この子の手は無事じ
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第1294話

言い終えるより早く、仁志はナイフを握り直し――ためらいなく、自分の手のひらを貫いた。鮮血がテーブルに広がり、跳ねた雫がノールの頬にまで散った。一瞬だった。翔太は固まった。ノールでさえ、反応が遅れた。仁志は痛みを感じていないみたいに笑う。「ノールさん。今のほうが――さっきの脅しより効きますよね?」ノールの瞳孔が揺れる。白い顔で笑う男を見つめ、唇を震わせて絞り出した。「……お前、狂ってる……!」仁志はナイフを引き抜き、そのままノールに差し出す。「試しますか。仇をこの手で斬る味を」ノールは、こいつを八つ裂きにしたいほど憎んでいた。だが今目の前の男は、罠を抜け、理由もなく自傷し、痛いとも言わず笑っている。そしてどうぞと誘ってくる。まるで、料理でも勧めるみたいに。常識の外。想定を軽々と飛び越えてくる。ノールの思考が、一瞬止まった。縛られた翔太も目を見開き、驚きすぎて涙すら引っ込んでいる。――だがノールも、ただの臆病者じゃない。すぐに立て直し、仁志の差し出すナイフには手を伸ばさなかった。何か仕掛けがあるかもしれない。ノールは冷たく吐き捨てる。「そこまで言うなら、次は心臓を刺せ」仁志は、わざと首を傾げる。「僕、死にに来たんですか?死にたいなら家で死ねばいい。わざわざ遠くまで来て死ぬの、疲れるでしょう」ノールはなお警戒を解かない。単身で乗り込んできた以上、必ず拠り所があるはずだ。この狂気じみた振る舞いも、狙いを隠す煙幕かもしれない。そう結論づけたノールは言った。「俺の難関を突破し、誠意も見せた。なら、これ以上は難癖をつけない」そして翔太を指さす。「こいつの体には爆弾が括りつけてある。カウントダウンは残り五分だ。五分以内に解除できたら、お前らは出ていける。解除できなければ――ここで終わりだ」薄い笑い。「一人で来た度胸は認める。男として、チャンスを一つやる。生き残れるかどうかは、お前の腕次第だ」ノールは部下に合図した。「行くぞ」扉を出た瞬間、ノールの笑みは消え、氷みたいな目になる。彼は傍らの部下に命じた。「今すぐ周囲に撒いたガソリンに火をつけろ。あいつが自分だけ逃げるかどうか、見てやる」さらに冷酷に続ける。「狙撃手を待機させろ。爆弾が爆発する前に逃げてきたら――撃
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第1295話

「……ノールソンのことは」息子の名を口にした瞬間、ノールは長く息を吐いた。「あんなのに殺された。運が悪かった、それだけだ」ノールは元々、爆薬を巻いて相討ちにする気もあった。だが復讐を果たしつつ生きられるなら、わざわざ死ぬほど愚かじゃない。仁志がここで死ねば、それで十分――そう判断した。ノールが去ると、仁志は翔太の口のガムテープを剥がした。「翔太さん、大丈夫ですか」翔太は涙目で頷く。「仁志さん……僕は平気……でも、その手……」血が止まらない仁志の手を見て、目元が赤くなる。仁志は翔太の上着をめくった――やはり。胴に爆弾が巻かれている。カウントダウンは五分じゃない。三分だ。そして今、残り二分三十秒。仁志はイヤホンを耳に入れ、短く問う。「周辺の爆薬、どこまで処理できている?」謙信の声が張り詰めて返る。「量が多すぎます。少なくとも、あと三十分は必要です。それに暗所に狙撃手がいます。作業が妨げられて……正直――」仁志は遮った。「翔太の体に時限爆弾。残り二分。まず要所だけ外して。外せるだけ外す」そう言って仁志は翔太の爆弾へ意識を集中させた。構造がやや厄介だ。止めるには配線を二本――その時、翔太がふいに言った。「仁志さん……なんか、匂いしない?」仁志の視線が走る。部屋の隅に、もう炎が上がっていた。口元に薄い嘲りが浮かぶ。周到だな。ノールは本気で、自分をここで殺しにきている。執念深いほどに。ほどなく密閉空間は刺激臭の煙で満ちた。翔太が堪えきれず咳き込む。仁志はシャツを裂き、布を二枚作った。一枚を自分に、もう一枚を翔太に。口と鼻を覆わせる。火は勢いを増し、濃煙で目も開けられない。翔太は煙にやられ、頭がぼんやりしてくる。朦朧としながら見えるのは、炎。獣みたいに迫ってきて、空気が焼けるほど熱い。――こんな状況で、仁志の手は傷つき血が流れている。それでも爆弾を外す指先は、一切震えなかった。背後の赤い炎が、舞台の背景みたいに彼を浮かび上がらせる。輪郭だけが鮮明で、色が濃い。……その時。同じ頃。星、雅臣、航平の三人はヘリで現場へ急行し、ほどなく到着した。上空から、数カ所で火が上がり、黒煙が噴き上がっているのが見える。星が即座に言った。「……たぶん、あそこ」仁
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第1296話

ノールは頭が切れる。火をつけるにしても、ひと部屋だけ――なんて甘い真似はしない。ひとつだけ燃やせば「ここに人質がいる」と自分で看板を立てるようなものだ。だから火元は複数。視線も足も、散らす。借りた倉庫は横に広く、三列に並んでいた。星、雅臣、航平は、ちょうど一人一列ずつ当たる形になる。その時――どこかで爆発音。続けて、乾いた銃声。雅臣の表情が沈む。「今の音……あっちだ。仁志と翔太は、あそこにいる可能性が高い」雅臣は振り返って二人に指示した。「お前たちは残り二列を頼む。俺はあそこへ向かう」星はわかっていた。雅臣が仁志と合流すれば、翔太を救える確率は跳ね上がる。だから言い争わない。小さく頷く。「わかった」航平も短く。「了解」室内。残り三十秒。時限爆弾の警報が「ピッ、ピッ」と耳を刺し続ける。仁志には見えていた。ノールはわざとだ。焦りを煽って、手元を狂わせる。心理戦。だが仁志の顔色ひとつ変わらない。一本、配線を確定。迷いなく短刀で断ち切った。同時に火は勢いを増す。部屋のあちこちに可燃物が仕込まれていた。最初から生かして帰す気などない。わずか一分で黒煙が渦を巻き、熱が皮膚を焼いた。息を吸うだけで喉が痛む。翔太は咳き込み、涙が止まらない。幼い身体が初めて嗅ぐ死の匂い。「仁志さん……」かすれた声。仁志は手を止めない。「つらいですか。もう少しだけ耐えて。すぐ外に出します」翔太は泣きながら、必死に強がった。「ぼ、僕のことはいいから……仁志さん、逃げて……!僕……巻き込みたくない……」仁志はそっと頭を撫でる。「巻き込んだのは僕です。翔太さんが攫われたのは、僕のせいです。だから僕が助けます。怖がらないで」そして、さらりと――「もし出られないなら……僕は翔太さんと一緒に死にます」翔太が言葉を失う。喉が詰まって、思わず訊いてしまう。「……爆弾も、外せるの?」仁志は笑った。「ええ。僕は何でもできます」翔太はまだ小さい。受け止める器なんてない。怖くて仕方ないのに、仁志さんは怪我をして、胸の爆弾は今にも爆発しそうで、周りは炎だ。胸がぎゅっと潰れそうになる。警報音が耳を裂く。翔太は震えるほど緊張した。それでも仁志は揺れない。残り十秒。二本目の配線を確定し、
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第1297話

仁志の状態も、万全とは程遠い。出血が多すぎる。手当てする暇などない。煙を吸い込みすぎれば、どれだけ身軽でも身体は言うことをきかない。火の回りが異常に早い。ここで一瞬でも詰まれば――本当に死ぬ。出口まであと五メートル。その時、高さ二メートルほどのスチール棚が焼け落ちた。炎をまとった鉄の塊が、二人めがけて叩きつけられる。仁志は翔太を抱え込み、身体を盾にして真正面から受け止めた。重い。熱い。焼ける匂いが鼻を刺す。唇の端に血が滲む。それでも仁志は棚を押しのけた。そして――出口に手が届く、その瞬間。背筋を撫でるような危険が走った。反射的に顔を逸らす。銃弾が頬をかすめ、火花を散らして飛び去った。仁志の目が冷える。やっぱり、狙撃を仕込んでる。撃った以上、位置は割れる。急所さえ外れれば、謙信と雅人が潰せる――そう判断した、その時。入口から、細身の長身が滑り込んできた。低く沈んだ声。「仁志。天下一だと豪語してたよな。……こんなみっともない姿もあるか」さらに、冷たく。「それとも今回もわざとボロボロになって、星の同情を買うつもりか?」航平だった。雅臣は銃声の方へ向かった。星と航平は残り二列へ散った――はずだった。だが航平は当てた。運よく、翔太と仁志に先に辿り着いたのだ。翔太はすでに意識を失い、ぐったりしている。航平の顔に、いつもの温和さはない。氷みたいな無表情だけ。「狙われてるのはお前だ。翔太を渡せ」仁志は数秒だけ黙り、翔太を差し出した。この部屋は今にも崩れる。出ないと二人とも焼け死ぬ。航平は翔太を抱え、外へ出ようとした――その瞬間。頭上の梁が燃え落ち、轟音とともに崩れてきた。燃えた木片が雨のように降る。航平が反応するより早く、強い手が彼を突き飛ばした。二人はもつれ、床へ倒れ込む。航平が顔を上げた時――梁に足を押さえつけられた仁志がいた。翔太に木片が当たるのを避けるため、仁志は航平を突き飛ばしたのだ。自分は避けきれず、足を直撃された。航平は出口のすぐ近くに転がっていた。あと数歩。そして航平は、迷わず――翔太を抱えたまま外へ飛び出した。入口に立ち、振り返りもせず言い放つ。「翔太が攫われたのは、お前のせいだ。今日ここで死んでも当然だろ」声は氷のように冷た
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第1298話

「パンッ!」仁志は身を捻ってかわす。だが弾は脚をかすめ――肉に食い込んだ。航平の黒い瞳が沈む。翔太を抱えたままでは狙いが甘くなる。いつもの正確さが出ない。追い弾を撃とうとした、その時――腕の中の翔太のまつげが震え、意識が戻りかけた。「……仁志さん……」航平の表情が、ほんの僅かに歪む。――撃てない。翔太に見られたら終わる。ここで仁志を撃ち殺せば、いずれ必ず説明が要る。それにノールが捕まった時、もし口を割ったら?「自分は殺していない」と言われたら?航平は逃げ道を失う。なら――火に呑ませればいい。航平は燃え盛る部屋を一瞥し、冷たい笑みを浮かべた。そして開け放たれていた扉を、素早く閉めた。鍵はない。だが今の仁志の脚で、崩れかけた扉をこじ開けて出るのは容易じゃない。仁志は死ぬ。翔太は自分が助けた。その想像だけで、胸の奥が妙に軽くなる。星が当たった倉庫は、どこも空だった。火は出ている。だが全部、目くらましだ。捜索を終えた星は迷う。航平の方へ行くか、雅臣の方へ行くか。ここは航平の担当エリアに近い。数秒考え、先に航平へ向かった。歩き出してすぐ、正面から一人の男と出くわす。顔と、腕の中の翔太を見た瞬間、星の目が走る。駆け寄った。「翔太!」航平は落ち着いた声で言う。「煙を少し吸って、気を失っている。雅臣に連絡して。すぐ離れた方がいい。翔太を病院に運ばないと」星は即座に携帯を取り出し、雅臣へ電話した。「翔太が見つかった」雅臣の声。「見つかったなら安心だ。こっちは別の連中がいて、ノールを確保した。今すぐそっちへ向かう」実際、雅臣が現場に着いた頃には、雅人と謙信がほぼ制圧していた。逃走しようとしたノールも取り押さえている。雅臣は思った。……順調すぎる。通話を切り、雅臣は仁志に繋がらない雅人と謙信に言った。「星から連絡があった。向こうは救出に成功したらしい。仁志はまだ繋がらない。通信機器を落としたのかもしれない」翔太が助かった――その一言で、雅人と謙信の表情が少しだけ緩む。だが二人とも分かっている。仁志がいる場所こそ、最も危険だ。尋問している暇はない。三人は合流し、そのまま現場へ急いだ。航平の側。星は、航平の白いシャツに血と煤が付いているのを見て訊ねた
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第1299話

航平が続けた。「星、翔太の容体がよくない。お前は先に病院へ。雅臣なら私がここで待つ」星は首を振る。「あなたも怪我してる。あなたと翔太が先に行って」本当は自分がここに残って雅臣を待つつもりだった。けれど負傷者を二人きりで走らせるのは、どうしても不安だった。一拍置いて、星は言い直す。「……やめた。雅臣は待たない。私も一緒に行く」航平の口元が、ほんの僅かに持ち上がる。「分かった。先に出よう」数メートル進んだところで、星がふいに足を止めた。思い出したように振り返る。「航平。仁志は?」航平の歩幅が、気づかれない程度に一瞬だけ乱れる。「……見てない」わざと首を傾げ、柔らかい声を装った。「星、本当に仁志も来てたのか?別の場所に回った可能性は――」逃げたんじゃないか言外の刺が、はっきり混じる。星は即答した。「あり得ない。仁志が逃げるはずない。絶対ここにいる」航平は思わず拳を握りしめる。この状況でも、まだ信じるのか――抑えた声で言う。「でも、私は本当に見てないよ」星は横目で航平を見た。「翔太、どこで見つけたの?」その視線を浴びた瞬間、航平の心臓が嫌に跳ねる。だが彼は崩れない。顔色ひとつ変えずに答えた。「一番奥の倉庫」星は畳みかける。「どうやって助けたの?」航平は落ち着いたまま、用意していた言葉を滑らせる。「私が着いた時、倉庫に人はいなかった。翔太は椅子に縛られてて意識もなくて……火の回りが早すぎた。あのままだと翔太に燃え移る。犯人は焼き殺すつもりだったんだろうな。……見張りがいなかった理由は、私にも分からない」星は一度、息を吸った。翔太を病院へ――その焦りで、今まで深く考える余裕がなかった。でも、仁志がいないのは、どう考えてもおかしい。星の声が鋭くなる。「航平。あなたは翔太を連れて先に行って。私は仁志を探す」航平の顔色が変わった。「星、だめだ。火が強すぎる。今入ったら――」「大丈夫。確認するだけ」星が歩き出す。航平が前に立ちはだかり、焦りを隠さず叫んだ。「私が出る前でも、あそこはもう火の海だった!何も見えない!人探しなんて無理だ!仮に仁志がいたとしても、今ごろ――焼け死んでる!」星は航平をすり抜ける。声は低いが、決して揺れない。「生きてるなら人を。死んでるなら遺体を……たとえ死んでたと
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第1300話

雅臣が駆けつけた時、そこにいたのは航平と、抱えられた翔太だけだった。星の姿がない。雅臣は足早に近づく。「航平。救出したんじゃないのか。星は?」航平が不機嫌そうに唇を結ぶ。「星は、仁志がここにいるって言って。どうしても探しに行くって」雅臣の黒い瞳がわずかに動いた。「仁志が……ここにいない?」その言い方に、航平は一瞬だけ引っかかった。だが嫉妬と苛立ちで頭が熱く、深く考えない。航平は続ける。「星はずっと仁志は翔太を助けに行っただけだって言い張ってた。でも私たち、前後して探したのに影すら見てない……ノールの報復が怖くて、逃げたのかもしれない」言い終えた直後、冷たい男の声が割り込んだ。「逃げた?航平さん。普段からそうやって、仁志を貶めてるんですか」航平が振り向くと、若く整った顔立ちの男が鋭い目で睨んでいた。「誰だ」「仁志の友人です」雅人が鼻で笑う。「仁志が逃げたなら、僕がここにいる理由は?教えてくださいよ」航平の表情が一瞬固まる。だがすぐ整えた。「現場で見てない。来たかどうか、誰にも断定できないだろ」雅人が言い返そうとした、その時。隣の謙信が、はっとしてある方向を見る。「……仁志さん!」星が、男を背負ってこちらへ走ってきた。歯を食いしばり、足元はふらついているのに、止まらない。航平の瞳孔が縮む。星が背負っているのは――仁志だった。細身とはいえ、成人男性。しかも長身。あの華奢な身体で、どうやってここまで――。謙信が駆け寄ろうとした。だが星が叫ぶ。「来ないで!早く離れて!あの部屋、爆発する!」次の瞬間――轟音が空気を裂き、熱波が襲いかかった。「星!」雅臣と航平の声が同時に上がる。そして衝撃に飲み込まれた。どれくらい経ったのか。ようやく世界が静まった。最初に意識を取り戻したのは星だった。耳鳴り。眩暈。喉の奥が焦げる。それでも――妙だ。あれだけ近かったのに、致命傷がない。星ははっとして身を起こす。自分は、仁志の腕の中にいた。きつく、壊れ物みたいに守られている。衝撃波を、仁志が身を挺して受け止めたのだ。仁志は弱々しく、ひどくみすぼらしかった。顔色は紙みたいに白く、今にも崩れそうで――ぽたり、と。温かい液体が星の手に落ちる。見下ろすと、仁志の身体から流れた血だった。
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