「このドレスのファスナーでさえ純金製よ。飾られたダイヤや金をバラすだけでも、かなりの額になるでしょうね」星の身に纏われた山田グループの至宝を目にし、勇の目は怒りで真っ赤に染まった。――わざとだ。自分を挑発し、恥をかかせるために、彼女はあえてこれを着てきたのだ。勇が掴みかかろうとした瞬間、清子が素早く彼の腕を押さえた。清子には分かっていた。星がわざと勇を挑発していることくらい。だが、胸の奥では彼女も煮えたぎるような嫉妬を抑え込んでいた。「――星、よくも短期間でこれほど金を浪費できたものね。本気で、雅臣のお金を自分のものと勘違いしているのかしら。ふん......せいぜい今のうちにいい気になればいいわ。離婚した途端、それが全部あんたの悪夢になり、いずれ必ず返させてもらう。あの夏の夜の星のヴァイオリンも......最終的に手にするのは私よ」星は勇の怒りなど意にも介さず、静かに雅臣へと微笑みかける。「急にこんなに気前よくなるなんて......何か条件でもあるんでしょう?考えてみたけれど、私に価値があるものなんて一つしかないわ」「――夏の夜の星を、小林さんに貸せって言うつもりね?」雅臣の唇がわずかに動いた。「ほんの一時だ。必ず返す」「やっぱりね」星は小さく頷き、冷ややかに続ける。「もし、清子さんが壊したら?」「そんなことはありえない」「物事には必ず万一があるわ。いつも言葉を言い切るなって私に言うくせに、彼女のことになると随分自信満々ね?」「清子にとって夜は憧れの存在だ。ヴァイオリンを粗末に扱うはずがない」「私が聞いているのは壊れた場合どうするかよ。でも、まあいいわ。どうせ貸すつもりはないもの」星は一歩近づき、顔を寄せて囁くように言った。「ねえ、雅臣。あなた知らないでしょう?あなたと離婚できることが、どれほど嬉しいか。――あれほど神谷夫人を名乗って買い物をしたのも、あなたがまた手を回して来なかったら困るからよ」その一言に、雅臣の瞳孔がきゅっと収縮する。胸の奥で、今まで覚えたことのない不安と焦燥が膨れ上がった。だが、すぐにその感覚は苛立ちに変わる。「星......必ず後悔させてやる」「まずは離婚してからにしてちょうだい。
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